無限の住人

不老不死の身体を持つ男が、両親を亡くした少女の用心棒となり、少女の仇を討つため戦う冒険活劇。「月刊アフタヌーン」1993年8月号から2013年2月号にかけて連載され、物語は『無限の住人 ~幕末ノ章~』へと続く。2008年TVアニメ化、2017年実写映画化、2019年配信アニメ化。

正式名称
無限の住人
ふりがな
むげんのじゅうにん
作者
ジャンル
アクション
 
グロテスク・エログロ
 
時代劇
 
和風ファンタジー
レーベル
アフタヌーンKC(講談社)
巻数
全30巻完結
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作品誕生のいきさつ

沙村広明はコミックス最終巻である第30巻のあとがきで、本作『無限の住人』誕生のいきさつを語っている。もともと、沙村広明は学生時代、日本史も世界史も好きではなかった。しかし大学時代に目にした、志村立美が描いた丹下左膳のイラストに強く心惹かれたことと、『無限の住人』の初代担当となった「アフタヌーン」の編集者に「時代劇を描いてみないか」と打診されたことがきっかけで、本作の執筆に至ったという。

あらすじ

罪人

江戸時代中期。江戸にある名門剣道道場「無天一流(むてんいちりゅう)」の一人娘である浅野凜は、14歳の誕生日に「逸刀流(いっとうりゅう)」と名乗る謎の剣客集団に襲われる。逸刀流の現統主である天津影久の祖父と凜の祖父は、50年前、無天一流の免許皆伝を競う剣豪同士だった。しかし当時の道場主は、よそ者である影久に免許皆伝を与えることを嫌がり、影久の祖父が無天一流ではない技や武器を使ったということを理由に破門を言い渡される。これにより天津家は浅野家を恨むようになり、凜が14歳の誕生日に道場を襲撃したのだった。この襲撃で凜の父親は殺され、母親は逸刀流の集団に誘拐されてしまう。この日から凜は、逸刀流に復讐を誓い修行を続けて2年が経過するが、逸刀流に対抗する実力は身につけられないでいた。そんなある日、凜は「八百比丘尼」と名乗る老婆から、「万次」という男性の話を聞く。万次は不死身の肉体を持つ腕利きの剣士で、過去に犯した罪を贖(あがな)うために、1000人の悪党を斬らなければならないのだという。万次であれば自分の頼みを聞いてくれるのではないかと考えた凜は、万次を探し出し、用心棒として雇う。そして逸刀流に復讐するため、影久たちの行方を追うのだった。

蟲の唄

浅野凜は町の腰物研屋で、2年前に逸刀流の統主、天津影久に奪われた刀を発見する。凜は、現在の持ち主である凶戴斗こそが逸刀流の剣士に間違いないと考えるが、ここで無理に刀を取り返しても問題は解決しないと思い直し、刀をあきらめる。そんな凜を見ていられなくなった万次は、その夜、戴斗の滞在先へと向かう。結局その場で勝負はつかず、二人共に大ケガを負うが、戴斗は楽しい戦いができた礼にと、万次に刀を手渡すのだった。その直後、二人はさらなる逸刀流の剣士、閑馬永空と出会う。永空は統主である影久のことを認めているものの、彼が掲げている、すべての流派の枠を取り払って最高の剣技のみを集めた最強の流派を作るという、逸刀流の理想を実現させるには時間がかかると訝(いぶか)しんでいた。そんな中、戴斗から万次の存在を聞きつけた永空は、ふつうの身体である影久よりも、不死身の万次の方が逸刀流の統主にふさわしいと考え、万次を勧誘しに来ていた。万次はこれを断り永空を倒すが、死亡したはずの永空はすぐに立ち上がる。永空もまた、八百比丘尼によって不死身の身体にされていたのである。永空は返事を保留にしておくと告げて去って行くが、その夜、万次の身体に異変が起こる。永空に斬られた部分が再生しなくなっていたのだ。

夢弾(ゆめびき)

閑馬永空を倒した万次浅野凜は、天津影久が半月後には江戸を去り、加賀に向かうという情報を得た。凜は加賀行きを検討するが、万次は加賀で待ち構えるよりも、江戸から加賀へ続く甲州道に宿を取り、その周辺を捜索する方がいいと提案する。こうして二人の次の目的地は決まるが、そんな中、万次は夜鷹の若い女性、乙橘槇絵に声を掛けられ、命を狙われる。槇絵は以前遊女だったが、影久にその剣の腕を見込まれ、逸刀流に加わるという前提で身請けされたのだ。しかし槇絵は、影久は剣士としての自分にしか興味がないことを理解しているため、これを渋っていた。そこで、ひとまず借りたお金を返そうと、芸妓になっていたのだ。そんな二人は、実は幼い頃に出会っていた。影久は槇絵に命を救われたことがあり、同時に槇絵が「無天一流」の次期統主にあっさりと勝ってしまうほどの剣士であることを知る。しかし槇絵は、強すぎることを理由に母親と共に離縁され、やがて遊女となってしまったのだ。影久はこれにずっと納得がいかず、いつか槇絵を探し出して、仲間にしようと考えていたのである。

斜凜(しゃりん)

万次は、乙橘槇絵に敗北したことをきっかけに、浅野凜に戦いの訓練を課すようになる。そんなある日、偶然に天津影久を発見した凜は戦いを挑むが、あっさり敗北してしまう。この時、手段を選ばず自分を殺そうとする凜の姿を見た影久は、彼女の姿勢に逸刀流と同じ目指すものを見出し、ほかの「無天一流」の者たちと凜は違うと判断して、彼女のことを見逃すのだった。一方の凜は、自分が見逃されたことに激しい怒りを覚えつつ、自分が無事に生きていることに涙する。

羽根は静かに

縁日を訪れた万次浅野凜は、そこでお面を売っていた逸刀流の剣士、川上新夜に出会う。新夜は2年前「無天一流」を襲撃した実行犯の一人で、さらに凜の母親、浅野時を凌辱(りょうじょく)した人物でもあった。凜は新夜への復讐を考えるが、万次にはできるだけ早く天津影久にたどり着くためにも、余計な戦いは避けるべきではないかと言われてしまう。そんな中、凜は新夜の息子、川上練造が男性とケンカになり、斬られそうになっているところに出くわす。凜は男性をなだめてどうにかその場を収めると、練造に感謝されて自宅に招かれることとなる。そこで再会した新夜は、2年前とはまるで別人だった。新夜はかつて妻と練造の三人暮らしだったが、新夜が逸刀流の活動にのめり込み過ぎて愛想を尽かされ、離縁されることとなった。しかし、1年半ほど前に妻が病死したことで、頼ってきた練造と二人暮らしを始めて以来、新夜は考えを改め、次の仕事を最後に逸刀流を抜ける決意をしていたのだった。この話を聞いた凜は、新夜への復讐をあきらめる。そして自分の正体を明かし、新夜が謝罪さえすれば見逃すと告げるが、新夜はそんな凜に襲い掛かる。

凶影(きょうえい)

数々の流派を吸収した逸刀流は、一か月後、幕府お抱えの一門になることが決定する。しかし、そんな逸刀流を快く思っていない地下組織「無骸流」があった。無骸流は反幕府的因子を抹殺するために存在しており、現在は主に逸刀流の撲滅を狙っていた。そのため、あらゆる手段を用いて逸刀流剣士を殺害していたのである。そんな中、逸刀流と幕府の話は進んでいたが、凶戴斗は現状に疑問を感じ、逸刀流を離れる決意をしていた。戴斗はこれをまず、妹同然に思っている遊女、恋に伝えるが、その直後に戴斗が席を外した途端、恋は無骸流の尸良に襲撃されて殺されてしまう。

浅野凜川上新夜との一件から、逸刀流への復讐を続けるかどうかについて悩んでいたが、やはり天津影久は生かしておけないと考え、改めて彼を殺す決意を固める。そんな中、凜と万次のもとに無骸流尸良が現れる。無骸流には、すでに凜たちと逸刀流が敵対していることは伝わっており、お互いが手を組もうと誘いに来たのである。

現ズル事無キ代物

万次浅野凜は、逸刀流に関する情報提供をしてもらうことを条件に、百琳無骸流に手を貸すことになった。そんな中、天津影久が女装をして身を隠しているという情報が入る。影久は別行動中の護衛に、わざと往来で逸刀流であることを叫ばせ、無骸流をおびき寄せる作戦を立てていた。これを見抜いた凜と尸良は、その場を万次に任せ、混乱に乗じて姿をくらまそうとする女性こそが影久であると推測し、その後を追う。しかしこれもまた、影久の用意したおとり作戦だった。女性は仲間を呼び凜と尸良を襲わせるが、尸良は騙されたことに激怒。彼らをわざと生かしたまま、なぶり続ける残忍な行為を繰り返す。これを見かねた凜は尸良を止めようとするが、尸良は聞く耳を持たずに襲ってきた男たちだけでなく、仲間を呼んだ女性までもを殺そうとするのだった。ここで凜は、尸良を制止するのは不可能だと判断し、武器を取り出し斬りつけようとする。しかし、そこに万次が現れ、凜に代わって尸良の腕を切り落とすのだった。

