ギャラリーフェイク

藤田玲司は元NYメトロポリタン美術館のキュレーター。特に作品修復にかけては超一流の腕前を持ち、プロフェッサーの異名をとるほどだった。彼が経営する贋作専門店「ギャラリーフェイク」は、表向きには贋作でも上質な作品を安価で購入できるという触れ込みで、熱心なファンもついている。しかし、裏の顔は美術品の横流しやブラックマーケットの盗品を扱い真贋かまわず売り払ってぼろ儲けをしていた。悪徳画商ならぬ、美術界の鼻つまみ者・藤田が主人公の絵画ミステリー。芸術に社会問題が絡むストーリーで、サスペンスの中で醸し出す人間臭さが後を引く。第41回小学館漫画賞を平成7年度受賞。

あらすじ

第1巻

東京の湾岸、ウォーターフロントにある画廊「ギャラリーフェイク」。そこには、レンブラント、ピカソ、葛飾北斎、写楽、モネなど誰もが知る美術品が並んでいる。ギャラリーは、その名の通り贋作を専門に売っているという類まれな商売をしている。ギャラリーフェイクのオーナーは藤田玲司という男性。元NYメトロポリタン美術館のキュレーターで、真贋が見分けられるプロフェッサーとの異名を持つ男だ。この店は表向き贋作専門で安く名画を手に入れたいという人向けにオープンしている。しかし、裏の顔は盗品や美術館の横流し品など、公にはできない真作をブラックマーケットで手に入れ、法外な価格でコレクターに売りさばいていた。この日もギャラリーには裏の商品を求める客が訪れていた。その客とは衆議院議員の梶正一、美術品コレクターとしても名高い男だ。梶の目的はずばりモネの『つみわら』という真作だ。藤田の店に『つみわら』があるとの情報を得た梶は早速藤田に取引を持ちかけにきた。藤田は快く応じるものの、贋作専門画廊として対応する姿勢は簡単に崩さない。真作である事は一言も言わず、ただ50億円の品があるとだけ伝えるのだった。巨額を提示された梶は真作と信じ手に入れた喜びに浸るのだが、不敵な笑みを浮かべる藤田だ。果たしてこのモネは真作か?贋作か?真実を知っているのは藤田だけだった。

梶との取引後、ある美術館の学芸員で酒井と名乗る男が藤田を訪ねてきた。酒井は梶にだけは『つみわら』を売らないでほしいと藤田に言う。梶は潤沢な資金にものを言わせ、貴重な美術品を買い漁り、マネーロンダリングに利用してると訴える酒井だった。芸術がなんたるかもわかっていない人間の手に巨匠の名作が渡り、闇から闇へ流されてしまうという事に我慢がならないと言うのだ。しかし藤田は、自分で買い取れもしない人間が人のビジネスに口を出すなと一蹴する。後日、藤田は50億円のモネを梶の元に納品後、引き換えに梶のコレクションの中からレンブラントの贋作を1点手に入れようとしていた。その時、梶邸に勝手に侵入してきた酒井が『つみわら』をナイフで引き裂こうとする。酒井は作品が梶の手に渡るぐらいならいっそ葬ってしまったほうがいいと言うのだ。藤田の機転によりその場は収まった。藤田は気の立った酒井を連れてギャラリーフェイクへ戻る。そこで、酒井が目のあたりにしたのは、古今東西のあらゆる画材や薬品が置かれた藤田のアトリエだった。梶邸から引きとったレンブラントを取り出しおもむろに洗浄を始める藤田。徐々に表面の絵の具が削られて、その下から新たな別の絵が見えてくる。困惑する酒井が見つめる先に現れたのはレンブラントの未発表の真作だった。藤田の目的はたんに50億円をふっかける取引だけでなく、梶の持つ贋作のレンブラントを手に入れることだったのだ。藤田は、レンブラントの真贋もわからない人間がなぜモネの真作を持つ必要があるのかねと不敵に笑う。その一言で酒井は梶の手に渡ったモネが贋作である事を知った。

大手商社の高田商事が出資して設立された高田美術館。新館長には新進気鋭の28歳、三田村小夜子が就任して話題となっている。小夜子は、米エール大学を卒業し、日本人女性初のニューヨーク近代美術館学芸員として名を馳せてきた。小夜子はその就任パーティーで、幻の『ひまわり』を出展したのだ。ゴッホの『ひまわり』は7連作あるのだが、ほとんどは海外の美術館に所蔵されている。日本でも戦前にある実業家が所有していたが、戦争の空襲によって焼失したと言われていた。絵画の左端に確かに不自然な焼け跡があるものの、現存しているとの情報を得て、高田美術館の目玉の作品にと収集したと言われていた幻の作品だった。しかし、この作品は贋作だと見抜いていた藤田は、小夜子に冷ややかなまなざしを送っていた。ある日、この『ひまわり』をもう一度観ようと高田美術館を訪れる藤田。そこで、ある少女と出会う。その少女の名は、サラ・ハリファといい、かのQ首長国の王族の娘だった。藤田が見つめる『ひまわり』にサラが手を伸ばそうとした瞬間、遮る藤田だった。そして、その絵を購入したいというサラの願いを藤田は後日叶える事となる。隣国の侵略を受けたQ国。戦火の中、サラは家にあったこの作品を持って逃げたのだが、ひどい火傷を負ったのだった。サラの腕の火傷と絵画の焼け跡がピッタリ一致していた。

