みをつくし料理帖

みをつくし料理帖

髙田郁の小説「みをつくし料理帖」シリーズ『八朔の雪 みをつくし料理帖』のコミカライズ作品。江戸のつる屋で料理人として働く澪の奮闘と成長、彼女を囲む人々の人情が織りなす日常を描いたヒューマンドラマ。「月刊officeYOU」2009年12月号から掲載の作品。2012年9月に原作小説版がTVドラマ化。2020年10月に原作小説版が実写映画化。

正式名称
みをつくし料理帖
ふりがな
みをつくしりょうりちょう
原作者
髙田 郁
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

狐のご祝儀

神田御台所町で、江戸ではまだ知名度の低い上方料理を出す蕎麦屋「つる家」では、大坂出身の少女のが料理人として腕を振るっていた。享和2年の大坂で起こった淀川大洪水で両親を失い、天涯孤独の身になった澪は、大坂随一と謳われる天満一兆庵の女将のに助けられ、奉公人となった過去があった。そんな澪は芳、嘉兵衛と共に上京すると、天満一兆庵の江戸店を営んでいるはずの佐兵衛が店を畳んで姿を消していた。絶望した嘉兵衛の死後、病に倒れた芳と二人暮らしになった澪は、唯一の家族であり恩人でもある芳を支えながら、佐兵衛を捜す日々を送る中で、種市に誘われてつる家の料理人を務めていた。だが、澪が天満一兆庵で学んできた料理の知識と味覚は江戸ではなかなか理解されず、大坂と江戸の味の違いにとまどうばかりで、なかなか客に受ける料理を作れずに悩んでいた。それでも嘉兵衛たちに期待された天性の味覚と、幼少期からの負けん気で努力を重ねる澪は、まったく人気のなかった牡蠣鍋に興味を示す小松原と出会う。澪は、小松原がただ者ではないと察して助言を求めるが、料理人が客に助言を請うべきではないと、厳しい一言で拒否されてしまう。江戸の人々の好みに合った牡蠣料理について悩む澪は次の日、いつものように神狐の祠に来ていた。この神狐は、澪が江戸に慣れない頃に荒れ果てた祠と、片方が行方不明になった神狐をかわいそうに思い、祟りの噂を知りながらも彼女が必死に整えた小さな狐像であった。この神狐の前で種市に出会ったことや、行方不明になったまま会えない親友の野江のことを思い出す澪は、芳の回復と佐兵衛との再会を祈りながらつる家に出勤する。種市に再び牡蠣料理を頼まれた澪は、江戸に来る前に食べたことのある牡蠣の時雨煮を作ることにする。

初星

上方との味や好みの違いから、が作る料理は蕎麦屋「つる家」の客の評判はよくなかったが、彼女はさまざまな人の助けを得て新しい料理を考案し、苦難を乗り越えながらも成長する日々を送っていた。そんな澪はある日、腰を痛めた種市から、雇われ店主としてつる家の営業を続けてほしいと頼まれる。いきなり大役を任された澪はこれからどうすべきか悩む中で、しばらくつる屋に顔を見せていなかった小松原と再会。思わず父親のことを思い出して涙してしまった澪は、小松原に事情を話して新たなアドバイスを求める。最初は厳しい言葉を投げかける小松原だったが、澪にすべてを任せようとする種市の心情を察し、種市の話に応じるべきだと答える。大坂の料理屋「天満一兆庵」の再興を願うを思い出した澪は葛藤に苛まれるものの、つる家の雇われ店主になる話を引き受けることにする。種市が動けなくなったことで、つる家のメインは彼が作る蕎麦ではなく、澪が作る料理が中心となる。ひとまず炊き込みご飯を中心とする日替わり料理を出すと決めた澪だが、つる家が蕎麦屋ではなくなったと知った常連客は、澪の料理を頼むことすらなく帰っていく。その日は一食も売れず、余った料理を近所の人々に配る澪だったが、いきなり苦境に立たされたことで落ち込んでしまう。次の日の朝、このままでは店を続けられないと焦る澪は、神狐を見て野江が昔くれた励ましの言葉を思い出す。つる家に向かう途中で「猫跨ぎ」呼ばわりされている戻り鰹を見かけた澪は、江戸ではなじみの薄い戻り鰹を活用した新しい料理を思いつく。