群(むら)

結局、天津影久は見つからず、万次浅野凜百琳たちのもとへと戻った。だが、万次に腕を切り落とされた尸良は戻って来ず、万次は無骸流と協力し続けるのは難しいと判断。しかし関所のチェックが厳しくなっている今、関所を抜けられそうなのは凜だけだった。万次は、加賀から影久が戻るまで待とうと提案するが、凜はこれに応じず、万次を置いて一人で関所へ向かってしまう。翌朝これに気づいた万次は、関所破りをしてでも凜を追う決意をするが、百琳に止められ、誰かの通行手形を奪う方法を思いつく。その頃、凜は関所に向かっていたが、その道中で自分と万次が指名手配されていることを知る。凜と万次は、先日尸良が男たちを殺した件の犯人にされていたのである。それでもなんとしてでも関所を抜けようとする凜は、先日知り合った飯盛女が、どんな人間にも関所を抜ける方法が一つだけあると言っていたことを思い出す。それは、関所の近くにある手形が不要な上長房村の住民にお金を渡し、親族のふりをしてもらうという方法だった。

ひそかなる

浅野凜は、上長房村の協力者の尽力もあり、無事に関所を抜けることに成功する。その頃、天津影久は、新たに逸刀流に加わることが決まっている「心形唐(しんぎょうとう)流」の伊羽指南所を訪れていた。しかし弟子たちは、この件に納得がいっておらず、強硬派の一人である入谷が影久に勝負を挑む。あっさりと入谷に勝利する影久だったが、心形唐流の師範、伊羽研水が、逸刀流に加わることに、あまりにも乗り気であることを不可解に思っていた。確かに逸刀流と心形唐流の目指すものは似ているが、吸収合併されるほど、心形唐流側にメリットがあるようには思えなかったのである。しかし研水には、ある目的があった。それは逸刀流に加わる代わりに、義理の娘である伊羽密花を、影久の妻に迎えて欲しいというものだった。

裸行

万次百琳の提案で、関所を抜ける逸刀流の剣士を襲って手形を手に入れようとするが、戦いに勝利したものの、手形は血まみれで使えない状態だった。そんな中、再会した浅野凜の知人の宗理に、手形を奪う暴力的な方法ではなく、自分に頼めば簡単に手形は用意できると告げられる。その後、傷が癒えてきた万次は、宗理のもとを去ろうとする最後の晩、留守にする宗理の代わりに宗理の娘に付き添い、客人を迎えることとなる。しかしその客人とは凶戴斗で、すでに逸刀流を抜け、つい5日ほど前に宗理と知り合っていた。そこで宗理に現在自分が追っている人物について尋ねたところ、知っている様子があったので、しばらく宗理に雇われることにしたのだという。そんな戴斗が探していたのは、尸良だった。戴斗の事情を知った万次は、尸良が自分を恨んでおり、いずれ向こうから復讐しにやって来るだろうことを戴斗に伝える。そして当面のあいだ、いっしょに行動しようと提案する。

天津影久の暗殺計画を企てている無骸流百琳真理路のもとへ、尸良が戻って来た。万次に右腕を斬られ、白髪となった尸良が戻って来た目的は、百琳に恨みを持つ逸刀流の剣士たちを、百琳たちの暮らすねぐらに案内することだった。彼らは真理路を殺害し、無骸流の情報を手に入れるため百琳を拉致して拷問するが、百琳は決して口を割らなかった。一方その頃、不在にしていた偽一は、帰宅してすぐに真理路の死体を発見し、事態を察して百琳を探し始める。

秋霜

万次凶戴斗は、尸良に襲撃される。尸良は万次を殺すために、自らの肉を削いで、むき出しになった右腕の骨を削り、新たな武器にしていた。非常に強力な攻撃手段を得るものの、尸良はまだ自分の体の状態に慣れておらず、身体のバランスをうまく取れずにいた。万次はこの情報を尸良との一騎打ちに望む戴斗に伝えたのち、一人先を急ぐ。一方の戴斗は、死闘の末に尸良の左手首を切り落とし、滝から突き落とす。その後、無事に万次と再会した戴斗は、傷が癒え次第自分も加賀に向かうこと、そして次に会った時は敵同士になるだろうと伝えたうえで、再び万次に別れを告げる。

形影

浅野凜は白山を越え、ついに加賀へたどり着くが、過労によってとうとう倒れてしまう。そこへ声を掛けてきたのは、天津影久だった。驚くのもつかの間、そこへさらに影久の命を狙う覆面集団が現れる。影久はこれをあっさり打ち倒すが、覆面の下に知っている顔を見つけ、すぐさま「心形唐(しんぎょうとう)流」の伊羽指南所へと戻る。すると、目の前で伊羽研水が切腹。覆面集団の正体は、研水が仕向けた心形唐流の弟子たちだったのである。研水は公儀から、重病を患う伊羽密花の薬を今後も安く売ってもらう代わりに、逸刀流と手を切り、影久を殺すように命じられていたのだ。これを知った影久は研水を責めることはせずに研水を介錯(かいしゃく)し、凜と共に伊羽指南所を去るのだった。次に公儀に狙われるのが、江戸に残した逸刀流剣士たちであると知った影久は、白山を越えて再び江戸へと向かう。こうして凜と影久の奇妙な逃避行が始まるのだった。

浄玻璃

「心形唐流」伊羽指南所に到着した万次は、その惨状を見て驚愕する。一方その頃、浅野凜天津影久は、乙橘槇絵の住む村にたどり着いていた。影久は人づてにここに槇絵が住んでいるらしいことを聞いており、もう一度会っておこうと考えたのだ。そんな槇絵は、父親を殺すつもりでこの村にやって来たが、結局それが叶わずに父親は病死。自分と母親を捨てた父親への恨みを晴らせないままこの村で暮らしていた。さらに、そんな自分への罰として、二度と剣を持てないようにと、右手を糸で縫い付けてしまっていたのである。これを知った影久は槇絵を叱責し、槇絵に罪があるのならこの程度の罰ではあがなえず、今後も剣士として生きるべきだと伝える。これに納得した槇絵は影久に糸を抜いてもらい、剣士として生きていく覚悟を決める。そして抜糸による痛みが落ち着き、槇絵が眠った頃に凜と影久は出発するが、影久が破傷風になっていることが発覚する。

終血(しゅうけつ)

浅野凜は、破傷風で弱っている天津影久を襲うことができず、影久と「心形唐流」の弟子たちとの戦いの手助けまでしてしまう。一方その頃、江戸では逸刀流が幕府お抱えの一門となり「講剣所(こうけんじょ)」という逸刀流の面々が剣を教える道場の設立を記念して宴会が開かれていた。しかしこれは、幕府の新番組頭、吐鉤群の罠だった。鉤群こそが無骸流を指揮する人物で、影久不在の状態で宴会を開くことで、ここに集まった逸刀流剣士を偽一と共に一網打尽にしようと考えたのである。その頃、影久と凜は再び入谷たち心形唐流の弟子たちに襲われ、危機に陥っていた。しかし、そこに万次が合流。さらに追いついて来た凶戴斗が、逸刀流であると名乗ってしまったこと、乙橘槇絵までもが参戦したことで、事態は混乱を極めていく。槇絵は圧倒的な強さで心形唐流弟子たちを倒すが、最後に残った入谷から、どうか影久と戦わせて欲しいと懇願され、その相手を譲る。凜は今の影久なら、負けることも十分あり得ると理解しつつも影久と入谷の戦いを見守るが、影久はみごとに勝利する。凜はそんな影久に、公儀に裏切られても、流派の垣根を壊すという理想を実現して見せろと叫ぶ。そして、いつか逸刀流が流派としての結論を得た時、自分が影久を殺すと宣言するのだった。

彼は誰(かはたれ)

