あらすじ
智慧との出会い
300年前にマーシパルスが発生し世界はテクノロジーを失い、人類も祖先病の発症により衰退の一途をたどっていた。世界にはわずかに残った「色素」を巡って争いが絶えず、その中でも宗教団体「イオドプシー教団」は色を神格化して信者を増やし強大な勢力となり、世界を席巻するようになっていた。その教団を不審に感じていたアヴィディアは、独自に色素の研究を行ってイオドプシー教団よりも先に色素を見つけ出そうと行動を開始。そんなある日、行きつけの店で働く少女がイオドプシー教団によって誘拐されたという事件を聞きつけたアヴィディアは、少女の救助に成功する。少女の名前は「智慧」といい、その素顔は祖先病に侵されていない旧態の人類の顔だった。アヴィディアはイオドプシー教団が智慧をなんらかの計画に巻き込もうとしていることに気づき、彼女を匿(かくま)うことにする。
教団からの刺客
智慧がアヴィディアに匿われていることを知ったイオドプシー教団は、智慧を奪うために、「色素」をもとにして作った肉体改造薬を投与したニンムとジカイムを刺客として送り込む。二人は智慧を最初に誘拐した犯人であり、それを阻止したアヴィディアに対して強い執念を抱いており、自ら肉体に改造を重ねてすでに人間ではなくなっていた。アヴィディアは二人と対峙(たいじ)し、自身が発明した武器で応戦し勝利を得るが大きなダメージを負ってしまう。それを案じたコヴェテスは、アヴィディアに協力者を求めるように助言する。そこでアヴィディアは、知り合いである学者のザシュウと協力関係を結ぶが、ザシュウもまたイオドプシー教団の人間であった。さらにニンムとジカイムの弟分であるフセムも、アヴィディアの前に立ちはだかり民衆を巻き込んだ争いを起こす。
「出開帳」の開始
イオドプシー教団は、総帥の目的である色彩神の復活のためにニンム、ジカイム、フセムを人柱として捧げ、計画を新たな段階へと進めようとしていた。それを知ったアヴィディアは、イオドプシー教団が裏で糸を引いている骨董品のオークション会場に、智慧とコヴェテスを潜入させる。そこでは大富豪のセンゼンがひそかに所持していた大きな赤色の色素の結晶が出品されていた。
登場人物・キャラクター
アヴィディア
色力を研究する学者で元博士の男性。自らのことをあまり語らず、つねに冷静沈着に立ち振る舞っている。全身を自らが発明した「色力式外骨格」という鎧(よろい)で包んでおり、素顔は不明。色力式外骨格により食事を必要とせず、色力を動力源にして戦闘能力も非常に高い。現在は国からの指定を受けて色素の研究をしているが、イオドプシー教団が色素のエネルギーを使って世界を支配しようとしていることを察し、それを阻止すべくアヴィディア自身が先に色素を見つけようとしている。地下水路に居住地を作って拠点としており、その奥には地層に残されたわずかな微粒子を集めて精製した「緑色素」のサンプルがあり、その色素のエネルギーを活用した発明を多数行っている。代表的なものには武器として使用する「色力照射装置」がある。智慧とは行きつけの飲食店「カンゴシャ」で顔を会わせるために面識があったが、イオドプシー教団が智慧を狙っていることや、智慧の身の上を聞いたことで助手としてそばに置くことになる。基本的に食事はしないが紅茶が好物で、その味の違いも鋭く感じ取ることができる。
智慧 (ちえ)
祖先病の影響を受けていない黒髪の少女。肌の色が失われている以外は以前の人間の顔をしている。数年前に無人の町、チュウドウの廃病院で目を覚ましたが、それ以前の記憶がすべて失われている。その後、飲食店「カンゴシャ」でウェイターとして働いていたが、イオドプシー教団の計画によって誘拐されそうになったところをアヴィディアに救われる。その後は行動を共にするようになり、現在はアヴィディアの研究助手として働いている。当初は人間だと思われていたが、実際は人工のアンドロイドで、祖先病が発生する以前に作られていたことが発覚する。しかし体温もあり、食事も必要とすることから智慧自身はふつうの人間だと思い込んでいた。ふだんは異形の顔のマスクをかぶって生活している。
コヴェテス
アヴィディアと親交の深い情報屋の男性。気さくな性格で人当たりもいいが、必要な情報を得るためであれば政府の情報バンクにもハッキングする大胆さを持っている。食べることが大好きで、どこに行っても食事の心配ばかりしている。アヴィディアを信頼して行動を共にしており、危険を省みずに手助けしている。生活面の心配など智慧のことも気にかけており、彼女がアンドロイドだと知ったあとも、好奇の目を向けることはなかった。
総帥 (そうすい)
イオドプシー教団の総帥を務める人物。全身を教団の制服とマスクで包んでおり、性別や名前、素顔などはいっさい不明。総帥自身の野望の成就のため、智慧を利用しようと狙っている。残った色素を集めてもう一度「マーシパルス」を引き起こし、新たな世界を作り出そうとしており、その最終目的として「色彩神」の復活を掲げている。
ニンム
ジカイムとフセムの兄貴分的な男性。イオドプシー教団に依頼されて智慧を誘拐するも失敗し、警察によって勾留される。その後イオドプシー教団に引き取られ、色素を利用した薬品により人体改造させられ、異常なまでの戦闘能力を手に入れる。アヴィディアのことを「黒服」と呼んで強い敵対心を抱いていたが、戦闘後に死亡した。
