概要・あらすじ
トンボが大量発生した秋、竜の姉の妙子は、父からの束縛から逃げるために愛する男と心中をした。この出来事を竜は十数年経った今でも忘れられずにいる。ある日、そんな竜のもとに姉とそっくりの容姿を持つ鞠子が現れる。彼女との関わりを通して、竜は姉の死の意外な真相を知ることになる。
登場人物・キャラクター
竜 (りゅう)
父から譲り受けた峠の茶屋を経営する青年。美貌の持ち主で、周囲からも男前と評判。十数年前に心中した姉、妙子のことを、今でも恋慕っており、彼女が当時何を思っていたのかを考えることも多い。姉に対する愛ゆえに、恋人もおらず結婚願望も薄い。ある日、峠の茶屋を訪れて来た鞠子の容貌が、不思議なまでに妙子に似ていたことをきっかけとして、彼女を愛するようになる。 そして、鞠子との関わりを通し、姉の死の真相を知ることとなる。
妙子 (たえこ)
竜の10歳年上の姉。亡くなった母親によく似ており、峠の茶屋の看板娘として評判が高かった。父親の過干渉ゆえに心中したとされてきたが、真相はまったく異なる。実は父に性的暴行を受けており、自由を奪われていた。近親相姦を強いる父親から逃げ出したいという思いを常に抱えており、救いを求めるように隣町の青年と愛し合う。しかし、結局は父親の束縛から逃げ出せずに、竜が幼い頃に心中した。
父 (ちち)
妙子と竜の父親。竜を生んですぐに亡くなった妻を心から愛していた。年々、妻に似てくる妙子への愛を抑えられなくなり、自由を奪って性的な暴行を振るうようになっていた。妙子が恋愛や結婚をするのを許さず、精神的に追い詰める。妙子亡き後は夜になると必ず泣くようになり、酒に溺れて妙子の死後まもなく病死した。
鞠子 (まりこ)
妙子とそっくりの容姿を持つ女性。セミロングの髪をハーフアップにしており、どこか謎めいた雰囲気を醸し出している。花嫁衣装を身に着けて峠の茶屋に現れ、竜の厚意で妙子の部屋に宿泊するようになった。恋人の耕一との失恋をきっかけに、現在は誰でもいいので結婚をしたいと考えている。鞠子自身が意図せずに取った行動が、竜が妙子の心中事件の真相に迫るきっかけとなる。
耕一 (こういち)
鞠子の元恋人の男性。髪の毛を七三分けにしている。優しげな風貌をしているが、性格は計算高く、功利主義的なところがある。出世のために上司の娘と婚約し、結婚の約束をしていた鞠子を捨てた。しかし、鞠子に対しても未練を持っている。