江戸に戻った万次は、無骸流に入らなければ殺すと脅してきた偽一と戦うことになった。これは偽一の武器を壊したことで万次が勝利することとなったが、万次は無骸流を指揮する者がどのような人物かを知るため、無骸流に加わることを決意。しかし、二人が浅野凜のもとへ戻ると、彼女は凶戴斗たち逸刀流が、万次を呼び寄せるための餌として拉致されたあとだった。戴斗自らは、これまで万次が何人もの逸刀流剣士を殺したことに関しては不問にしていたが、ほかの逸刀流剣士の手前、彼らの意向を汲んで、今回決着を付けようと考えたのである。こうして到着した万次は戦いを始めようとするが、ここに無骸流である偽一がついてきたことで、事態は複雑化。逸刀流剣士たちは偽一にも襲い掛かる。

捷径(しょうけい)

無骸流に加わることになった万次は、吐鉤群邸に来ていた。しかし、これは鉤群の罠だった。鉤群は不死である万次の身体を医師の綾目歩蘭人に調べさせ、不死の人間をもう一人作ることを画策していた。一方その頃、浅野凜は万次が戻らないことを不思議に思いつつも、逸刀流に知られてしまったねぐらには戻れず、悩んだ結果、久しぶりに自宅に帰ることにする。その夜、凜が眠ろうとしていると、空き家だと思って侵入して来た若い男女に出会う。八苑狼夷作吉乃瞳阿と名乗る二人は、住んでいた家が焼けてしまい、今夜泊まる場所がなくて困っているのだという。仕方なく凜は二人をしばらく泊めることにするが、蝦夷地から来たという瞳阿の非常識な行動に振り回されることとなる。それから2日経っても万次の消息はつかめず、凜は無骸流の一員として何か知っているだろうと、百琳に話を聞いてみる。だが百琳もまた何も知らず、二人は吐邸へと向かう。そこで知らされたのは、百琳と偽一を無骸流から解雇するというものだった。しかし百琳によれば、無骸流の面々は公儀からの借金を返すまで組織を離れることは絶対にできないという。無骸流に多くの貢献をしてきた偽一はともかく、百琳はとても無骸流を抜けられるような状況にはなかったはずである。何か裏があると踏んだ二人は、偽一を探すことにする。

改臓肢儀(かいぞうしぎ)

綾目歩蘭人の人体実験により、万次は腕を切り落とされ、代わりにもう一人の実験体である出羽介(でわのすけ)の腕を縫い付けられていた。さらに歩蘭人は、山田浅右衛門吉寛の力を借りて、二人の身体の一部を切り落としては交換して縫い付け、また切っては持ち主の身体にくっつけるという行為を繰り返していた。それでもなお、万次は生きているが、万次の不死の力を得た出羽介は、どんどん衰弱していく。一方の歩蘭人もまた、依頼人である吐鉤群に結果を急かされ、追い詰められていた。そんな中、ついに業を煮やした鉤群は、まだ不死化が完成していない出羽介を斬りつける。これによって出羽介はあっさり亡くなり、実験は失敗に終わてしまう。その後も実験は二人目の実験体・厨生(くりふ)で続けられるが、出羽介の時とは違って厨生は腕が定着することもなくあっさり亡くなる。三人目以降も実験はまったくうまくいかずに、死者だけが増えていく。とうとう精神的に限界を迎えた歩蘭人は、七人目の実験体を傷つけることができず、実験を断念する。そして歩蘭人は、鉤群によって無期限の禁固刑に処されるのだった。

雀羅(じゃくら)

浅野凜百琳は、ついに偽一を発見し、凜だけが万次に関する情報を聞かされる。偽一によれば、百琳は顔が知られているので、これ以上凜といっしょに行動すると、二人ともかえって危険なのだという。凜は百琳に申し訳なく思いつつも納得し、一人で万次を探すことを続行する。そんな凜は帰宅途中、八苑狼夷作吉乃瞳阿に出会うが、瞳阿は役人にケンカを売ったことで目を付けられるようになっていた。そこに瞳阿を追って同心と岡っ引きが現れ、仲間とみなされた夷作と凜も追われる身となってしまう。その後、成り行きで瞳阿と夷作は、追って来た役人十人を殺害するが、そこへ事態を聞きつけた与力や岡っ引きがさらに合流。その場を一人で引き受けた夷作が身を挺して戦ったことで、凜と瞳阿は逃げることに成功。凜と瞳阿は夷作を探しつつ、吐鉤群を尾行してその動向をうかがっていた。そんな中、凜は万次が江戸城に監禁されているのではないかという仮説を立てる。そこに瞳阿の仲間である医師の果心居士から、現在江戸城で不死の実験が行われているという情報を聞き、確信を得た凜と瞳阿は江戸城へと向かう。

猯(まみ)の巣

浅野凜吉乃瞳阿は、果心居士の店から盗んだ道具を持って、江戸城に続く猯(まみ)の巣穴から、城に向かっていた。百琳もこれに同行したがっていたが、凜は偽一から百琳が妊娠していることを聞かされていたため、百琳には別の仕事を頼んでいた。最近江戸では、奉行所や牢屋敷に連れて行かれた男たちが戻って来ない事件が多発していた。これは人体実験の材料にされているからなのだが、一般市民はもちろんこのことを知る由もなかった。それでも不審に思った男たちの家族が、奉行所や牢屋敷にたむろするようになっていた。そこで凜は先日竹やぶで発見した、実験体と思われる死体を家族たちに見せ、この死体は江戸城から運ばれてきたと吹聴する。これによって、大混乱となった家族たちは江戸城の城門に押し寄せていた。この作戦を、凜は百琳に任せていたのである。この騒ぎの混乱に乗じて凜たちは城内に侵入しようとするが、とうとう捕まってしまう。しかしそこへ現れたのは、逸刀流の剣士、怖畔だった。夷作と瞳阿、果心居士は逸刀流剣士であり、怖畔は事態を察した果心居士に頼まれ、凜たちを助けに来たのである。

鬼の巣

浅野凜吉乃瞳阿は、怖畔から果心居士が作った地図を受け取り、江戸城の地理を把握する。しかし途中で怖畔とはぐれ、その先で八苑狼夷作と思われる、身体を真っ二つにされた死体を発見した瞳阿は、その場から動けなくなってしまう。こうして凜は一人で行動することになるが、さらに進んだ先で、今度は綾目歩蘭人の助手である虎右ェ門たちに出会う。歩蘭人は一度は禁固刑となったが、引き継いだ医者がことごとく実験に失敗したため、再度実験の指揮を執るようになっていた。しかし虎右ェ門は、歩蘭人の残酷すぎるやり方に疑問を抱くようになり、これまで犠牲となった実験体たちのために、自分も何かすべきではないかと考えていたのである。そんな虎右ェ門の協力を得た凜は、牢の中でついに万次を発見。そして歩蘭人を打ち倒し、万次の拘束を解こうとする。しかしその途中で、事態を察した吐鉤群が到着。二人は窮地に陥るが、万次は体内に武器を隠し持っていた。それは最初に実験体となって死亡した、出羽介が遺したかんざしだった。万次は毎日自分が実験で麻酔漬けにされるのであれば、体内にあるかんざしも麻酔漬けになっているだろうと推測していたのだ。この予想は当たり、麻酔薬と化したかんざしを目に突き刺された鉤群は、戦闘不能となる。だが、そこに山田浅右衛門吉寛とその仲間が現れ、まだ片腕の拘束が解けていない万次は危機に直面する。しかしそこに到着したのは、瞳阿と死亡したはずの夷作だった。

改臓肢儀(かいぞうしぎ)・終章

八苑狼夷作が蘇生したのは、死体の上半身を確認していた吉乃瞳阿が、まだ心臓が動いているのに気づき、真っ二つにされた下半身をダメ元ででくっつけてみたからだった。夷作は実験体にされたことから、不死になっていたのである。そんな夷作の活躍もあり、万次たちはついに山田浅右衛門吉寛を打ち倒すが、地下道では異変が起きていた。道灌濠(どうかんごう)の水がなんらかの事故であふれ出し、地下道に流れ込んできていたのだ。さらにそこに頭に袋をかぶり、異様に手足の長い何者かが飛び出してくる。その者は綾目歩蘭人が連れて来た不死身の戦士「鵺一號」だった。罪人たちをつなぎ合わせて作った鵺一號は、高い戦闘力を持つだけでなく、再生能力も万次と同様に高かった。まだ拘束が解けていない万次は、鵺一號に苦戦するものの最終的には、浅野凜の作戦が功を奏して撃破。そして万次たちは鵺一號のような、もはや人とは呼べないものを作り出した歩蘭人に激しい怒りを覚えるが、もしこの場に出羽介がいれば、歩蘭人を殺さないでくれと頼むだろうとも考えていた。そこで万次は、あえて歩蘭人を殺さずに息をひそめて隠れていた山田浅右衛門吉寛を打ち倒し、今度こそ脱出しようとする。だが、もうすぐ万次の拘束が解けるというところで、川上練造尸良が現れる。

