あらすじ
二人だけの将棋部
高校2年生の八乙女うるしは1年生の田中歩と共に、二人だけで将棋部として活動をしていた。もともとこの部活は学校から正式に認められておらず、実際は同好会とも呼べないものだったが、うるしが空き教室を勝手に使用し、周囲がこれを容認していたことで、成り立っているだけだった。そのため、うるしはあと二名の部員を確保して、正式な部に昇格させたいと願っていた。一方の歩も部員が入部すれば、対局数が増えると内心期待していたが、なぜか部員を増やすことに前向きではなかった。歩はかねてうるしに片思いしており、将棋を指すようになったのも、うるしと対局したいがためだった。しかし、思いを伝えるのは将棋でうるしに勝ってからだと考えているため、それが叶いそうもない現在は、二人だけで将棋をしたいと考えていたのだ。その事情を知る由もないうるしは部員探しに勤しむが、結局新入部員は獲得できず、今日もまた二人だけで対局することとなる。
三人目の将棋部員
体育祭の出来事で八乙女うるしと距離を縮めた田中歩は、うるしのために新入部員を獲得するために奔走していた。そこで歩は、幼なじみの角竜タケルに声を掛けるが、タケルには一つ大きな問題があった。タケルは幼なじみの御影桜子といっしょに図書委員会に所属しているが、これは桜子と過ごす時間を共有するためのもので、タケルは将棋部に入部してしまうと、これが叶わなくなるのである。悩んだ末にタケルは、ひとまず幽霊部員として将棋部に所属することにするが、入部初日くらいは顔を出すべきだと考えたタケルは部室にあいさつへ向かう。その後、うるしと対局していると、なぜか桜子が現れて連れ戻されてしまう。桜子は、歩がうるしに思いを寄せていることを知っているため、できるだけ二人の関係を邪魔したくないと考えていたのだ。そこで、タケルが二人の邪魔にならないように桜子は行動を起こしたのだった。
文化祭デート
秋のある日、八乙女うるしと田中歩は近々行われる文化祭で、デートする約束を交わす。もし将棋部が正式な部として認められていれば、二人は将棋部として忙しい日々を送っているはずだった。しかし、現状部員は角竜タケルを含めて三名だけで、未だに部としては認められていなかったため、時間があいていたのだ。そして文化祭当日、二人は楽しい時間を過ごすが、うるしはそんな充実した一日の中で、歩といっしょに対局していた時間がかけがえのないものだったことに気づく。文化祭が終わり、二人はより距離を縮めるが、歩にはかねて不満に思っていることがあった。実は歩は、うるしが歩のことを「田中」と名字で呼んでいるのに、タケルのことはなぜか名前で呼んでおり、その差を寂しく感じていたのである。これは単に歩がタケルをそう呼んでいるため、うるしもならっただけなのだが、これを知ったうるしは、今後は歩のことも名前で呼ぶことにする。
六枚落ちのハンデ戦
12月のある日、八乙女うるしと田中歩は、六枚落ちのハンデをつけて対局することになった。今年の対局すべてがうるしの勝利で終わりそうなため、うるしは一度くらいは歩に勝利の機会を持たせようと考えたのである。一方の歩は、ハンデ戦での勝利が勝利といえるのだろうかと悩むものの、どんな形でも勝ちは勝ちだとうるしに言われたことで対局を承諾。しかし、うるしはもしこの対局で歩に負けたら、歩から告白されるのではないかと緊張していた。それでも対局はいい雰囲気で進み、二人は対局を通じて、これまでにないほど交流を深める。そして歩は初めての勝利をつかむが、六枚落ちのハンデ戦では告白する決心が固まらず、いつか平手でうるしに勝利するとの宣言にとどめるのだった。
テストの打ち上げ
年も明けて、確実に棋力を上げていた田中歩は六枚落ちのハンデ戦であれば、八乙女うるしに安定して勝てるようになっていた。そこでうるしはハンデを緩めて四枚落ちに変更するが、そのハンデ戦ではうるしの勝利が続くようになる。そんな中、バレンタインデーでの騒動があったものの平穏な日々が続き、無事にテストを終えた二人は、うるしが子供の頃よく通っていたお好み焼き店で打ち上げをすることとなる。ここは亡くなったうるしの祖父の友人の店で、うるしは祖父といっしょに食事をしたり、将棋を指したりしていたのだ。しかし祖父の死後は、食事には来ていたが対局をすることはなかった。そんなうるしの過去を知った歩は、自らが祖父の代わりとなって店内で対局を行う。そして、もっとうるしのことを知りたいと思うようになるのだった。
四人目の将棋部員
