頻発する通り魔事件と潜入指令
本作の舞台となる日本では、無差別殺傷事件が頻発しており、通り魔による凶悪な犯罪が続いていた。これらの事件は、いずれも犯人が自殺または自殺未遂を図ることで終息している。捜査が進む中、犯人たちからは薬物反応が確認され、さらに薬物で前科を持つ暗辺康則が代表兼監督を務めるAVプロダクション「バビロンズネスト」が企画したバビバコバスツアーに参加していたことが明らかになる。この事態を受けて、公安部は警察官の塩谷を潜入捜査官に任命し、4か月以内に事件の首謀者を逮捕するよう指示を出す。塩谷はまず営業職としてバビロンズネストの採用試験に臨むが、意外にもAV男優として採用されてしまう。
撮影裏の惨劇と殺人カルトへの疑惑
塩谷がAV男優としてデビュー作を撮影中、所属アイドルの水巻明日香を無理やりAVに出演させた芸能プロダクション社長の苅畑が、覆面の男たちに拉致され、密かに惨殺される事件が発生する。さらに、バビロンズネストに所属するAV女優の羽芝瑠璃の父親が、1年前に失踪していたことが明らかになる。捜査協力者のつくねと公安部課長の勝味は、バビロンズネストのAV女優全員が同じマークのタトゥーやアクセサリーを身につけていることに注目する。二人は、バビロンズネストが単なるAVプロダクションではなく、殺人にも関与するカルト集団ではないかと疑念を深めていく。
本作を彩る倒錯的エロティシズム
本作の大きな魅力の一つは、塩谷がAV男優「デニム青木」として挑む赤裸々かつ多様なセックスシーンにある。最初は清純派の明日香を相手にした撮影だったが、次第にナンパものや人妻陵辱もの、さらには常軌を逸した設定の企画ものへと、その内容は過激さを増していく。また、AV撮影シーンだけでなく、捜査のために必要にせまられる性行為や、セックス依存症に陥った女優とのプライベートなセックスなど、撮影外での生々しい性描写も盛り込まれている。時に狂気すら感じさせるシーンは、倒錯的な興奮と同時に、言い知れぬスリルへと誘う。
登場人物・キャラクター
塩谷 誠一 (しおや せいいち)
公安部の特別潜入捜査官に任命された男性。幼少期から下半身全体に青いアザがあり、周囲から奇異の目で見られてきた過去を持つ。性格は非常にまじめで堅物であり、さらに童貞でもある。マッチングアプリで出会った恋人のカオリとは、半年が経ってもキスすらしていない。警察官の家系に生まれ、警察学校でも優秀な成績を収め、その誠実な人柄が評価されてバビロンズネストへの潜入捜査官に抜擢された。潜入任務ではAV男優「デニム青木」という芸名を使い、当初から花房愛に好意を抱いていたが、撮影を通じてほかのAV女優たちとも親交を深めていく。
花房 愛 (はなぶさ あい)
AVプロダクション「バビロンズネスト」に所属する女性。赤毛のストレートロングヘアで、クラウンのマークが付いたチョーカーをしている。非常に激しい歯ぎしりの癖があり、日中でも周囲に聞こえるほどの音を立てることがある。バビロンズネストのトップ女優であり、塩谷の採用試験では審査員として参加した。その際、塩谷の誠実な態度に感銘を受け、愛自身の判断でAV男優としての採用を決めた。それ以来、何かにつけて塩谷を気にかけ、積極的に親密になろうとしている。しかし、塩谷が自分の知らないところでほかの女優と親しくしていることに気づくと、嫉妬からか不穏な雰囲気を漂わせることもある。
クレジット
- 原作
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殺野 高菜
書誌情報
カルトオンデマンド~潜入捜査官と8人の女優たち~ 5巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2023-09-22発行、978-4065329313)
第2巻
(2024-02-14発行、978-4065346587)
第3巻
(2024-06-12発行、978-4065357781)
第4巻
(2024-10-08発行、978-4065370322)
第5巻
(2025-02-12発行、978-4065383032)







