ぜつぼうごはん

ぜつぼうごはん

死ぬ直前の人の前に現れては、その人が本当に食べたいものを作って成仏させる神の使い、満腹天の活動を描いた1話完結型の作品。食に対して考えさせられる内容となっている。「ビッグコミックオリジナル増刊号」2015年5月号から2017年11月号にかけて連載された。

正式名称
ぜつぼうごはん
ふりがな
ぜつぼうごはん
作者
ジャンル
料理人
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あらすじ

第1巻

詐欺師の田中ひとしは車で警察から逃げる際に、カーブを曲がりきれず、ガードレールを突き破って崖下に落下してしまう。重傷を負うが、何とか一命を取り留めた田中の前に、突然一人の少女、満腹天が現れて、田中に「最後に何が食べたいか」と尋ねる。戸惑いながらも田中が「最高級フレンチのフォアグラ大根」と答えると、満腹天はどこからか飛んできた料理器具と材料を使って料理を始めるのだった。(一人目「詐欺師」)

紅葉見物のため大寒山に登った林田晴明と妻の陽子は、突然の天候の変化による大雪で小屋に避難していた。食料などの準備が不十分だった二人は、些細な事から口喧嘩を始める。そんな中、陽子が寝てしまった事に晴明は焦るが、満腹天が小屋に現れて「成仏するまえに何が食べたいか」と尋ねられてさらに混乱する。晴明は目を覚まさない陽子を見ながら、喧嘩するたびに陽子が作ってくれた、夫婦にとって思い出深いカレーの事を話し始める。(二人目「登山者」)

満腹天は、次に成仏させるべき人間である坂上楽太郎がいる場所に向かい、坂上に「最後に何が食べたいか」と尋ねると、「酒」と返答されて困惑する。飲みものでなく食べものを食べさせて成仏させないと、自分の上の立場にいる飯神様からおしおきされる満腹天は、辛抱強く尋ね続ける。そして坂上が「アタリメ」と言うと、七輪でアタリメを焼き始める。(三人目「自由人」)

快人と剛は二人だけの同好会「男の焼き飯同好会」を作り、放課後に焼き飯を作っては、入れた具材を当てあう活動をしていた。お互いに具材をすべて言い当てて勝負は引き分けとなり、勝負は翌日に持ち越される。次の日の放課後、いつも通りに活動場所の料理室に入った快人は、そこで満腹天から「もうすぐ死ぬから何が食べたいか」と尋ねられる。快人はよくわからないまま、剛が作ってきた焼き飯と答えるのだった。(四人目「男子高校生」)

大好きなラーメンを食べて大満足な山田浩介は、店を出たところで満腹天から「おまえの人生最後の飯を作りに来た。おまえはもうすぐ死ぬ」と言われる。山田はタチの悪い冗談と思って、まともに相手せずに帰宅するが、満腹天は家までついて来る。そしてリビングに入ったところで山田は倒れてしまうのだった。満腹天の言う事が本当だと知った山田は、再び尋ねてくる満腹天に焼肉をリクエストする。しかし焼肉を食べきったところで、自分が本当に食べたいものは別にある事を思い出す。(五人目「メタボ男」)

助手の承泣が示す方向に次の成仏させる人間がいるため、満腹天は燃えている介護ホームに向かう。中に入るとベッドで寝ている老女の柴崎さちえと消防士の柴崎良太がいた。「火事で死ぬから、人生最後に何が食べたいか」と尋ねる満腹天に対し良太は、母親のさちえが自分に対してやった事を怒り交じりに語ったうえで、さちえが作れなかった極上のおにぎりを挙げる。極上のおにぎりを食べても成仏しない良太を見て、満腹天は当時のさちえになりきっておにぎりを握る。(六人目「消防士」)

日々、己を鍛えて煩悩を捨て去り、悟りを開くための修行をしている泉秋は、托鉢の修行中に山道で満腹天と出会い、「おまえは崖から転落死するから、人生最後のご飯は何が食べたいか」と尋ねられる。泉秋は死にたくないとダダをこねるものの、死は回避できないと知ると、今ままで抑えていた欲をむき出しにして、諸国行脚の道中でよく目にした赤ワインがよく合いそうな、鶏肉を使ったフランス料理を希望するのだった。(七人目「修行僧」)

