概要・あらすじ
古代日本では、目に見えぬ神々が信仰されていた。しかし偉大な二つの大陸が塵と消え、大洪水が世界を襲った後、外國から目に見える神々が渡来する。目に見える神々のうち争いを好む威神は、目に見えぬ神々を信仰する村を襲って子どもを連れ去り、自らの信徒にして戦闘集団を形成。一方、平和を愛する亞神は、病や怪我を治したり威神を倒したりすることで人々の信仰を集め、威神と対立する集団を作っていた。
目に見えぬ神々を信仰する村で暮らす鷹野と青比古は、目に見えぬ神々から授かった知恵のひとつ・真言告の修行中、川に流された赤ん坊を拾う。真言告の力で一命を取り留めた赤ん坊は透祜と名付けられ、鷹野の妹として育てられることになった。
しかし透祜が7歳になった時、村が威神・銀角神 鬼幽の一派に襲われ、全滅してしまう。村を離れていて無事だった青比古、鷹野、透祜の3人は、まだ息のあった老巫女から、目に見えぬ神々から賜ったという御神宝を守り、目に見えぬ神々の知恵をよく学び伝えるように託される。
登場人物・キャラクター
透祜 (とおこ)
赤ん坊の時に川に流され死に瀕していた所を鷹野に拾われ、妹として育てられた7歳の女の子。透祜という名前は、村の巫女のひらめき・神来によってつけられた。目に見えぬ神々から授かった知恵のひとつ・真言告を唱えることができる巫女の素質を秘めている。青比古を兄のように慕い、鷹野を交え3人で行動することが多い。 聡明で快活だが、鷹野の前では寂しがり屋の甘えん坊になってしまう。一度言い出したら聞かない頑固な性格で、逆境を乗り越えるしなやかな強さを持ち合わせており、青比古の指導で力のある巫女に成長していく。七つ違いの育ての親、鷹野を心から慕っており、恋慕の情も抱いている。
鷹野 (たかや)
目に見えぬ神々を信仰する村で暮らす15歳の少年。両親を早くに亡くしたため、幼い頃から独りで暮らしていた。兄のように慕っている青比古から真言告の修行を受けていた時に、川岸に流れ着いた赤ん坊透祜を拾い、自分の妹として育てる。親代わりという以上に透祜に愛情を注いでおり、自らの半身と呼べるほど透祜と強い絆で結ばれている。 向こう見ずな上に強がりな性格で、辛くても滅多に弱音を吐かない強靱さを備えているが、精神的に落ち込んだ時は周囲が驚くほど脆い一面を露呈することがある。村が威神・銀角神 鬼幽の襲撃を受け全滅した後、透祜と青比古の3人で、亞神・正法神 律尊とその信徒の元に身を寄せる。 そこで正法神 律尊の信徒であった桂や一郎太に戦いの手ほどきを受け、強い戦士に成長する。
青比古 (あおひこ)
鷹野と共に目に見えぬ神々を信仰する村で暮らしていた、24歳の青年。亞神と見まごうばかりの美しい顔と、透き通るような声を持つ覡(げき)(男性のみこ)で、目に見えぬ神々の知恵のひとつ・真言告を使いこなす力を持っている。村が威神・銀角神 鬼幽の襲撃を受け全滅した際、目に見えぬ神々から賜ったという御神宝を守り、目に見えぬ神々の知恵をよく学び伝えるように老巫女から託され、その遺言を忠実に守ろうとする。 目に見えぬ神々の知恵を有することから亞神・正法神 律尊に強く望まれ、透祜と鷹野とともに、正法神 律尊の信徒の元に身を寄せる。己というものが希薄で人の情に疎く、命への執着もないため、人間離れした雰囲気を漂わせており、それが周囲の人間を苛つかせる原因になることが多い。
桂 (かつら)
『イティハーサ』の登場人物で、亞神・正法神 律尊の信徒である17〜8歳ぐらいの女性。腕っ節が強くて男気のある性格な上、顔に傷があることから美男子と間違われることが多い。律尊の信徒は、威神を追って旅をしていたため、威神・銀角神 鬼幽の襲撃を受けて全滅した透祜たちの村へと辿り着いた。生き残りである透祜たちと出会い、3人の面倒を見るようになる。 透祜と出会う前に、威神の下から逃げてきた一郎太を拾い、名前をつけて仲間として認めていたことがあるなど、困っている者を放っておけない姉御肌気質。11年前、生まれてすぐ死んだ後、神託に従って目に見えぬ神々に捧げられた弟がいた。不思議な魅力を持つ青比古に、強く心を惹かれている。