おとづれ

万次浅野凜は、道灌濠(どうかんごう)の水のおかげで、川上練造尸良と戦うことなく脱出に成功する。しかし、二人がなぜいっしょにいたのかは結局わからないままだった。こうして江戸城での事件は解決し、吉乃瞳阿八苑狼夷作逸刀流を抜けて新天地へ向かうこととなる。それは瞳阿が鵺一號との戦いで、逸刀流の掟を破ってしまったことに理由があった。そのため瞳阿は、たとえ天津影久が許しても、自分が納得できないために離れる決意をしたのだ。そんな二人を見送った万次と凜は、久々の平和なひと時を過ごす。一方その頃、吐鉤群は娘の杣燎と会っていた。鉤群は今回の件の責任を取って1か月後に腹を切ることとなり、その前に燎の今後の身の振り方について伝えに来ていたのである。しかし燎は、鉤群が不死実験を始めた理由を理解していた。鉤群が真に不死にしたかったのは征夷大将軍の徳川家斉であり、鉤群はずっと公儀のことだけを考えて動いていたのだ。このままでは終われないと考えた燎は、鉤群の反対を押し切って、鉤群が無骸流の解体後に作った新組織、六鬼団へ入団。鉤群が切腹するまでの残り30日間で、逸刀流を滅ぼす決意をする。

みちづれ

万次は、ある日謎の集団から、逸刀流馬絽祐実と人違いされて襲われる。彼らは人違いとわかり去っていったが、これによって万次と浅野凜は、何者かが逸刀流を滅ぼすために動いているらしいことを知る。一方その頃、天津影久乙橘槇絵は、英于彦と会っていた。吐鉤群に代わって新番組頭となった于彦は、鉤群とは違って、無理に逸刀流を滅ぼそうとは考えていないかった。そこで、影久が今後江戸に住む人々にいっさい手を出さず、かつ江戸から出ていくという「江戸払」の条件を吞めば、逸刀流を見逃すと約束する。影久はこの条件を吞むと共に、六鬼団の情報を得る。そして、六鬼団は決して于彦の命令には逆らえないので、今後は逸刀流を襲わせないという約束を取り付けて別れるのだった。翌日、これを知った鉤群は、江戸払は7日後から成立するため、あと7日以内に逸刀流を見つけ、滅ぼさなくてはならないことを理解する。しかし、吐家にはすでに于彦の手の者が向かっており、鉤群の妻と息子は于彦の屋敷に連れて行かれてしまうのだった。その直後、偶然街で影久に出会った凜は、先日万次を襲った集団の正体が、六鬼団であると伝えられる。

暗梟(あんきょ)

吐鉤群たち六鬼団は、逸刀流を滅ぼすために本格的に動き出していた。そこで鉤群たちは、まずは逸刀流本拠地跡を調査し、地下にも施設があると気づくが、これは凶戴斗たちの罠だった。逸刀流は、鉤群たちがここに来ることを予測しており、地下に侵入したタイミングで仕掛けを発動させ、鉤群たちの足止めを狙っていた。これによって、すでに出発している逸刀流剣士も含めて、それぞれ新天地である常陸へ向かうことを考えたのである。一方その頃、浅野凜天津影久から、逸刀流が江戸払により、常陸に向かうことを知らされる。影久は、凜が万次と共に追いかけてきて、逸刀流と六鬼団の戦いを見届けに来ると信じて、打ち明けたのである。凜はこれに応じ、すぐに万次と出発するが、万次には一つ不安があった。万次は、江戸城での戦いで左腕を回収できず、左腕がないまま生活していたのだ。それでもしばらくは旅は順調に進むが、途中で宗理の弟子であり、凜とも親しい目黒とたんぽぽに出会ったことで事態は一変。その二人の正体は鉤群の配下であるくノ一で、逸刀流を追っていたが、途中で英于彦の手のものに襲われてケガを負っていたのだ。そんな二人を助けた万次と凜は、現在常陸に向かっている逸刀流の一団に影久を含めて数名がおらず、彼らはまだ江戸にいるのではないかという情報を得る。

鏖(みなごろし)

江戸に残った逸刀流天津影久凶戴斗馬絽祐実怖畔の四人は、江戸城を襲撃していた。あっという間に本丸までたどり着いた影久と戴斗は、英于彦と約束した通り、明日には江戸を去るつもりだった。しかし、やり残したことがあり、ここへやって来たと告げる。こうして于彦を捕獲した影久たちは、于彦に本当は特に目的はなく、ただ公儀の者たちを傷つけて、その悲惨な光景を目に焼き付けさせ、今後に生かしてもらうためだったと語る。こうして影久たちは江戸城を去ろうとするが、怖畔だけが合流できず、祐実は敵の足止めに残ると宣言し、影久と戴斗のみが脱出する。その翌朝、傷の深かったたんぽぽが目を覚まし、万次浅野凜は、目黒とたんぽぽに別れを告げる。しかし目黒たちは、それからすぐに尸良に遭遇。尸良は現在吐鉤群の配下となり、目黒たちもその存在を知っている。しかし尸良は、六鬼団や目黒たちとは違い、万次を追うことを目的としており、鉤群さえ制御できない狂人でもあった。特に女性は、仲間であっても何をされるかわからないため、鉤群は目黒たちに尸良に遭遇したら、抵抗せず聞かれたことにはすべて答えろと言っていたのである。

改臓肢儀(かいぞうしぎ)・真説

目黒とたんぽぽが、万次浅野凜の行き先を伝えたことで、凜が尸良にさらわれてしまう。万次はすぐに尸良を発見するが、凜はすでにどこかに連れ去られていた。そこで万次は尸良に凜の居場所を吐かせるため、ここで決着を付けようとするが、ここである異変に気づく。以前、斬られて左腕をなくしたはずの尸良が、万次の腕を付けていたのである。実は江戸城での事件の時、尸良もあの牢屋におり、綾目歩蘭人から万次の腕を縫い付けられていたのだ。さらに、ほかの実験体の時は、縫い付けられた腕はその後万次に返されていたが、尸良はそのまま返さずに脱出する。歩蘭人はこの時、万次の体内にある血仙蟲こそが不死の力の源であると気づいていた。そこで、万次の身体の一部を対象に縫い付けたまま戻さず、腕の中にいる血仙蟲に、今縫合されている身体こそが万次のものだと思い込ませれば、不死実験は成功すると考えたのである。この予想はおおむね当っており、万次の腕を付けた尸良は、今や不死に近い身体になっていたのである。万次がそんな尸良に苦戦する中、目黒とたんぽぽは、一度は尸良に従ったものの、やはり万次たちを放っておけずに助けに向かっていた。そして凜は、尸良の手によって冷たい沼の中に半身を沈められた状態で、川上練造に見張られていた。

霏々(ひひ)として

凶戴斗天津影久と常陸へ移動中、馬で人を轢いてしまったため、影久に先へ行ってもらうことにした。しかし、馬で轢いたのが尸良であったことから、戴斗は戦うこととなる。一方その頃、万次浅野凜を発見するが、凜の身体は重い石に縛り付けられ、簡単には救出できない状況にあった。それでも万次は縄を切る作業を始めるが、川上練造は自分がどうするべきなのかを悩んでいた。川上新夜の行いを知らない練造は、新夜が金銭トラブルの果てに万次に殺されたのだと考えていたが、次第にそのことに疑問を覚えるようになっていたのである。そこにたんぽぽが到着し、凜を救助。目黒は戴斗の助太刀に入り、尸良と目黒の戦いが始まってしまう。逸刀流には、人数が同じでない戦いには参加できない掟があるために思い悩む戴斗は、最終的にはこれを無視して参戦するが、そこに勝算を見出した万次が駆けつけて来る。不死実験当時、万次の身体と適合したのは、出羽乃介をはじめとする全体の10%程度だった。最終的に成功例といえるのは五人しかおらず、これほど稀有な例に偶然尸良が該当するのは、何かがおかしいと万次は考えていたのである。