シングルファザーとして息子の坂下潤を育ててきた坂下完治は、別れた妻の原希和子から潤のカナダ留学が決まったお祝いとして、食事の招待を潤と共に受ける。希和子が結婚当時から料理に時間を掛けすぎる事に不満を持つ完治は、希和子が料理しているあいだはイライラしっぱなしで、料理ができると、料理の説明をしている希和子の言葉をまったく聞かずに、あっという間に完食する。希和子はそんな完治の食べ方に苦言を呈すのだった。潤にうながされて帰ろうとする完治だったが、席を立った直後に倒れてしまう。そして満腹天から「人生最後の食事として何を食べたいか」と尋ねられ、すぐに食べられるお茶漬けを要望する。(八人目「別れた夫」)

第2巻

骨折で入院している小山杏は、給仕当番の人が落としたプリンを拾うフリをして、以前から気になっていたA号室を覗き見る。そこには多くのチューブにつながれ、真っ白な顔をした少年の森健がいた。健と友達となった杏は、毎日を楽しく過ごしていたが、退院を翌日に控えた夜に健の病室に入る満腹天を見かける。そして杏は、満腹天が口からものを食べると死んでしまう健に、何かを食べさせようとする姿を見てしまう。(九人目「Boy&Girl」)

シングルマザーの黒川秋子は、いくつもの仕事を掛け持って朝から晩まで働き、一人娘の千香を育てていた。ある夜、千香と話をしていると、絶縁している秋子の父親に似た声が聞こえたので、玄関を開けると、そこには満腹天がいた。そして満腹天から「おまえはもうすぐ死ぬから、最後に何が食べたいか」と尋ねられ、秋子は「千香が作る料理」と答えるのだった。(十人目「シングルマザー」)

ホストの原田サトシは、接客中に、店で出している野菜スティックの質の悪さに文句を言い出して、店員から怒られる。承泣から次に成仏させる人間が原田だと教えてもらった満腹天は、休憩中の原田のもとへ行き、「もうすぐ死ぬから人生最後に何が食べたいか」と尋ねる。それを聞いた原田は「祖母が作ったすっぽこ汁」を希望した。(十一人目「ホスト」)

満腹天が死に際の漁師に、料理を作って食べさせる様子を見た小泉八雲は、満腹天から自分の事を誰にも言わないように約束させられた事に衝撃を受け、それを忘れないように一心不乱にペンを走らせた。月日が経ち、東京帝国大学英文科講師を辞める日に、八雲は自分の後任である夏目金之助に自分が書いた満腹天の話を発見され、知らないうちに小説「怪談」として売り出されてしまう。これにより満腹天との約束を破ってしまった八雲は怯える日々を送り、数か月後には心臓発作を起こして倒れる。そして死の淵に立つ八雲の前に満腹天が現れるのだった。(十二人目「小泉八雲」)

満腹天は、以前料理を作ってあげて成仏させたはずの吉田花から声を掛けられる。花は双子の弟である森太郎の事が気になって成仏できずに自縛霊となっていて、森太郎に会わせてくれれば成仏すると言う。それを聞いた満腹天は今の森太郎の姿を花に見せ、成長した森太郎に安心した花に、森太郎といっしょに食べたかったトンカツを渡す。(十三人目「双子」)

加藤学は、自殺する前に長年会っていない母親に会うために、母親が勤める食堂の前まで来たが、会う勇気が出ずにいた。母親の横顔を眺めながら、母親が毎日作ってくれた味噌汁を思い出す加藤に、満腹天は「これから死ぬおまえに、人生最後の飯を作りに来た。何が食べたいか」と告げる。加藤が「母親の味噌汁」と答えると、満腹天は見た目も味もまったく同じ味噌汁を二つ出し、どちらが母親の味噌汁かを当てるクイズを出すのだった。(十四人目「バカ息子」)

トラック運転手の桃次郎は、自分のトラックの上にいる満腹天の目的地が自分と同じ小骨峠と知り、トラックに乗せた。道中に自分の身の上話をし、話の流れで小骨サービスエリアの店員のかおりと、かおりが作るチャーシュー弁当、通称チャー弁について熱く語り始める。話しているうちにチャー弁が食べたくなった桃次郎は、小骨サービスエリアに寄るが、荷物を届ける時間に間に合わなくなるため弁当を買わずに出発し、小骨トンネルで玉突き事故に巻き込まれてしまう。(十五人目「トラック野郎」)

医者から余命半年を宣告されたかおりは、ショックを受けつつも小骨サービスエリアで普段通りに働いていた。弁当が全部売れたある日、弁当を買えずにショックを受ける桃次郎を見て、かおりは自分で作った試作のチャーシューを使った弁当を桃次郎に提供する。桃次郎の食べっぷりのよさをきっかけに少しずつ桃次郎の事が気になり始めたかおりだったが、満腹天から「もうすぐ死ぬから、人生の最後に何が食べたいか」と声を掛けられるのだった。(十六人目「お弁当屋さん」)

