ざつ旅 -That's Journey-

ざつ旅 -That's Journey-

漫画家志望の鈴ヶ森ちかは、ふとしたことからSNSで行先を募集し、行き当たりばったりの旅に出ることになった。SNSでのアンケートと連動した旅を楽しむちかの姿を描く、無計画で、ざつな旅行記。なお、作中でのちかの旅先は、Twitterの公式アカウント(@suzugamori2)で現実に募集した場所となっており、この公式アカウントでは旅の様子もレポートされている。「電撃マオウ」2019年5月号から掲載の作品。

正式名称
ざつ旅 -That's Journey-
ふりがな
ざつたび ざっつ じゃーにー
作者
ジャンル
旅行
レーベル
電撃コミックスNEXT(KADOKAWA)
巻数
既刊11巻
関連商品
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あらすじ

漫画家志望の鈴ヶ森ちかは、都内の某出版社に3本のネームを持ち込み、編集者の吉本にチェックをしてもらっていた。だが吉本の反応は芳しくなく、帰り道では突然の雨、さらに車に水をはねられるなどさんざんな目に遭い、ちかは大いに落ち込んでしまう。気落ちしたまま家に帰ったちかは、ふと口を突いて出た「旅に出たい」という自らの言葉に驚きながらも、大好きなテレビ番組で旅先をサイコロで決める企画があったことを思い出し、それを自己流にアレンジしてSNS「ダベッター」で旅先のアンケートを取ってみることにした。翌日、自らが師匠と慕う漫画家の糀谷冬音がリツイートしたことにより、実に3000票を超えるアンケート回答が届いていることに気づいたちかは引くに引けず、最多得票を集めた「上の方」という選択肢に従い、福島は会津若松へと向かう。明確な計画も立てていないちかは、行き当たりばったりで観光し、夜になって東山温泉でどうにか飛び込みで宿も確保し、温泉を堪能して旅の疲れを癒すのだった。翌日、宿を出たちかは、たまたま大きな鳥居の前を通りがかる。その先にある羽黒山神社までは石段が1225段もあることを知ったちかは、躊躇(ちゅうちょ)しながらも何かに突き動かされるように参道に足を踏み出す。(第1旅「はじめの1225段」)

ある日、ちかは冬音から三人旅に誘われた。もう一人のメンバーは冬音の友達にして、冬音とは別の雑誌で連載を持つ漫画家なのだという。そしてヘルプアシスタントを探している彼女のため、冬音はちかを紹介しようと考えているのだと語る。今回の旅行は、事前に顔を合わせて親しくなっておけば仕事もやりやすいだろうと、冬音なりに考えたことだった。迎えた旅行当日、冬音の友人の漫画家、天空橋りりは口数が少なく、どこかつかみどころのない女性で、目的地である京都までの新幹線ではちかとほとんど話すこともなかった。一方のちかは、クールな大人の女性としてりりに好感を抱くと同時に、どこかで彼女を見たことがあるような、不思議な感覚を覚えていた。そんな中、旅の最中に時々姿を消していたりりは、そのあいだにさまざまな酒造で酒を買いあさっていたことが発覚。伏見稲荷大社を参拝した後に酒を口にしたりりは妙なボケを連発し、いちいちツッコむちかの姿を楽しむ様子すら見せるようになる。そしてここで、ちかはかつて訪れた東山温泉の宿で、りりが酒を飲んでいる姿を目撃していたことを思い出すのだった。その後、三人は宮津に移動して宿を取って豪勢な食事と温泉を堪能し、布団を三組並べて眠りにつく。迎えた翌朝、ちかは布団にりりの姿がないことに気づく。早い時間に起き出したりりは広縁に座り、旅行で得たインスピレーションを忘れないうちにとメモに描き出していたのである。そんなりりの努力と、旅の最中にさまざまな妄想を膨らませていた冬音の姿に、ちかは漫画への思いを新たにする。(第5旅「ふ、ばいざしー」)

編集者の吉本に提案された深夜バスの旅を経て、漫画への手ごたえをつかんだちかは、吉本から生き生きしたキャラクターを描くようになったと褒められ、同時にアンソロの仕事をしてみないかと誘われる。二つ返事で引き受けたちかだったが、いざ仕事で漫画を描くとなると難しく考えすぎてしまい、どうにも調子が出ない。そんな現状を打破するためSNS「ダベッター」で旅先を募集したちかは、アンケート結果により青森の八甲田山へと向かう。だが、ちかの心中を反映するかのように山には深い霧がかかり、ちょっと先も見えない状況に陥ってしまう。どうにかロープウェーで下山したちかは、冷えた体を温めるため、日本三秘湯として知られる谷地温泉を訪れる。ちかは宿を取り、温泉と岩魚(イワナ)料理を存分に楽しみ、翌日の目的地を決めるため、改めてダベッターでアンケートを取るのだった。翌日、アンケートの結果により恐山へ行くことになったちかは下北へ向かうが、観光案内所で恐山が数日前に冬季閉山したことを知る。だがちかは、そこで聞かされた「仮開山」という言葉に一縷(いちる)の希望を見出し、タクシーで恐山へと向かう。(第10旅「温泉で完成」)

