くちびるに歌を

くちびるに歌を

孤独な日々を送っていた少年が、ひょんなことをきっかけに合唱部に入部し、仲間たちとともにコンクールを目指す青春合唱ストーリー。「ゲッサン」2013年4月号から2014年9月号にかけて連載された。原作は中田永一の小説で、アンジェラ・アキの楽曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」がモチーフとなっている。

正式名称
くちびるに歌を
ふりがな
くちびるにうたを
原作者
中田 永一
漫画
ジャンル
部活動
関連商品
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世界観

合唱が題材。女子生徒だけの合唱部に、男子生徒たちが、美人の顧問教師を目当てに突如大量入部。真面目な女子部員たちとやる気にむらのある男子部員たちがお互いにぶつかり合いながらも、コンクールに向けて真摯に練習を重ねる姿が描かれる。

作品誕生のいきさつ

モリタイシは、コミックス1巻のあとがきで本作『くちびるに歌を』誕生の経緯について語っている。モリタイシは前作『RANGEMAN』の連載が終了し途方に暮れていたところ、本作の原作者である中田永一が『RANGEMAN』終了を悲しんでいたことを知り、感激する。そこに『くちびるに歌を』のコミカライズ化の依頼が舞い込み、強い縁を感じたのに加え、作品の面白さに感銘を受け快諾したとのこと。さらにモリタイシは、キャラクターデザインについても次のように語っている。本作の執筆に向け、モリタイシは連載前から原作小説を熟読し、中田との打ち合わせに向けて念入りな準備を行っていた。しかし打ち合わせ当日、書き込みをした原作小説を持ってくるのを忘れてしまう。だが中田に「原作にとらわれすぎず、自由に描いてほしい。むしろ、自由に描かれたものを読みたい」と言われ方向転換。結果、原作とは異なる設定が生まれ、一部の女性キャラクターの胸が大きくなり、関谷は「胸の大きな女性が好き」という漫画版オリジナルの設定が生まれたとのこと。

あらすじ

中学3年生の桑原サトルは、自閉症の兄の世話に追われ、友人のいない孤独な日々を送っていた。そんなある日、合唱部の歌に感銘を受けたサトルは、入部希望者と間違えられたことも手伝って入部を決意。桑原サトルの父親の反対を押し切り、部活動を始める。しかし真面目な女子部員たちと、臨時教師の柏木ユリにつられてやってきた新入男子部員たちの間には、次第に亀裂が生じ、部は険悪な雰囲気になってしまう。

作風

本作『くちびるに歌を』はアンジェラ・アキの楽曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」をモチーフに描かれている。そのため、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」は登場人物たちが参加する「NHK全国学校音楽コンクール」の課題曲として登場し、作中の重要な場面で歌詞の引用が行われる。さらに登場人物たちは合唱を行うにあたり、曲への理解を深めるため、歌詞になぞらえて15年後の自分へ手紙を書くことになる。

モデルになった町

本作『くちびるに歌を』は長崎県西部にある五島列島が舞台となっている。作中では登場人物の住む場所を「140ほどの島のうち、人が住んでいる30ほどの島の中でも比較的大きな島」に設定し、豊かな自然が描かれる他、長崎の方言もふんだんに用いて物語が展開される。

メディアミックス

原作

原作として、中田永一の同名小説がある。原作は2011年11月、小学館より出版され、第61回小学館児童出版文化賞を受賞している。

実写映画

2015年2月、三木孝浩監督による実写映画版が公開された。脚本は持地佑季子と登米裕一が務めた。また、桑原サトル役を下田翔太、柏木ユリ役を新垣結衣が演じた。

著名人との関わり

乙一

コミックス1巻へ帯コメントを寄せている。乙一は本作『くちびるに歌を』の原作小説のファンであるが、このコミカライズは「アリ」と推薦している。

新垣結衣

モリタイシはコミックス3巻のあとがきで、本作『くちびるに歌を』の原作小説の実写映画版で柏木ユリ役を演じた新垣結衣とのエピソードを語っている。「実写映画の撮影に先立った非公開のお披露目会に参加することになったモリタイシは、新垣に会うかもしれないと考え、似顔絵を描いた色紙を持参。渡した際『今まで似顔絵をいただいたことは何度かあるが、このイラストは特に似ている』と喜ばれた」。贈ったイラストは、モリタイシのTwitterアカウントでも公開された。

原作者情報

中田永一は2008年『百瀬、こっちを向いて。』でデビューを果たした小説家。他の作品に『吉祥寺の朝比奈くん』『私は存在が空気』などがある。別名義を用いての執筆活動も行っており、著書は多数。出身地は福岡県。

登場人物・キャラクター

桑原 サトル (くわはら さとる)