登場人物・キャラクター

満腹天 (まんぷくてん)

人々の幸せを願い、毎日ご飯を炊く神、飯神の使い。見た目は幼い女の子だが、人間でないため成長しない。しかし、雪山や火事の中でも難なく入っていける超人的な体力を持つ。助手の承泣と共に死にそうな人間のもとへ行き、その人間が本当に食べたいものを、人生最後のご飯として作って、安らかに成仏させている。和洋折衷何でも作れるほど料理の腕は高い。 精神的には達観しているが、ブ男よりイケメンの相手をしたい、成仏させるのに失敗した時の罰を嫌がるなど、人間っぽい面もある。

承泣

人々の幸せを願い、毎日ご飯を炊く神、飯神の使い。満腹天の助手を務める。猫科の動物が風呂敷を頭にまき、白装束と「承泣」と書かれた褌を身につけた姿で、籠を背負いながら二足歩行する。次に成仏させる人間を探したり、料理道具や材料を籠から出したりする。

田中 ひとし

詐欺行為を繰り返す男性。年商200億のIT企業社長「城ハヤト」という偽名を持つ。稼いだ金は世界中の美味しいものを食べつくすという野望のために使っていたが、警察から逃げている時に車のスピードを出し過ぎて、カーブを曲がりきれずに崖下に落下してしまう。重傷を追った時に出会った満腹天から「最後に何が食べたいか」と聞かれ、「最高級フレンチのフォアグラ大根」をはじめ数々の高級料理を挙げるが、本当に食べたいものは別にあった。 その事を満腹天に指摘されたが、素直に認めなかった。

林田 晴明

紅葉を見に大寒山に登った男性。時期外れの大雪により、妻の陽子といっしょに小屋に避難した。陽子とは喧嘩をよくするが、基本的には夫婦仲はいい。喧嘩のたびに陽子が作ってくれるカレーが大好物。一方、陽子の好物である納豆は匂いを嗅ぐのも嫌い。突然眠り始めた陽子が死ぬと思って焦るが、満腹天から死ぬのは林田晴明だと聞かされ、成仏するまえに食べたいものとして、夫婦の思い出でもあるカレーを挙げる。

坂上 楽太郎

路上生活を続ける男性。年齢は54歳。飯より酒を好み、路上生活仲間からは「楽さん」と呼ばれている。定職に就いた事はないが、人とのかかわり合いと無縁な今の生活に満足しており、満腹天からもうすぐ死ぬと言われても、取り乱したりしなかった。満腹天にも飯より酒を要望し続け、満腹天が食事しか用意できないと知ると「アタリメ」をリクエストするが、でき上がったものも馴染みの野良犬であるサユリに食べさせる。

快人

剛と二人で「男の焼き飯同好会」を作った男子高校生。持病があってたびたび学校を休むために、友達と呼べるのは幼なじみの剛だけ。いじめられっ子の剛を小さい頃からずっと守ってきた、正義感が強い性格。毎日放課後になると学校の調理室に集まり、作った焼き飯の具材を言い当てるという活動をしている。満腹天から死ぬ前に何が食べたいかと尋ねられて、剛が作った焼き飯と答える。

山田 浩介

会社員の男性。年齢は51歳。5年前に医者から血糖値の高さを指摘されて食生活の注意を受けてから、妻ののり子によって食事の制限をされている。そのため大好きなラーメンをはじめ、トンカツや寿司など脂っこいものや高カロリーなものを食べさせてもらえていない。のり子に隠れてラーメンを食べた時に、満腹天から「おまえの人生最後の飯を作りに来た。 おまえはもうすぐ死ぬ」と言われ、禁止されていた焼肉を心行くまで堪能する。しかし焼肉を食べ終えたところで、自分が本当に食べたいものは、のり子が身体の事を心配して作ってくれた数々の料理だと確信する。

柴崎 良太

東京消防庁に務める男性。子供の頃に遠足や運動会でおにぎりをお願いしても、母親の柴崎さちえは作ってくれず、さらに誕生日にボロボロのおにぎりを作ってから、さちえは姿を消してしまった。そのため、母親の事を深く憎んで生きてきた。火事になった介護ホームに救出のために入り、ベッドで寝ているさちえと再会。呆然としているところに、満腹天から「火事で死ぬから、人生最後に何が食べたいか」と尋ねられて、さちえがうまく作れなかった極上のおにぎりと答える。

泉秋 (せんしゅう)