第2巻

南フランスのコート・ダジュールに休暇という名目で乗り込んだ藤田玲司サラ・ハリファ。先日亡くなったマン・アボットという原始絵画の巨匠の謎を解くためにここへ来たのだった。コート・ダジュールにあるサラの家を拠点にして、早速、マン・アボット美術館を訪れた2人の前に、高田美術館館長の三田村小夜子が現れた。他の画商も集まっていて、みなアボットの残した遺産の噂を聞き、それを目当てに来ていたのだ。その日は小夜子は見知らぬ男と荒れ果てた海岸に出かけて行った。藤田とサラも車でその行動を追いかけた。見知らぬ男はマン・アボットの使用人だったヴァレリーだった。平凡な画家だったマン・アボットはある日、天から啓示を受け、原始美術を彷彿とさせる作風に激変した。そうして世界の巨匠になったことは幅広く知られている。しかし、藤田は、マン・アボットにはもう一人の作者が付いてたのではないかと以前から疑っていた。断崖絶壁の崖の下にある洞窟からマン・アボットの遺産が見つかる。NYメトロポリタンでの展覧会を大成功させて帰国した小夜子。彼女はエリザベータと言う名の少女を連れていた。メトロポリタン美術館でキュレーターの藤田に会わせてくれと騒いでいたエリザベータを、偶然通りかかった小夜子が見つけ、連れ帰ったのだ。エリザベータの母親フローラは、13年前にイタリアを無銭旅行中の藤田と出会い恋仲になった。そのときできた子どもがエリザベータだという。突然藤田に隠し子疑惑が浮上したのだ。しかし、フローラは何者かに殺害されていた。彼女は持っていた貴重な資料『ヴァザーリの手記』と1枚のデッサンをエリザベータに預けていた。フローラからこれを藤田に渡すよう頼まれたエリザベータは、藤田を探してNYメトロポリタン美術館に来たのだった。『ヴァザーリの手記』には、あの名画『モナ・リザ』の本当のモデルとなったフローラ・デル・ジョコンダ嬢について明記されている。イタリア名家のダヴァロス家では当家の婦人が『モナ・リザ』のモデルであるとでっち上げて世間に公表し続けていた。それがこの手記が見つかってしまうと名門タヴァロス家の誉が崩れ去る事を恐れた。そのために、ジョコンダ家の末裔、フローラを殺したのだ。タヴァロス家の者は『ヴァザーリの手記』を手に入れるためにエリザベータを誘拐した。タヴァロス家主催のモナ・リザ大展覧会に招待を受けイタリアに来ていた藤田はすぐさまエリザベータを救い出すために動き始める。

第3巻

藤田玲司は業界では1、2を争う広告代理店の万報堂から緊急の依頼を受ける。万報堂・浅田の相談内容は、新しいCMを作成するにあたって、『ミロのヴィーナス』の失われた両腕を復元させたいというものだった。早速パリのルーブル美術館へ飛んだ藤田は、旧知の学芸員に無理を言って、倉庫に眠っていたある左腕の石膏の型を取る事に成功する。その左腕は手にリンゴを握っていた。万報堂の新しいCMはリンゴのリキュールが商品なので丁度良いと藤田は睨んでいた。ヴィーナスの左腕にはリンゴが握られていたという事実も相まって大反響になると考えたのだ。しかし、高田美術館館長の三田村小夜子が現れて、その左腕は真っ赤な偽物だと言い放つ。さらにCMのモデルは小夜子の実の妹・三田村みちるだった。小夜子はみちるに万報堂のCM出演を辞めるように指示していた。小夜子はヴィーナスの復元は芸術をおとしめると万報堂を糾弾するが、藤田は『ミロのヴィーナス』ごときは腕の良い職人が作った二級品であると言い、小夜子をギャラリーフェイクの特別展示室へと案内する。ここを見た限りは他言無用を貫いてもらうという条件だ。特別展示室で小夜子が見たものは、世界の名作ばかりだった。盗品や不運な道筋で流れ流れて藤田のところへ来た数々の作品だ。その中に『ニクドスのヴィーナス』があった。古代ギリシャの巨匠プラクシテス作だ。彼は当時、ヴィーナス像を得意とする一流の彫刻家だった。港町ニクドスの神殿に飾られたこのヴィーナスの人気は絶大で、はるばる遠くの国から多くの人が観に訪れていたようだ。『ニクドスのヴィーナス』の顔は『ミロのヴィーナス』の顔とそっくりだった。藤田は『ミロのヴィーナス』がレプリカで『ニクドスのヴィーナス』がオリジナルなのではないかと推理していた。いずれもエーゲ海でトレジャーハンターが見つけた代物なので、ブラックマーケットを回遊し、藤田の元に流れ着いたいわくつきの代物だ。藤田は『ミロのヴィーナス』が人の心を惹きつけるのは両腕がないという不完全さからではないかと考えていた。美術品の真贋ばかりに囚われていた小夜子に、藤田は生身の美神たるあなたにも時として不完全であってほしいと伝えた。

ある日、ギャラリーフェイクに1通のダイレクトメールが届く。有名ジュエリーショップ「ジェイド」オープンの知らせだった。翡翠という女性がオーナーを務めている。藤田と翡翠は7年ぶりに再会した。お互いの活躍をたたえつつも今の仕事の内容を探りあっている。藤田は翳翠のことを一流のジュエリー泥棒だと思っている。そして翡翠もギャラリーフェイクは裏で盗品や美術品の横流しをする悪徳画商だという情報を得ていた。翡翠が藤田を呼んだのは、長年貯めたコレクションを売りに出すためだった。売りに出したい品は『ホープ・ブリュー・ダイアモンド』といい、ワシントンのスミソニアン博物館に展示されているはずのものだ。(中略)そこにあるのはスミソニアン博物館から貸し出された『ホープ・ブリュー・ダイアモンド』だった。藤田は一目見て贋作だと解り、小夜子に偽物だと伝えた。スミソニアン博物館から日本にやってきた学芸員のミッキー・ウインストンは絶対にそんな事はないと言う。藤田は飛行機の中で盗まれたのではないかと思い、心当たりがあるので任せてほしいとミッキーに言った。

第4巻

レンブラント・ハルメンス・ファン・レイはオランダの画家だ。代表作である『夜警』『ペテロ』『否認』など、肖像画・風景画の分野で名作を残している。レンブラントライトと呼ばれる光の使い方など、油彩の技法で後世に多大な影響をもたらした。ある日、レンブラント研究の第一人者ラストマン博士が日本に緊急来日した。来日の目的はレンブラントの作品の真贋を、ラストマン博士率いるレンブラント調査審議委員会の調査ではっきりとさせるためだった。作品は日本のある都市の美術館に所有されている。他国の美術館の所蔵作品にまで真贋を追及するには理由があった。レンブラントは生涯で約600作品を残している。その中でこの調査審議会の鑑定結果では真作数は42点のみ。残りの作品はレンブラントの弟子たちの手によるものだと評議されたのだった。17世紀のオランダではレンブラントのような大家が工房に弟子を抱えてレンブラント風の作品を大量に生産していたのだ。レンブラント調査審議会は10年前にラストマン博士の父親クリストファー・ラストマンが立ち上げた。彼はたった一度だけ、その真偽の鑑定結果に誤りがあり、世間からのバッシングで面子をいたく侵害された。ラストマン博士は父親の仇を打つ覚悟を持ってこの仕事に取り組んでいた。実は10年前、クリストファー・ラストマンの審議の間違いを見抜いたのは藤田玲司だった。米メトロポリタン美術館で、プロフェッサーと呼ばれるキュレーターだった藤田は完璧なレポートを提出していた。X線赤外線のほかに年輪年代学、絵の具の化学分析とあらゆる科学鑑定がこの作品を真作だと証明していた。クリストファー教授は、判定はくつがえったと断念したが、息子のラストマン博士は認めてしまってはレンブラント調査審議委員会の権威が崩れると猛反対するのだった。しかし、クリストファー教授は審議の間違いを公表したのだった。それからというもの、ラストマン博士はオランダ人の誇りにかけて審議を続け、鑑定は100%信用に価するものだと言うのだった。その言葉を聞いた藤田は冷笑した。