夜半の梅

雇われ店主として蕎麦屋「つる家」を切り盛りするは、上方と江戸の味の違いにとまどいながらも、料理人として順調に成長を重ねていた。種市をはじめとする周囲の人々に支えられる澪は、次第に上方と江戸の味の違いにとまどうばかりではなく、違いを生かした料理を考案することで店の評判を上げていく。そんなある日、戻り鰹を使ったはてな飯で評判が上がったつる家だったが、芳の指摘どおり周囲の店がまねをしたことや、鰹の旬が過ぎたことでその人気が衰えていく。時期を問わず長く愛される料理を考える必要が出てきた澪は、はてな飯を食べた小松原から、料理の基本がなっていないと指摘される。その言葉が頭から離れない澪は、今の自分に足りないのは、料理の基本である「だし」だと気づく。芳の提案で日本橋の料理屋「登龍楼」に赴き、最高位のだしを味わった澪は、どうすればその味が出せるのか試行錯誤するが、なかなか思うように作れない。苦戦する澪は江戸の鰹節を入手して鰹だしを作るが、永田源斉の一言をきっかけに、上方の昆布だしと江戸の鰹だしを組み合わせることを思いつく。そして、二つのだしを合わせた究極のだしと卵を使った澪の「とろとろ茶碗蒸し」は常連客を感動させ、持ち帰りができるようになったことで江戸中の人々から注目されるようになる。さらに、とろとろ茶碗蒸しが江戸の料理番付に載ったことで、長年の夢が叶った種市は大喜びする。つる家の評判はますます上がっていくと思われたが、ある日突然、その客足が急に落ちてしまう。実は、登龍楼が町民向けに値段を落とした新店を出し、さらに澪の料理と似た茶碗蒸しを出したことで、客が登龍楼に移ってしまったのだ。思わぬ苦難に立たされる澪を心配する芳は、息抜きにおりょうと共に出かけるフリをして、登龍楼の新店に客として訪れる。そこで出された茶碗蒸しを一口食べた瞬間、芳はあることに気づき、急いで板場に乗り込む。

関連作品

小説

本作『八朔の雪 みをつくし料理帖』は、髙田郁の小説「みをつくし料理帖」シリーズの『八朔の雪 みをつくし料理帖』を原作としている。原作小説版は角川春樹事務所 ハルキ文庫から刊行されている。

メディアミックス

TVドラマ

2012年9月から、本作『八朔の雪 みをつくし料理帖』の原作小説「みをつくし料理帖」シリーズをTVドラマ化した『みをつくし料理帖(テレビ朝日版)』がテレビ朝日系列で放送された。監督は片山修が務めている。キャストは、を北川景子、を原田美枝子が演じている。また、2017年5月からはNHK総合の「土曜時代ドラマ」枠で、TVドラマ『みをつくし料理帖(NHK版)』が放送された。こちらは脚本を藤本有紀が務め、キャストは、澪を黒木華、芳を安田成美が演じている。

実写映画

2020年10月から、本作『八朔の雪 みをつくし料理帖』の原作小説「みをつくし料理帖」シリーズを実写映画化した『みをつくし料理帖』が公開された。監督は角川春樹が務めている。キャストは、を松本穂香、を若村麻由美が演じている。

登場人物・キャラクター

(みお)

