アンテン様の腹の中

アンテン様の腹の中

夜諏河樹の初連載作品。神出鬼没な黒い鳥居の先にあるアンテン様の神社に住む神・アンテン様に、自分の大事なものと引き換えにさまざまな願いを叶えてもらおうとする人間模様を描いたオカルトホラー。「少年ジャンプ+」2022年8号から掲載の作品。

正式名称
アンテン様の腹の中
ふりがな
あんてんさまのはらのなか
作者
ジャンル
オカルト
 
ヒューマンドラマ
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
既刊3巻
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あらすじ

為せば成る編

社長令息の亮介は、ヒマさえあれば説教と自慢話ばかりで、勉強にうるさく口を出してくる父親との日常に辟易していた。そんな亮介は、貧乏でありながらも特待生として高校に入学したクラスメート・伊佐木から、ひそかに勉強を教えてもらっていた。しかし、内心では伊佐木を貧乏人と見下しながらも、なかよくしていた亮介は、伊佐木と帰路の最中に不気味な黒い鳥居を発見する。好奇心から境内に足を踏み入れた亮介と伊佐木はそこで、アンテン様という神に出会う。そして、強い思いが込められている大事なものをお供えすると、思いの強さと願いの難易度が等価の場合は必ず願いが叶えられることを知る。半信半疑ながらも供物を供えた二人は、帰宅後に願いが叶えられたことを知って驚喜する。しかし亮介はそれに味を占め、それからはアンテン様の神社に通っては物品を捧げて、自分の願いを叶えてもらうことで人生は楽なものだと考えるようになっていた。伊佐木は亮介の努力を怠る様子に、危機感を覚えるのだった。

生きてるだけで編

中学生の大石総太は家族仲もよく、平穏な生活を送っていた。しかしある日、友人の家に泊まりに行った際、放火魔の岡谷隆義によって自宅を放火され、家族全員を亡くしてしまう。犯人の岡谷は、死刑が宣告されてもまったく反省の色を見せておらず、謝罪の言葉もない岡谷に、総太は絶望する。おばの家に引き取られた総太だったが、判決の日以来悪夢にとらわれ、学校にも通えない日々を送っていた。そんな中、刑務所の岡谷が放火事件についての手記「火炎花」を出版するというニュースを目にし、雨の中にもかかわらず家を飛び出してしまう。そんな総太の目の前にアンテン様の神社が現れる。すると総太は、家族を生き返らせたいと願うが、アンテン様から「複数の人間を蘇らせる供物を持っている人間はなかなかおらず、叶えるのは難しい」と言われてしまう。そこで総太は岡谷に罪を自覚させ、一生苦しんで生きることを願うが、この復讐心と同じくらい強い思いのこもった供物を差し出すように言われ、動揺する。総太のかつての持ち物はすべて燃えてしまい、唯一残っているのはたった一枚の家族写真が入ったペンダントだけだった。

私とワルツを編

高橋宏明は認知症を患っている妻・高橋路子から、オルガンで「春のワルツ」を弾いてほしいとねだられていたが、約束を先延ばしにしたまま、ひそかにオルガンの練習を続けていた。路子は宏明のことを、宏明の兄で路子の前夫である高橋直明だと思い込んでおり、宏明もまたあえてそれを否定しないまま日々を過ごしていた。そんな中、道祖神を詣っていた宏明の前にアンテン様の神社が現れる。少年時代、大人からアンテン様のことを「安天様」と聞いていた宏明は、昔から大事に使っていた時計を供物として捧げ、オルガンで「春のワルツ」を弾けるようにしてほしいと願う。そして直明と路子、宏明自身の過去から現在に至る経緯を語り始める。そんな宏明にアンテン様は、「路子の最愛の人になりたいとは願わないのか」と問いかけるが、宏明は笑顔でそれを否定する。

触らぬ神には編

人形職人の伊平は、誰が話しかけても完全無視することで有名な男だった。町人たちは誰が伊平を振り向かせることができるか勝負しており、ある男が「べっぴんのお小夜がお前を見ているぞ」と声をかけ、伊平を振り向かせることに成功する。伊平は、既婚者であるお小夜に一目惚れし、お小夜を拉致する計画を立てる。アンテン様の神社に遭遇した伊平は、母親の遺髪を使った人形を供物として捧げる代わりに、お小夜と夫婦になりたいと願う。その後、離縁したお小夜と無事に夫婦になった伊平だったが、どんなに尽くしてもお小夜は喜ぶことなく「伊平を愛していない」と告げたことから、伊平はお小夜を暴行してアンテン様に供え、「きちんと愛し合える女と出会いたい」と願う。しかし、なかなか願いが叶わず、妻にした女性を殺害することを繰り返す伊平だったが、そんな伊平の前に信乃という女性が現れ、いっしょに暮らすようになる。だが信乃は、お小夜の妹・明野だった。

