概要・あらすじ
時代は江戸後期。江戸の郊外・鐘ヶ淵のほとりに住む秋山小兵衛は世に隠れた名人として、知る人ぞ知る老剣客である。息子・秋山大治郎も将来を期待された剣客であり、小兵衛は息子に道場を建ててやり、ひとり立ちさせようとする。まだ世事にうとく、剣客としての商売が覚束ない大治郎であるが、小兵衛は時には影で見守り、時には協力して、江戸の町で起こる事件を解決していく。
登場人物・キャラクター
秋山 小兵衛 (あきやま こへえ)
秋山大治郎の父。おはるの夫。60を過ぎた小柄な老人だが、優れた剣客として知る人ぞ知る隠れた名人。流派は無外流。妻の没後は一人息子・秋山大治郎のみが家族だったが、鐘ヶ淵のほとりの隠宅で雇った下女おはるといい仲になり、後に妻として迎えることとなった。深い智恵と広い人脈を持ち、万事に心得た対処をする人生の名人。 豊富な人生経験と優れた剣の腕で、江戸で起こる様々な事件を解決していく。
秋山 大治郎 (あきやま だいじろう)
秋山小兵衛のひとり息子。小柄な父とは異なり、大柄な体躯を持つ剣客。幼少時より小兵衛に剣の手ほどきを受け、優れた剣才を見せた。諸国武者修行の後、小兵衛に道場を建ててもらい、独り立ちするが、剣客として生計を立てることに関しては父にはまだ到底及ばない。その剣の腕は、田沼意次主催の剣術試合で七人抜きを達成するほどである。 しかし、女性のことにはとんとうとく、後に佐々木三冬に好意を寄せられても、まったく気づかずにいた。受けた恩は必ず返す義に熱い性質。
佐々木 三冬 (ささき みふゆ)
時の老中にして将軍・徳川家治の寵愛を受ける田沼意次の妾腹の娘。男装の女武芸者で剣の腕も一流。「自分よりも弱い男の妻にはならない」と公言している。一度他家へ養子となった経緯から、父・田沼意次とはなじまずにいた。しかし、秋山小兵衛と接するうちに人として成長し、父に対する思いも変化していく。 当初は秋山小兵衛に惹かれていたが、その後、息子の秋山大治郎のことを意識し始める。
おはる
秋山小兵衛の妻。登場当初の年齢は19歳。百姓の娘で、下女として小兵衛に奉公していたが、手がついた後、正式に妻に迎えられた。小兵衛との年齢差は40歳。素朴でかざらぬ人柄。40歳年上の小兵衛にぞっこんに惚れており、当初は小兵衛を慕う佐々木三冬に嫉妬の炎を燃やすこともあった。 船をこぐのがうまい。
田沼 意次 (たぬま おきつぐ)
幕府・老中。将軍・徳川家治の寵をを受ける幕府随一の権力者。佐々木三冬は彼の妾腹の娘。佐々木三冬を通じて、秋山小兵衛の人となりを知り、その人物を認め関係を深めていく。金権政治の権化のように思われがちだが、広い度量と大局観を持つ一流の政治家であり、経済人である。江戸時代に実在した老中・田沼意次をモデルとする。
弥七 (やしち)
四谷伝馬町のご用聞き。女房に料理屋を経営させて生計を立てている。秋山小兵衛の剣の門人で一流の武芸者でもある。正義感が強く、ゆすりたかりをいっさいしない、ご用聞きには珍しい存在。秋山小兵衛に頼まれて探索をしたり、事件の裏事情を探ったりする。徳次郎という下引きの手下がいる。
嶋岡 礼蔵 (しまおか れいぞう)
秋山小兵衛と兄弟弟子にあたる無外流の剣客。秋山小兵衛と同じく辻平右衛門を師匠とする。秋山大治郎は15歳の時、親元を離れ、山城国・大原の辻平右衛門の元で剣の修業に励んだ。この時、嶋岡礼蔵は第二の師匠として、大治郎に厳しく稽古をつけた。数年後、嶋岡礼蔵は、修業を終えて江戸に戻った大治郎のもとに現れ、20年来の宿敵・柿本源七郎と真剣で立ち会うことを告げる。 しかし、柿本源七郎の門弟・伊藤三弥のだまし討ちにあい、非業の死を遂げてしまう。
柿本 源七郎 (かきもと げんしちろう)
秋山小兵衛の兄弟弟子・嶋岡礼蔵の20年来の宿敵。伊藤三弥の師匠。嶋岡礼蔵が因縁に決着をつけるべく江戸に現れた時には、病におかされ寝込んでいた。弟子の伊藤三弥とは男色の関係にあった模様。
伊藤 三弥 (いとう さんや)
剣客・柿本源七郎の弟子。越後新発田藩の御用人・伊藤家の末子。伊藤郁太郎の弟。剣の他、弓を得意とする。病床にある師匠を気づかい、師匠の20年来の宿敵である嶋岡礼蔵をだまし討ちにした。その際、秋山大治郎に右腕を斬り落とされ、それ以来、大治郎をつけねらうようになった。 師匠の柿本源七郎とは男色の関係にあった模様。
徳次郎 (とくじろう)
ご用聞き・弥七のもとで働く下引き。弥七同様、秋山小兵衛・秋山大治郎親子のため親身になって働く男。
小川 宗哲 (おがわ そうてつ)
秋山小兵衛の友人の医者。ふたりは碁友でもあり、同じくらいの碁力を持つ好敵手である。足ることを知る好人物。田沼意次暗殺未遂事件の際、小兵衛に頼まれて毒の鑑定を行った。本所に居を構える。
飯田 粂太郎 (いいだ くめたろう)
秋山大治郎の剣の門人。父親は田村意次に仕える侍だったが、田村意次暗殺事件に加担し、腹を切っている。父の死後も田村意次の庇護を受け、佐々木三冬のはからいで秋山大治郎に弟子入りした。素直な性格で誰からも好かれる少年。
伊藤 郁太郎 (いとう いくたろう)
秋山大治郎に怨みを抱く伊藤三弥の兄。生まれついての奇っ怪な面相のため、家を継ぐことができなかったことで心根がゆがんだ剣客。伊藤三弥の右腕を切り落とした秋山大治郎を、弟と協力して斬ろうとつけねらう。その奇怪な容貌から、秋山小兵衛に妖怪・小雨坊と呼ばれた。
辻 平右衛門 (つじ へいえもん)
秋山小兵衛と秋山大治郎の剣の師匠。麹町に無外流の道場をかまえ、秋山小兵衛や嶋岡礼蔵などの剣客を育てた。その後、引退して山城国・大原に引きこもった。秋山大治郎は15の時、父のもとを離れ、大原の辻平右衛門のもとで剣の修業を行った。
場所
不二楼 (ふじろう)
『剣客商売』に登場する料亭。秋山小兵衛がなじみとする浅草・橋場の料亭。小雨坊こと伊藤郁太郎に家を燃やされた秋山小兵衛は、しばらく不二楼の離れに居候していた。不二楼の亭主が、美人局(つつもたせ)にあってゆすられた時、亭主は真っ先に秋山小兵衛に助けを求め、事なきを得た。
鐘ヶ淵 (かねがふち)
『剣客商売』に登場する地名。大川、荒川、綾瀬の三川が合する淵。この鐘ヶ淵を臨む田地に、秋山小兵衛は隠宅を構え、おはると暮らしている。