あらすじ
第1巻
裏道にひっそりと佇む小料理割烹「薫風」で働く星野トオルは、腕のいい板前。彼は土曜日の仕事が終わると、庭師の鷹木明の家へ向かう。そこでちょっとした料理を作り、それを肴に二人で酒を飲み、トオルはそのまま泊まっていくことが多かった。トオルは不愛想な明のことが好きだったが、その気持ちを伝えられずにいた。一方の明は腕のいい庭師ながら、庭にいるモノノ怪「庭の怪」を退治する特殊な能力の持ち主。庭で作業している庭師の持っているお守りが震えると、その庭には怪がいる兆候。そうなるとふつうの庭師には手に負えないため、明がその庭に出向いて庭の怪をそっと鎮め、庭の手入れもしてきれいな庭へと戻す。ある日、明が勤める「枩叢(まつむら)植木」で中村友也という若者が働くようになる。彼も明と同じく、庭の怪が見える庭師だった。ひょんなことからトオルと知り合った友也は、トオルの明への気持ちを素早く察知する。自分の気持ちを見透かされ、さらに明とも親しくなっていく友也に、トオルは動揺を隠せずにいた。
登場人物・キャラクター
星野 トオル (ほしの とおる)
小料理割烹「薫風」で働く板前の男性。年齢は28歳。茶髪で口が悪いため、後輩の篠田や大将からは元ヤンと思われているが、星野トオル自身は茶髪は地毛であり、元ヤンではないと否定している。一流料亭で修業した経験を持ち、板前としての腕には定評があり、女性客からも人気が高い。創業百年の老舗料亭「ひめかわ」で煮方を任されていたが、店が火事で全焼して廃業した。その火事で女将が亡くなり、トオルも背中に大きなやけどを負った。そのため今も時折、火事の悪夢を見ることがある。鷹木明に思いを寄せているが、気持ちを伝えられずにいる。明が庭師であることは知っているが、「庭の怪」を退治する特殊な庭師であることは知らない。
鷹木 明 (たかき あきら)
造園業「枩叢(まつむら)植木」で働く庭師の男性。無口で不愛想な性格をしている。庭にいるモノノ怪「庭の怪」を退治することのできる特殊な庭師で、ふだんはふつうの庭師として仕事をこなしている。しかし、同業者から連絡を受けると、庭の怪のいる家に出向いて問題を解決する。星野トオルが以前勤めていた料亭の庭の手入れをしている時にトオルと出会い、その後偶然再会してからいっしょに飲むようになって3年になる。
中村 友也 (なかむら ともや)
鷹木明が勤務する「枩叢(まつむら)植木」に新しく入ってきた若い庭師の男性。明と同じく、庭の怪が見える特殊な能力を持つ。庭の怪の中でも格上の存在である「精」に攻撃することは禁忌とされているが、中村友也はその精を殺しかけたとして枩叢植木に左遷された。人の記憶を消すのが得意で、庭の怪に気づいた家主の両目をふさいで記憶を消すことができる。たまたま食事に入った小料理割烹「薫風」で星野トオルと出会い、トオルが明に思いを寄せていることに気づく。
篠田 (しのだ)
小料理割烹「薫風」で働く男性で、星野トオルの後輩。板前としてはまだ半人前で、よくトオルにどやしつけられている。店の2階にある大将の部屋に下宿している。
大将 (たいしょう)
小料理割烹「薫風」の大将を務める男性。小柄な体型で、優しい性格のかわいらしいおじいさん。中村友也は、店先にたまたま佇んでいた大将の人懐っこい笑顔につられてふらりと店に入ってしまう。
草太 (そうた)
造園業「枩叢(まつむら)植木」の親方の息子で、髭面の男性。ニートながら、枩叢植木の事務と電話番をしている。親方や鷹木明からは庭師として働くように勧められているが、オバケと力仕事は無理だと拒否している。
親方 (おやかた)
造園業「枩叢(まつむら)植木」の社長を務める男性。草太の父親で、庭師としても現役で働いている。江戸っ子気質で、やや強面のいかにも親方という雰囲気を醸し出している。ニートの草太が悩みのタネ。
その他キーワード
庭の怪 (にわのけ)
庭にいるモノノ怪の総称。庭の怪の中には格上である「精」がいて、松露の精、梅の精、苔の精など、さまざまな植物の精が存在する。精には穏やかでよきものが多いが、中には庭の存続を妨げたり庭師の生命を脅かすものもおり、精への攻撃は禁忌とされている。鷹木明や中村友也といった特殊な庭師は、庭の怪を見て祓いをしたり、精の話を聞いたりすることができる。