一郎太 (いちろうた)
亞神・正法神 律尊の信徒のひとりで、好戦的な性格の男性。10年前は那智と名乗り、威神・銀角神 鬼幽の信徒でも一、二を争う強い戦士だった。その後鬼幽の元を逃げ出して彷徨っていた際、桂たち律尊の信徒と出会い、仲間に加わった。もと威神の信徒という理由で疎まれる中、唯一自分を信じてくれたのが桂だったため、彼女に深い恋慕の情を抱いている。 そのため青比古を敵視し、隙あらば殺してしまおうと命を狙っている。その一方で、争いや人の命を奪うことに快感を覚える自分を恐れ、時折抑えがたい殺意に苛まれてもいる。
无祜 (よおこ)
威神・銀角神 鬼幽の信徒のひとりで、生き別れになった透祜の双子の姉妹。母親が巫女だったため、幼い頃から巫女になる教育を受けて育つ。しかし住んでいた村が威神に襲われ、誘拐されて鬼幽の信徒となっていた。自分の体に傷を負うと、自分を見失って凶暴な獣になるという神鬼輪を頭に嵌められている以外は、透祜とうり二つで、どちらか一方の体を傷つければ、もう片方の体にも傷がつくというほど、精神的・肉体的な結びつきが強い。 威神の下で意に染まぬ殺生をさせられていたせいか、表情が乏しく控えめな性格。自分が死ねば透祜も死んでしまうため、透祜のために生きている。
銀角神 鬼幽 (ぎんかくしん きゆう)
『イティハーサ』に登場する目に見える神々のひとりで、争いを好む威神。他の威神たちを束ね、亞神と対抗する勢力を形成しており、銀角神 鬼幽自身も首魁のひとりとなっている。目に見えぬ神々の知恵を得るために、各地の村を襲って巫女の資質を持つ子どもや、目に見えぬ神々が残した宝を奪って集めており、无祜を手中に収めたのもそのため。 自分の元を出奔した那智(一郎太)に対しては、自分と波長が合うからという理由で特に気に入っている。暗い欲望を剥き出しにしたような醜い形相の威神と違い、面で顔を隠している。また、不必要に人心を惑わすことはしないため、威神たちからも一目置かれている。
正法神 律尊 (せいほんしん りっそん)
『イティハーサ』に登場する目に見える神々のひとりで、平和を好む亞神。目に見えぬ神々の知恵を得るために、各地の村を襲っている威神・銀角神 鬼幽の一派を追って、信徒たちを率いて旅をしている。多くの亞神が人を癒すために力を使うのに対し、正法神 律尊は威神を滅することに力を使う。目に見える神々といえども力は有限であり、力を失えば消滅する運命であると知っているからだ。 自分と波長が合う青比古を気に入り、自分と一緒に行動するように暗示をかけ、信徒一行に加えさせた。人ならざる美しい姿をしている。
夜彲王 (やちおう)
目に見えぬ神々の意図により目覚め、龍に似た姿をした空を飛ぶ大蛇・ミズチに乗って、日本だけでなく、外國と呼ばれる世界各地の目に見える神々を滅している、謎の人物。神のみが持つ真の名前・神名を持つ唯一の人であり、すべての神々の神名を知っている。目に見えぬ神々の命令により、特別な力を持つ人間を捜している。
集団・組織
亞神 (あしん)
『イティハーサ』に登場する目に見える神々の一派で、平和を愛し人々と共に生きる善神。偉大な二つの大陸が塵と消えた大洪水を境に日本から去って行った、目に見えぬ神々と入れ替わるような形で外國から日本に渡来し、新たに人々の信仰を集め、奉られるようになった。正法神 律尊をはじめとする亞神はみな、人ならざる美しい姿形をしており、その姿が人々の心を魅了してやまない。 律尊のように人と同じ大きさの亞神が多いが、人の掌に乗るぐらい小さな姿の亞神も存在する。亞神は自身の霊力を使うことで、人の病を癒したり、眠らせたり麻痺させたりできるほか、破壊を好む威神を滅することができ、その技を総称して神業と呼ぶ。しかし霊力は有限で、神業で霊力を使い切ってしまうと、自身が消滅する危険がある。 争いと破壊を好む威神とは相容れないが、平和を好む性質から、積極的に戦おうという亞神は少なく、日本では威神の勢力が拡大しつつある。自分の霊力が及ぶ範囲内にいる人を、威神の誘惑から守る力も備えている。
