あらすじ
第1巻
月並半兵衛は月一両のしがない捨扶持で江戸の夜回りをしている浪人である。ある日、「人斬り半兵衛」と恐れられていた頃の半兵衛を知る侍・近藤龍蔵が、半兵衛が持ち歩いている刀は竹光であるという噂を聞く。それなら勝てると踏んだ龍蔵は、無礼討ちをするために半兵衛を狙うが、実は半兵衛の剣は鞘のある刀に見せかけた木剣であり、龍蔵は一本取られてしまう。またある日、どこかの殿様による刀の試し切りとおぼしき辻斬りが江戸に出没。辻斬りを木刀で懲らしめた半兵衛であったが、侍達は人数を増やして仕返しにやって来る。半兵衛は相手の刀を奪い、命を奪う事なく、悪漢達の髷を斬り落としたのだった。
第2巻
月並半兵衛の弟子を自称する、伊助という若者がいた。町人故に刀を持つ事はできないため、南蛮千鳥鉄という特殊な武器を愛用していた。武芸自慢が嵩じて侍を闇討ちするようになっていたが、半兵衛に説諭されて改心。その後、伊助では到底かなわない凄腕の辻斬りが江戸に出没した際に、伊助はその辻斬りから町衆を守って死んでしまう。またある日、江戸で大火事が発生する。半兵衛の友人の八丁堀が睨んだ通り、木材問屋の木曽屋が仕入れた木材を高く売り抜けるために計画的に火を放ったというものだった。半兵衛も捜査に加わるが、最終的に判明したのは、木曽屋は火事の際に焼け死んでおり、木材を大火の直前に仕入れていたのはただの偶然で、犯人は木曽屋とは何の関係もない暴漢に過ぎなかったという、あまりにも空しい結論だった。
登場人物・キャラクター
月並 半兵衛 (つきなみ はんべえ)
江戸で暮らす浪人で、年齢は38歳。かつては荒巻藩で剣術指南役を務めていたほどの剣の達人。当時は「人斬り半兵衛」のあだ名で呼ばれていたが、8年ほど前に脱藩し、江戸にやって来た。その後、柳沢吉保の仲介で江戸の夜回りをするようになり、夜鷹と接する機会が多い事から「もっこり半兵衛」と呼ばれるようになった。
さおり
月並半兵衛の幼い娘。半兵衛が荒巻藩にいた頃に生まれたが、母親は間男と出奔してしまっており、実は半兵衛と血のつながりはない。半兵衛が夜回りをしているあいだは、彼の無事を祈りつつ長屋で留守番をしている。年の割にはませているところがある。
お駒 (おこま)
「提重(さげじゅう)」と呼ばれる一種の私娼をしている若い娘。旗本の三男坊に懸想され、ストーキングを受けるようになり、月並半兵衛に助けられた。事件の解決後は、提重から足を洗って堅気になったが、その後も半兵衛のもとに姿を見せている。
お米 (およね)
米問屋・大国屋の若い娘。自分の家が飢饉の原因になった事に責任を感じており、義賊の真似をして家の金を貧民に配っていた。月並半兵衛に思いを寄せてしばらく月並家に出入りしていたが、やがて歌舞伎役者の恋人ができた事から、姿を見せなくなる。
おひさ
若く美しい夜鷹の女性。実は武家の娘で、夜鷹に身をやつし、吉原に向かう男達の中に自分の父親を殺した犯人がいないかを探していた。偶然居合わせた月並半兵衛の前で仇に遭遇して銃を向けられるが、半兵衛に助けられ、見事本懐を果たす。
八丁堀 (はっちょうぼり)
江戸の同心である年齢不詳の男性。月並半兵衛の仕事仲間で、直属の上司のような存在にあたる。心意気と正義感はあるが、身分の高い旗本がトラブルを起こした時など、事を大事にしないように見て見ぬふりをする時もある。
柳沢 吉保 (やなぎさわ よしやす)
江戸幕府元大老で、隠居の身となっていた老人。8年前、江戸にやって来たばかりの月並半兵衛に偶然凶漢から助けられ、その礼として半兵衛を用心棒に雇おうとしたが、断られた。そこで代わりに、月一両で江戸を警護してほしいと依頼し、半兵衛が夜回りをするようになるきっかけを作った。柳沢吉保自身はその後に死去したが、遺言により月の一両は今も半兵衛のもとに届けられている。
近藤 龍蔵 (こんどう たつぞう)
肥前藩で剣術指南役を務めている若い侍。やさ男風の風貌ながらかなりの使い手で、1年前に肥前藩に仕官した。実は月並半兵衛が荒巻藩にいた頃に会った事があり、今も彼の事を「人斬り半兵衛」として恐れているが、半兵衛の方は近藤龍蔵の事をすっかり忘れている。
伊助 (いすけ)
町人による自警組織・自身番に参加している若者。本業は呉服屋。生まれも育ちも町人なのだが、月並半兵衛が1000人に一人の逸材と評するほどの武術の才があり、また本人も心に期するところがあって半兵衛に数年間師事していた。侍相手の辻斬りという凶行を犯したあと、凄腕の辻斬りと戦って死亡する。
乱丸 (らんまる)
陰間(男娼)をしている美しい少年。自分に入れあげている旗本の四男坊に無理心中されそうになり、月並半兵衛に用心棒を依頼する。事件は無事に解決したが、ある死んだ夜鷹のために経を読んでくれる僧を探すという、乱丸が半兵衛に約束した頼みは、僧達に拒絶され果たされる事はなかった。