凪て羽根は……

尸良万次の腕を付けられても平気でいられるのは、尸良の身体が痛みを感じなくなっており、肉体の変質による苦痛に気づいていないからだった。つまり、尸良は完全に不死になったのではなく、万次には5体以上いる血仙蟲も、尸良の身体には1体しかいなかった。そのため、戦いが長引き傷が増えるほどに、治りも遅くなっていくのである。万次はこれを利用してじわじわと尸良を弱らせ、最終的に馬を回収してきた凶戴斗と共に、馬に乗って尸良を攻撃して打ち倒す。そして万次はその左腕を切り落として、やっと左腕を取り返すのだった。こうして不死ではなくなった尸良は死を待つのみとなり、万次たちに捨てられ、道に倒れているところを野犬に襲われ死亡する。しかし、これを見ていた川上練造は、殺人者という点では万次も尸良も同じなのに、なぜ尸良だけが悲惨な死を遂げ、万次は仲間に囲まれているのかと疑問に思う。これに納得のいかない練造は尸良の刀を持ち、万次たちがいる小屋へ向かう。そして命を奪うのが無理なら、せめて万次の両腕を斬らせろとせまるのだった。

川上練造は、凶戴斗に説得されたこともあり、ひとまず万次を斬るのを断念。こうして目黒とたんぽぽは練造を連れて江戸に戻ることになり、万次と浅野凜は常陸への旅を再開する。一方その頃、杣燎たち六鬼団は、築波山に入った果心居士を追っていた。ここは果心居士の故郷で、彼と仲間が最も得意とする戦いができる場所でもあった。そこで燎と仲間たちは「壺」と呼ばれる戦法に苦戦する。これは果心居士が山のあちこちにある壺を開け、中に入った炭酸ガスを大量に放つことで、敵を弱らせるというものだった。ガスを吸うことによってふつうの人間は体調を崩すが、山育ちの果心居士とその仲間たちは薄い空気に慣れているため、ガスを吸っても長時間耐えられるのである。それでも燎は耐え抜き、果心居士を倒して仲間たちのもとへと戻るが、すでに戦闘不能であると判断され、江戸に連れ戻されそうになる。そこへ偶然やって来たのは、吐鉤群に助太刀するつもりの偽一百琳だった。

鎖乱(さみだれ)

六鬼団逸刀流の戦いの場に合流した偽一は、阿葉山宗介と戦うことになった。偽一と宗介は、かつて「講剣所(こうけんじょ)」設立記念の宴会で出会っていた。つまり、宗助にとって偽一は逸刀流剣士たちを毒で弱らせ、大量に殺害した憎き相手だったのである。しかし、そんな宗助に偽一は本来の力を発揮することができず、その場を見守っていた百琳は、業を煮やして戦いに参戦。あくまで一対一、あるいは同じ人数同士での戦いを望む逸刀流と、そんな掟のない六鬼団との戦いは、大いに混乱を来たす。そしてあっという間に六鬼団優勢となり、逸刀流は宗介を残すのみとなる。ここで偽一と宗介は一騎打ちを行い、偽一の勝利となるのだった。

道さだめ

偽一阿葉山宗介を倒したことで、逸刀流天津影久一行のみとなった。そこで吐鉤群は、那珂湊(なかみなと)へ向かい、港の船員たちをしらみつぶしに襲い、皆殺しにすることで逸刀流をあぶり出そうとしていた。しかし、これによって見つけ出したのは、影久一行ではないと考えられていた乙橘槇絵だった。槇絵は圧倒的な強さで六鬼団を倒すが、彼女は結核を患っており、血を吐き、今にも倒れそうになっていた。だがそこに、浅野凜に頼まれて槇絵に薬を届けに来た万次が姿を現す。これは山田浅右衛門吉寛の作った薬で、人間の肝を材料にできているため、生きる意欲のない槇絵は飲むのをずっと渋っていたが、万次はこの薬を強引に飲ませる。こうして槇絵の体調は劇的に回復するが、偽一や百琳と状況を見守っていた凜は、居てもたってもいられなくなり万次のもとへと向かう。しかしそこで、8隻の船から弓矢が降り注ぐ。この船は影久が、逸刀流剣士たちが逃げるために用意したものだった。

焉舞百景(えんぶひゃっけい)

天津影久が現れたことで、影久と吐鉤群万次浅野凜荒篠獅子也乙橘槇絵六鬼団との戦いが始まった。しかし獅子也の強さは圧倒的で、このままではなんの役にも立てないと判断した凜は、一度二人から離れて戦いに有効な武器を探しにいく。しかし、凜が武器を手に入れて戻ると、万次は身体を真っ二つにされていた。それでも万次は再生すると考えた凜は、急いで万次に布をかぶせ、再生する場を見られないように隠す。そして自分の身体を切って、万次の血に見せかけることで、獅子也に万次が死んだと思い込ませて時間を稼ぐことに成功する。これによって無事再生した万次は、獅子也を打ち倒すが、凜の傷は思ったよりも深く、予断を許さぬ状況にあった。一方その頃、槇絵はあっさりと六鬼団のほぼ全員を打ち倒すが、そこに偽一が立ちふさがる。

寒雷散華(かんらいさんげ)

偽一は生き残った御岳から、先ほど乙橘槇絵が飲んだ薬は効果の薄いまがいモノで、あと四半刻も経てば効き目が切れて槇絵は一気に衰弱することを教えられる。浅野凜は正規の薬を購入していたが、山田浅右衛門吉寛の家は、江戸城での事件により、薬の材料を得るのも難しくなっていたため、代用品を販売していたのである。偽一は薬の効き目が切れるのを待つが、実は槇絵はもう一つ薬を所持していた。こちらは江戸城での事件が起きるよりも前に天津影久が贈ったものであるため、槇絵はこちらの薬を飲むことで回復していたのである。こうして槇絵が勝利するかに見えたが、この場に百琳が現れたことで、偽一は投降を決意。敗北を認める代わりに、生き残った自分たち三人をどうか見逃して欲しいと頼み込む。槇絵はこの申し出を受け入れ、影久のもとへ向かうが、英于彦の手の者が放った銃弾が襲う。

未知生、焉知死

杣燎は、凶戴斗の力を借りて那珂湊(なかみなと)へたどり着くが、英于彦の手の者に撃たれ、乙橘槇絵と共に死亡する。実は于彦は天津影久吐鉤群を殺そうとしていたが失敗し、燎と槇絵はそのあおりを受けた形で殺されたのである。これに怒った影久と鉤群は于彦を討ち、そのうえで二人は、最後の決着を付けるために戦い始める。この戦いは影久が勝利を収め、決着がついたところにようやく浅野凜を連れた万次が到着する。だが万次は、そもそも影久がここまで自分たちについてきて欲しいといった理由がわからずにいた。結局影久はこれを語らぬまま、ひとまず海外逃亡するつもりでいること、そしていつか自分の子孫が再び日本の脅威となるだろうことを告げる。だが、そこへ凜が飛び出してきて影久を刺し、ついに復讐を遂げる。凜は復讐すべきか否かずっと悩んでいたが、影久が次世代まで因縁を持ち込もうとしたことで、やはり影久を生かしてはおけないと決意したのである。そして刺された瞬間、影久もまた、自らの発言がいかに愚かなものであったかを思い返す。それは影久自身が、祖父の復讐心に振り回された存在だったからである。そんな中、万次は、自分と逸刀流のことを覚えていて欲しいと願う影久のことを理解し、自分だけは忘れないと約束するのだった。

関連作品

本作『無限の住人』の続編として「月刊アフタヌーン」2019年7月号から連載の『無限の住人 ~幕末ノ章~』がある。こちらは小説家の滝川廉治が原作を、陶延リュウが作画を担当した。『無限の住人』の原作者、沙村広明は、協力の形で参加している。

メディアミックス

TVアニメ

2008年7月から12月にかけて、AT-Xにて真下耕一監督によるTVアニメ版が放送された。シリーズ構成は川崎ヒロユキ、脚本は川崎ヒロユキと金巻兼一、キャラクターデザインは山下喜光が手掛けた。万次役を関智一、浅野凜役を佐藤利奈、天津影久役を野島裕史が演じた。

配信アニメ

2019年10月から2020年3月にかけて、2度目のアニメ版『無限の住人 -IMMORTAL-』が、Amazonプライム・ビデオで配信された。監督は浜崎博嗣、シリーズ構成は深見真、キャラクターデザインは小木曽伸吾が担当した。キャストは、万次を津田健次郎、浅野凜を佐倉綾音、天津影久を佐々木望が演じた。

舞台

2016年2月、TVアニメ版で万次役を務めた関智一主演・演出による舞台が、全労済ホールスペース・ゼロにて上演された。脚本は島田朋尚が手掛けた。浅野凜役を福圓美里、天津影久役を浪川大輔が演じた。

実写映画

2017年4月より三池崇史監督による実写映画版が公開された。脚本は大石哲也、音楽は遠藤浩二が手掛けている。万次役を木村拓哉、浅野凜役を杉咲花、天津影久役を福士蒼汰が演じた。