せっかく旅という新たな趣味に目覚めながら、「アレなウイルス」のせいでしばらく旅に出られなかったちかは、4か月ぶりに電車に乗って旅に出ようと、東京駅に向かっていた。県境をまたぐ移動はできないため、目的地は同じ都内の奥多摩。東京駅で駅弁を買ったちかはさっそく電車に乗るが、青梅線直通の中央線はボックス席のない向かい合わせの座席ということもあって、駅弁を食べることもできずにいた。しかも目的地の奥多摩駅まで2時間かかるため、時間を持て余していたちかは、奥多摩駅を目前にしながら、駅名に興味を覚えた鳩ノ巣駅で途中下車。周囲を散策しながら、歩いて奥多摩駅に向かうことにする。そして道中、白丸ダムの威容に感嘆し、奥多摩温泉 もえぎの湯で温泉を楽しむのだった。温泉に入ったあと、川魚塩焼き定食を食べて充電したちかは、奥多摩駅に向かって再び歩き始める。奥多摩わさび本舗 山城屋で買い物をしたり、愛宕山公園をちょっとだけ探検したちかは、4か月ぶりの旅ということで体力の衰えを感じながらも、ようやく奥多摩駅にたどり着き、ここからさらにバスで奥多摩湖へと向かう。旅の最終目的地である奥多摩湖の小河内ダムに到着したちかは、先ほどの白丸ダムをはるかに上回る迫力を体感しながら、そこで自分がまだ食べていない駅弁を持っていたことに気づく。さっそく駅弁を広げて口に運びつつ、ちかは自分の周囲を取り巻く非日常の光景に、久々に旅に来ることができた感動を嚙みしめる。(第14旅「ほんとうに都内」)

2020年9月某日、県境をまたいだ移動が公に解除されることが決定した。その事実をニュースで知ったちかは、いてもたってもいられず、さっそく旅行へ繰り出そうとSNS「ダベッター」でアンケートを実施。アンケート結果により行先は茨城に決定し、迎えた10月1日、実に7か月ぶりに都外に足を踏み入れることとなった。こうして常陸太田を訪れたちかは、観光案内センターで周辺の地図をもらい、宿に予約を入れたうえで周辺の散策を開始。だが、観光案内センターで勧められたうどん屋に向かうと、店は定休日で閉まっていた。近所の人からうどん屋の支店の話を聞いたちかはそちらへと赴くが、今度は営業時間にギリギリ間に合わずに店が閉まってしまうという事態に見舞われる。おなじみのがっかりな展開に、ちかは「自分の旅」らしくなってきたと胸を高鳴らせ、そんなアクシデントも楽しいとニヤつきながら、宿へと向かう。ようやくたどり着いた宿で温泉を堪能し、豪華な夕食に舌つづみを打ったちかは、久々の旅らしい旅に満足感を抱きながら眠りにつくのだった。そして迎えた翌日のチェックアウト時、ウイルス騒動の影響について宿の女性従業員に尋ねたちかは、彼女が前向きに語った「できる時にできることをやるしかない」という言葉に感銘を受け、気持ちも新たに次の目的地である御岩神社へと向かう。(第16旅(前編)「あたらしい旅」)

登場人物・キャラクター

鈴ヶ森 ちか (すずがもり ちか)

漫画家志望の女子大学生。出版社に作品を持ち込みつつ、時々ほかの漫画家のアシスタントとしても働いている。漫画の賞に入賞して100万円の賞金を手にしたこともあるが、それ以来は鳴かず飛ばずでネームのチェックさえ通らず、連載を持つことなど夢のまた夢という状態にあった。そのためネガティブ思考に陥りやすいものの、根性はあり、めげずにネームの持ち込みを続けている。ある日、ネームを三つも持ち込むもののすべてボツになってしまい、現実逃避も込めて旅に出たいと考えてSNS「ダベッター」で旅先候補のアンケートを募集。すると思いがけない反響があり、引くに引けずに旅に出ることになった。以降、旅の楽しさに魅了され、SNSで行先を募集しては旅に繰り出すようになる。大まかな目的地以外はいっさい決めずに出かけて宿などは現地で決める、「無計画で、ざつな旅」をモットーとしている。そのため旅先で目標としていた食事処が定休日だったりすることもままあるが、こうした「残念」「がっかり」も自分の旅の醍醐味(だいごみ)であると前向きに受け入れており、むしろトラブルがないと物足りなく感じるレベルに達している。ちなみに旅の資金には、基本的に賞金でもらった100万円を充てている。もともと新幹線の「やまびこ」と「はやぶさ」の区別もつかないほど旅には不慣れだったが、旅を重ねるうちにさまざまな知識を蓄え、苦手だった食べ物を克服することをはじめ、多くの意味で成長。そしてその効果が、自らの漫画にも波及していくようになる。高校時代は剣道部に所属し、当時から漫画家のアシスタントをしたり自分で漫画を描いたりと精力的に活動していた。また、人前で弱った姿を見せたり弱音を吐くこともなく、そんな姿は後輩の鵜木ゆいにとって、大いなるあこがれとなっていた。