数日後、二人は山間の秘境に建てられたトキワ美術館に連れ立って出かけることになる。所蔵されているレンブラントの作品『広つば帽の男』は最も注目されている作品で、館長の常盤氏が藤田を通じて手に入れたものだった。藤田が常盤氏のためにアメリカのレンブラント収集家から買い取ったのだ。しかしラストマン博士は一目見て、これはレンブラントのオリジナルではないと言い放った。作品には対となる婦人の肖像画があり、2作品一緒に展示されてるのがとても珍しいため県外からも多くの客が観賞に訪れていた。1枚は本物で対の1枚が偽物であるわけがない。そうであるなら買い取りませんと藤田は言い放つ。

プリンスツアーが企画した『大英博物館を巡る芸術を訪ねる旅』という7日間でイギリス各地の美術館を周るという旅がある。解説役として美術評論家の大谷が同行していた。このツア―最大の目玉はある侯爵家のハウスセールだ。藤田はこのハウスセールを目的にツアーに参加していた。セールでは美術評論家の大谷が全く見向きもしていない日本の根付けのコレクションに驚きのオークション値段がついた。大谷は驚き、誰もがその根付けに注目するなか、5万ポンドという大金を積んで手に入れたのは藤田だった。藤田は日本の工芸品が世界を座巻する日も近いだろうと考えていた。

第5巻

三田村小夜子が館長を務める高田美術館に最近まったくお客が入らなくなった。小夜子に会うつもりで美術館を訪れた藤田玲司は、良い企画を展示中なのにお客の入りが不振で驚いた。高田美術館の新人のキュレーター船越が藤田を訪ねて来た。客入りが不振の理由には、中央新聞文化部で長年美術評論家として記事を書いている夏目記者が絡んでいると言う。夏目は若くて美人の小夜子に言い寄っていた。さらに高田美術館の良い部分をクローズアップして書いてやるから俺の女になれとセクハラまがいの言動をこの1か月繰り返していたのだ。小夜子に拒否された腹いせに、高田美術館をメディアから一切締め出すという猛烈な嫌がらせを仕組んだのだった。船越はギャラリーフェイクで夏目と出くわす。夏目は藤田にゴーストライターを依頼していたのだ。夏目が新聞紙上に掲載している海外の美術品についての細かな詳細はすべて藤田が海外の旧知のキュレーターから集めた情報だった。それをまとめて記事に仕立てるのが藤田の役目だった。今回も原稿の受け渡しに来ていたのだ。船越は頼みの綱だった藤田も夏目と繋がっていたのだと深い絶望感に陥ってしまう。その姿を見た藤田は、小夜子のためにと一肌脱ごうと決意する。藤田の考えは夏目をこの業界から締め出すことだった。校正も編集も自分で確認しない遊び人の夏目だ。藤田は自分ではなく友人のキュレーターが書いた原稿をそのまま渡してやったのだ。原稿は盗作まがいの誹謗記事だと社会事件の1つとして週刊雑誌に取り上げられたのだった。

ギャラリーフェイクの屋根から鳥の糞が多量に落ちてくる。不審に思った藤田が屋根に登ってみると、動物好きのサラ・ハリファが屋根で鳩を飼っていた。驚いて怒る藤田に、サラはインコを飼いたいと申し出る。パブロと名付けられたインコは大変優秀で、ギャラリーのピカソの絵画の側でピカソ!ピカソ!と叫んだ。面白くなった藤田はゴーギャン、ドガなど見せてみたが、パブロは興味を示さない。ピカソの絵だけに反応するのだ。ビジネスに使えると一瞬で閃いたのは藤田だけではなく、サラも同様だった。藤田はサラのビジネスアイデアに応じることにした。サラはパブロの写真を撮り、都内のペットショップを回りパブロを購入した人を探す。とうとう1人の資産家が見つかった。その豪邸を訪ねると、そこに1人住む初老の紳士が出てきた。妻は海外に行って不在なのだと言う。早速パブロの写真を見せたところ、家で飼っていたチコだと言った。チコは紳士の妻が飼って可愛がっていたインコで、妻が不在になったら逃げだした。サラはこの家にピカソの絵画があるかと紳士に訊いたところ、『泣く女』という絵があった。縦長の最高傑作でこれが真作だったら大変な値段が付く名作だ。絵に見入っていたサラは額縁の右上に不審な壁の傷穴を発見する。その傷穴はサラが見ている目の前でボロボロと崩れて、中から驚くべきものが出てきたのだ。

第6巻

あるテレビ局の料理番組に依頼され、ギャラリーフェイクから乾山の高級大皿を貸し出した藤田玲司。取扱いには注意するよう伝えていたにも関わらず、テレビ局側の不注意で大皿の1部が破損してしまう。不当に安い示談金を差しだすテレビ局の責任者に藤田は怒り狂って800万円で買取れと詰め寄るのだった。上の者と相談するので時間をくれと言うディレクターにしぶしぶ応じた藤田はテレビ局の中を案内してもらう。するとそこで藤田は偶然にも三田村みちると再会したのだ。彼女は人気番組『ズバズバ!家宝鑑定局』という番組でMCを勤めていた。番組のレギュラー鑑定士が急に欠席してしまい、穴を埋めるべく藤田は番組への出演を緊急依頼される。しかし番組のご意見番と名高い青山先生から藤田を出すと番組の質が落ちるなどと揶揄されて頭に来た藤田。みちるはピンチヒッターには元メトロポリタン名キュレーターの藤田が適任だと太鼓判を押す。それならと藤田は緊急出演に同意したのだった。しかしこの緊急出演はテレビ局の番組担当者たちが巧妙に仕組んだ罠だった。彼らは青山先生に藤田が貸し出した乾山を事前に見せておいた。鑑定の席では乾山ではないと言わせ、価値を下げ、示談金を下落させようという悪巧みが水面下で動いていたのだ。『ズバズバ!家宝鑑定局』は、視聴者が自慢のお宝を持ち寄って、専門家に価値の鑑定をしてもらい真贋をはっきりさせるという人気番組だ。テレビ局側は用意しておいた男性を飛び入り参加させ、藤田の乾山の大皿を出してきた。これを見て藤田ははめられたのだとピンと来た。番組ご意見番の青山先生は、これは乾山ではないと一喝する。しかし、藤田は佐野乾山であると一歩も譲らない。意見が分かれたままでは番組にならないと、番組ディレクターは急遽、来週も乾山の真贋を問うコーナーを設けることを決定したのだった。それは藤田が出演したことによって視聴率がうなぎ昇りになったためだった。次の放映までの1週間でそれぞれが真贋にまつわる調査をすることになる。藤田は佐野乾山だという証拠を探さねばならなかった。真作である佐野乾山の証拠を探しに行った藤田だったが、お目当ての佐野の乾山堀場はすでにビルが建てられて見る影もなくなっていた。一方、みちるに頼まれた三田村小夜子は佐野乾山に箱書きがない事を不審に思う。自分のお茶の師匠が茶器などの箱書きを大量に持っていた事を思い出し、乾山の大皿の箱書きが紛れ込んでいないか探させてもらうのだった。