評価・受賞歴

本作『無限の住人』は、 1997年、第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞している。

作家情報

沙村広明は、主に青年誌で活躍中の男性漫画家。1970年生まれで千葉県出身。1993年、本作『無限の住人』が「アフタヌーン四季賞 夏のコンテスト」にて四季大賞を受賞しデビュー。代表作は本作『無限の住人』で、他の作品には『ベアゲルター』『ブラッドハーレーの馬車』などがある。

登場人物・キャラクター

万次 (まんじ)

右目が見えない隻眼で、顔に大きな傷があり、背中に「卍」模様の入った着流しを着た若い男性。前髪を真ん中で分けて目が隠れそうなほど伸ばし、肩につくほどまで伸ばした長髪をパイナップルのように放射状に立てたポニーテールヘアをしている。もともとは、旗本・堀井重信に仕える同心であったが、重信の不正を知り彼を殺し、さらに追っ手99人を返り討ちにしたことから「百人斬り」の名で呼ばれる。 その後、八百比丘尼と出会い、彼女によって体内に血仙蟲を埋め込まれたことで、不老不死の身体となった。自らの罪を償うため、悪党を1000人斬らなくてはならないと考えており、浅野凜と出会ったのを機に凜の用心棒となり、ともに打倒逸刀流を目指して戦うことになる。 面倒くさがりでぶっきらぼうに見えるが、実際は心優しく世話焼きな性格。特に凜のことは、自分のせいで亡くなった妹の町に雰囲気が似ていたことから、妹のように大切に想っている。

浅野 凜 (あさの りん)

剣道道場「無天一流・浅野道場」の一人娘。年齢は16歳。前髪を目の上で切り、胸まで伸ばしたロングヘアを2本の三つ編みにして、毛先を白い輪っかの髪飾りでまとめている。14歳の誕生日に、父親の浅野虎厳と母の浅野時を、天津影久ら逸刀流に目の前で殺され、以来、影久に復讐を誓っている。2年間の修業を経て16歳となり復讐を実行しようとした際、八百比丘尼から万次の存在を教えられ、万次を用心棒として雇い、ともに戦うことになる。 明るく気が強い性格で、やや無鉄砲なところがあり、しばしば無茶な行動をしては万次を困らせるが、仲は非常に良く、万次に対して、父親のような兄のような、心揺さぶられる異性のような複雑な感情を抱いている。やがて影久と知り合い、両親の仇でありながらも時に対話したり協力したりする関係を築き、影久の思想を知ってからは、本当に影久を殺し復讐を果たすことが正しいのかどうかを考えるようになっていく。 主な武器は小刀で、何本もの小刀を同時に相手に投げつける「殺陣・黄金蟲(さつじん・おうごんちゅう)」が得意技。

天津 影久 (あのつ かげひさ)

逸刀流の2代目統主で22歳の男性剣士。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、胸まで伸ばしたストレートロングヘアを後ろで1つに結んでいる。女性のように細身で美しい容姿をしているが、「天才」と評されるほどの剣の腕前を持つ。生真面目で沈着冷静な理想主義者で、勝つことこそが剣の道であるという考えの持ち主。統主に就任後、「あらゆる流派の統一」を掲げ、その一環として「無天一流」の浅野道場を襲い、浅野凜の両親を仲間たちに斬殺させた。 しかし、その後自分を殺しにやって来た凜とは奇妙な縁で結ばれており、行く先々でなぜか対話したり協力することになる。自身のはとこにあたる乙橘槇絵のことは、剣士として尊敬していたが、次第に女性としても意識し、親しくなっていく。

凶 戴斗 (まがつ たいと)

逸刀流に所属する若い男性剣士。前髪を上げて額を全開にし、髪全体を後ろに流してツンツンに立てた髪型をしている。覆面をし、常に口元を隠している。硬派で義理堅い性格で、敵同士ではあるものの、必要とあれば浅野凜や万次と協力することもある。もとは農民だったが、妹を侍に殺されて以来、武士階級を憎むようになり、逸刀流に加わった。 しかしある日、逸刀流が幕府の傘下に入るかもしれないことを知り、侍の味方はできないと、逸刀流を抜けようと考える。しかしその直後に、妹同然に想っていた遊女・恋を尸良に惨殺されたことで逸刀流に戻り、尸良への復讐を誓う。仕込み刀の使い手。

乙橘 槇絵 (おとたちばな まきえ)

逸刀流に所属する若い女性剣士。前髪を目の上で切ったショートカットヘアをしている。天津影久とははとこの関係にあたり、遊女として暮らしていたところを、影久に身請けされる形で逸刀流にやって来た。幼少時の影久を野犬から救ったことがあり、影久からは師と仰がれるほどの腕前の持ち主。しかし10歳の時に兄を剣術で破り、結果的に自死に追いやったことで、母親とともに家から追放され、ともに遊女になる他なかった過去から、自らの剣の腕前を前向きにとらえることができずにいる。 影久とは次第に親しくなり、恋仲になっていく。

尸良 (しら)

無骸流に所属する若い男性。前髪を眉上で短く切った毛量の少ないショートカットヘアをしている。もともと人殺しを生業にしており、百琳より後に無骸流に加わった。非常に残虐なうえ、倒錯した性的嗜好の持ち主。狙った人間の四肢を切断して動けなくしてから嬲り殺すことを好み、特に女性を凌辱しながらむごたらしく殺すことに強い性的興奮と快楽を感じている。 万次や浅野凜と出会った当初は、逸刀流を壊滅させるという共通の目的から行動をともにしていたが、尸良のあまりにも残酷で狂った嗜好が原因で次第に敵対するようになる。凶戴斗が妹同然に想っていた遊女・恋を殺した犯人でもあり、戴斗からは仇として狙われている。

百琳 (ひゃくりん)

無骸流に所属する若い女性。前髪を真ん中で分けて右側だけ目が隠れそうなほど伸ばし、胸まで伸ばした金髪ストレートロングヘアをしている。金髪は染髪したもので、地毛は黒髪。普段は黒髪のかつらをかぶっている。真理路には「姐さん」と呼ばれている。 真理路と組んで逸刀流を狩っており、同じ打倒逸刀流を目指す万次と浅野凜を無骸流にスカウトしにやって来る。 明るく肝の据わった世話焼きな性格で、ふざけた態度を取って隠しているが、非常に真面目で義理堅い性格。「にゃはは」という特徴的な笑い方をする。かつては武士の早川霞江斎の妻であったが、夫が将来を悲観して病弱な息子を殺害したことで錯乱し、夫を殺して死罪人となる。しかしそこを吐鉤群に救われ、鉤群の命令によって無骸流に所属することになった。 弓の扱いに長け、折りたたみ式のボウガンを武器としている。

真理路 (しんりじ)

無骸流に所属する若い男性。前髪の一部だけおろして斜めに分け、残りは後ろで1つにまとめた髪型をしている。百琳と組んで逸刀流を狩っており、母親の面影がある百琳を「姐さん」と呼び慕い、想いを寄せている。もとは呉服問屋で丁稚として働いていたが、金銭を盗んだことで死罪となるところを拾われる形で無骸流に加わった。

偽一 (ぎいち)

無骸流に所属する若い男性。スキンヘッドに丸いサングラスをかけ、顎ひげを生やしている。寡黙なうえ、サングラスで表情が見えないため考えが読みにくいが、不器用で情に厚い性格。しかし敵である逸刀流には容赦がなく、鎖鎌を武器に淡々と狩っていく。もとは船大工として働いていたが、病に侵された息子の薬代のために窃盗をし、死罪となるところを拾われる形で無骸流に加わった。 百琳を非常に大切に想っており、自分が逸刀流壊滅に貢献することで、自分だけでなく百琳も罪状放免にしたいと考えている。

宗理 (そうり)

町絵師を務める中年の男性。浅野凜の父親である、浅野虎厳の幼なじみでもある。前髪を上げて額を全開にし、髪をオールバックにして撫でつけている。その正体は幕府の隠密で、虎厳をも超える剣の使い手。芸術を真剣に愛しており、鎖国下において西洋の絵画を入手するために隠密となった。逸刀流打倒のために旅に出る凜と万次に、仲間に加えてもらう見返りに、金銭的援助をすることになる。 百琳の亡くなった夫である霞江斎元京とは友人だった。

吐 鉤群 (はばき かぎむら)

