世界観
2016年のオーストリア首都であるウィーンが舞台。作品内ではミリオポリスと呼称されており、機械文明が現実より格段に進歩している反面、少子高齢化がますます促進。社会情勢も悪化しており、テロの横行が日常化してしまっている。これに対抗すべく、警察は特殊部隊であるMPBを結成。その主戦力を、猋のような、特甲児童を中心とした小隊が担っている。
あらすじ
涼月編
MPBが誇る特殊部隊である猋の小隊長を務める涼月・ディートリッヒ・シュルツ。彼女とその仲間たちは、銀行の襲撃を目論むテロリストたちと戦闘状態に突入。自慢の特甲を活かし、難なく鎮圧したかに見えた。しかし、涼月の前に現れたオットー・千代田・ワイニンガーという禿頭の男が、大型の銃ヘラクレスで彼女の手足を吹き飛ばすほどの重傷を負わせてしまう。オットーはそのまま逃走するが、涼月は彼を拳銃男と呼んで雪辱を誓うのだった。
陽炎編
病院を襲撃するテロリストたちを鎮圧するため、陽炎・サビーネ・クルツリンガーはビルの屋上で狙撃の機会をうかがっていた。本人の腕と仲間たちの活躍が功を奏し、やがてテロは鎮圧されるが、一件落着といった矢先、陽炎は何者かの狙撃を受ける。右手の装甲にダメージを追う彼女の耳には、「克服あれ」という謎の声が響く。こうして陽炎は、迫りくる過去との対峙を余儀なくされていく。
夕霧編
猋に所属する少女・夕霧・クニグンデ・モレンツは、壊れた携帯電話に語り掛けることにより、会えなくなった母親との会話を脳内で展開し、精神の安定を図っていた。しかし普段はそのような悲劇的な雰囲気はおくびにも出さず、仲間たちと日々を楽しんでいた。そんな中、シュテファンと呼ばれる謎の男が水面下で行動を開始。彼は自らを「アブラハムの子」と名乗り、夕霧に忍び寄るのだった。
フラジャイル編
ロシアの人工衛星アンタレス1140号が、ミリオポリス付近の森に落着し、落下地点では多くのテロリストたちが、そのパーツを狙って動き始めていた。涼月・ディートリッヒ・シュルツはテロリストの鎮圧に向けて動き出すが、そんな中、ロシアの特務官であるユーリー・キルツキー大佐と遭遇。パーツを巡って戦闘状態に陥る。その場は痛み分けに終わるものの、ユーリーに対して苛立ちを募らせる涼月。ところが彼女は、オーギュスト・天龍・コールより、ユーリーの率いる部隊に合流し、パーツ回収に協力するという、納得しがたい命令を受ける。
メディアミックス
本作『オイレンシュピーゲル』は、冲方丁による同名の小説をコミカライズした作品。ひとつのエピソードを1巻もの長さで丁寧に描き上げているのが特徴で、原作者をも驚嘆させている。また、本作と同じ場所、同じ時間で展開されるもう1つの物語である『スプライトシュピーゲル』に関する描写もあり、同作品の主人公である鳳・エウリディーチェ・アウストも登場している。
登場人物・キャラクター
涼月・ディートリッヒ・シュルツ (すずつきでぃーとりっひしゅるつ)
MPBの特殊部隊、猋の小隊長を務める14歳の少女。MPBからは「黒犬」のコードネームで呼ばれている。両腕の特甲から電撃を展開することが可能で、これを活かしたボクシングによる格闘戦を得意とする。「対甲鉄拳の涼月」の異名で恐れられている。さばさばした性格で負けず嫌い。露悪的な発言をすることもあるが、強い正義感の持ち主。 14歳であるにもかかわらず喫煙をしているため、陽炎・サビーネ・クルツリンガーからは、ニコチンの影響で成長が止まっている、とからかわれることもある。生まれた時から四肢の神経に異常があり、立つ、歩くという行動を一切取れなかった。それにもかかわらず、「いつか歩くことができる」と病的なまでに思い込む両親は、涼月・ディートリッヒ・シュルツを病院へ連れていくこともせず、結果として四肢を失うことになった。 その後、両親の責任を問う形で国へと引き取られ、特甲児童となった。