第7巻

藤田玲司は額縁屋の三島額装に来ていた。額縁は絵画をより美しく価値あるものに見せることができる。それには絵画に合わせた様式が欠かせない。例えばルイ14世様式、ルイ15世様式などだ。藤田は三島額装の品質の高さを認め信頼していた。三島額装に入社して5年目のハルオは腕の良い額縁職人だ。その日、藤田は額縁を買い求めた。ハルオがギャラリーフェイクまでその品を車で運搬してくれるので、藤田も同乗した。途中、三島額装社長の娘で美大生のヒトミを拾うことになった。一緒にギャラリーフェイクまで行くと言うのだ。そして、ヒトミはギャラリーフェイクの店舗を見るなり、美大のグループ展覧会の会場にしたいと申し出た。ヒトミと同じ美大生の島田は、このグループ展に21世紀のアートシーンを塗り替えるような作品を出すと意欲満々だ。ヒトミは島田と付き合っていることをハルオに知られてしまい、父親である社長には内緒にしてくれと口止めした。ハルオはヒトミの言いなりで、車での送り迎えも続けている。ハルオはヒトミに思いを寄せていたのだった。そんなある日、ハルオの額縁制作現場に突然現れた島田。ハルオの額縁を購入したいと言う。額縁を手に入れた島田はグループ展の作品にハルオの額縁を破壊させて作品の道具として使ったのだ。ハルオは自分の技術がこんなひどい作品の道具にされるなんて悔しいと怒り狂った。それを見ていた藤田は島田を高田美術館に連れて行く。そこに展示されている大作、ティツィアーノ作『ダナエ』を見せるためだ。この大作を最高の装飾で彩る額縁を制作したのが、あのハルオなのだ。一緒に来たヒトミも父の会社の額縁がこれほどの大作に使われていることを初めて知るのだった。絵画は当時の色彩をハルオの天才的な古びの技術で見事に再現されている。額縁職人は時に500年前のルネサンスの巨匠を相手にぎりぎりのせめぎあいを演じなければならない。藤田は島田にそれほどの覚悟をふまえた作品だったのかと問いただした。天才的な腕を持つハルオはいつ独立してもいいと社長は言うが、ハルオにはヒトミの存在が大きくていつまでも三島額装で働きたいと願うのだった。

蒸し暑い真夏にギャラリーフェイクではエアコンが故障した。これでは仕事にならない。藤田とサラ・ハリファは、ロンドンにあるサラの親戚の別荘へ夏休みをかねて出かけることにした。2人がロンドン市内で買い物をしている時、オークションのサザビーズに勤めるチャーリーと出会った。チャーリーは一目でサラが気に入った様子だが、藤田は我関せずの態度をとっていた。チャーリーは「後家殺し」と呼ばれていた。名家の当主が亡くなった後、当主の妻から家の財産をオークションに出してほしいと懇願されることが多いのだ。昔メイクアップアーティストだった彼は彼女たちを綺麗にして喜ばせることを特技としていた。ある日、名家のハウスセールに呼ばれた藤田とサラ。ワードローブセールのためにチャーリーはサラに当日のファッションモデルを依頼した。サラは火傷の痕が気になり断ったが、チャーリーはメイク技術を使って見事火傷の痕を隠し、それは美しいレディーに変身させたのだった。まだ子供だと思っていた藤田もサラの美しさに圧倒される。その晩、チャーリーからデートに誘われたサラは快く出かけて行った。一方、藤田はチャーリーの叔母が務める英国キュー植物園に出向いていった。チャーリーからダーウィン作の植物標本を藤田に買い取ってほしいとの依頼があったからだった。さらに、藤田は貴重な標本が数々、オークションに出品されているとの情報を受けていた。誰かが持ち出して売りに出していると踏んで調査を始めた。サラは、チャーリーからデートの後、プロポーズされたのだ。チャーリーは返事は急がなくていいと言う。その晩、チャーリーと藤田は標本横流しの現場であるカジノに出向いた。そこには賭け事に狂った叔母のメアリーがいたのだ。さて、サラがプロポーズを受けたことを知った藤田は内心穏やかではいられなかった。考えると言って別荘から出ていったサラの後を追う藤田。藤田にとってサラはいつのまにかとても大切な存在になっていたのだ。

第8巻

贋作専門に成り下がったと世間では言われている藤田玲司。それでも真贋鑑定の眼力にかけては天下一品である事を見込んで、高田美術館館長・三田村小夜子は藤田にある依頼をする。小夜子は洋画の巨匠・佐々木普三の作品のレゾネを作ることになっていた。レゾネとは、画家の全作品目録の事で、作品の写真、制作年月日、来歴の詳細が記されたものだ。日本は欧州などに比べて、レゾネの刊行が著しく遅れている。そこで画商の阿部が私財を投じての一大プロジェクトとして小夜子の美術館に依頼してきたのだ。藤田は元メトロポリタン名キュレーターだ。小夜子はその優秀な眼力が今回のレゾネを編纂するにあたりどうしても必要になったのだ。藤田はレゾネの編纂の経験がないため、やってみたいと思った。藤田は小夜子に、自分の名前をレゾネに一切出さないという条件付きで引き受けると言った。阿部から佐々木画伯の未発表の作品が大量に見つかったと連絡を受けた。小夜子と藤田は見せてもらうが、すべて贋作であった。阿部は始めからこの贋作を真作と一緒にレゾネに紛れ込ませて売ろうと企んでいた。それには高田美術館という名称や、三田村 小夜子の名前が入ったクレジットを使うのが一番だと踏んで仕掛けてきたのだ。小夜子は高田美術館に贋作はいっさい入れられないと主張し、この案件は暗礁に乗り上げてしまった。