威神 (いしん)
『イティハーサ』に登場する目に見える神々の一派で、争いと破壊を好む悪神。偉大な二つの大陸が塵と消えた大洪水を境に日本から去って行った、目に見えぬ神々と入れ替わるような形で外國から日本に渡来し、各地で争いを引き起こして、混沌とした世を作ろうとしている。人の心の奥底にある醜い欲望を引き出し、命を奪う行為に快楽を見い出させる力を持つ。 そのため威神に魅入られた人間は、理性を失って獣に成り下がり、他人の命や物を奪うことに抵抗がなくなってしまう。そのため平和を好む亞神と対立関係にあり、徒党を組んで邪魔な亞神を滅ぼそうと考える威神もいる。威神のひとり銀角神 鬼幽は複数の威神を束ね、遺された目に見えぬ神々の知恵を集めていた。 美しい亞神とは対照的に、歪んで醜い姿をした者が多い。
目に見えぬ神々 (めにみえぬかみがみ)
『イティハーサ』に登場する神々の一種で、約一万二千年前の古代日本で広く信じられていた存在。伝承によると、まだ世界が寒く、日本が、北は氷で、南は島々で大陸に繋がっていた頃、目に見えぬ神々は鳥の形をした浮き船で、日本各地に天下ってきたという。目に見えぬ神々は各地に赤い鳥居を建て、鳥居を通じて人々にさまざまな御神宝を与え、人々を獣のような生活から秩序ある人間らしい生活へ導いたという。 目に見えぬ神々は絶対にその姿を晒さなかったものの、時に眩い光となって鳥居から現れたという言い伝えも残されている。しかし百年ほど前に起きた大洪水の後、巫女への直接の御神託がなくなったこと、また時期を同じくして外國から目に見える神々が渡来したことから、目に見えぬ神々を信奉する村は次第に減っていき、先祖代々伝えられてきた目に見えぬ神々の知恵は失われつつある。 しかし目に見えぬ神々は、神のみが持つ神名を与えた人の子・夜彲王を目覚めさせ、目に見える神々を滅する事と、特別な力を持つ人間を捜す命令を与えるなど、意志を持って人間の世界に関わりを持っている。
その他キーワード
御神宝 (ごしんぽう)
『イティハーサ』に登場する目に見えぬ神々が人々に遺した、不思議な力を秘めた宝物。宝は神剣、珠飾り、神鏡の3種が複数存在し、目に見えぬ神々を信仰する村々に守り伝えられていた。透祜、青比古、鷹野たちが暮らしていた村にも御神宝があり、村が威神・銀角神 鬼幽の一派に襲われて全滅した際に、まだ息のあった老巫女から3人に3種の御神宝が託された。 鷹野の手に渡った神剣は、人間では倒す事ができないとされた威神を滅する力を持ち、青比古の手に渡った珠飾りは何度も甦る強い正の力・陽力を帯びていた。逆に負の力・陰力を帯びた御神宝も存在する。また旅の途中で桂に託された神鏡は実は欠片の1枚で、同じ形のものが7枚と、その中心に収まる丸い形のものが存在する。 鬼幽は神鏡を全て集めるため、日本各地の目に見えぬ神々を信仰する村々を襲撃している。
真言告 (まことのり)
『イティハーサ』に登場する、目に見えぬ神々の知恵のひとつ。目に見えぬ神々を信奉する人々の間で、代々口伝によって守り伝えられてきた呪文のようなもので、岩や樹木などの自然の力を借りて病気や怪我を治したり、重い石を持ち上げるといった効果を発揮する。真言告は特殊な発声方法を取得しなければ正確な発音ができないため、7歳から修行を始める。 単純に言葉を覚えればよいというものではなく、教える者と教えられる者が互いに意識を合わせることが必要なため、修行は1対1で行うのが理想とされている。真言告は2種類あり、主に治癒力を発揮する陽石の真言告と、死や病気をもたらす陰石の真言告がある。陽石の真言告は正の力を帯びた陽石、陰石の真言告は負の力を帯びた陰石があると効力が増幅される。 陽石も陰石も自然の岩石に混じって存在しているが、複数の真言告を使いこなす者でも、滅多に見つけることができないほど貴重。目に見えぬ神々が人々に遺した不思議な力を秘めた宝物・御神宝の中には、強い陽石の力を秘めた珠飾りと、強い陰石の力を秘めた珠飾りがあり、それぞれ一時的に力を使い果たしても、時間が経つと復活する不思議な効力を持っていた。