新学期となり、八乙女うるしと田中歩、角竜タケルは、今年こそ将棋部を正式な部活へと昇格させるべく、勧誘活動を進めていた。それでもなかなか入部希望者は現れずに三人は苦戦する中、歩とタケルの中学時代の知人である香川凛がやって来る。三人は剣道を通じての知り合いで、凛は高校でも剣道部に入部しようと考えていた。凛は二人がそろっていることから、将棋部を剣道部だとカンちがいして声を掛けてきたのだった。そこで歩たちが事情を説明すると、凛は激怒。歩に剣道で決闘を申し込み、もし自分が勝ったら剣道部に復帰してもらいたいと願い出る。結局勝負は歩の勝利となり、歩は将棋を続けられることになるが、潔く負けを認めた凛はけじめとして将棋部に入部を決めるのだった。こうして部員が四人となって将棋部は正式な部活動と認められる。しかし凛は、活動を始めてすぐに歩がうるしに思いを寄せており、うるしもまたこれを憎からず思っていることを知る。そこで凛は、うるしに勝てるように歩に将棋の指導を始めることにする。
登場人物・キャラクター
八乙女 うるし (やおとめ うるし)
とある高校の2年3組に在籍する女子。のちに3年1組に進級する。将棋部の部長を務めているが、部員は田中歩と角竜タケルのみ。四人目の部員となる香川凛が入部するまでは部活動として認められず、「将棋部」と名乗っていたものの、実際には学校非公認で同好会ですらなかった。小柄でかわいらしい容姿で、薄紫色のロングヘアを二本の三つ編みにしてまとめている。明るく正直な性格で、思っていることがすぐに顔に出てしまう。幼い頃から祖父の影響で将棋を始め、高い棋力を持つ。しかし、祖父が亡くなってからは周囲に将棋を指す相手がおらず、高校2年生になるまでは、校内の物置を勝手に使って将棋部を名乗り、一人で活動していた。そんな中、2年生に進級した直後に歩が入部してくる。そのため歩のことは非常に大切に思っており、ずっといっしょに活動していきたいと思っている。だが、実力差のある自分との対局では、歩がなかなか勝利できないことを案じている。そこで正式な部への昇格を目指して勧誘を始めるが、歩の訳のわからない態度に振り回されることとなる。歩のことは憎からず思っており、歩の言動から自分に思いを寄せているのではないかと考えているが、歩が八乙女うるしに将棋で勝ってから告白しようとしていることは知らない。そのため歩が自分を好きなのか、そうでないのかを判断しかねている。成績優秀で学年トップクラスだが、スポーツは大の苦手。身長149センチと小柄なことを非常に気にしており、身体測定では気分が落ち込んでしまう。「と金LOVE」というハンドルネームで、SNSに詰将棋の問題を投稿している。
田中 歩 (たなか あゆむ)
八乙女うるしと同じ高校の1年3組に在籍する男子。のちに2年1組に進級する。長身の黒髪ベリーショートで、実年齢より落ち着いた雰囲気を漂わせている。将棋部に所属しているが、中学時代は剣道部に所属しており、当時はその戦い方から「風林火山」の「山」のようだと評され、「不動の田中」と呼ばれていた。インターネット上のハンドルネームは「走る」。沈着冷静な性格に加え、ポーカーフェィスのため、一見すると何を考えているのかわからないところがある。そのため、言葉で気持ちを表現するようにしており、愛情表現に関しても、素直な気持ちを正直に伝えるタイプである。高校に入学してすぐのある日、部活動勧誘中のうるしに出会って一目惚れして将棋部への入部を決意。うるしに対しては、その人柄や容姿を積極的に褒めたり、好意を隠さずに伝えたりと、猛アプローチしている。しかし恋愛感情を伝えるのは、うるしに将棋で勝ってからと決めているため、それまでは告白できない状況にある。だが、事あるごとに好意を伝えている一方で、恋愛感情を抱いていることだけは認めようとしないという謎なスタンスが、かえってうるしを困惑させる要因となっている。また、このような経緯で将棋を始めたことから、棋力は初心者ながら守りを重視した素直な攻め筋の戦い方をする。趣味はホラー映画鑑賞で、特にゾンビものが大好き。
角竜 タケル (かくりゅう たける)
八乙女うるしと同じ高校の1年2組に在籍する男子。図書委員を務め、将棋部に所属している。田中歩と御影桜子の幼なじみで、以前は歩と共に剣道をやっていたが、現在はやめている。金色と黒のツートンカラーの髪の毛を刈り上げた強面で、一見近寄りがたい印象を与えるが、非常にまじめで義理堅い性格をしている。特に約束を守ること、誠実であることが男らしさであると考えており、つねにそんな男であろうと心掛けている。恋愛に対しては奥手で、桜子にひそかに思いを寄せつつも、告白できずにいた。そんな高校1年生のある日、歩に頼まれて将棋部に入部。当初は籍を置くだけの幽霊部員でいたが、それでは不誠実であると考え、正式な部員となった。しかしいざ活動しようとすると、ことごとく桜子に邪魔されてしまうため、結果的には幽霊部員となっている。生まじめなために暗示の類に弱く、桜子に催眠術をかけられていることを自覚しながらも、すべて従ってしまう。思うように将棋部で活動できないのも、決まって催眠であやつられ、阻止されてしまうためである。
