あらすじ
第1巻
江戸・八丁堀で四人の変死体が次々に発見される。不可解な事に、いずれも若い年頃の娘ばかりで陰部が傷つけられており、全裸のまま後ろ手に縛られた状態であった。怪事件を追う同心の旗野三四郎を慕う緋鳥は、自ら犯人の罠にかかり、加賀見藩藩主の屋敷に監禁される。事件は藩の家老による策略で、糖尿病で不能となった殿のために処女の生血を飲ませる目的であった。緋鳥は全裸にされ藩主の寝床に両手両足を縛り付けられる。好色な藩主によってまさに陵辱されようとするその時、緋鳥はくノ一忍者の正体を現して悪党達に立ち向かうのだった。(控之一「恋縄緋鳥」。ほか、10エピソード収録)
登場人物・キャラクター
緋鳥 (ひちょう)
くノ一と俗称される女忍者。若くスタイルのよい美女で未婚。抜け忍となり、ふつうの町娘として義父の蛇縄参次と長屋で暮らしている。しばしばくノ一忍法を駆使して事件を解決し、義父の手助けをしている。旗野三四郎に恋心を抱いており、たびたび彼の家を訪れて洗濯などの家事を手伝っている。
旗野 三四郎 (はたの さんしろう)
八丁堀]で定町廻り同心を務める男性。長身でがっしりした体格の美男子の青年。「女は面倒くさい」というストイックな性格で、独身の一人暮らし。命の恩人として緋鳥から慕われている。緋鳥を愛しながらもいっしょになれない境遇に悩んでいる。
蛇縄参次 (へびなわさんじ)
八丁堀]で岡っ引きの親分を務める中年の男性。妻を亡くして長屋で義娘の緋鳥との二人暮らし。鋭い目つきをした縄術の使い手で、「蛇縄」の俗称が付いた。正義漢だが見廻り先の商家から賄賂を受け取る清濁併せ持つ人物。緋鳥がふつうの町娘になってくれる事を願っている。
地虫の六蔵 (じむしのろくぞう)
昔、緋鳥の仲間だった中年の男性忍者。凄腕の持ち主だが卑劣な性格で、今は町人に雇われて殺生をするほど堕落してしまっている。緋鳥とは敵対関係にあるが、以前から緋鳥によこしまな好意を抱いており、彼女の身体を陵辱しようと企んでいる。
眉間傷の定 (みけんきずのさだ)
八丁堀で蛇縄参次の子分として仕える男性。額に大きな縦の刀の傷跡がある青年。蛇縄参次を親分と慕い、緋鳥には事件の情報を伝える役目を果たす。おっちょこちょいな性格で、いつも親分に叱責されている。
天狗 (てんぐ)
剣術の腕前に長けた老人。肌が褐色で神出鬼没な事から「葦の原の向こうに住む天狗」と恐れられている。剣の達人で、木刀で撲殺した相手の頭部が、時間を置いて頭蓋骨がバラバラになるという秘技の使い手。老人ながら一度に三人の女性を相手にできるというほどの精力絶倫さを誇る。
伸吉 (しんきち)
宿なし旅鴉の若い男性。惚れ込んでいた恋人に貢ぐため窃盗を犯し、伝馬町の牢獄に入り家老として、その後江戸払いとなって流浪の旅を続けている。恋人に逢うため、3年ぶりに江戸を訪れ、事件に巻き込まれる。
藤野 源治郎 (ふじの げんじろう)
江戸の牛込榎町で道場を構えていた浪人の男性。弟子が減り、落ちぶれて貧乏長屋で暮らしている。今はある藩の家老として出世したかつて同輩に請われ、剣道指南役として藩の屋敷に出入りした事で、重大事件の首謀者となる。
庄司 甚内 (しょうじ じんない)
吉原の遊郭で五代目郭名主を務める老人男性。元は盗賊で、自分を見逃してくれた緋鳥に恩義を感じ、身寄りのない緋鳥を郭の離れに住まわせている。
風速 伊織 (かぜはや いおり)
剣術に長けた男性。浪人風の風采をしているが、見かけによらず、大金を湯水のように遣い、吉原の遊郭にて刹那的な態度で放蕩三昧を尽くす。郭の部屋で飲んだくれていたところを忍者に急襲されるが、緋鳥に救われて意外な正体を明かす。
鶴亀 (つるかめ)
吉原の遊郭で幇間を生業とする男性。大柄の体格で、長く伸びた大きな顎が特徴。吉原一番の売れっ子幇間と、いつも自慢している。緋鳥には花魁言葉で語りかけるくせがある。
場所
八丁堀 (はっちょうぼり)
江戸幕府によって町奉行所が置かれた場所。地名は水路の堀端に由来している。配下の与力・同心達の組屋敷が建てられており、治安部隊の中心的存在だった事から、これらの組織を指す別称ともなっている。
吉原 (よしわら)
江戸幕府によって公認されていた遊郭があった場所。やがてこの地域の遊郭自体を指す隠語となった。江戸時代初期には江戸日本橋付近に位置していたが、その後の火災により浅草寺付近の日本堤に移転した。