コンビニ店員を中心に「ひとり」たちが繋がっていく
本作の舞台となるのは、ある単身者用のアパート。2年前、彼女にふられたことを引きずる藤本陸は、充実した人生を送る同世代たちと自分を比べ、惨めな思いをしながらカップラーメンをすする。アラサーの女性ミミは、高校からの親友たちが結婚や出産で変わっていく中、自分だけが「変われない」ことに悩んでしまう。中学の時に両親を亡くし、叔父の世話になっている玉木紺は、自分が叔父の足かせだと考え、自立するために少しの間も惜しんで勉学に励んでいる。本作は、それぞれにさまざまな事情を抱える「ひとり」たちが、コンビニ店員でアパートの住人でもある、星川きらりとの出会いをきっかけにゆるやかに繋がり、変わっていく姿を描いていく。
家族でも友だちでもないご近所さんの物語
主人公のきらりは、小さい時から勉強も運動も苦手な女の子。クラスメートたちの仲間に入りたくても、「自分なんて」という思いから大きな声が出せずに相手にしてもらえなかった。その後、母の再婚に合わせて家を出たきらりは、ツルカメコンビニの店員になり、コンビニがいろいろな人を助ける、すごい場所であることを知る。そしてきらりは、ここでなら、小さい頃からの憧れだったヒーロー「魔法少女」になれると考え、メイクで変身してコンビニに立つようになった。本作は、そんな魔法少女に救われるアパートの住人たちと、住人たちが、魔法少女のピンチを助ける姿を描く。みんなひとりで生きているけれど、困ったときはご近所さんぐらいの感覚で助け合える、そんな隣り合わせで生きる人々の物語である。
ご近所トラブルが執筆のきっかけ
本作執筆のきっかけになったのは、作者自身が経験したトラブルだという。作者は、以前住んでいたマンションで、生活音がうるさいと、下の階の住人から天井を叩かれるようになってしまう。それ以来、気をつけていたものの、シャワーや足音、ささいな物音でも怒られる。管理会社に相談したところ、相手は一人暮らしの高齢者女性だった。管理会社から直接話し合わないでほしいと言われていたが、ある日薬の蓋を落としたらまた天井を叩かれ、耐えきれずにインターホンを押してしまったという。ずっとモンスターのように思っていた階下の住人だったが、実際はひとりの人間で、几帳面な年老いた女性だった。「体の調子が悪い」「マンションを購入しているから引っ越せない」「自分はいい人じゃないから我慢できない」。そんな事情を聞いた作者は、老女という点は自分の未来でもあり、彼女の人生を想像して少し胸が痛んだ。そしてこの出来事をきっかけに、自分に生まれた感情と心に吹いた風を忘れたくなくて、本作を描きとめたのだという。
登場人物・キャラクター
星川 きらり (ほしかわ きらり)
ツルカメコンビニの明るいギャル店員。パッチリした目と八重歯、ポニーテールが特徴。椅子に座ったままの接客、常連客との無駄話といった、ゆるい仕事ぶりだが、新商品やお気に入りの商品は熱く勧めてくる。コンビニの常連である藤本陸、ミミ、玉木と、偶然同じアパートに住んでいることが発覚する。プライベートでは別人のようで、一重まぶたにボサボサ髪の魔女のような容姿をしており、声も小さい。
藤本 陸 (ふじもと りく)
長髪と無精ひげが特徴の36歳男性。音楽を諦め、好きな娘にふられ、2年前にすべての人間関係を絶ち、配達員の仕事をしている。変わっていく周囲に焦りを感じながら暮らす中、ツルカメコンビニの店員・星川きらりの笑顔が癒やし。きらり、ミミ、玉木と同じアパートに住んでいる。
ミミ
出版物の校閲の仕事をしているアラサーの女性。和菓子が大好物。仕事が詰まってくると、癒やしを求めて、ツルカメコンビニの店員・星川きらりに会いに行く。高校からの仲よしの友人たちがどんどん変わっていくのに、自分だけが変われていないことや、独身で生きていくことに不安と恐怖を感じている。藤本陸、玉木紺、きらりと同じアパートに住んでいる。
玉木 紺 (たまき こん)
両親を亡くし、叔父の世話になっている女子高生。藤本陸、ミミ、きらりと同じアパートで、叔父の隣の部屋に住んでいる。叔父に迷惑をかけないよう、自立するのが目標。そのために友達が遊んでいる間も、ツルカメコンビニのイートインスペースで、勉強に明け暮れている。
書誌情報
ふきよせレジデンス 上 1巻 KADOKAWA〈ビームコミックス〉
第1巻
(2023-07-12発行、 978-4047375659)
ふきよせレジデンス 下 全2巻 KADOKAWA〈ビームコミックス〉
第2巻
(2023-07-12発行、 978-4047375666)