江戸の蕎麦屋「つる家」で料理人をしている女性。大坂出身で年齢は18歳。丸顔で下がり気味の眉、鈴のような目、上向きの小さな丸い鼻が特徴。義理堅く優しい性格で、持ち前の負けん気の強さで数々の苦難を乗り越えている。愛称は「お澪坊」で、小松原からは「下がり眉」のあだ名で呼ばれている。大坂で両親と暮らしていた8歳の頃、どんなにがんばっても艱難辛苦が降り注ぐ苦労の多い人生ながら、それを乗り越えて精進した先で青空が拝めるという「雲外蒼天」の運命を水原東西に告げられる。この年の7月に起きた淀川の大水で、漆塗師の父親の伊助と、母親のわかを亡くす。天涯孤独の身となって町をさまよっていた際に芳に救われ、そのまま料理屋「天満一兆庵」の奉公人になった。最初は女衆をしていたが、天性の味覚の鋭さを嘉兵衛に見込まれ、板場で料理人としての修業を積むこととなる。天満一兆庵が全焼したあとは芳、嘉兵衛と江戸に出るが、病に倒れた嘉兵衛が亡くなり、神田金沢町の長屋で芳と二人暮らしをしている。神狐の祠を直していた際に種市と出会い、つる家に誘われるものの、上方で学んだ知識と味が通用せず、苦戦を強いられる。しかし、周囲の助けや小松原の助言をヒントに、東西の好みや習慣の違いに苦心しつつも道を切り拓き、料理を通じて人を幸せにしていく。のちに腰を痛めた種市につる家を任され、雇われ店主として新しい料理を考案することで、有名店に成長させる。ふだんは緊迫感のない表情を浮かべているため、芳から叱りがいがないと評されるが、料理のこととなると感情を抑えられず、常人離れした集中力を発揮したりする。時折来店し、厳しくも的確な助言を与えてくれる小松原のことが気になっている。江戸に来た当初は、行方不明の佐兵衛を見つけ出し、天満一兆庵を再興させることを夢見ていた。しかし、親友の野江が吉原にいるとわかってからは、彼女との再会という新たな目標もできた。水害で両親を亡くしたトラウマを抱えており、大雨のときは恐怖で震えたり眠れなくなったりすることがある。

(よし)

大坂の料理屋「天満一兆庵」の元女将で、年齢は48歳。両親を亡くして孤独の身となった幼少期の澪を救い、夫の嘉兵衛と共に引き取った。現在は、神田金沢町の長屋で澪と二人暮らしをしている。澪からは女将の呼び名である「ご寮さん」と呼ばれている。奉公人となった澪をかわいがりながら、実の娘のように育てた。天満一兆庵が全焼したあとに嘉兵衛、澪と共に江戸に向かうが、江戸店を任せていた息子の佐兵衛は店を畳み、行方不明になっていた。さらに嘉兵衛が亡くなるなど不幸が相次ぎ、脈の乱れなどから体調を崩して寝込みがちになっている。別の医者からは心臓の病と言われていたが、永田源斉からは心労を重ねたことによって体調不調が続いていると診断されている。源斉の助言を受けて健康食を取り入れた澪の料理を食べるうちに回復していき、澪がつる家の雇われ店主を任されたあとは、接客係として彼女を支えるようになる。商才に長け、女将としての経験や知識、嘉兵衛が残した数々の言葉や心構えを澪に伝えることで、精神的にも彼女を支えている。当初は、佐兵衛を見つけ出して澪を彼の妻として迎え、天満一兆庵を再興することを夢見ていた。ふだんは優れた商人として冷静な対応をするが、日本橋の料理屋「登龍楼」が澪のだしの味を盗んだと知った時は板場に乗り込むなど、澪のことをただの奉公人ではなく本当の娘のように大切に思い、彼女からも母親のように慕われている。かつては嘉兵衛が澪を見込んで板場に入れることに反対していたが、現在では彼女の確かな舌と負けん気の強さに期待と信頼を寄せている。また、深夜に一人でだしの研究に打ち込む澪を目の当たりにした際は、愛染明王を思わせるほどの神妙で真剣な表情から、彼女の奥に潜む未知の才能と情熱を感じ取った。そんな澪が自由に料理の研究に打ち込めるよう、嘉兵衛に貰った大切な簪(かんざし)を換金して上等な昆布と鰹節を大量に購入し、だし作りを手助けした。

種市 (たねいち)