陽炎・サビーネ・クルツリンガー (かげろうさびーねくるつりんがー)
MPBの特殊部隊、猋に所属する14歳の少女。MPBからは「紅犬」のコードネームで呼ばれている。冷静沈着なライフルの名手で、チームの中では狙撃手の役割を担っており、その活躍から「魔弾の射手の陽炎」と呼ばれている。一見真面目だが、苛立ちを覚えた時は皮肉を言うこともある。幼い頃は自分を「彼女」と呼んでおり、両親によく懐いていた。 しかし、父親であるゲオルグ・ヘンリケ・フォン・クルツリンガーの誤射とされる銃撃によって神経麻痺を起こして四肢の自由を奪われ、母親も家族のもとから去ってしまう。さらにゲオルグも罪悪感から精神を病んでしまい、ついにはライフルで自殺。それを目の当たりにしたため、分裂症気味の性格となる。国の支援により特甲児童となり、狙撃手としての訓練を積む。 その傍らで父性愛を求めるがあまり、年上の男性と頻繁に交際するようになり、彼らとの交流を通じて、いつしか情報通となった。ミハエル・宮仕・カリウスに父親の面影を見ており、憧れを抱いている。
夕霧・クニグンデ・モレンツ (ゆうぎりくにぐんでもれんつ)
MPBの特殊部隊、猋に所属する14歳の少女。MPBからは「白犬」のコードネームで呼ばれている。心優しく天真爛漫な性格で、歌とダンスが大好き。また、洞察力も高く、その愛らしい風貌も相まって、世間からは絶大な人気を集める。その優しさは涼月・ディートリッヒ・シュルツ、および陽炎・サビーネ・クルツリンガーにも向けられており、彼女たちからも強く信頼されている。 ただし歌は現在の社会や施設などを痛烈に風刺したものが多く、ひとたび夕霧・クニグンデ・モレンツが歌い始めると、その歌声が住民に聞こえないよう、MPBによってあらゆる対策を講じられるほど。その特徴から「悪ふざけの夕霧」と呼ばれる。また、その愛らしさとは裏腹に、戦闘では指先から無数のワイヤーを展開し、対象をバラバラに寸断してしまう。 対多数戦闘に特化しているため、殺害数は猋随一。かつては母子家庭で、夕霧・クニグンデ・モレンツは母親を敬愛していたが、極貧に苦しむ母親によって意図的に四肢不随にさせられ、国に引き取られて特甲児童となっている。
吹雪・ペーター・ジュライヒャー (ふぶきぺーたーじゅらいひゃー)
MPBに所属する14歳の少年。頭脳明晰で、猋のメンバーが四肢にダメージを負った時に、マスターサーバー刕にアクセスして新しい特甲を転送するなどといった、サポートの役割を担っている。吹雪・ペーター・ジュライヒャーも特甲児童だが、運動音痴で特甲を満足に扱えないため、戦闘に参加することはない。涼月・ディートリッヒ・シュルツに想いを寄せており、彼女の方もまんざらではない様子。 しかし、心優しく控え目な性格なため、普段は涼月からいじられることが多い。
フランツ・利根・エアハルト (ふらんつとねえはると)
MPBの副長を務める青年。二重三重の搦手を得意とする策士で、「クモの巣フランツ」のあだ名を持つ。その反面、奔放な猋のメンバーに手を焼かされることも多く、愛車を戦闘に巻き込まれて大破させられたりと不運に見舞われることも多い。しかし、責任感の強さは本物で、猋のメンバーに対しても、内心では常に気にかけている。
ミハエル・宮仕・カリウス (みはえるみやしかりうす)
MPB内でドランク隊の中隊長を務めている男性。優れた腕を持つ狙撃手で、日本国籍の友人からもらった「中」のマージャンパイを、お守りとして常に所有している。病院が狙撃手によって襲撃された事件の裏に、ライフル友愛会が関係していることを感づいており、関係者と目される陽炎・サビーネ・クルツリンガーと接触。 得ていた情報をもとに、テロリストとつながっていたカール・マキシム・フォルメンハウゼンを捕縛した。のちに陽炎に対し、ミハエル・宮仕・カリウス本人もライフル友愛会と関係があったことを語った。
