少女たちの自己破壊と他者破壊の葛藤
生徒会長を務める優等生の来未は、自傷癖のある母親を刺激しないよう、つねに品行方正に振る舞っていた。しかし、その精神は限界に達し、築き上げてきた世間体をすべて投げ捨てたいという破壊衝動に駆られることが増えていた。一方、母親と妹に置き去りにされ、暴力を振るう父親と暮らす直井もまた、他人の人生を壊すことでかろうじて自己を保っていた。「自分を壊したい」来未と、「誰かを壊したい」直井。二人は互いに傷つけ合いながらも、必死にそれぞれの心と人生を守ろうともがいている。
来未と直井の特別な信頼関係
当初、来未と直井はお互いを、自分とは正反対で理解しがたい存在だと感じていた。しかし、二人が「親」という共通の問題を抱えていることを知ると、次第に共感し合うようになった。親から受けた心と体の傷を分かち合うことで、自然と支え合う関係が生まれた。こうして築かれたのは、ほかの友人たちとは異なる、少し歪(いびつ)ではあるが確かな信頼関係だった。その中で、二人は互いがかけがえのない特別な存在であることを実感するようになる。
二人に共鳴しながら、狂気へと堕ちていく少女たち
来未には、彼女に思いを寄せる幼なじみの同級生、下田心がいた。心は、来未が直井とかかわるようになってから性格が変わってしまったと感じ、二人を引き離そうと画策する。その行動は次第にエスカレートし、ついには来未の家に無断で侵入し、朝食を作るなど常軌を逸した行動に及んでしまう。一方、直井の前には、かつて彼女が壊した少女、工藤が現れる。いじめによって歪んだ快感に目覚めた工藤は、責任を取るよう直井にせまり、これからも自分をいじめ続けてほしいと執拗に要求するのだった。二人の少女の激しい感情が周囲に波紋を広げ、来未と直井の関係を大きく揺るがしていく。
登場人物・キャラクター
吉沢 来未 (よしざわ くるみ)
とある高校に通う2年生の女子。生徒会長を務めている。幼い頃から学級委員長や生徒会役員などを任されてきた。教師からの信頼は厚いものの、その完璧さゆえに一部の生徒からは煙たがられている。母親が精神的に不安定で、来未がテストで満点を取れなかったり、少しでも欠点を見せると母親が自傷行為に走ってしまうため、それを防ぐために完璧を装い続けてきた。担任教師から直井のサポートを依頼され、渋々承諾するが、愚痴をこぼしているところを彼女に聞かれてしまう。来未の心はすでに限界に達しており、築き上げてきた評価をすべて破壊したいという衝動に時おり駆られるようになる。そんな中、衝動的に万引きしようとした瞬間を直井に録画され、脅迫される。当初は直井を卑劣だと軽蔑していたが、彼女の抱える心の傷を知るにつれて次第に理解者となり、支え合いたいと願うようになる。
直井 (なおい)
来未のクラスメイトで、不登校の女子生徒。特待生として入学したが、現在はほとんど登校していない。父親からのDVが原因で、母親と妹は家を出ており、現在は父親と二人で暮らしている。父親から絶えず金銭を無心されるため、学校を休んでアルバイトに明け暮れる日々を送っている。当初は、自分とは正反対の来未を恵まれた存在だと一方的に憎悪し、彼女の人生を壊そうと考えていた。しかし、来未もまた母親に精神的に支配され苦しんでいることを知り、その憎しみは次第に共感へと変わり、互いに支え合いたいと願うようになる。
書誌情報
ぜんぶ壊して地獄で愛して 4巻 一迅社〈百合姫コミックス〉
第1巻
(2023-08-18発行、978-4758025904)
第2巻
(2024-03-18発行、978-4758026932)
第3巻
(2024-10-18発行、978-4758027779)
第4巻
(2025-05-16発行、978-4758028974)