江戸で蕎麦屋「つる家」を営んでいる男性。年齢は64歳。一人娘であるおつるの墓参りの帰り道、荒れ果てた神狐の祠を掃除していた澪と出会い、当時煮売り居酒屋の洗い場で働いていた澪をつる家に誘った。澪には料理人も任せているが、彼女が上方の味付けや調理を否定されて落ち込むたびに、たとえ材料が無駄になろうとも叱責することなく、温かい目で見守り続けている。のちに腰を痛めて蕎麦打ちができなくなったため、屋号をそのままで澪に店を任せることになる。その際、澪に料理を任せ、つる家では蕎麦の代わりに彼女の料理を出すようになり、自分は食材の仕入れを担当するようになった。おつるを守れなかった過去を現在でも悔やんでおり、おつるの名前を基に名づけたつる家をどんな形でも続けることが彼女の供養になると考え、どんな苦境に立っても自分の店を守ろうとする。また、おつると似たところがある澪を娘のように大切に思っており、彼女の悩み相談に積極的に乗ったり、材料を自由に使わせたりと、料理への情熱を支えている。酒に酔うと気分が上がって少しお調子者になるが、ふだんはおおらかで優しい性格をしている。のちに付け火の被害に遭って店が焼失した時には、店を失ったショックから生きる気力さえ失ったような状態に陥り、しばらくは澪のことを「おつる」と呼んでいた。澪が粕汁の屋台見世を開いたあとになんとか復帰し、おつるの嫁入りのためにためていた貯金を掘り出して、澪と芳につる家を共に建て直してほしいと懇願する。その後、澪たちの協力を受けて元飯田町に新しいつる家を構える。

小松原 (こまつばら)

江戸に住む浪人の男性で、蕎麦屋「つる家」の常連客。年齢は30歳。厳しくぶっきらぼうなところもあるが観察眼に優れ、思いやりのある優しい性格をしている。素人とは思えないほどに料理に精通しており、澪や種市からは不思議がられている。澪のことは「下がり眉」のあだ名で呼んでいる。上方風の味付けをした牡蠣鍋が客に不評で澪が落ち込んでいるところに来店し、彼女と知り合った。これ以降は、悩みの多い澪をからかいながらも、真剣に彼女の相談に乗っている。本来は女人禁制の板場に立つ澪と、江戸になじんでいない彼女の料理を面白いと評価する一方、基本がなっていないと助言するなど、時には厳しい言葉で突き放して、つる家の成功と澪の成長に一役買っている。特に、つる家の店主を任された澪が悩んでいた時は種市の思いを汲み取り、道は一つしかないと導いて彼女の悩みを解決した。また、ようやく客の心をつかむことができたはてな飯に対して澪が心底不安を抱いていたことも見抜き、料理の基本に戻るように助言している。料理への確かな知識と優れた舌から、芳からはただの浪人ではないことを見抜かれている。訳あって母親の旧姓を名乗り、ただの浪人のフリをしているが、その正体は将軍の徳川家斉から信頼される若年寄であり、御膳奉行を兼任している。仕事柄、何度も味見をさせられている生姜と鱚が苦手。

永田 源斉 (ながた げんさい)

神田旅籠町で町医者をしている男性で、年齢は25歳ほど。御典医の永田陶斉とかず枝の次男。神狐のお参りをしていた芳を診察したことで澪と知り合い、たびたび蕎麦屋「つる家」にも客として訪れるようになる。医者の立場から澪に料理のヒントを与えたり、相談に乗ったりして励ましている。料理に関する知識は持たないが、健康にいい食材の知識は豊富で、芳の心労を和らげるための食材を紹介し、澪にさまざまな助言をすることで回復に導いている。また、芳だけでなく腰を痛めた種市の診察も行っている。

野江 (のえ)