オーギュスト・天龍・コール (おーぎゅすとてんりゅうこーる)
MPBの隊長を務める壮年の男性。寡黙だが威厳のある男性で、「沈黙のオーギュスト」の異名を持つ。一方で、涼月・ディートリッヒ・シュルツの冗談としか思えない質問に対して真面目に答えるなど、茶目っ気のある一面も見せる。プリンチップ株式会社の暗躍に目を光らせており、リヒャルト・トラクルがテロリストを使って猋を襲撃させたことを宣戦布告と受け取り、MPBの総力を挙げて対決する姿勢を示した。
マリア・鬼濡・ローゼンバーグ (まりあきぬろーぜんばーぐ)
MPBで医師を務める女性。猋の体調管理や、特甲のチェックなどを任されている。猋のメンバーにとっては姉のような存在で、生身の手足を勧めたり、彼女たちを前線に出すことを快く思っていなかったりと、時折心配する様子を見せる。また、マリア・鬼濡・ローゼンバーグ自身はヘビースモーカーだが、涼月・ディートリッヒ・シュルツが喫煙することには、未成年だからという理由で反対している。
ミゲル・千々石・ベイカー (みげるちぢわべいかー)
MPBの広報部に所属する青年。オネェ言葉で話すオカマで、ミュージカルスターのようなファッションに身を包んでいる。常にテンションが高く、猋に対してもよく言えば親しげ、悪く言えば馴れ馴れしい態度をとる。アンタレス事件では、夕霧・クニグンデ・モレンツとともに、市民に混乱が広がらないよう広報活動に従事している。
鳳・エウリディーチェ・アウスト (あげはえうりでぃーちぇあうすと)
MPBとは別の組織の小隊に所属する特甲児童の少女。背中にアゲハ蝶のような羽を展開させることが可能。その姿と実際に空を自在に飛び回る姿から、猋の面々からは「飛べる特甲児童」と呼ばれたこともある。アンタレス事件では、猋とは別の場所でテロリストと戦っており、ヴィエナ・タワーの崩壊に巻き込まれた涼月・ディートリッヒ・シュルツを救出するなどの活躍を見せた。 冲方丁の小説である『スプライトシュピーゲル』の主人公。
アリ・シュルツ (ありしゅるつ)
涼月・ディートリッヒ・シュルツの父親。涼月が成長しても手足を動かせないことに不信感をまったく抱かず、妻とともにいつか歩くことができると放置し続けていた。その結果、涼月は四肢を失い、機械の義肢を取り付けることを余儀なくされ、そのまま離れ離れとなってしまう。しかし涼月はアリ・シュルツら両親を恨んではおらず、偶然アンタレス1140号の落着現場で拘束されていたところを彼女に発見され、のちにMPBに救助されている。
ゲオルグ・ヘンリケ・フォン・クルツリンガー (げおるぐへんりけふぉんくるつりんがー)
陽炎・サビーネ・クルツリンガーの父親。ライフル友愛会に所属するライフルの名手で、引き金を引く時は必ず「克服あれ」と唱える。これは、ライフルを扱う際には、一瞬で生命を奪ってしまう重みと恐怖を克服する精神が不可欠という意味を持つ。しかし、娘である陽炎の四肢を不随にしてしまったと思い込み、精神を病んでしまう。それからは、奴隷のように陽炎に尽くし続け、最期はライフルの銃口を自らに向け、彼女の前で自殺した。
オットー・千代田・ワイニンガー (おっとーちよだわいにんがー)
左腕を機械義肢に改造された禿頭の男性。銀行を襲撃するテロリストの支援を行い、鎮圧に駆けつけた涼月・ディートリッヒ・シュルツと戦闘。大型拳銃ヘラクレスを使い、一度は彼女の特甲を破壊して撤退に追い込んだ。地元で右手の機械化を余儀なくされ、周囲からの冷遇に精神を歪めていく。さらにはミリオポリスで右派的思想にかぶれてしまい、そこをリヒャルト・トラクルに付け込まれている。
カール・マキシム・フォルメンハウゼン (かーるまきしむふぉるめんはうぜん)