3年1組に所属する男子生徒。前髪を目が隠れそうなほど長く伸ばし、肩につくほどの長髪をしている。物静かで内向的な性格に加え、自閉症の兄の桑原アキオを毎日勤務先まで送り迎えしているため、友人のいない孤独な日々を送っている。アキオだけは存在感の希薄な自分を必要としていると感じ、心の支えにしているが、反面時にアキオを煩わしく思って都合のいい時だけ拠り所にする自分を嫌悪している。 桑原サトルの父親からはアキオの世話をさせるために自分を産んだと言われており、乱暴な彼の前では委縮してしまい、うまく意見を伝えられずにいた。しかしある日、合唱部に関心を持ち、偶然入部希望者と勘違いされたことがきっかけで入部。一人ぼっちの毎日から一歩を踏み出すことになる。

仲村 ナズナ (なかむら なずな)

中学3年生の女子生徒。桑原サトルのクラスメイトで、合唱部に所属する。前髪を目の上で切り、肩につかない長さのボブヘアをしている。明るく練習熱心な性格だが、仲村ナズナの父親が家族を置いて女性と蒸発した過去から男性を毛嫌いしており、男子の入部に強く反対している。向井ケイスケとは幼なじみで、かつてはケイスケのことが好きだった。 詩が書けることから、柏木ユリが作曲した曲に作詞することになる。雷が苦手。

柏木 ユリ (かしわぎ ゆり)

若い女性音楽教師。桑原サトルの通う中学に、1年間だけ勤めることになった。産休中の松山ハルコに代わり、合唱部の顧問を務めることとなる。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、胸のあたりまで伸ばしたストレートロングヘアをしている。左目尻のほくろと、男性のような口調で話すのが特徴。凛とした美しい容姿と抜群のスタイルのため、赴任直後から生徒の人気を集め、女子生徒だけで活動していた合唱部に男子生徒たちが押し寄せるという事態を招いた。 高校卒業後東京都の音楽大学に進学し、卒業後はオーケストラでピアノ演奏などを行っていたが、ハルコの頼みを受けて長崎県に戻り、教師として働くことになった。一見いい加減に見えるが努力家で、学生時代は意識の高さゆえに周囲との衝突が絶えなかった。 ハルコとは中学校時代から親しいが、以前異性がらみでちょっとしたトラブルになったことがある。

長谷川 コトミ (はせがわ ことみ)

中学3年生の女子生徒。桑原サトルの想い人。前髪を目の上で切り、腰のあたりまで伸ばしたストレートロングの姫カットをしている。可愛らしい容姿に加え、穏やかで周囲に好かれる性格の持ち主。しかし実は猫を被っており、他の生徒のように他人を悪く言うこともある。サトルには中学1年生の頃に偶然本来の性格を知られており、3年生になり合唱部で一緒に活動するようになったのを機に親しくなっていく。 過去の交際相手である神木との間に問題を抱えており、ひそかに悩んでいる。

向井 ケイスケ (むかい けいすけ)

中学3年生の男子生徒。桑原サトルのクラスメイトで、仲村ナズナの幼なじみ。前髪を上げて額を全開にし、髪をツンツンに立てている。校内でも目立つ派手な存在で、交友関係も広い。柏木ユリ目当てで3年生から合唱部に入部し、同時期に入部したサトルとも親しくなっていく。精神的にやや幼いところがあり、部活動への意欲も低め。 ユリの不在時には真面目に練習せず、辻エリの言うことも聞かないため、次第に女子部員たちとの関係が悪化していってしまう。

辻 エリ (つじ えり)

合唱部の部長を務める3年生の女子生徒。前髪を右寄りの位置で斜めに分けてピンで留め、胸のあたりまで伸ばしたロングヘアを三つ編みにしてまとめ、眼鏡をかけている。生真面目で心優しい性格から女子部員たちに慕われており、NHK全国学校音楽コンクールでは指揮者も務める。柏木ユリに任命され、新入男子部員たちの指導も行うことになるが、言うことを聞かず意欲の低い彼らに手を焼き、悩むようになる。 部員の中で唯一松山ハルコの心臓が悪いことを知っており、ハルコが無事に出産できるか非常に心配している。

三田村 リク (みたむら りく)

合唱部に所属する3年生の男子生徒。桑原サトルのクラスメイト。大きな身体と坊主頭、細い目が特徴。その容姿に反し読書が趣味の穏やかな性格で、本の話題をきっかけにサトルとも意気投合する。柔道が得意で、本土の高校から声がかかるほどの実力の持ち主。

横峰 カオル (よこみね かおる)