蓮沼 暦 (はすぬま こよみ)

鈴ヶ森ちかの友人の女性。ちかにとって、完全に心を許せる親友ともいえる存在。明るくフランクな性格でざっくばらんな口調で話し、身体を動かすことが好きなアクティブ派。友達思いで、仕事などにおいて何かと思い悩みがちなちかのことを気にかけて、つねに心配している。一方で、鵜木ゆいがちかにあこがれていることを知って、ちかと二人で旅に行ったことを自慢してからかったりと、イタズラ好きなところもある。夢に向かって前向きに頑張るちかの姿を見て、目標のない自分の将来に漠然とした不安を覚えていたが、そんな姿を心配したちかに連れられて東北を訪れた際、宮沢賢治に感化されて学校の先生を志すようになる。

鵜木 ゆい (うのき ゆい)

鈴ヶ森ちかの2年後輩の女子高校生。剣道部に所属している。のちに大学に進学する。同じ剣道部の先輩だったちかにあこがれ慕っており、蓮沼暦から話を聞いて、ちかの旅に同行を願い出た。歴史が大好きで、城などの石垣を見ただけで目を輝かせ、歴史について語り出すと止まらなくなる。高校時代、部活に漫画にと精力的に活動していた2学年先輩のちかにあこがれていると同時に、当時のちかと同じ年になって、自分も彼女のようになれるだろうかと漠然とした不安を抱いている。ちなみに、剣道の腕はちかより鵜木ゆいの方が上で、ちかは在学中にゆいに1回も勝ったことがない。実は糀谷冬音の漫画「コスモのシャベル」の大ファン。また、天才肌なせいで擬音が多く言葉足らずな冬音の意図を正確にくみ取ったりと、小さな情報から論理的に結論を導き出すことが得意。

糀谷 冬音 (こうじや ふゆね)

鈴ヶ森ちかの知り合いの人気女性漫画家。SNS「ダベッター」では3万人以上のフォロワーを持つ。ちかが高校1年生の時にゲームを介して知り合い、漫画家を目指しているちかに、時々アシスタントとして仕事を手伝ってもらうようになった。そのため、ちかには「師匠」と呼ばれている。陽気ながらも穏やかでおっとりした性格で、「ふゆねぇ」のあだ名で呼ばれることもあり、糀谷冬音自身もそう呼ばれることを好んでいる。直感型の天才タイプで、ちょっとしたことから妄想を膨らませて物語を構築する癖があり、その妄想力はちかに畏敬の念を抱かれているほど。ちなみに妄想を膨らませているあいだは、両手で自分の髪をぐしゃぐしゃにする癖がある。一方で、感覚重視のため会話に擬音が多く、言葉足らずなこともあって、人に真意を伝えるのがあまりうまくない。漫画を描くようになったのも、小学生の頃に文章の交換日記では友達に言いたいことがなかなか伝えられず、絵で表現していたことがきっかけである。自分とは別の雑誌で連載を持つ天空橋りりと親しく、プライベートでも友人付き合いをしている。

天空橋 りり (てんくうばし りり)

糀谷冬音の知り合いの人気女性漫画家。冬音とは別の雑誌で連載を持っている。クールで口数の少ない美人で、知り合ったばかりの頃の鈴ヶ森ちかには、大人っぽくてカッコいいと評されていた。だが実は非常に酒好きで、酔うと言動がすべて酒を中心としたものとなり見境もなくなることから、そのイメージは早々に瓦解。むしろ「こんな大人にならないようにしよう」と反面教師とされるようになった。一方で、旅の最中でもインスピレーションが湧いたら、忘れないうちに即座に形にしておくなど、根はまじめで漫画に対しても真摯に取り組んでおり、そんな姿はちかに大きな刺激を与えている。のちに旅を通してちかと意気投合し、アシスタントとして仕事を手伝ってもらうようになる。実は少々人見知りの一面があり、知らない人に話しかけられるとごくごく自然な動きで、さりげなくちかの背後に隠れる。

吉本 (よしもと)

都内の某出版社で編集者として働く女性。鈴ヶ森ちかの担当を務めている。ちかの描く漫画は、悪くはないものの何かもう一つ足りないと考えており、ちかの作品に対してアドバイスを送るだけでなく、時に彼女の創作意欲を刺激するため、深夜バス旅行を提案し自ら手配したりと、親身に接している。

書誌情報

ざつ旅-That's Journey- 11巻 KADOKAWA〈電撃コミックスNEXT〉

第1巻

(2019-09-27発行、 978-4049128253)

第2巻

(2020-02-10発行、 978-4049130454)

第3巻

(2020-07-27発行、 978-4049132991)

第4巻

(2020-12-26発行、 978-4049135916)

第5巻

(2021-05-27発行、 978-4049138023)

第6巻

(2021-12-25発行、 978-4049141207)

第7巻

(2022-05-27発行、 978-4049144307)

第8巻

(2022-12-26発行、 978-4049147100)

第9巻

(2023-05-26発行、 978-4049150162)

第10巻

(2023-12-27発行、 978-4049153804)

第11巻

(2024-06-26発行、 978-4049157970)

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