幕府の新番組頭を務める中年の男性。ちょんまげを結って口ひげを生やしている。表向きは逸刀流に友好的で、天津影久に逸刀流を幕府の講剣女の師範に召し抱えたいと持ち掛けるが、裏では自らの配下である無骸流を使って、逸刀流を撲滅するべく逸刀流剣士を次々に殺させていた。「逸刀流にとって危険な人物」として、逸刀流側に「アカギ」という誤った名前で知られたため、正体が判明するまでは、作中で便宜上「アカギ」と呼ばれている。 自らも逸刀流撲滅に積極的に動き、逸刀流幹部が一堂に会した際には彼らをことごとく斬殺し、逸刀流に壊滅的打撃を与えた。万次の不死の力に関心を抱いており、綾目歩蘭人らにその解明を命じる。

伊羽 密花 (いばね ひそか)

剣術道場「心形唐流」の創始者である伊羽軒秋の孫で、現在の総帥伊羽研水の義理の娘である若い女性。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、ロングヘアを後ろで1つにまとめている。口元のほくろが特徴。物静かで儚い雰囲気の人物で、身体が弱く、常用している薬の副作用により視力が弱くなっている。心形唐流が逸刀流に加わるための交換条件として、逸刀流統主である天津影久と結婚することになる。 実の両親は早くに亡くしており、両親の願いにより研水の義理の娘となった。そのため、血の繋がりがないにもかかわらず常に自分のために心を砕いている研水に恩と申し訳なさを感じており、自分の身が役に立つならと、結婚にも前向き。

入谷 (いりや)

剣術道場「心形唐流」に所属する若い男性剣士。前髪を目の上で切って真ん中だけ残し、残りは撫でつけて肩まで伸ばしたセミロングヘアをしている。顎から鼻の下にかけて、一本線の大きな傷跡がある。伊羽密花に想いを寄せており、「心形唐流」が逸刀流に加わることも、そのために密花が天津影久と結婚することにも納得していない。 そのため、道場を訪れた影久に勝負を挑む。

馬絽 祐実 (ばろ すけざね)

逸刀流に所属する剣士の若い男性。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、後ろで1つにまとめている。顔の中心に横一本線の大きな傷跡がある。もともとは「志田祐実」という名で武士として生きていたが、すべてを捨てて逸刀流に入門した。吐鉤群が逸刀流を襲撃し幹部の多数を殺した時は、天津影久の命令により乙橘槙絵を探しに行っていたため生き残り、10人だけ生き残った残党の1人となった。

吉乃 瞳阿 (よしの どうあ)

逸刀流に所属する剣士の少女。前髪を眉上で短く切ったショートカットヘアをしている。目が小さく細くつりあがっている。もともとは蝦夷地の出身で、日本人だがアイヌ人の両親に育てられた。本名は「クイチル」だが、蝦夷地を出る際に、同時に旅立った八苑狼夷作に「大人の名前を付けてほしい」と頼み「湖畔」という意味の「トワ」と名付けられ、それが転じて現在は「瞳阿」という名で呼ばれるようになった。 凄腕の剣士で気が強く生意気な性格だが、極度の人見知りで内弁慶。そのため家族同然の存在である夷作のような特に親しい人物か、慕っている天津影久以外の相手とは口をきこうとしない。吐鉤群が逸刀流を襲撃し幹部の多数を殺した事件の後、10人だけ生き残った残党の1人となるが、泊まる場所にも困っていたところで、浅野凜と知り合う。 以来、凜と反発しあいながらも奇妙な友情を育むようになっていく。

八苑狼 夷作 (やそのおおかみ いさく)

逸刀流に所属する剣士の若い男性。前髪を上げて額を全開にし、肩に届くほどまで伸ばしたセミロングヘアをしている。非常に大柄で筋肉質。もともとは異国の宣教師の息子。吉乃瞳阿とは、少年時代に蝦夷地に住んでいた頃に、自宅にお腹をすかせた瞳阿が食べ物を盗みに入ったのがきっかけで知り合い、親しくなった。瞳阿が蝦夷地を去る際に「一緒に旅に出ないか」と誘われたのがきっかけで同行し、現在に至る。 吐鉤群が逸刀流を襲撃し幹部の多数を殺した事件の後、10人だけ生き残った残党の1人となった。本名は「フェニーチェ・イサーク・カルワーリョ」だが、長い名前で覚えづらいという理由から瞳阿からは「イサク」と呼ばれるようになり、さらに蝦夷地を去る際に父親から「耶蘇の大神」という意味で「八苑狼」という姓を授けられ、現在の「八苑狼夷作」という名前になった。 素朴で心優しい性格で、やや気が小さい。そのため瞳阿の傍若無人な振る舞いのフォローをすることが多い。瞳阿のことは家族同然に想っている。

阿葉山 宗介 (あばやま そうすけ)

逸刀流に所属する剣士の65歳の男性。前髪を上げて額を全開にし、肩につくほどまで伸ばした長髪を後ろで1つに結んでいる。右目の脇に縦一本線の大きな傷跡があり、右腕を失っており左腕のみの隻腕となっている。天津影久の父親である天津三郎の友人で、影久の後見人。そのため、影久不在の際には統主代行を務める。吐鉤群の策略で逸刀流が壊滅的打撃を受けた際、10人だけ生き残った残党の1人となる。 失った右腕に仕込んだ鎖と両刃の短剣を使った波状攻撃を得意とする。

果心居士 (かしんこじ)

逸刀流に所属する年老いた男性。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、肩につくほどのボブヘアをしている。眼鏡をかけ、口ひげとあごひげを長く伸ばしている。普段は江戸市中で「水科」という名で薬屋として働いているが、そのかたわら密かに諜報活動を行っている。

怖畔 (おずはん)

逸刀流に所属する剣士の若い男性。お面をかぶって素顔を隠し、奇妙な装束をまとっている。素性などは一切不明で、首から下げた特殊な笛の音で敵を混乱させ、その隙をついて攻撃するという独特の戦闘スタイルを持つ。怖畔自身は笛の音に耐性があるが、他の者ではそうではないため、逸刀流内では「一緒に戦いたくない剣士ナンバーワン」と評されている。 言葉は一切発さないが、吉乃瞳阿などとはジェスチャーを用いて意思疎通ができる。吐鉤群が逸刀流を襲撃し幹部の多数を殺した事件の後、10人だけ生き残った残党の1人となる。

綾目 歩蘭人 (あやめ ぶらんど)

医師として働く若い男性。前髪を右寄りの位置で斜めに分けて左目が隠れそうなほど伸ばし、後ろの髪は耳の下あたりまで伸ばしている。医師として生真面目で志高い人物で、西洋医学を学びたいと考えるあまり、鎖国令を破って7年間異国を放浪していた。帰国後、投獄されていたところを吐鉤群に見出され、鉤群の命により、万次の身体の不死の理由を解明するため万次を監禁し、万次と死罪人を用いて人体実験を行うことになる。

山田浅右衛門吉寛 (やまだあさえもんよしひろ)

罪人の斬首を代々請け負う山田家の、4代目の男性。前髪を眉上で短く切って真ん中で分け、ロングヘアを高い位置でポニーテールにしてまとめている。目がぎょろぎょろと大きく、両頬が垂れ下がっている。その職業から「首斬り浅右衛門」と呼ばれている。吐鉤群の命により、綾目歩蘭人が万次と死罪人を用いて行う人体実験の手伝いをすることになる。

荒篠 獅子也 (あらしの ししや)

六鬼団に所属する若い男性。頭部の中心に大きな傷跡があり、頭頂部はスキンヘッド、耳の上から肩につくほどまで伸ばした髪の毛を縦ロールにしている。非常に大柄で、カイゼルひげとあごひげを生やしている。もともとはオランダの商船の船員として働いており、本名は「レウ」。罪人をかばったことで仲間から私刑を受けて海に放り出されたが、吐鉤群に助けられた。 重さ30キロの斧を両手に持ち、敵を胴ごと寸断する力技を得意とする。また、全身に鉄鎖を何重にも巻き付けており、ほぼ完璧な防御を誇っている。

杣 燎 (そま りょう)

六鬼団に所属する少女。吐鉤群の隠し子でもある。前髪を左寄りの位置で斜めに分けて額を見せたショートカットヘアをしている。罪人ではないが、六鬼団に欠員が出たため、自ら志願する形で加入した。鉤群を武士として尊敬する真面目で一本気な性格だが、実戦経験には乏しく、他の六鬼団メンバーに比べると腕はやや劣る。

八百比丘尼 (やおびくに)

血仙蟲を身に宿し、800年間生き続けている謎の尼僧。万次の体に血仙蟲を埋め込み不老不死とした張本人でもある。非常に小柄な老婆の姿をしており、額と両頬に渦巻き模様の入れ墨が入っている。 天津影久に復讐を誓う浅野凜に万次の存在を教え、凜に万次を用心棒として雇い、ともに影久を狙うことを勧める。

黒衣 鯖人 (くろい さばと)