守り神編

ブラック企業に勤務する藤村優一は、買い溜めしたスクラッチ式の宝くじを毎朝削ることを楽しみにしていた。そして、母親が作ったお守りに向かって、早く家に帰れるように願うのを習慣にしながら、部長からのパワハラに耐える毎日を送っていた。徹夜で始発に乗って帰宅中、アンテン様の神社に迷い込むものの、朦朧とした意識の中で優一は、アンテン様からの参拝の説明を聞くこともできず、お菓子を渡してそのまま境内を出てしまう。翌日、ふだんより仕事が早く終わったことを喜ぶ優一だったが、部長が電話で話していた内容と部長の私生活での豪遊ぶりから、部長が集英商事とつながっており、横領している可能性があることを知る。部長の不在時に集英商事との取引ファイルを確認する優一だったが、それを部長に目撃されてしまう。

起き姫物語編

市で琵琶の演奏と歌を披露していた伊那は、その美声を護王姫に買われ、屋敷つきの琵琶楽師として暮らしていた。しかし、護王姫の夫が戦に負けたため、護王姫と伊那は屋敷を焼き討ちされる。さらに護王姫は、逃亡中の森の中で沖姫を出産し、伊那に沖姫を託して逃げることをあきらめてしまうが、沖姫は出産直後から産声が弱々しく、瀕死の状態だった。絶望する伊那だったが、いつの間にかアンテン様の神社に迷い込み、対面したアンテン様に声を供物にして沖姫の延命を願い出る。その後、御主様が住職を務める星國寺(しょうこくじ)まで逃げ延びた伊那は、琵琶の演奏でなんとか日銭を稼ぎながら、沖姫を育て上げる。やがて伊那と共に市で歌うようになった沖姫は、近隣の武将に見初められ、幸せを謳歌していた。しかし伊那は、そんな沖姫の姿を見るたびに、かつてアンテン様と交わした約束を思い出し、伊那が死んだ時、沖姫の人生もなかったことになるという事実を教えるべきかを苦悩するようになる。

登場人物・キャラクター

アンテン様 (あんてんさま)

「安天様」とも呼ばれる神。性別不明ながら、小学生から中学生くらいの姿をしている。長い黒髪で巫女装束を着ており、横髪を陰陽柄の髪飾りでまとめている。人間から笑顔が好かれると聞いたため、つねにニヤニヤとした笑みを浮かべている。人間の思いを糧にして生き永らえており、貢ぎ物に込められた思いの大きさを信仰の証として、人々に恩恵を授けている。

亮介 (りょうすけ)

とある高校に通う、黒髪で目つきが非常に悪い男子。社長令息でもある。アンテン様の神社で自らの願いを叶えてもらって以降、努力することを怠り、成績が上がったり彼女ができたりするようになったのも、すべてアンテン様の神社に願って叶えてもらっていた。しかし、ふだんから物を大切にしていなかったため、貢ぎ物を供えても願い未満の結果に終わることが多い。次第に大量の物品を持って、神出鬼没のアンテン様の神社が出現するまで、最初に遭遇した場所に何度も通うこととなる。

伊佐木 (いさぎ)

とある高校に通う、亮介のクラスメートの男子。白髪を真ん中分けにしている。高校には特待生として入学したために学費が免除されているが、非常に貧乏で制服の丈の手直しをするお金もない。妹が特効薬のない難病を患っている。亮介と共に何度かアンテン様の神社に詣でたが、自分が死んだら願いがなかったことになると知り、自分の実力で手に入る以上の願いは求めず、なくなっても困らないものだけを願っていた。また、亮介があまりにもアンテン様の神社に神頼みばかりしていることを心配し、亮介に忠告している。

大石 総太 (おおいし そうた)

とある中学に通う、茶髪にウエーブをかけている男子。岡谷隆義によって自宅に放火され、両親と姉を亡くし、おばの家に引き取られた。毎晩、悪夢を見る生活を続ける中で、隆義に良心がないことを認識し、罪の意識も後悔も与えられないことに絶望していた。そんな中、アンテン様の神社に遭遇し、アンテン様に「岡谷に感情を与えて罪を自覚させ、後悔と罪悪感で苦しめてほしい」と願った。願いを叶えるため、たった一枚だけ残った家族写真入りのペンダントを供物に捧げるかを悩んでいる。

