喪主の悲しみと向き合う葬祭プランナー
就職活動中の大学生、美空は、父親の友人の坂東が社長を務める葬儀会社「坂東会館」で、清掃や式場のセッティングなどの雑用係としてアルバイトをしていた。ある日、受付にいた美空は、顔色の悪い臨月の妊婦から、バッグを喪主に渡してほしいと頼まれる。しかし、その女性は突然姿を消してしまう。実は彼女の正体は、その日の喪主の亡き妻、柳沢玲子であり、バッグの中には、生前に夫婦で準備していた赤ちゃん用のオムツが入っており、それを見た喪主は号泣する。戸惑いながらもどうすることもできない美空だったが、葬祭ディレクターの漆原が喪主にかけた温かい言葉によって、彼は前を向き、妻を見送る決意を固める。この出来事と職場の仲間たちの温かさに触れたことで、美空は坂東会館への就職を決意。坂東社長に直談判し、晴れて正社員として採用され、漆原の指導のもと葬祭プランナーとしての道を歩み始める。
美空と坂東会館の仲間たち
美空が勤める「坂東会館」には、頼りになる先輩や同僚がそろっている。指導役の漆原は厳しさの中にも誠実さが感じられ、姉貴分の陽子は明るく面倒見がいい。そしてお調子者の椎名は、場の雰囲気を和ませるムードメーカー的な存在。彼らはみんな、プロとして仕事に真剣に取り組む一方で、仲間や会葬者への気遣いも忘れない。そんな温かい人柄に触れ、美空は彼らに心から信頼を寄せている。特に、漆原の親友である住職の里見道生との出会いは、美空にとってかけがえのないものだった。里見もまた、霊を視て対話できる強い霊感の持ち主だったのだ。「霊とかかわるのは自分だけだ」という長年の孤独を抱えていた美空にとって、同じ能力を持つ里見との出会いは大きな救いとなっている。
葬儀を通じて遺族の心に寄り添う
漆原と美空が担当する葬儀には、さまざまな事情を抱えた故人たちが登場する。子を身ごもったまま不慮の死を遂げた女性、玲子、幼くして亡くなり、両親に思いを伝えようと現れた幼い少女の比奈、心不全による病死とされながらも遺体から薬指が失われていた女性、松木奈緒など。他人の痛みに敏感な美空は、悲しみに沈む遺族を前に心を強く揺さぶられ、時には打ちひしがれそうになることもある。しかし、どんな時も遺族の心に寄り添い続ける漆原の姿と言葉に触れるうちに、彼女の考えは次第に変わっていく。この仕事は、遺族が立ち直るきっかけを作ることができるのではないか、と考えるようになったのだ。そして美空は、自ら霊と対話を試み、故人が最後に何を望んでいたのかを知ろうと努めるようになる。
登場人物・キャラクター
清水 美空 (しみず みそら)
葬儀会社「坂東会館」でアルバイトをしている女子大学生。臆病ながらも心優しい性格で、周囲から好感を持たれやすい。幼い頃から霊感が強く、霊的な気配を敏感に察知することができる。坂東会館で働き始めてからはその力がさらに高まり、霊の姿を視たり、対話したりすることも可能になった。当初は霊と深くかかわる職場に戸惑いもあったが、面倒見のいい同僚たちに支えられ、仕事に前向きに取り組むようになる。さらに、同じ霊感を持つ住職の里見や、彼の能力を頼る漆原から助言を受け、正社員として働く決意を固める。美空の強い霊感は、生まれる直前に亡くなった姉の美鳥の加護によるものだと本人は考えている。坂東会館で働き始めてからは、葬儀の前夜に美鳥が夢に現れたり、里見から「美鳥らしき女の子の霊が近くにいる」と告げられたこともある。
漆原 (うるしばら)
腕利きの葬祭ディレクターの男性。かつては坂東会館の職員で、独立後も坂東社長の信頼が厚く、多くの葬儀を任されている。まじめながら不愛想で、仕事では厳しい言葉を口にすることもあるが、根は面倒見がよく、仕事仲間からは慕われている。仕事への責任感は非常に強く、つねに遺族の心に寄り添うことを第一に考えている。親友である光照寺の住職、里見から霊的な世界のことを聞いているため、霊の存在には理解がある。そのため、美空が「霊が見える」と告白した際もすぐに信用した。やがて、美空がその能力で遺族の心を救うのを目の当たりにし、彼女を自らのサポート役として高く評価するようになる。
クレジット
- 原作
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長月 天音
書誌情報
ほどなく、お別れです 4巻 小学館〈裏少年サンデーコミックス〉
第1巻
(2023-10-19発行、978-4098528752)
第2巻
(2024-02-19発行、978-4098531288)
第3巻
(2024-09-19発行、978-4098536061)
第4巻
(2025-05-19発行、978-4098541072)