大坂で唐高麗の渡来品を扱う「淡路屋」の末娘。澪の親友で、同い年の幼なじみでもある。幼少期から美人として評判で、周囲から注目されていた。気の強い性格ながらも友人思いで、しっかり者。当時泣き虫だった澪を、「涙は来ん来ん」と言っていつも励ましていた。また、澪との友情の証として、蛤の貝殻を片方ずつ持っている。澪といっしょに水原東西に占ってもらった際に、天下取りの強運を持つ「旭日昇天」の運命にあると予言され、周囲からますます注目を浴びるようになる。しかし、それによって嫁入り話が押し寄せたり、姉たちとの関係が悪くなったりしたことから、自分の「旭日昇天」よりも澪の「雲外蒼天」の方がうらやましいと思うようになる。大水の被害で家族共々行方不明になり、澪とも長いあいだ離ればなれになっていた。のちに、上方出身の幻の花魁「あさひ太夫」として、江戸の「翁屋」で人気となっていることが判明する。吉原一の美貌と美しい歌声で幸運の花魁とも噂されているが、表にはいっさい姿を現さないため、実在を疑う者も多い。巨額の身請け金を払った御用商人しか遊ぶことができないほどの別格な立場にあり、ほかの遊女からも敬愛されている。上方出身の女料理人の噂を聞き、料理番の又次に頼んで蕎麦屋「つる家」の料理を詰めた弁当箱と、上方の土産話を持ち帰るように頼んでいた。この際に又次を通して、幼少期に井戸に下駄を落として折檻されたという思い出話と、懐かしい上方の料理を口にしたことで、女料理人の正体が幼なじみの澪であることに気づく。のちにつる家が付け火の被害に遭ったことで、料理への情熱を失ってしまった澪を心配し、又次を通じて10両の大金と「雲外蒼天」の文字が書かれた文を託し、彼女が再び立ち直るきっかけをつくった。このお金は、澪がつる家を再興させるための屋台見世の資金として使われ、再び料理人となった澪によって少しずつ返済されている。しかし、花魁の身であることから遊郭の外には出られず、澪とは直接会えないまま、文と弁当のみでやり取りを続けている。

おりょう

江戸の神田金沢町で暮らしている中年の女性で、年齢は48歳。25歳の時に伊佐三と結婚した。大柄で小太りな体型で、明るくおおらかな性格をしている。澪と芳が住む長屋の向かい部屋に、伊佐三、太一と三人で暮らしている。同年代の芳とは親しい関係で、彼女や澪を何かと気にかけ、相談に乗ったり協力したりしている。火事のショックでしゃべれなくなった太一を伊佐三と共に引き取り、実の息子のように大切に育てている。また、太一が言葉を話せるようになることを願い、彼のことになると我を忘れてしまう場合がある。江戸に頼る者のいなかった澪たちの支えとなり、はてな飯の余りをたくさん分けてくれたお礼として、客足が急増した蕎麦屋「つる家」で接客や洗い場を手伝うようになった。これ以降も近所の人々と協力しながらつる家を手伝い、芳と澪を支えている。

伊佐三 (いさぞう)

江戸の神田金沢町で暮らしている中年男性で、年齢は43歳。20歳の時におりょうと結婚した。職業は大工の棟梁で、無口でぶっきらぼうなところがあるが、非常に家族思いな性格をしている。おりょうが蕎麦屋「つる家」を手伝ったのをきっかけに洗い場を使いやすいように修繕し、その後も持ち帰り用の器をはじめとする備品を作っている。おりょうと共に引き取った太一を本当の息子のように大切に思い、いつか跡を継いで大工になってほしいと考えている。のちに澪の依頼を受け、焼けたつる家の跡地で屋台見世を営むための屋台を作った。

太一 (たいち)

江戸の神田金沢町で暮らしている少年で、年齢は5歳。実の親は伊佐三のもとで働いていた大工夫婦だったが、どちらも火事で亡くなって引き取り手がなかったため、伊佐三とおりょうに引き取られた。おりょうたちによって、実の息子のように大切に育てられている。両親を亡くしたショックで言葉を話せなくなっているが、伊佐三とおりょうの前では子供らしい笑顔を見せる。火事のトラウマから、炎はもちろん焦げたような匂いも苦手。おりょうを通して魚の見張り番を頼まれたのをきっかけに澪と知り合い、人見知りながら彼女にも懐いている。