岡谷 隆義 (おかや たかよし)

短い黒髪で鋭い目つきをしている放火犯の男性。ふだんは人当たりのいい営業マンだが、不愉快なことがある度に放火を繰り返してストレスを発散している。大石総太の家族が死んでからも罪悪感を持つことなく、死刑判決を言い渡されても薄ら笑いを浮かべていた。死刑判決後、放火事件についての手記「火炎花」を発表している。

高橋 宏明 (たかはし ひろあき)

高橋路子の夫で、老齢な男性。白髪をオールバックにしており、左目の下と口の左下にほくろがある。昔から体が弱く、現在も多くの薬を処方されている。少年時代に大人からアンテン様のことを聞かされていたが、本当にアンテン様の神社に遭遇した際には驚愕していた。認知症を患っている妻の高橋路子からは、高橋宏明の兄である高橋直明だとカンちがいされているが、それを否定していない。若い頃から路子に好意を抱いていたが、路子と直明が結婚してからは、路子に対する好意を表に出さないようにしていた。直明が出征する際に路子のことを頼むと言われており、直明が戦死したあとは路子と再婚したが、直明に対する罪悪感を持ち続けていた。アンテン様の神社では、直明が生前に路子へプレゼントした「春のワルツ」というオリジナル曲をオルガンで弾けるようになりたいと願った。そのために、若い頃から大切に使っていた時計を供物に捧げている。

高橋 路子 (たかはし みちこ)

高橋宏明の妻で、老齢な女性。長い白髪をうなじでシニヨンにまとめている。認知症を患っており、宏明を前夫・高橋直明だと思い込んでいる。そのため宏明に対し、生前に直明からプレゼントされた「春のワルツ」という、オリジナル曲をオルガンで弾いてほしいとねだっている。

高橋 直明 (たかはし なおあき)

高橋宏明の兄で、故人。黒髪を七三分けにしており、眼鏡をかけている。穏やかで心優しい性格で、オルガンが得意だった。少女時代の高橋路子に、誕生日プレゼントとして「春のワルツ」という、オリジナル曲を贈っている。路子と結婚したものの、ほどなくして戦争に出征して戦死した。出生時に宏明に対して「路子を頼む」と言い残している。

伊平 (いへい)

江戸時代の人形職人の男性。長い黒髪をうなじでまとめ、無精ひげを生やしている。父親も人形職人で、母親を幼少期に亡くしており、母親の遺髪を使った人形を母親代わりとして与えられていた。それ以来、人間の一部を人形に使うことで、その人間の魂が人形に宿ると信じている。山に住んでいるため、時折町に人形を卸しにやって来るが、手に持った母親の人形に独り言をしゃべり続けており、誰が話しかけても無視を決め込んでいる。しかしお小夜に好意を抱き、既婚者と知りつつ無理やりに連れて帰ろうとしている。そんな折にアンテン様の神社に遭遇し、お小夜と夫婦になりたいと願い、母親の人形を供物として捧げている。その後、お小夜と結婚したが、自分に懐かない彼女を暴行してアンテン様に供え、「ちゃんと愛し合える女と出会いたい」と願っている。しかし願いが叶わなかったため、それ以降も次から次へと女性を娶っては殺害している。

お小夜 (おさよ)

江戸時代の既婚女性。黒髪を日本髪に結っており、眉が太いのが特徴。礼節を欠いている者を嫌う人格者で、美人としても知られていた。兄が二人と妹、弟がいる。伊平が、アンテン様の神社に願い事をしたのをきっかけに、夫と離縁し、伊平と結婚している。だがつねに表情が暗く、伊平がどんなに尽くしても喜ばないのに、家族の話をするときだけ笑顔を見せたため、激怒した伊平によって暴行されたうえでアンテン様に供えられた。

信乃 (しの)

江戸時代の女性で、伊平の何人目かの妻。黒髪を日本髪に結っている。山菜を採りに山へ入った際に雨に降られ、雨宿りのために伊平の家に泊まったのをきっかけに、いっしょに暮らすようになった。家族が病死し、一人孤独に暮らしていたと話しているが、実はお小夜の妹で、本名は「明野」。昔から霊感があり、神のことは人間に対して気まぐれな存在だと考えている。

藤村 優一 (ふじむら ゆういち)