かつてライフル友愛会に所属していた壮年の男性。リヒャルト・トラクルからライフル銃ディオスクロイを受け取り、それを弟子に持たせてテロリストの支援を行わせた。サディステックな性格の持ち主で、過去を知るため詰め寄る陽炎・サビーネ・クルツリンガーに向けて、トラウマを抉りだすような言葉を吐き捨てる。これが涼月・ディートリッヒ・シュルツの怒りを買い、彼女の手で殴り倒され、駆け付けたドランク隊によって拘束された。
シュテファン
自らを「アブラハムの子」と名乗る青年。事あるごとに童謡「アブラハムの子」を口ずさむという奇癖がある。夕霧・クニグンデ・モレンツに並ならぬ執着を抱いており、彼女を自らのものにする機会をうかがっていた。そこをリヒャルト・トラクルに付け込まれ、彼の支援を受けて夕霧を拉致する計画を実行に移す。猋を憎むチンピラにトレーラーを与え、囮として涼月・ディートリッヒ・シュルツと陽炎・サビーネ・クルツリンガーを陽動。 夕霧が苦手とする暗闇の中に誘い込んで銃撃するが、完全に我を失った彼女に逆襲され、惨死した。
リヒャルト・トラクル (りひゃるととらくる)
兵器製造会社とされるプリンチップ株式会社の工作員を務める壮年の男性。特甲の元になる機械義肢の開発者。特甲児童は自分の求めたものとは違うとして疎んでいる。そこで、猋を排除するためにオットー・千代田・ワイニンガー、カール・マキシム・フォルメンハウゼン、シュテファンを差し向け、彼らに対しては「トラクルおじさん」と名乗っている。 マリアから「あの男」と呼ばれるなど、MPBでも要注意人物としてマークされており、オットー達の失敗を受けて、新たにテロリストたちと接触。核を用いてミリオポリスを破壊することを新たに唆(そそのか)している。
ユーリー・キルツキー (ゆーりーきるつきー)
ロシアの特務官を務めている42歳の男性。右手は機械義肢になっており、発火させられるという特徴を持っている。かつて作戦の中で、渋々ながら7000人の民間人を犠牲にした過去を持ち、涼月・ディートリッヒ・シュルツからは明確な敵意を抱かれている。しかし、アンタレス事件ではMPBからの指示により、涼月と共同でアンタレス1140号のパーツ回収に従事。 互いに衝突を繰り返しながらも、やがて部下とともに絆を深めていく。
ヨシフ
ユーリー・キルツキーの副官を務める中年の巨漢な男性。怪力だが気さくな性格で、涼月・ディートリッヒ・シュルツを「スズツキー」と呼んで親しむ。ドイツ語は片言で、時折順序が逆になることがあるが、涼月との会話に支障はない。怪力を活かした突撃は、テロリストの部隊程度なら難なく鎮圧可能で、ユーリーからの信頼も厚い。
ヨーコ・イマムラ (よーこいまむら)
待望の会のリーダーを務める日本人女性。電子的手段でアンタレス1140号を落下させ、さらに動力部である原子炉を強奪したと表明。他のテロリスト組織と提携し、核兵器を都市部で使用しようと暗躍する。日本文化にかぶれており、自らが用済みになってからは情報を渡さぬよう、切腹した後に自ら介錯をすることで自決しようとした。短刀で自らの首を斬ろうとしたところを、陽炎・サビーネ・クルツリンガーの狙撃によって阻止される。 しかし既に切腹によって出血多量状態にあり、間もなく死亡した。
ロートヴィルト・佐脇 (ろーとゔぃるとさわき)
キャラバンに所属する、日本人の青年。ミリオポリスのことを憎悪しており、核によって消滅することを切望している。キャラバンはおろか、テロリストグループの中でも最強クラスの狙撃手で、胡坐(あぐら)をかいたまま引き金を引くという、独特の狙撃スタイルを取る。陽炎・サビーネ・クルツリンガーをドランク隊における最大の障壁とみなし、彼女と狙撃戦を繰り広げた。
マチルダ
タフタのトップに立つ老年の女性。リヒャルト・トラクルからは「マチルダ婆さん」と呼ばれている。ドイツ語をしゃべるが訛りがひどく、ロートヴィルト・佐脇には聞き取れないほど。優秀な科学者で、アンタレス1140号がミリオポリスに落着するようコントロールした。