ジカイム
ニンムの弟分の男性。ニンムとフセムと共に智慧を誘拐しようとした。機械いじりに関しては天才的な才能を発揮し、三人で行動していた時は情報をまとめる役割を担っていた。イオドプシー教団に連れて行かれ、色素を使った薬品と義体による肉体改造技術を知ると、ジカイム自身を実験対象にして義体を組み込んでいき、人間の形をなくしてしまう。自分の身体を制御できないものの、会話は可能。アヴィディアとの戦闘後、イオドプシー教団によって回収され修復された。しかし教団の情報をハッキングして、自分やニンム、フセムを人柱にする目的だと知ると、総帥を狙って暴走した。教団の計画を潰すため、フセムを逃がそうとしたが自爆して死亡する。
フセム
ニンムの弟分の男性。ニンムとジカイムと共に智慧を誘拐しようとした。三人の中では一番下っ端であるが、もともとは強気な性格で好戦的だった。しかしイオドプシー教団に連れて行かれ、兄貴分と慕っていたニンムとジカイムが改造され、化け物になったことを目の当たりにしたショックで改造を拒否した。ニンムとジカイムの死後も教団には反発していたが、総帥によって兄貴分の仇(かたき)としてアヴィディアを殺害しようとする目的を利用され、最終的には自らも肉体改造して復讐のため、すべてを破壊することを決意した。アヴィディアとの対決では敗北しつつ一命を取り留めていたが、総帥によって殺害された。
ダイシ
警察官の男性。イオドプシー教団にかかわる事件がもみ消されていることを知り、違法と知りながら独自で調査している。アヴィディアのことは当初教団側の人間ではないかと疑っていたが、ニンムとジカイムとの戦闘に立ち会って味方だと判断し、イオドプシー教団を調査する協力を持ちかけたが断られている。しかし目的を同じにするということで、情報交換なども行っており実質協力関係となっている。
ウスイ
ダイシの部下である警察官の男性。ダイシと行動を共にすることが多い。ニンムとジカイムが街で暴走をした時には喧騒(けんそう)の中で調査していたアヴィディアを発見し、追跡した。それによりアヴィディアが教団側の人間ではないことを知る。
ザシュウ
色力を研究する元教授の男性。色素精製技術の基礎を作った色力学の第一人者。現在も独学で研究を続けている。アヴィディアとは旧知の仲で、イオドプシー教団と戦うために協力を求められて承諾した。しかし実は教団側の人間であり、アヴィディアの色力式外骨格を強化する実験中にその正体を明かし、アヴィディアを殺害しようとしたが、コヴェテスの抵抗によって死亡した。
アーノイ
ザシュウの助手である女性。アヴィディアとは大学時代の同級生。アヴィディアのことは尊敬しており、特別な存在として見ている。ザシュウがイオドプシー教団と手を組んでいたことは知らず、ザシュウの死後はアヴィディアと行動を共にする。
センゼン
ヒガ区に住む資産家の老人の男性。色素を持つ物を収集することを趣味にしており、最大級の赤色結晶を所有している。巨万の富を築いてきたが、病に倒れる。そこへイオドプシー教団が現れ、色素の力で完治が可能だと聞かされると教団に協力し、その見返りとして赤色結晶を教団に渡した。
集団・組織
イオドプシー教団 (いおどぷしーきょうだん)
マーシパルスによって失われた色自体を神格化した「色彩神」を復活させようとしている宗教団体。もとは環境保護団体から始まったが、かつての色鮮やかな世界を取り戻すという目標を掲げ、色の神格化が始まった頃から信者を増やしている。また、犯罪に近い手段で資産を増やし、現在は政界や財界問わず幅広い人脈を作り、さまざまな分野に介入している。独自に色力の研究をしており、色素を得ることにも成功している。色素のエネルギーを利用した人体改造薬品を開発した。教団の信者は基本的に同じ衣装を身にまとい、全員が同じマスクをしているため見た目では個人の判別がつかない。
その他キーワード
マーシパルス
300年前に発生した史上最大規模の太陽フレアが、強力な電波障害によって電子化されていた人類の情報を消滅させた出来事。その電磁波によって地球上は色を失い、空はつねに曇って太陽が出ることがなくなり、人体にも祖先病などの変異をもたらした。
祖先病 (そせんびょう)
人類の頭部が異形なものに変化するという奇病。現在地球上に存在する人類はすべて祖先病にかかっており、その治療法はいっさいないとされている。異形になる前の人間の姿は、図鑑や絵画でしか見ることができない。
色力 (しきりょく)
マーシパルスによって地表で失われてしまった色素に蓄積されていた太陽光に似た波長エネルギーを利用し、有機物に反応させることでエネルギーを開放させる力のこと。色素が持つ力を研究する学者を「色力学者」と呼ぶ。
色素 (しきそ)
マーシパルスによって失われた色の微粒子を集めたもの。現在では一般に見ることはできないが、未開拓の山地を発掘することでごく微量が発見されることがある。微粒子を集めて精製することで色力を開放することができるが、一度エネルギーを開放した色素は無色の灰となってしまう。現在採取できる色素は3種類で、柱状結晶の赤色素、粒子状の緑色素、皮膜結晶の青色素のみとなる。赤色結晶が最もエネルギー量が多く、微量であっても強大な力を発揮する。