人間の「いいなずけ」になった子ぎつねのナツネ
ある日の朝、平凡な会社員、田中ナルヒトのもとに、人間の言葉を話すきつねのナツネとたぬきのタヌロヲがやってくる。田中の「いいなずけ」だと言われて育ったナツネは、その意味がわからず、たまらなくなって高尾山から飛び出してきたという。ことの発端は、田中が小学生の頃に行った高尾山の遠足。道で酔い潰れたきつねとたぬきを、社まで運んでやったところ、彼らはお礼に自分の子どもを嫁にやることを約束したのだ。2匹はナツネとタヌロヲの父親だった。2匹は酔っ払いの戯言(ざれごと)だったと言うが、村の長、おばあは、人間に借りを作ることを嫌い、その約束を厳守するよう村のケモノたちに命じた。そんなわけで、ナツネは田中のいいなずけになったのだ。
「人間界」と「ケモノたちの村」が並行して展開する
本作は、田中が会社員として暮らす人間の世界と、ナツネたちの住処(すみか)である高尾山の動物の世界が交互に描かれているのが特長。田中には会社員としての仕事や、先輩や同僚たちと交流する日常があり、ナツネにも、両親に怒られたり、仲間たちと森を走り回る日常がある。マッグガーデン「MAGCOMI」で行われた、本作の「完結記念ロングインタビュー」で、作者は「異なる世界の日常を交互に描くことで、田中とナツネたちが合流したときの非日常にリアリティが生まれると思っています」とその意図を明らかにしている。また、作画面では「人間の世界の背景はパースをきっちり取って硬い線で、動物の世界の背景はフリーハンドで柔らかい線で」と描きわけていたという。
ケモノたちの村の謎
ナツネたちが住む村の住民は、皆言葉を話す。種類としては、きつねやたぬき、ムササビ、いのししといった普通の動物のほか、てんぐ、カラス天狗といった不思議な生き物も生息している。そしてその頂点にいるのが、村の長で絶対的な存在である「おばあ」。彼女は白いきつねの面を被っている謎の存在である。そんな、おばあを頂点とするコミュニティに疑念を感じているカラス天狗のカラテンは、パソコンを使って情報を収集したり、村のみんなを観察したりする。そして、この村の住民それぞれが、何かしらを形成するための「役割」を担って存在していることに気がつく。物語が進むにつれ、ケモノたちの村の秘密が明かされていく展開も、本作の魅力の一つである。
登場人物・キャラクター
田中 ナルヒト (たなか なるひと)
カルチャーニュースサイトのライターを務める会社員の男性。丸メガネとパーカーが特徴。大学生のときにあることがきっかけで挫折。頑張っても報われないことがあると知り、すべてを諦め静かに生きていこうと決意し、西東京のマンションで一人暮らしをはじめた。仕事もそれまでとはまったく関係のないライターを選んだ。以来、仕事仲間と楽しい日々を過ごすが、自分には人間としての何か大事な要素が欠けていると感じている。ある日の朝、高尾山から、田中の「いいなずけ」を名乗る子ぎつねのナツネと子だぬきのタヌロヲが現れ、2匹と交流を持つようになる。
ナツネ
高尾山に住んでいるきつねの女の子。弟分の子だぬき、タヌロヲといつも一緒にいる。緑色のポシェットを持つ。2本足で歩いて人間の言葉を話し、術を使い靴に変身することができる。明るく元気で好奇心が旺盛。生意気で大人びているが、まだまだ子どもで、おねしょをしてしまうこともある。人間である田中ナルヒトが自分の「いいなずけ」であることに納得がいかず、田中に会うため人間界にやってくる。
タヌロヲ
高尾山に住んでいるたぬきの男の子。子ぎつねのナツネの弟分で、いつも一緒に行動している。人の言葉はわかるが自身は話さない。術を使い靴下に変身することができる。股間は丸出しで、悪いことをすると、親から「たまつねり」の罰を受けてしまう。お腹を太鼓のようにポンポンと鳴らすのが得意。
書誌情報
きつねとたぬきといいなずけ 3巻 マッグガーデン〈ブレイドコミックス〉
第1巻
(2021-02-10発行、 978-4800010490)
第2巻
(2022-04-07発行、 978-4800011916)
第3巻
(2023-06-08発行、 978-4800013392)