不器用な少年が歩むプロ棋士への道
高校入学のために上京した高良信歩が、シェアハウス「かやね荘」に引っ越してくるところから物語は始まる。「かやね荘」は奨励会員限定の物件だが、不動産屋の手違いで、まったくの素人である信歩が入居することになった。そこで初めて将棋と出会った信歩は、要領が悪く視野が狭いことが逆に幸いし、詰将棋で優れた才能を見せる。周囲からノロマと言われて孤立していた信歩は、「かやね荘」の仲間になれたことを喜び、プロ棋士を目指す決意をする。しかし、プロ棋士になるには、遅くとも中学までには奨励会に入るのが普通であり、26歳という年齢制限までに、無事プロになれるのはほんの一握りである。だが、将棋の楽しさに魅せられた信歩は、自分の努力を信じることを決意。無謀を承知でプロ棋士への道を歩き始める。
プロ棋士監修の本格将棋漫画
奨励会に入るための実績を作るため、信歩は、元名人の孫で同級生の藤川竜胆と将棋部を設立し、都大会へ参加する。多くの選択肢から打ち手を選ぶことが苦手な信歩は、序盤は「矢倉囲い」の戦法のみに絞り、得意の終盤に賭けるという戦法を特訓する。本作は、現役プロ棋士(当時)が監修を務めており、「矢倉囲い」の他、「振り飛車」「棒銀」といった本格的な将棋勝負が描かれている。2016年3月1日付「日本経済新聞夕刊」によれば、作者・池沢が決めた大まかなストーリーを、プロ棋士が確認し、「ここで主人公が逆転の一手を放つ」といった状況に合わせ、適切な棋譜や図面をプロ棋士が用意するという流れで制作されたという。
個性的な強敵たちとの戦いと友情
高校生で将棋を始めプロになるという信歩に、反感を覚える同級生・竜胆は、圧倒的な力で信歩をねじ伏せた。しかし、信歩の終盤感覚と懲りずに挑んでくる根性を認め、友人になった。また、小さな大会で出会った天才プロゲーマー・相楽十歩と戦った際も、信歩は敗北してしまうが、勝つことだけが目的になっていた十歩にゲームの楽しさを伝えて親友になる。本作は、将棋の世界という特殊な分野を描いているが、次々と現れる個性的な強敵たちと、戦いを通じて友情を通わせるという、王道の少年漫画要素が魅力の一つである。
登場人物・キャラクター
高良 信歩 (たから しのぶ)
15歳の男子高校生。身長176センチメートル、体重71キログラム。幼い頃に母を亡くし、厳格な父と義母と暮らしていたが、高校入学をきっかけにシェアハウス「かやね荘」に入居した。周囲の速度についていけず、ノロマでノリが悪いというレッテルを貼られて孤立していた。真面目な努力家だが、異常なほど要領が悪く、高校の入学試験にも失敗。滑り止めの私立千賀高校に通うことになった。「かやね荘」で将棋と出会い、遅ればせながらプロ棋士を目指すことを決意した。欠点である視野の狭さが幸いし、一点突破型の思考力に優れ、勝負終盤に天性の才能を発揮する。
藤川 竜胆 (ふじかわ りんどう)
15歳の男子高校生。千賀高校1年生で高良信歩の同級生。身長173センチメートル、体重69キログラム。祖父は高名な将棋の元名人。小さい頃から、将棋に邁進し、祖父の名を冠した藤川杯争奪戦に優勝したら奨励会に入ることを宣言していた。しかし、藤川杯争奪戦で幼馴染の百合峰蒼馬に勝ちを譲られたことで奨励会入りを延期。蒼馬打倒に執念を燃やす。ド素人の信歩を嫌っていたが、信歩の努力と才能を認めて友人になった。
相楽 十歩 (さがら じっぽ)
15歳の男子高校生。鎌谷商業高校1年生。身長159センチメートル、体重42キログラム。天才プロゲーマーで、新しいゲームを見つけると、ハメ技や新戦法を開発して廃れさせてしまう「コンテンツ殺し」。将棋に興味を持ち、小さな大会に参加したところ、高良信歩と対戦することになる。あまりの強さゆえに孤独だったが、信歩との勝負でゲームや勝負の楽しさを思い出し、友人になった。
クレジット
- 監修
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橋本 崇載