京都、祇園。舞妓の鈴葉はもうすぐ20歳。襟替えを終えたらいよいよ一人前の芸妓になる。舞妓と同じく置屋に所属し、お座敷のお呼びがかかれば、舞い、酌をつとめる。しかし、鈴葉は芸妓にはならないというのだ。女将衆はよく思わなかった。女将は鈴葉のもつ、舞の上品さや愛嬌の良さに、売れっ子の芸妓になれるはずだと思っていた。ある時、女将から藤田に上等な萩焼の器を購入したいという申し出があった。もちろん鴈作の物をだ。藤田が女将に持ち込んだ萩焼は一見上等な本物の萩焼のような素晴らしいものだった。女将はその上等に見える萩焼を鈴葉に持たせてお使いに出し、途中で暴漢に襲われて萩焼を壊してしまうという筋書きで仕込みをした。案の定、鈴葉は萩焼の茶碗を割ってしまい、その罪を償うために芸妓になる決心をするのだった。鈴葉が芸妓になろうとしない理由は、同じ祇園で働く料理人、修という恋人がいるからだった。修は毎日厳しい修行のためもう辞めたいと言いながらも鈴葉の存在と励ましで今まで頑張ってきたのだ。鈴葉は舞妓をやめていつか修の嫁になり、祇園に小料理屋を出すことを夢見ていたのだ。修は鈴葉の売れっ子ぶりに、一緒になるのはもう無理だと思い込んでしまう。鈴葉は壊した萩焼のかけらを修に渡した。2人は一旦別れようとしていた。そんな時、藤田が現われて萩焼の習性やはかなさを修に教示する。そして、鈴葉みたいな一途な女を手放してはいけないと修に諭すのだった。

第9巻

ラモスはニューヨーク、セントラルパークに旧友藤田玲司を呼びだした。もう3日も何も食べていない。ラモスはトレジャーハンターという裏社会の商売が上手くいかず、仕事にありつけないでいた。藤田はそろそろトレジャーハンターから足を洗うようにとラモスに忠告し、5ドル札を1枚差し出して去って行く。ニューヨーク市内にある地図専門店コロンブス。老主人は古い地図は自分の宝物だと言い、一切販売しない。お客にはもっぱらレプリカを売って生計を立てていた。ある日、探し求めていたお宝の地図を見つけ、全財産をその地図に費やしてしまう。老主人は娘のマリアンと2人暮らしだった。先行きを不安に感じているマリアンは常に、お客が求めているなら本物を売って生計を立てるよう促すのだが、父親である老主人は一向に聞く耳を持たない。その日、全財産を払って手に入れたお宝は、一見ボロキレのようだが、藤田の鑑定ではアルキメデスの地球天球儀の布だった。人類の宝と言ってよい銘品だ。この布を手に入れた夜、老主人は興奮のあまり卒倒してしまった。そして、そのまま病院に運ばれて植物状態になってしまったのだ。老主人が倒れた時、助けを求めて外に飛び出したマリアンの前に現れたのは、昔の恋人ラモスだった。ラモスは老主人が買ってきたお宝の鑑定を藤田に頼んだのだった。仕事も無く、食事や住む所も無かったラモスはマリアンの店を手伝った。マリアンとの恋仲も復活した。トレジャーハンターも廃業だと思っていたところ、老主人が買い求めたアルキメデスの地球天球儀の修復を見ているうちに、血が騒ぎ始めてきたのだ。夜になるとお宝を見つけに出て行くラモスに、出て行かないでと懇願するマリアだった。それでもラモスはやはり行ってしまった。

藤田はフランス、アルザス地方へ来ている。修復の恩師ボナール・ベルナール先生が急逝し葬儀に参列をするためだ。ベルナール先生のひとり娘のスザンヌに藤田は、いかにベルナール先生が偉大な修復家だったかを語った。亡くなる1週間前にベルナール先生から藤田の元に1通の手紙が届いた。内容は自分がもう病気で長くはないこと、藤田に修復を依頼したい作品があるというものだった。作品はゴヤ作『アルバ公爵夫人』という大変な名画だ。ベルナール家の財産であるその作品を修復するのが先生の最後の仕業だった。しかし、どうしてもやり遂げられないと述べてあった。急いでフランスに飛んだ藤田。長期滞在をするうちにベルナール家の内情が見えてきた。婿のジャンはベルナール先生から修復の薫陶を受けてはいたものの、ベルナール家の財産に目が眩んでいた。ワイン工場の経営と絵画の売買などで私腹を肥やすのに夢中になっていた。元々貧しい家庭の出身であるジャンだ。ワイン工場の経営など土台無理な話だった。賭け事に夢中になってしまい、年々経営は窮地に追い込まれていたのだ。ベルナール家の超一流の絵画を売りさばいて経営資金の補填に当てているのをベルナール先生は苦々しい思いで見ていたのだった。内情を知った藤田は、一向に『アルバ公爵夫人』の修復に手をつけようとはしなかった。藤田はジャンと差し向いで経営難について話した。ベルナール家をつぶさないようにと言って聞かせたのだが、ジャンはとうとう家宝の『アルバ公爵夫人』を売り払おうとした。藤田はそれを止めるでもなく黙って見ていた。表向きには修復する絵画が売られて無くなったのだからと藤田は帰国の準備をする。

第10巻

藤田玲司サラ・ハリファはクラシックの演奏会に行く予定だった。当日、サラが待っているのに藤田はいっこうに会場に現れない。演奏会は終わってしまった。またいつものことだと思ったサラが藤田に連絡を入れると、案の定、警察にいた。藤田は盗品の横流しの事情聴取を受けていたのだ。怒ったサラには藤田の言い訳など通用しなかった。そして、演奏会の後、サラはひと気の無くなったコンサートホールから小さな優しい音楽が聴こえてくることに気づいた。シリンダーオルゴールの音だった。シリンダーオルゴールはクラシックオルゴールで大変貴重だ。持ち主は後藤といい、コンサートの余韻に浸るためにオルゴール持参で来ていたのだ。とても美しい少年だった。ところが、オルゴールの調子が悪く止まってしまう。それを見たサラは、以前働いていた時計屋「千手堂」で直せるかもしれないと思い立ち、後藤を連れていくのだった。店主の千手は天才で、いとも簡単にシリンダーオルゴールを直してしまった。一方、藤田はその日事情聴取が終わらず、家に帰してもらえずに独房に入っていた。そこに、以前ブリキのおもちゃの事件で世話になった警部が訪ねてきた。警部は連続爆弾テロ事件の現場に残されていた機械部品の鑑定を頼みたいと言う。見返りは藤田の釈放だ。藤田が鑑定したそれはシリンダーオルゴールの部品だった。直後に藤田は別件でサラの携帯に連絡を入れた。すると電話の向こうからオルゴールのかすかな音色が聴こえて驚いたのだった。修理を終えた千手とサラは後藤と共に彼のマンションに出向いた。そこには後藤の母親・後藤まゆみが集めていたというアンティークオルゴールがたくさん並んでいた。今では貴重な物ばかりだ。まゆみは銀座の高級クラブのママで、先月高速道路をドライブ中に壁に激突死していた。他にも2人のクラブのママが謎の死を遂げていた。後藤は千手に出したお茶にだけ睡眠薬を入れて寝かせ、サラに事実を告白した。後藤は美しい母親、まゆみを愛し過ぎたゆえの殺人を犯してしまったと言うのだ。コンサートが終わったら死のうと思っていたが、1人では怖いのでサラに道連れになってくれと懇願するのだった。警察では藤田が鑑定したオルゴールの部品からシリンダーオルゴールの持ち主であるまゆみの名前が浮かび上がっていた。そして、連続爆弾テロ事件の犯人をまゆみの息子の後藤に絞り家宅捜索に入った。爆弾犯の後藤はすでにオルゴールに自動爆破装置を取り付けていて、刻々と爆弾の爆発時間が迫っていると言う。警察と共に現場に入った藤田が見たものは、数々のアンティークオルゴール。リボルバーボックスなどスイス・ベラード社製の超美品だった。その中に爆弾を仕込んであったのだ。