逸刀流に所属する剣士の男性。逸刀流には天津影久の幼少期から所属する古株。鎧兜を着込み、両肩に布で覆われた大きなこぶのような不自然なものを背負っている。容姿からは年齢を判別しづらいが、兜の下は頭部全体に大きな傷がいくつもあるスキンヘッドをしている。倒錯した性的嗜好を持ち、気に入った女性の頭部を剥製にし、自分の身体に直接縫い付ける形で保存しており、これが両肩のこぶの正体である。 布で隠された右肩にはかつての妻、左肩には浅野凜の母親である浅野時の頭部が縫い付けられている。凜のことも気に入っており、凜の14歳の誕生日から2年間ずっとラブレターを送り続けている。

閑馬 永空 (しずま えいくう)

逸刀流に所属する剣士の男性。前髪を目が隠れるほど伸ばした長髪をおろしている。一見若い男性に見えるが、実際は万次と同じく、体内に血仙蟲を埋め込まれた存在で、実年齢は200年近い。同じ境遇の万次と自分が組めば最強であると考えており、万次に逸刀流の乗っ取りを持ちかける。血仙蟲の動きを止め、肉体の再生を妨げる「血仙殺」という薬を所持している。

川上 新夜 (かわかみ あらや)

逸刀流に所属する剣士の男性。2年前、浅野家を襲った逸刀流一味の1人で、浅野時を凌辱した張本人でもある。前髪を上げて額を全開にし、肩につくほどまで伸ばしたストレートロングヘアをしている。妻に逃げられ1人で暮らしていたが、1年半前に妻が亡くなり、息子の川上練造が自分を頼ってやって来てからは、練造と2人で暮らしている。 練造のために逸刀流を抜け、別の仕事をして生きようとしていたが、そんな折に浅野凜と知り合い、過去を忘れるために凜を殺そうとする。逸刀流に所属するかたわら、自作のお面を売るお面売りをしており、独特のセンスは練造にも受け継がれた。

川上 練造 (かわかみ れんぞう)

川上新夜の息子。前髪を目の上で切ったショートヘアの少年。ある日、町でもめごとを起こし、斬り殺されそうになっていたところを浅野凜に助けられたのがきっかけで親しくなり、凛を家に招く。しかしその後、家にいた新夜が凜の正体を知って凜を殺そうとし、駆け付けた万次に返り討ちにされて死ぬのを目撃してしまう。その際に凜がついた嘘から、父親の正体を知らないまま万次と凜を強く恨むようになる。 やがて尸良と行動をともにしながら、万次と凜の命を狙うようになる。

(まち)

万次の妹。23歳で故人となる。前髪を眉上で切り揃え、耳の下で切り揃えたボブヘアをしている。雰囲気が浅野凜に似ている。斎藤応為辰政と結婚し、勝川家の同心の妻として生きていたが、目の前で万次に辰政を殺されて以来、ショックで精神退行し、幼児のような言動をとるようになってしまった。その後、万次を弟の仇と狙う相手に人質にとられ、万次の目の前で斬られて亡くなった。

斎藤応為辰政 (さいとうおういたつまさ)

町の夫で故人。ちょんまげを結っている。勝川家の同心として働いていたが、ある日通りで偶然出くわした万次が、旗本である堀井重信を斬った犯人と知り、戦いを挑む。しかし万次に敗北し、斬られる姿を町に目撃されてしまい、それ以来、町は精神に異常をきたすこととなった。

浅野 時 (あさの とき)

浅野凜の母親で、浅野虎厳の妻。故人。日本髪を結っている。凜の14歳の誕生日に天津影久ら逸刀流一派に襲われ、虎厳が殺された後、凜の目の前で凌辱された挙句殺された。非常に美しい容姿をしていたことから黒衣鯖人に気に入られ、死後、その頭部を鯖人の左肩に縫い付けられた。

集団・組織

逸刀流 (いっとうりゅう)

50年ほど前、剣道道場「無天一流・浅野道場」を破門になった天津三郎が興した流派。2代目である天津影久が流派を継いで以降、「国中の剣という剣を滅ぼし、あらゆる流派の垣を取り除いてみせる」という願いのもと、あらゆる流派に「服従か死か」の選択を突き付け、逸刀流に加わらなかった流派は根絶やしにするという過激な方法で、門下生を急速に増やしている。 一定の奥義や格式といったものは存在せず、強い人間であれば誰でも入門でき、「必ず一対一で戦うこと」ということのみを身上としている。そのため、一対一でさえあれば武器の種類は問わず、剣以外を用いても良いとしている。しかし、その入門条件や門下生の集め方ゆえに、黒衣鯖人のような人間的・社会的に問題のある剣士も多い。

無骸流 (むがいりゅう)

吐鉤群によって作られた、反幕府的因子を抹殺するための地下組織。現在は主に逸刀流の撲滅を目的とし、あらゆる手段を用いて逸刀流剣士を殺している。「流派」と名乗ってはいるが道場や師範や門下人はなく、構成員は百琳ら8名しかいない。また、重罪を犯して、本来であればすでに死罪となっているはずの人間のみで構成されている。 構成員たちは、逸刀流を1人倒すごとに1.5両が与えられ、それが合計50両に達して上納すれば無罪放免となる。

六鬼団 (ろっきんだん)

吐鉤群が無骸流の解散後に、新たに創設した私兵集団。逸刀流の残党狩りを目的としており、無骸流と同様に、杣燎を除いた多くが罪人によって構成されている。いずれも腕利きの剣士たちで、強者ぞろいの逸刀流残党とも渡り合った。

その他キーワード

血仙蟲 (けっせんちゅう)

ラマ僧が生んだ究極の延命術。人生の目的なかばで死ぬ人間たちを救うために生まれた。正体は宿主が傷を負った際に現れて即座に患部の再生を行う泡状の謎の物質。万次は八百比丘尼により、身体の少なくとも6か所に、この血仙蟲を生み出す肉塊「血仙基(けっせんき)」を埋め込まれている。血仙基を身に宿した人間は、どんな怪我を負っても、血仙基から飛び出す虫たちを軸に血仙蟲を用いた再生行為を行い、瞬時に傷は修復されるため、事実上の不死身の肉体を手に入れる。 また、血仙基たちは、宿主が血仙蟲を埋め込まれた時点の身体、たとえば宿主が20歳であった場合は20歳の時の身体を忠実に再生しようと活動するため、宿主は不老にもなる。しかしそれはあくまで血仙蟲の力によるものであるため、身体にある血仙蟲がすべて消滅した場合、宿主は普通の人間に戻る。 また、血仙蟲は傷の再生のみを行うため、たとえば長期にわたり宿主が呼吸や食事ができない状態にさらされたり、非常に暑い・寒い等の人間が生きていけない環境に置かれたり、再生が追い付かないほどの速度で身体を破壊された場合には、宿主は死亡する。

書誌情報

無限の住人 全30巻 講談社〈アフタヌーンKC〉 完結

第1巻

(1994年9月発行、 978-4063140903)

第2巻

(1994年12月15日発行、 978-4063141016)

第3巻

(1995年4月17日発行、 978-4063141092)

第4巻

(1995年10月18日発行、 978-4063141191)

第5巻

(1996年8月発行、 978-4063141375)

第6巻

(1997年6月発行、 978-4063141511)

第7巻

(1997年10月発行、 978-4063141658)

第8巻

(1998年7月発行、 978-4063141832)

第9巻

(1999年6月発行、 978-4063142105)

第10巻

(2000年4月発行、 978-4063142389)

第11巻

(2001年1月発行、 978-4063142594)

第12巻

(2002年2月19日発行、 978-4063142686)

第13巻

(2002年11月発行、 978-4063143065)

第14巻

(2003年7月発行、 978-4063143263)

第15巻

(2004年1月発行、 978-4063143379)

第16巻

(2004年5月発行、 978-4063143485)

第17巻

(2004年11月発行、 978-4063143638)

第18巻

(2005年6月発行、 978-4063143805)

第19巻

(2006年4月発行、 978-4063144093)

第20巻

(2006年10月発行、 978-4063144307)

第21巻

(2007年6月発行、 978-4063144550)

第22巻

(2007年12月発行、 978-4063144802)

第23巻

(2008年6月発行、 978-4063145090)

第24巻

(2009年2月発行、 978-4063145489)

第25巻

(2009年9月発行、 978-4063145915)

第26巻

(2010年5月発行、 978-4063106541)

第27巻

(2011年1月発行、 978-4063107227)

第28巻

(2011年10月発行、 978-4063107753)

第29巻

(2012年5月発行、 978-4063878189)

第30巻

(2013年2月発行、 978-4063878691)

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