密告者 (みっこくしゃ)
禿頭の男性。原子物理学に精通しているが、それを仕事に生かすことができず、日雇いの生活を送っていた。働いていた建設現場で偶然、666の存在にたどり着き、それを密告するためテレビ番組に出演した。スタジオでは誰一人まともに取り合わなかったうえ、出演後に白き盾の刺客によって暗殺される。しかし、密告者の行動は、夕霧・クニグンデ・モレンツが666の全貌を知るとともに、白き盾に迫るきっかけとなった。 本名は不明だが、夕霧からは「電子レンジ男さん」という呼称で記憶されている。
ヴェンツェル・エルメンライヒ (ゔぇんつぇるえるめんらいひ)
白き盾のトップに立つ老年の男性。表向きは建設会社の社長で、ヴィエナ・タワーの開発を指揮していた。身体が癌に冒されており、車椅子の生活を余儀なくされている。ミリオポリスを「ソドムとゴモラ」になぞらえており、都市の消滅を企む。しかし、666を完成させ、あと一歩というところで夕霧・クニグンデ・モレンツの襲撃を受け、瀕死の重傷を負う。
イヴ
白き盾の構成員で、ヴェンツェル・エルメンライヒの護衛を務めている。見た目は若い女性だが、全身がほぼ機械化されているサイボーグ。素手で特甲児童を抑え込むほどの怪力を誇る。夕霧・クニグンデ・モレンツを追い詰めるが、駆け付けた陽炎・サビーネ・クルツリンガーの狙撃を受け、破壊された。
集団・組織
MPB (えむぺーべー)
オーストリアの国家憲兵隊によって編成された治安維持部隊。相次ぐ凶悪犯罪や、テロなどに対抗するための組織。人員、武装共に高レベルであるうえ、高度の演算装置であるマスターサーバー刕と、特甲児童を擁するため、他の追随を許さない戦力を保持している。
猋 (けるべるす)
MPBに属する、特甲児童による遊撃小隊。涼月・ディートリッヒ・シュルツ、陽炎・サビーネ・クルツリンガー、夕霧・クニグンデ・モレンツの3人で構成されている。最新式の特甲を装備しているため、戦闘能力はMPBのなかでも飛び抜けているとされている。それ故にリヒャルト・トラクルなど、彼女たちを敵視する者も存在する。
ドランク隊 (どらんくたい)
ミハエル・宮仕・カリウスが率いるMPBの中隊。ミリオポリスに蔓延(はびこ)るテロリストの掃討を主な任務としている。猋ともつながりがあり、中でも陽炎・サビーネ・クルツリンガーは、アンタレス事件でドランク隊とともに、自由戦士団やジョハルの手などのテロリストたちと戦っている。
プリンチップ株式会社 (ぷりんちっぷかぶしきがいしゃ)
企業を装っているテロ支援組織。ヘラクレスやディオスクロイなどの強力な銃器を開発。エージェントであるリヒャルト・トラクルの企みによって、猋と因縁を持つテロリストに譲渡している。また、アンタレス事件では、7つのテロ組織に武器を提供してバックアップを謀っている。
ライフル友愛会 (らいふるゆうあいかい)
ゲオルグ・ヘンリケ・フォン・クルツリンガーやカール・マキシム・フォルメンハウゼンが所属していた同好会。ライフルの名手によって構成されており、幼い頃の陽炎・サビーネ・クルツリンガーとも交流があった。また、ミハエル・宮仕・カリウスとも関わりを持つ。現在は既に存在しない。
待望の会 (たいぼうのかい)
ヨーコ・イマムラが率いる日本人による過激派組織。電子的手段でロシアの人工衛星であるアンタレス1140号をミリオポリスに落着させ、他のテログループと提携して核の運搬、及び兵器化を成し遂げようとしている。ドランク隊により鎮圧され、ヨーコも自決したため壊滅した。
自由戦士団 (じゆうせんしだん)