一流料亭の地蔵大作という当主に朝鮮唐津の徳利を二千万円で売りつけた藤田。ギャラリーフェイクはその名の通り贋作専門店だが、藤田の目利きを知る多くの資産家たちは真作を手に入れるためにこの店を訪れる。しかし、藤田の勧めで3度に1度は贋作を掴まされている。藤田に騙される事もいい勉強になっているようだ。地蔵は贋作だと薄々気付いていたが、藤田の言い値二千万に対して三千万を出して買い取った。本当は5万円ほどの価値しかないものだ。ある日、伝次郎という、骨董業界の鼻つまみ者が藤田を訪ねて来た。要件は肉筆浮世絵のコレクションを売りたいという資産家がいるので藤田に購入しないかというお勧めだった。最初は藤田も肉筆浮世絵に手を出す者はバカだけだと突っぱねたが、伝次郎の強い勧めに負けて話に乗ってしまう。実は、伝次郎は地蔵に莫大な借りがあった。地蔵は藤田に朝鮮唐津の贋作を掴まされた仕返しで伝次郎に一芝居打たせたのだ。藤田が買い取った肉筆浮世絵の展示会をギャラリーフェイクで開催すると、様々な方面から多数の者が観覧に押し寄せた。

第11巻

フランスはパリの露店で細々と仮面の絵を書きその日暮らしをしているバンガ。彼は勝手に店を出したと仕切り屋に絡まれて危うく暴行を受けそうになっていた。そこへあるビジネスのためにパリに来ていた藤田玲司が通りがかり、彼の作品を買い上げて窮地を救う。バンガは西アフリカのマリ共和国出身だった。故郷では季節の祭礼がある時期だが、貧しいバンガには帰る飛行機代もない。その話を聴いた藤田はちょうど自分もマリ共和国のブアレブ村へ行くのでガイドをしてくれないかと頼む。そうすれば帰国できるだろうとバンガを誘うのだった。二人は早速マリのブアレブ村を目指して過酷なロードドライブに出た。藤田はバンガが始終浮かない顔をしているのが気になった。バンガは故郷であるブアレブ村で仮面作りの師匠に弟子入りして腕を磨いていた。しかし、人間関係の難しさに耐え切れず村を飛び出したのだった。そのためあまり村には近づきたくないと言う。藤田は、君はガイドとして雇われているんだからそう言われても困ると返した。仕方なくブアレブ村に向かうバンガだった。バンガの母親はいきなり帰ってきた息子にびっくりした。そして、母親は、師匠のガロン先生が亡くなった、あんたがいなくなった間に村はとんでもない事になっているんだと言った。さらに村長に挨拶に行くようにと促すのだった。バンガは村長を訪ねた。ガロン先生は亡くなる時に村長に2つの遺言を残していた。1つは、村の祭礼に使う仮面を作っていた途中で作り終えていない、弟子に作らせてほしいということだった。村での仮面の役割は大きく、先祖代々永遠に続いてゆく仮面祭りはガロンの仮面がなければ開催できないのだ。村では占い師に伺いを立て、ガロン先生の2人の弟子に仮面を造らせて優れた方を祭礼に使うと言う。そして、もう1つの遺言、選ばれた方の弟子がガロンの娘ムニーと夫婦になるようにというものだった。ムニーもバンガが戻って来たことを喜び、仮面造りを励ました。しかし、バンガの胸の内は複雑だった。ガロン先生が造る仮面には精霊が宿っている、自分がどんなに巧く彫ったとしても先生のようにはできないだろうと落ち込んでいたのだ。一方、もう一人の弟子ブキワンは腕も悪く仮面造りには向かない荒くれ者だ。ムニーは自分の夫となるのは腕のいいバンガしかないと、より一層励ますのだった。藤田は世界中から集めた仮面を壁に貼り付け、仮面造りの工房を突貫で作り上げた。藤田はそこへバンガを呼んで、工房から1歩も出ずに仮面を彫り続けるんだよと言う。仮面を見る目を持つバンガなら必ずできると励ますのだ。世界中から集めた仮面には民族が持つ感性、情念、色彩、宗教感、死生観などが詰まっている。それに囲まれていたら否が応でも、自分の民族性を掘り下げてゆくことになると、藤田は言うのだった。それからバンガは無心に工房で仮面造りに勤しんだ。そうして出来上がった物はまるでガロン先生が乗り移って作ったかのような素晴らしい仮面だった。これで祭礼の仮面は出来上がった。もちろんムニーとの結婚も決まったのだった。

藤田の幼なじみの新谷満男が30年ぶりに訪ねて来た。今をときめくIT長者の新谷は新しいビジネスに乗り出すためにどうしても藤田の力を借りたいと言うのだ。藤田と新谷はお互いを玲ちゃん、みっちゃんと昔のように呼びあうのに1秒もいらなかった。貧しい育ちの二人は互いの長屋を行ったり来たりしてよく遊んだものだ。新谷の依頼は昭和初期のミシンを手に入れてくれというものだった。特に新谷の母親が使っていたモデルがほしいと言う。藤田にとってそのミシンを手に入れることは可能だった。そこへ、サラ・ハリファがブリキ好きの警部からおかしな話を聞いて帰ってきた。警部は、あるお寺のフリーマーケットでブリキのおもちゃがまったく見当たらないという現象が起きていると言うのだ。話を聴いた藤田は誰かが昭和懐古のアンティークを買い占めているのではないかと予想した。藤田とサラは早速、新谷が依頼するミシンの捜索を開始した。すると、あるボロアパートに人の出したゴミを集めているという放浪者が住んでいて、少し前にボロボロのミシンをゴミ捨て場から運び込んでいたという話を聞いた。放浪者が留守だったので、藤田とサラは不法侵入にならないように大家に了解をとって部屋へ入った。放浪者はケガで入院中だった。部屋の中にあるゴミだった物をかき分けると1台のミシンがあった。藤田はそれを新谷と一緒に仕事をしている大阪の古物商・梅田香仙に引き渡した。後日、藤田はカリフォルニアにいる新谷から品物を受け取ったとの連絡を受けた。新谷が始める新しいビジネス計画はサンタバーバラに日本のカリフォルニア昭和村というテーマパークを創設するというものだった。そのため、新谷は今の日本で忘れ去られた昭和時代の車、家電、おもちゃなどをどんどんと買い込んでいるのだった。