合唱部に所属する3年生の女子生徒。前髪を左寄りの位置で斜めに分けたショートカットヘアで色黒。男子部員を交えた混声合唱をしたいと考えており、柏木ユリを目当てに集まってきた侵入男子部員たちにも比較的好意的。特に関谷のことは気に入っている。

福永 ヨウコ (ふくなが ようこ)

合唱部に所属する2年生の女子生徒。前髪を目の上で切り、髪の左側の一部だけを結んだ髪型をしている。小柄でやや幼く見える容姿から、仲村ナズナには「小学生のよう」と評されており、2人でそれを利用したギャグも作っている。

関谷 (せきや)

合唱部に所属する2年生の男子生徒。前髪を目が隠れそうなほど伸ばした長めの髪にかわいらしい顔立ちをした美少年。2年生の女子生徒たちから非常に人気がある。胸の大きな女性が大好きで、合唱部にも柏木ユリが目的で入部した。

篠崎 (しのざき)

合唱部に所属する男子生徒。前髪を目の上で切った短めの髪をしている。ある日突如向井ケイスケと争いになり、殴り合いのけんかに発展。ケイスケとの仲自体は早めに修復されたものの、窓ガラスを割るほどのけんかになったため、男子部員たちは女子部員たちの不興を買い、部員たち男女間で距離ができてしまう。

神木 (かみき)

長谷川コトミの元交際相手の男子高校生。桑原サトルたちの1学年上にあたり、中学校卒業後は長崎県佐世保市の高校に進学し、親戚の家に下宿している。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、後ろ髪を肩につくほど伸ばして外にはねさせている。個人所有のパソコンにコトミの写真を残しており、それが原因でコトミと争いになってしまう。

松山 ハルコ (まつやま はるこ)

桑原サトルたちの中学校で音楽教師を務める女性。前髪を左寄りの位置で分け、肩につかない長さのマッシュルームヘアをしている。眼鏡が特徴。合唱部の顧問でもあるが現在妊娠中で、産休を取っている。そのため中学校以来の友人でもある柏木ユリに部を任せることになる。課題曲の「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を深く理解させるため、歌詞になぞらえて未来の自分に手紙を書くという宿題を、部員たちに出した。 合唱部には時々顔を出して元気そうに見えるが、実は心臓が弱く、出産に大きなリスクを抱えている。

桑原 アキオ (くわはら あきお)

桑原サトルの兄。前髪を眉上で短く切り、癖のある髪の毛をしている。鷲鼻が特徴。自閉症を患っており、話し相手の言葉を復唱していることが多い。変化が苦手で、普段の生活と少しでも違うことがあると混乱してしまう。会話自体は理解して記憶力も良く、かなり昔の出来事も正確に覚えている。

桑原サトルの父親 (くわはらさとるのちちおや)

桑原サトルと桑原アキオの父親。色黒のがっしりとした身体でスポーツ刈りをしている。威圧的な性格で子供にすぐ怒鳴り、サトルの合唱部入部にも反対している。サトルのことはアキオの世話をさせるために産んだに等しいと公言。サトルは自分にそれ以外の価値を見出せず、内向的で何事も諦めがちな性格になってしまった。

桑原サトルの母親 (くわはらさとるのははおや)

桑原サトルと桑原アキオの母親。前髪を左寄りの位置で斜めに分け、肩につかない長さのボブヘアをしている。ややふっくらした身体が特徴。サトルの合唱部入部に賛成しており、サトルの代わりにアキオの送り迎えをするようになる。

仲村ナズナの父親 (なかむらなずなのちちおや)

仲村ナズナの父親。料理人として働いており、ナズナには真面目でおとなしい性格の人物と記憶されていた。しかし飲食店で知り合った女性と共に蒸発し、さらに女性に捨てられ多額の借金を負ったことから、ナズナの男性嫌いの要因となってしまった。現在は長崎県佐世保市に住んでおり、NHK全国学校音楽コンクールのために佐世保市に行くことになったナズナを不安な気持ちにさせている。

山口 (やまぐち)

神木のおばに当たる中年の女性。前髪を目の上で切り、肩につかない長さの内巻きボブヘアをしている。長崎県佐世保市の高校に進学した神木を下宿させており、神木に会いにやってきた長谷川コトミと桑原サトルの対応をする。しかしその直後に問題が起き、巻き込まれてしまう。

イベント・出来事

NHK全国学校音楽コンクール (えぬえいちけーぜんこくがっこうおんがくこんくーる)

毎年夏に大会が行われる音楽コンクール。7月末に地区大会があり、合唱部は入賞を目指して練習している。参加校は課題曲と自由曲の2曲を披露することになっており、課題曲にはアンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が選ばれている。

クレジット

原作

中田 永一

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