キプロス系のトルコ人で構成されている過激派組織。他のグループと提携し、核兵器の完成を目論んでいる。待望の会からアンタレス1140号の原子炉を受け取り、列車を使って輸送を継続しようとするが、ドランク隊を含めたMPBの部隊に追いつかれて交戦。しかしその隙を突く形で、キャラバンによって原子炉の輸送ルートを河に移され、さらにロートヴェルト・佐脇の狙撃で輸送していた列車は大破。 その巻き添えを食らう形で全滅してしまう。
ジョハルの手 (じょはるのて)
チェチェン人によるテログループ。他のグループと提携し、核兵器の完成を目論んでいる。タフタからアンタレス1140号の原子炉を受け取り、トレーラーで搬送していたところで、ドランク隊と戦闘状態に突入。陽炎・サビーネ・クルツリンガーやミハエル・宮仕・カリウスの奮戦によって次第に追い詰められ、ほぼ壊滅状態にまで陥るが、ギリギリのところで核を白き盾に譲渡し、その役目を終えた。
ウラジャーイ
ロシア人で構成されている過激派組織。他のグループと提携し、核兵器の完成を目論んでいるとされていた。しかし彼らの目的は別にあり、かねてより提携していたタフタが解析したデータから、原子炉とは別の核ミサイルのありかを掴んでおり、それをアメリカCIAに売り渡そうと企んでいた。それを掴んだユーリー・キルツキーと、彼に同行していた涼月・ディートリッヒ・シュルツに発見され、彼らと戦闘。 さらにユーリーの部下たちが介入したため劣勢に追いやられ、目的を果たせぬまま全滅した。
キャラバン
複数の国籍による人物たちが集って形成しているテロ組織。水面下における活動が主で、マスターサーバー刕でも、その存在を確認することができなかった。アンタレス1140号の原子炉を輸送していたジョハルの手と、それを阻止しようとするドランク隊の戦闘に介入。列車輸送されていた原子炉を秘かに海上輸送に切り替え、口封じとして列車を爆破した。
タフタ
マチルダが率いる科学者たちのグループ。ほぼ女性のみで構成されている。国際法で禁じられた違法な科学を売り物にする放浪者であるとされており、アンタレス1140号のプログラムを狂わせて落下させたり、その原子炉を基にした新型の核兵器を設計するなどの暗躍を見せる。その見返りとして、リヒャルト・トラクルから新型のトレーラーを受け取り、ミリオポリスを後にした。
白き盾 (ゔぁいすしると)
ヴェンツェル・エルメンライヒによって率いられるテログループ。オーストリア軍内部に浸透しており、戦力は7つのテログループの中でも随一とされる。ジョハルの手から原子炉を受け取り、ヴィエナ・タワーそのものを巨大な核爆弾として炸裂させて、ミリオポリスを消滅させようと目論んでいた。しかし、事前に情報を得ていた夕霧・クニグンデ・モレンツの奮戦により、構成員はほぼ全滅。 ヴェンツェルも右手を切断されて間もなく死亡し、組織は壊滅した。
場所
ミリオポリス
オーストリアの首都。かつては「ウィーン」と呼ばれており、現在は2500万人もの人口を誇る国際都市。表向きは平和な街とされていたが、21世紀を境に、超少子高齢化による人材不足と凶悪犯罪、テロの横行という問題が発生している。その対策として、政府は11歳以上の全市民に労働権を与え、肉体に障害のある児童には、無料で機械の身体を与えるといった政策を発表している。
子供工場 (きんだーゔぇるく)
ミリオポリスに存在している施設の通称。事故や事件によって身体の機械化を余儀なくされた少年少女が集められ、義肢の扱い方を学ぶ場所である。子供工場で優秀な成績を収めた者は、特甲児童となる資格を得ることができる。涼月・ディートリッヒ・シュルツ、陽炎・サビーネ・クルツリンガー、夕霧・クニグンデ・モレンツの3人はここで出会い、ともにMPBへと入隊する道を選んでいる。
ヴィエナ・タワー (ゔぃえなたわー)
ミリオポリスの経済の象徴とされている巨大なタワー。ヴェンツェル・エルメンライヒの主導で建設された。しかし実際はミリオポリスを破壊するためのもので、アンタレス1140号の原子炉を基に作られた新型爆弾666を組み込むことにより、巨大な核弾頭として機能する。