第12巻

藤田玲司サラ・ハリファと共に横浜にある行きつけのアンティーク屋に出向く。藤田の目的は店主の美鈴ばあさんが持っている貴重な絶版本を見せてもらうことだった。本には世界中の陶磁器の窯印が網羅され掲載されている。藤田はたまにこうして審美眼を養っていた。美鈴ばあさんはこのアンティーク屋をもう40年も営んでいた。あまり客が来ないのによくやっているねとサラが言うと、経営者や財界人などに数少ないがいい顧客がいるのだと藤田が答えた。彼らは皆、美鈴ばあさんの品揃えセンスの良さに惚れ込んでいるのだった。美鈴ばあさんが大好きになったサラはプライベートでもアンティーク屋に顔を出すようになった。藤田は骨董界の妖怪だとふざけて悪口を叩いていた。その日、サラはジノリのアンティークポットが欲しくなった。美鈴ばあさんに買いたいと願ったが、それだけは絶対に売らないとかたくなに断られる。(第1話)

藤田玲司とトレジャーハンターのラモス・コルテスはペルー共和国に来ていた。藤田は行商の男を見つけて子どものサンダルが欲しいと言った。行商の男はもう売ってしまったと言う。藤田は誰に売ったのかと訊いたが、男はあまり覚えておらず、確か中国人の旅行者だったようだと言った。子どものサンダルを売った男は行商のロドリゲスという男だった。藤田はロドリゲスが行商から戻るまで1週間待ち続けた。そして、ロドリゲスからサンダルの入手先である、とある人物のことを詳細に聞き出す事に成功した。ある人物とは登山ガイドのパルドという人物だ。藤田がパルドの家を訪ねると、妻が出てきてパルドは自動車事故で先月亡くなったばかりだと言った。実はラモスが先回りして、妻に藤田が来たら嘘を言うようにと仕組んだのだった。ラモスはペルーのポチャチャ山に登ろうとしていた。藤田はアンデス山脈のアンパイト山で少女のミイラがでてきたというニュースをネットで知った。ミイラと一緒に多くの宝飾品も見つかっていた。インカ文明の見事な工芸品ばかりだ。ミイラが履いていたはずのサンダルがあった。しかし、そのサンダルが見つかったのはアンパイト山ではなく、ポチャチャ山だった。誰よりも早くミイラを発掘する算段で藤田とラモスの2人はペルーまで飛んできたのだった。体力に自信のない藤田は、登山はラモスに任せた。ラモスにはCCDカメラを取り付けたヘルメットを被らせ安否の確認ができるように仕組んだ。ラモスはミイラを無事に掘り出せたのだ。しかし、藤田はどうも話が上手くいきすぎていると懸念していた。ラモスが登頂時にアメリカの薬品メーカーと電子メールのやりとりをしていたと知ったからだ。ラモスの本当の目的は宝飾品ではなかった。(第2話)

第13巻

高田美術館館長・三田村小夜子の毎日は激務の連続だ。ある日、タカダ文化財団の理事長にタカダグループ会長高田の三男高田健介が就任した。彼は出来の良くないバカ息子として有名だった。タカダ文化財団は高田美術館や他の文化活動を統括する組織だ。しかし財団はは赤字経営でありリストラ策としてビルを売却。そのためタカダ文化財団は傘下で唯一黒字経営である高田美術館のビルに間借りすることとなった。館長の小夜子の敏腕ぶりに惚れ込んでのことだった。小夜子は激務続きで体調が優れない中、理事を出迎えて美術館内を案内していた。その時、次回開催企画用に借りる予定だったポロックの作品がキャンセルされたと連絡が入った。小夜子は途方に暮れるが、健介は事の重要性が全くわかっておらず、小夜子を食事に誘うなどまるで緊張感がない。しかし、緊急事態なので小夜子は健介と共にギャラリーフェイクに車を飛ばした。小夜子は藤田玲司にその人脈と力で何とかポロックの作品を集めてくれないかと頼む。藤田の知り合いの駐日英国大使の私邸にポロックの作品があるというのだ。しかし、彼はあまり私物を公表したがらないから借り出せるかどうかと悩む藤田。その時、小夜子が突然倒れてしまう。小夜子は元メトロポリタンの名キュレーター藤田に館長代理を願いでる。職員たちは小夜子が倒れ当面は藤田の指示に従うことに不安が隠せないでいた。藤田は小夜子が抱えているファシリティリポートの内容や、数々の折衝のための膨大な書類を学芸員たちに見せた。そして、館長が1人でどれだけの任務を遂行してきたのかを語って聞かせた。超一流の仕事を側で学ばない学芸員など辞めてしまえと叱咤する藤田。藤田はその日から雑用ばかりしてきた学芸員たちに本物の美術館の仕事をどんどん教え始めた。(第1話)

エジプトに飛んだ藤田を追って、ジュエリーデザイナーの翡翠がやってきた。一緒にクルーザーに乗り込んだものの、藤田は浮かない面持ちだ。翡翠は偶然だと言っているが、99%は必然だと藤田は言い返す。今回の翡翠の狙いは、ある人から頼まれ、かのナポレオンのオーデコロンを再現することだった。そこで、藤田にナポレオンのコロンに相応しい香水瓶を用意して欲しいと依頼する。コロンの調香師の1人は東京にいてすでに折衝済みだった。調香師は三百種類以上の香りを嗅ぎ分け調合する。彼らの中で真に想像性を持ち合わせた芸術家は世界中でも20人ほどしかいないと言われていた。早速、東京に戻った2人は調香師に会いに行った。ジャン=ポール=香本という名前だった。香本は翡翠を見るなり抱きかかえて、なんていい匂いだ、イメージを掻き立てられるからもっと嗅がせてくれと言った。翡翠からコロンの調合の話は聞いてはいたものの、フランスの国会議員のために作るという点が香本のやる気を損なっていた。翡翠は香本にフランスからコロンのレシピを入手し、議員も報酬は惜しまないと言った。それでも良い返事をしない香本。そこで藤田が、以前フランスでこのコロンの再現をしたところ、まったく違ってしまい出来なかった話をし始めた。急にプロ意識に火がついた香本はこの話を受けて立つと決める。藤田はナポレオンのコロンを入れるガラス瓶は、ヴェネチアのデザイン技法で多様性を誇るボヘミアン・グラスを自分が用意すると伝える。(第2話)