おつる

種市の一人娘。幼少期に母親が駆け落ちしたため、父親の種市と共に暮らしていた。輝くような笑顔の明るい少女で、どこか澪と似たところがある。17歳の時に母親と再会し、一時的に種市のもとを離れるが、母親の駆け落ち相手に借金のカタにされ、金貸しの隠居に引き渡されてしまう。貞操を守るために自ら首をつり、17歳の若さで亡くなった。おつるの死は種市にとって大きなトラウマとなっており、のちに彼が開いた蕎麦屋「つる家」の店名はおつるの名前が由来となっている。

又次 (またじ)

吉原の遊郭「翁屋」で料理番をしている男性。時折、蕎麦屋「つる家」を訪れて、遊女のために澪の作った弁当と上方の思い出話を持ち帰っている。幻の花魁のあさひ太夫を心から敬愛し、彼女を守るためならば人殺しさえやりかねないほどで、彼女への詮索も嫌う。あさひ太夫の正体が野江であることが判明してからも、彼女に澪の弁当を持ち帰っている。料理番の経験を生かして時々澪に料理のヒントを与えたり、新しいアイディアのきっかけをつくったりしている。

嘉兵衛 (かへえ)

大坂の料理屋「天満一兆庵」の主人で、芳の夫。小太りな体型の中年男性で、天満一兆庵を大坂で名の知れた料亭に成長させた優秀な料理人。芳が拾ってきた澪の父親、伊助が作った食器を店で使用していることから縁を感じ、孤独の身となった澪のことを引き取る。最初は奉公人として雇っていたが、井戸の水質の変化に気づくほどの澪の味覚を見込み、芳の反対を押し切って板場に入れ、厳しい修業をするようになった。しかし、澪が着実に成長していく中で、文化8年に隣家からの貰い火で店を失う。澪と芳と共に江戸店を任せていた息子の佐兵衛を頼って江戸に向かうが、店は潰れて彼も行方不明だと知り、心労から病に倒れて翌年の3月に亡くなった。亡くなる直前に、天満一兆庵の再興を芳と澪に託している。

佐兵衛 (さへえ)

嘉兵衛と芳の一人息子で、芳が20歳の時に生まれた。泣き虫だった幼少期の澪を牡蠣船に連れて行って土手鍋をおごるなど、彼女を妹のようにかわいがっていた。文化5年には天満一兆庵の江戸店を開店し、嘉兵衛たちから店を任されていた。しかし、大坂の本店を失った嘉兵衛たちが江戸に着いた時には行方不明になっており、江戸店も閉店していた。自身番によれば、吉原通いで散財し、店を手放して逃げ出したといわれている。その後も行方不明のままで、澪と芳が捜し続けているが見つかっていない。

采女 宗馬 (うねめ そうま)

日本橋の料理屋「登龍楼」を営む男性。元は小さな煮売り屋から成り上がり、名字帯刀を許されるほどの富と名声を得た。煮売り屋の頃は熱心に料理に打ち込むまじめな性格だったが、富を得るにつれて名声にもこだわるようになり、その地位を脅かすほかの料理屋に対して営業妨害をしている。澪の料理が料理番付に載った蕎麦屋「つる家」に対しても手段を選ばず、人気料理の味を盗むだけでなく、さまざまな妨害工作を行っている。

末松 (すえまつ)

日本橋の料理屋「登龍楼」の板長をしている男性で、年齢は35歳ほど。神田須田町の新店の板場を任されているが、澪が考案したとろとろ茶碗蒸しをはじめとする名物のまねして客を奪おうとする。澪のだしの味が盗まれていることに気づき、抗議のために乗り込んできた芳を袋だたきにして顔にケガをさせた。

水原 東西 (みずはら とうざい)