修行僧の男性。本名は「蒲池ます男」。満腹天は、読み方を教えてもらうまでは、「泉アキ」と呼んでいた。小学生の頃から妄想が激しく、まったくモテなかったために仏門に入り、日々欲を捨てる修行を行っている。それでも欲がなくなる事はなく、満腹天から死ぬ前に何を食べたいか尋ねられて、赤ワインとよく合いそうなフランス料理と答える。 料理方法がよくわからない満腹天に、泉秋は料理を女性に見立てた妄想をしながら細かく指示する。

坂下 完治

息子の坂下潤を一人で育てている男性。年齢は49歳。すぐにできてすぐに食べられる料理が好き。潤のカナダ留学が決まったお祝いの席で、別れた妻の原希和子との料理への価値観の違いから喧嘩となり、帰るために席を立った直後に倒れてしまう。満腹天から「人生最後の食事として何が食べたいか」と尋ねられ、出されたお茶漬けを食べて満足する。

小山 杏 (こやま あん)

骨折して入院中の少女。悪口を言ったクラスの男子に飛び蹴りしたら、その勢いで階段から落ちてしまった。食いしん坊で好奇心旺盛な性格で、前から気になっていたA号室を覗き見して、中にいた同年代の少年、森健と友達になる。入院中は頻繁に健の病室を訪れては世間話をしたり、勉強を教えてもらっているうちに、健の事が好きになっていく。

黒川 秋子 (くろかわ あきこ)

娘の千香を一人で育てている女性。年齢は23歳。高校生の時に妊娠し、父親から生む事を反対されるものの拒否して、高校卒業と同時に出産。父親と絶縁しているため頼る人がおらず、朝から深夜まで身を粉にして働いている。そのせいで千香に寂しい思いさせている事も知っており、できるだけコミュニケーションを取るようにしている。そんな中、満腹天からもうすぐ死ぬ事を告げられる。 人生最後に食べたいものを尋ねられて「千香が作る料理」と答える。

原田 サトシ (はらだ さとし)

ホストクラブで働く男性。年齢は24歳。1日の食事がカップラーメンだけと、食生活は非常に悪いものの、舌は肥えている。赤ちゃんの頃から祖母に育てられて、高校を卒業すると上京してホストとなった。地元に帰った時に出された祖母のすっぽこ汁を食べなかった事を後悔しており、満腹天から人生最後の飯を尋ねられると、「祖母が作ったすっぽこ汁」と答える。

小泉 八雲 (こいずみ やくも)

東京帝国大学で英文科講師を務める男性。満腹天が料理を作って瀕死の人間に食べさせている姿を目撃し、満腹天から見た内容をばらさないように約束させられる。あまりにも衝撃的な内容だったため、書き留めずにはいられなかったが、公表しないという約束は守り続けた。誠実でまじめな性格で、妻のセツを始め、慕ってくれる人間は多い。実在の人物である小泉八雲がモデルとなっている。

吉田 花 (よしだ はな)

成仏できずに自縛霊となった少女。双子の弟の森太郎の事が気になっている。生前は、足が遅くていじめられていた森太郎をかばう弟思いの優しい姉で、いじめっ子にも向かってやり返す強気な性格。森太郎がいじめられないように特訓をしていたが、9歳という若さで亡くなった。自縛霊となっても森太郎の事を気にかけ、満腹天に今の森太郎に会わせてほしいとお願いする。

加藤 学 (かとう まなぶ)

現在失業中の男性。年齢は36歳。自殺する前に最後のあいさつをしようと、何年も会っていない母親に会いに行く。しかし、母親がドアの先にいる場所まで来ながら、会う勇気が出ずに立ち往生してしまう。そんな時に満腹天から「これから死ぬおまえに、人生最後の飯を作りに来た。何が食べたいか」と尋ねられて、子供の頃によく食べていた母親の味噌汁と答える。

桃次郎 (ももじろう)

トラック運転手の男性。豪快に振る舞っているが、恋愛には不器用な性格。映画「トラック野郎」シリーズが好きな父親が、菅原文太演じる主役の名前から名付けた。今は家族は一人もいなく、トラックを寝床にしながら、正月もクリスマスもなく休みなく働いている。小骨サービスエリアで働いているかおりに好意を寄せている。毎回かおりが作る弁当を楽しみにしており、今は白飯にかおりの手作りチャーシューがのっているチャーシュー弁当、通称チャー弁が大のお気に入り。 満腹天に「死ぬ前に何が食べたいか」と尋ねられて、チャー弁と答える。

かおり

小骨サービスエリアの弁当屋に勤める女性。余命半年を宣告されてショックを受ける桃次郎が、自分が作った弁当を嬉しそうに食べるのを見て、明日を生きる人のために弁当を作ろうと生きる気力を取り戻す。それと同時に毎回豪快に食べる桃次郎に惹かれていく。

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