御影 桜子 (みかげ さくらこ)
八乙女うるしと同じ高校に在籍する1年生の女子。田中歩と角竜タケルの幼なじみで、タケルと共に図書委員会に所属している。淡い茶色のロングヘアをヘアピンとリボンで留めている。物静かでクラスでも目立たない存在。人見知りでシャイな性格で、人と目を合わせることが苦手ながら、タケルには自分の意見を伝えられるほど親しく、遠慮のない関係を築いている。歩がうるしに片思いしていることを応援しており、これを成就させるためには第三者が邪魔しないことが大切だと考えている。高校1年生のある日、タケルが将棋部に入部することは認めつつも、部室で将棋をすることは反対している。そのためタケルが部室に向かうと、得意の催眠術で暗示にかけて連れ戻してしまう。将棋は初心者ながらルールは一通り把握しているため、それなりに指せる。グリーンピースが苦手で、いつもタケルに催眠術をかけて、代わりに食べてもらっている。
香川 凛 (かがわ りん)
八乙女うるしと同じ高校に在籍する1年生の女子。うるしが3年生になった時に入学してきたため、うるしにとっては2学年後輩にあたる。将棋部に所属しているが、中学時代は剣道一筋で、田中歩と角竜タケルとは、この頃からの知り合い。凛とした雰囲気を漂わせた美少女で、黒髪を前下がりボブヘアにしている。生まじめで礼儀正しい性格ながら、極端な実力至上主義者。そのため、相手が自分よりも格上か格下かで露骨に態度を変える気質を持っている。中学時代から歩にあこがれており、いつか歩から一本取れたら、告白しようと考えていた。そこで高校も歩の通う学校に進学し、共に剣道部で活動するつもりだったが、入学後に歩だけでなくタケルまでもが剣道をやめており、代わりに将棋部に入部したことを知って驚く。当初はこれに納得できず、歩に勝負を挑んで無理やり剣道部に復帰させようとしたが、敗北したことで考えを改め、将棋部員となった。これによって、相手の格を決める基準が剣道から将棋に変わり、将棋で自分に劣る歩には、以前より生意気な態度を取るようになる。しかし、歩への好意が失せたわけではなく、今度は歩を強くするために将棋を教えるようになる。幼い頃からさまざまな習い事をしており、将棋教室に通っていたことがあるため、実力は高い。
マキ
八乙女うるしと同じ高校の2年3組に在籍する女子で、うるしの友人。ウエービーなロングヘアのたれ目が特徴で、おっとりとした雰囲気を醸し出している。また、語尾を伸ばした、間延びした口調で話す。穏やかな性格で、うるしと田中歩の関係が進展するように、いつもさりげなくサポートしている。また、他者の気質や気持ちを見抜くのが得意で、コミュニケーション能力が非常に高い。
書誌情報
それでも歩は寄せてくる 17巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2019-07-04発行、 978-4065161050)
第2巻
(2019-10-17発行、 978-4065172070)
第3巻
(2020-02-17発行、 978-4065184578)
第4巻
(2020-06-17発行、 978-4065192986)
第5巻
(2020-10-16発行、 978-4065210147)
第6巻
(2021-01-15発行、 978-4065219614)
第7巻
(2021-04-16発行、 978-4065228883)
第8巻
(2021-07-16発行、 978-4065240137)
第9巻
(2021-10-15発行、 978-4065251447)
第10巻
(2022-01-17発行、 978-4065266083)
第11巻
(2022-04-15発行、 978-4065275382)
第12巻
(2022-07-15発行、 978-4065284995)
第13巻
(2022-11-17発行、 978-4065297094)
第14巻
(2023-03-16発行、 978-4065309711)
第15巻
(2023-07-14発行、 978-4065321911)
第16巻
(2023-10-17発行、 978-4065332481)
第17巻
(2023-12-15発行、 978-4065339367)