上方で評判の易者の老齢な男性で、白ヒゲを生やしている。大坂新町廊を訪れていたところ、たまたま見かけた野江の顔を一目見て興味を持ち、人相と手相を占う。野江が天下取りの強運「旭日昇天」を持つことを予言し、この日以来、彼女は太閤にも勝る幸運の持ち主として有名人になった。野江といっしょにいた澪には、どんなに努力しても艱難辛苦が訪れる「雲外蒼天」の運命にあると予言して忠告するとともに、困難を乗り越えれば必ず美しい空が見られるほどに報われると励ました。また、強運を持つ野江が必ずしも幸福な人生を歩むとは限らないと忠告している。

場所

つる家 (つるや)

神田御台所町の蕎麦屋。店主は種市が務めており、店名は亡くなった一人娘のおつるから取られている。澪が料理人として雇われてからは、江戸の人々にはなじみの薄い上方料理を出している。種市が腰を痛めて蕎麦を打てなくなってからは、雇われ店主となった澪の珍しい料理が中心となっている。江戸と上方の好みの違いから、澪の料理は客に受け入れられていなかったが、ひんやり心太やはてな飯をきっかけに評判が上がっていく。さらにはとろとろ茶碗蒸しが料理番付に載ったことで、庶民以外からも注目されるほどに知名度が上がっていく。のちに付け火の被害に遭って全焼し、しばらくは種市が気力をなくして閉店状態だったが、澪が屋台見世を出したのをきっかけに復活。俎橋そばの元飯田町へと移転した。

天満一兆庵 (てんまいっちょうあん)

大坂で名の知れた料理屋で、嘉兵衛が店主を務める。孤独の身となった澪が嘉兵衛と芳に引き取られ、当初は奉公人だった澪が料理人の修業をしていた店でもある。順調に営業を続けていたが文化8年に、隣家からの貰い火で焼失。澪と芳と共に江戸に来た嘉兵衛が、江戸店を任せていた佐兵衛を頼るものの、店は潰れ、佐兵衛も行方不明になっている。

登龍楼 (とりゅうろう)

日本橋にある有名な料理屋。例年、料理番付における最高位「東の大関」を獲得している。本店は江戸留守居役の接待を中心とした高級料亭だが、蕎麦屋「つる家」がとろとろ茶碗蒸しで料理番付に載って評判が上がると、町人向けの値段にした支店をつる家からほど近い神田須田町に出店した。高級な部屋や食器を使用することで、つる家の客を奪っていった。大関の座を脅かすほかの料理屋に対しては手段を選ばず、つる家にも妨害工作を行っている。

その他キーワード

神狐 (しんこ)

江戸の町はずれにある小さな狐像。人々からは祟りをもたらす「化け物稲荷」として恐れられている。祠が崩れていたが、澪によって祠が直されて整えられた。もう一方の狐像は行方不明になったままで、残った狐像の片耳はもげたままになっている。澪からは、野江に似ているという印象を抱かれている。毎日通っている澪によって油揚げが供えられているが、別の人物によって供え物が置かれていることがある。

はてな飯 (はてなめし)

澪が蕎麦屋「つる家」で出した料理の一つ。江戸でなじみの薄い戻り鰹を醬油、味醂、生姜で煮て白米と炊き込み、仕上げに海苔をかけて作る。どんな食材を使っているかわからない「はてな飯」として試食用が店の前で出され、店内であらためて注文すれば謎解きができるようになっている。これらのアイデアから人気を博したが、鰹の旬が過ぎたことや周囲の料理屋がまねをしたことで人気が落ちていき、長く愛される別の看板料理を考える必要が出てきた。

とろとろ茶碗蒸し (とろとろちゃわんむし)

澪が蕎麦屋「つる家」で出した料理の一つ。上方の昆布だしと江戸の鰹だしを組み合わせた極上のだしで、江戸の茶碗蒸しにはない卵を使用している。とろとろとした食感や、海老や百合根などの健康にいい食材を一つにまとめていることから、幅広い客層に人気を集めた。また、又次の提案によって竹筒の器に入れることで、店に来られない病人などへの土産として、手軽に持ち帰りができるようになった。のちに料理番付に掲載されるほどの人気料理となった。

クレジット

原作

髙田 郁

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