イベント・出来事
アンタレス事件 (あんたれすじけん)
ロシアの人工衛星であるアンタレス1140号の落着を皮切りにミリオポリスで発生した、一連のテロ事件の総称。テロ組織の目的は人工衛星のパーツである原子炉を輸送し、核兵器として組み上げるというもの。MPBは総力を挙げ、多方面からこれを阻止するために動いた。結果、核兵器の完成は阻止され、ミリオポリスの住民たちに知られることなく事態は収束した。
その他キーワード
特甲 (とっこう)
優秀な児童に対し、国から与えられる機械の義肢。頑強であるうえに痛覚がなく、破壊されても、所有者が申請すれば、マスターサーバーから新しい特甲が転送される。このため、手足に致命的なダメージを受けても、即座に戦闘に復帰することが可能となっている。特甲には強化段階が存在し、段階は「レベル~」の形で表現される。
マスターサーバー刕 (ますたーさーばーれい)
MPBで使用されている、超高性能の演算装置。都市内のあらゆる通信をリアルタイムで解析し、情報を出力する。特甲の制御なども可能で、特甲児童の四肢に異常が発生した場合、マスターサーバー刕に要請することで、新しい特甲を転送させられる。
ヘラクレス
プリンチップ株式会社によって開発された大型拳銃。口径はもとより破壊力もすさまじく、鉄板に易々と大穴を開け、涼月・ディートリッヒ・シュルツの特甲すら一撃で撃ち抜いている。「プレゼント」の名目でリヒャルト・トラクルからオットー・千代田・ワイニンガーに譲渡されており、銀行襲撃犯をサポートするために使われた。
ディオスクロイ
プリンチップ株式会社によって開発された超小型ライフル。プラスチック並の重量ながら、800メートル先の硬貨を撃ち抜く精度を誇る。「プレゼント」の名目でリヒャルト・トラクルからカール・マキシム・フォルメンハウゼンに譲渡された。
アンタレス1140号 (あんたれすせんひゃくよんじゅうごう)
ロシアの軍事偵察衛星。最高度の暗号システムによって守られた機密データが内蔵されていた。しかしそれを欲したタフタの手によりコントロールを奪われてしまい、ミリオポリスの森へと落着する。さらに、アンタレス1140号の原子炉および内蔵されたデータを求めて複数のテロリストが動き出し、のちにアンタレス事件と呼称される一大事件に発展することとなった。
666
アンタレス1140号の原子炉を基に作られたとされる、新種の爆破装置。ヴィエナ・タワーに取り付けられることにより、タワー自体を強力な核兵器に変貌させることができる。密告者はこれを巨大な電子レンジと表現したため、夕霧・クニグンデ・モレンツからは「電子レンジ爆弾」と呼ばれることとなった。
特甲児童 (とっこうじどう)
国から特甲を与えられた子供たちの総称。身体能力や頭脳、直感や反射神経などに優れた児童のみが特甲児童となることができる。特甲による機能をフルに使えるため、その戦闘能力は訓練された大人はおろか、兵器にすら匹敵する。ミリオポリス政府は、頻発するテロへの対策として、特甲児童による戦闘チームを結成しており、猋もまた、その1つである。
犬笛 (いぬぶえ)
猋が使用する通信手段。特殊な装置を脳に埋め込むことによって行える。思考するだけで無線を飛ばして会話することができ、会話の相手を選択して内緒話なども可能。ただし、無線会話であるため、傍受される可能性もゼロではなく、作戦行動中はMPBの判断により使用不可能になる場合もある。
クレジット
- 原作
関連
スプライトシュピーゲル
冲方丁の同名ライトノベルを原作とした近未来SFアクションのコミカライズ作品。さまざまな理由で肉体を失ってしまった美少女たちが、機械を移植したサイボーグ「特甲児童」として政府機関に所属し、活躍する姿を描... 関連ページ:スプライトシュピーゲル