ブラック企業に勤めている会社員の男性。年齢は28歳。ボサボサの黒髪で、眼鏡をかけている。毎日残業続きで疲弊しており、買い溜めしたスクラッチ式の宝くじを、毎朝削ることを楽しみにしている。また、母親が作ったお守りに向かって、早く帰れるように願うのが習慣となっている。部長のパワハラのターゲットにされ、徹夜して朝まで職場で過ごすことが多い。朦朧とした意識の中で歩いている際、アンテン様の神社に辿り着いたが、アンテン様の説明をほとんど聞き流したまま境内を出た。そんな中、残業中に部長が横領している可能性があることを知り、苦悩していた。

部長 (ぶちょう)

藤村優一の上司の男性。瘦せた体型で、白髪をオールバックにしている。部下にパワハラを繰り返しており、特に藤村優一をターゲットにしている。社長の親族のために誰も逆らうことができないが、取引先の一つである集英商事との横領の疑いがかけられている。

伊那 (いな)

琵琶楽師を生業としている鎌倉時代の女性。薄い色の長い髪をうなじでまとめ、左側の横髪のみ下ろしている。「天からの贈り物」と絶賛されるほどの美声で、市では歌うだけでそれなりの収入が得られる。そんな中、護王姫に召し上げられ、屋敷つきの楽師として暮らしていたが、屋敷が焼き討ちに遭い、護王姫と共に逃げている最中に産まれた沖姫を託され、アンテン様の神社に辿り着いた。沖姫が瀕死の状態だったため、アンテン様に声を供物として捧げ、沖姫の延命を願っている。その後は御主様が住職を務める星國寺(しょうこくじ)に身を寄せながら沖姫を育て、沖姫が嫁いでからも従者として屋敷に居を移している。沖姫の幸せを願っているが、自分が死んだときに沖姫の人生もなかったものになることを恐れ、沖姫にアンテン様に願ったことを教えるべきか苦悩している。

沖姫 (おきひめ)

鎌倉時代の女性で、護王姫の娘。長い黒髪を垂れ髪にしている。護王姫が戦火から逃げている最中に産まれたが、産声は弱々しく、伊那がアンテン様の神社に辿り着いた時には瀕死の状態にあった。伊那がアンテン様に声を供物として捧げたことで、生き延びている。その後は御主様が住職を務める星國寺(しょうこくじ)に身を寄せ、病弱ながらも健やかに成長し、近隣の武将に見初められて嫁いでいる。よく転ぶがすぐに起き上がることから、「起き姫」ともあだ名されている。領民たちが洪水被害に遭った際には屋敷に招き入れ、着物を防寒具として提供したり炊き出しを行ったりしたことで、領民から大いに慕われている。しかし伊那が、沖姫自身に隠し事をしていることは幼い頃から気づいており、その内容を知りたいと思い続けていた。

護王姫 (ごのうのひめ)

鎌倉時代の女性で、沖姫の母親。長い黒髪を垂れ髪にしており、殿上眉にしている。市を通りがかった際、伊那の歌声を聞いて惚れ込み、屋敷つきの楽師として召し上げている。しかし、夫が戦で負けたことから屋敷を焼き討ちされ、身重の身で逃亡したが、森の中で産気づき、沖姫を出産した。出産直後の体では逃げられないと覚悟し、伊那に当面の生活費として家宝を手渡し、沖姫を託している。伊那からは「御方様」と呼ばれている。

御主様 (おっさま)

星國寺(しょうこくじ)の住職を務めている鎌倉時代の男性。禿頭に無精ひげを生やしており、眉毛が長い。屋敷を焼け出された伊那の助けを求めた姿が死んだ妹に似ていたことから、伊那と沖姫を匿い、寺の裏にある小屋に住まわせている。

場所

アンテン様の神社 (あんてんさまのじんじゃ)

突然街に現れる真っ黒い鳥居のある、神出鬼没の神社。社殿はなく、広い森と小さな祠だけがある。アンテン様に招かれた者しか入ることができず、自分の意思では訪れることができない。また、現実とは違う異界であり、現実ではありえない形の月が出ていることがある。遠い昔から多くの人々の願いを叶え続けてきた神社で、叶えたい願いがある場合は強い思いが込められている大事なものをお供えすると、思いの強さと願いの難易度が等価の場合は必ず叶えられる。ただし、アンテン様に願って叶えられたものは、願った人間が死ぬと同時に消えてしまう。森の中にはこれまで供えられてきたさまざまな貢ぎ物が放置されているが、道草をしてアンテン様の神社の敷地内に長居をすると、元の世界に戻ることができなくなってしまう。

書誌情報

アンテン様の腹の中 3巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第2巻

(2022-07-04発行、 978-4088831787)

第3巻

(2022-10-04発行、 978-4088832838)

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