第14巻

東京湾岸エリアにできた新スポット「パリス・コート」。女性による女性のためのテーマパークとして開業を間近に控えている総合複合施設だ。ローマの街並みを再現し、目玉であるルーベンス作『パリスの審判』がメインコートに鎮座している。これを入手するにあたり、総合プロデューサーの大谷はるみはギャラリーフェイクを訪れた。大谷は藤田玲司からこれはルーベンスの弟子の作品であると聞かされていた。なんとしてもこの作品をパリス・コートの目玉にしたいという意気込みで6千万という高値で買い取ったのだ。作品を売る際、藤田は何だか面倒な事に巻き込まれるような気がして気持ちが乗らなかった。しかし、藤田はその時5千万の借金返済に苦心していた。6千万で売れれば首が繋がるとして、互いのためになる商談と踏んで売却したのだった。藤田が予感していた厄介な面倒事はすぐに起きてしまう。ルーベンス作と謳った『パリスの審判』に客は殺到したが、高田美術館館長の三田村小夜子が贋作だと見抜いた。小夜子は糾弾する目的でパリス・コートのはるみのもとへ折衝に訪れた。はるみはこの絵が女性のためのテーマパークにぴったりだと思っていた。真作・贋作どちらだろうがあまり気にしてはいない。しかし、オープンしたての今は贋作だと明かすわけにはいかないと小夜子に食い下がった。それでも小夜子はマスコミを通じて真相の明かすと言い放つのだった。そんな時、思いもよらぬ大地震が東京湾岸を襲った。はるみは客を助けるために自分が彫刻の石膏像の下敷きとなった。その惨事の中、はるみを助けたのはプロレスラーのグレート・仁王と新人プロレスラーのアテナ恭子だった。二人は付き合っていたが、仁王の浮気が原因で別れ話をしにこのパリス・コートを訪れていたのだった。客である恭子をかばって自分が石膏像の下敷きとなったはるみを二人は全力で助ける。はるみの顧客第一の精神と、逆に客である恭子がはるみを助ける姿を見た藤田。小夜子にマスコミに明かすのを3か月待ってくれと懇願する。(第1話)

パリのセーヌ河右岸にはパサージュが点在する。パサージュとは19世紀に造られた街路と街路をつなぐガラス屋根の商店街のことだ。パサージュの中では時が止まったかのような錯覚に陥る。思わず立ち止まる人々、パサージュは過去と未来を行きつ戻りつする場所だと言われている。藤田玲司はオルセー美術館展覧のためにもう2週間もパリに滞在していた。東京で藤田の帰りを待つサラ・ハリファは、もうすぐ来るバレンタインデーを気にしていた。そんな時、ギャラリーフェイクに買い付けた絵画が届いた。注意深く点検すると、中に1通の手紙が紛れ込んでいた。それを見たサラは思い立ってパリに滞在中の藤田を突然訪ねるのだった。手紙を届けに送り先の住所を訪ねると言ってきかないサラに同行する藤田。書かれた住所に当時あったはずのバーはなく、レストランになってしまっていた。がっくりとするサラ。二人はしばしパリのパサージュをうろついた。すると、寂し気なピエロをウインドウに飾った1件の画廊が藤田の目に留まった。その品揃えのセンスの良さに、藤田は店主の女性に話を聞く。藤田の目についたピエロ人形は、以前、ある紳士が金を用意する来月まで取り置きしておいてくれと言ったが、未だに取りに来ないまま15年経ったと言う。店主は、だから売れないと言う。店主にそのピエロ人形を預けた紳士はムッシュ・クラウンという男性で、左目の下に大きなアザがある人物だった。藤田とサラはその男を探すことになった。(第7話)

第15巻

ある依頼を受けて台湾に渡った藤田玲司サラ・ハリファ。故宮博物院にある『清明上河図』の真贋鑑定を求められての事だった。待ち合わせ場所で依頼主の会社社長、林海羽と対面する。彼は『清明上河図』のオリジナルを購入しないかと持ち掛けられているのだと言う。彼はそのため藤田に鑑定を依頼してきたのだった。故宮博物院にある『清明上河図』の所蔵品は模写だった。その一方で、林は何者かに命を狙われていた。林と藤田、サラは連れ立ってある骨董屋へ向かう。そこで目にしたものは、故宮博物院の作品よりも古そうな『清明上河図』だ。骨董屋の店主が上海の骨董市で見つけたものだ。売り手はまがい物と信じ込んでいたと店主は言った。商売人と大陸の人間にはこの作品の価値はわからない。改革解放以降、国を挙げて金の亡者ばかりだからだ。この作品は是非とも林社長に届けるべきだと思い立ちました、と自慢げに店主は語った。何しろ林は今、台湾に新しい文化を創造しようとしている人物だ。台湾で茶房と言うのは、男女がいわゆる秘め事に使ういかがわしい空間だ。それらを、台湾のお茶文化の原点に立ち返り、上等なお茶を存分に楽しめる茶藝館として創設していこうというのが林の構想だった。そこには伝統の茶藝に相応しい茶器、絵画、家具などが必要で、林は外からも物を集めている最中なのだ。(第1話)

台湾といえば烏龍茶だと言って藤田とサラは茶藝館へ足を運んだ。そこでサラは藤田から台湾の茶道についての蘊蓄を披露される。そして、林から藤田へさらなる仕事の依頼があると聞くのだった。依頼内容は上海や香港、あるいはロンドンで高級茶器を探すというものだった。林は創設予定の茶藝館を「清香茶館」と名付けていた。林の命を狙う刺客が動きだしていた。巨万の富を持つ林は台湾の政財界人と並び、トップ企業のスポンサーに名を連ねる。林を面白く思わない人間はいくらでも存在した。誰かが林の道楽である茶藝の研究会で隙をみて抹殺しろと刺客を向かわせたのだ。刺客の名前は白蠍。報酬は金ではなく、宜興紫砂の茶壷だ。白蠍は自身の亡き祖父が作る烏龍茶が最高級と思っている。その茶葉をこの茶壷に入れたかった。白蠍は林を殺すために月1回の茶藝研究会へ出向いていた。そして、白蠍は今回、日本のディーラー藤田が参加することも知っていた。当の藤田は最高級の烏龍茶を頂くための茶器を用意していた。それはデンマーク王室御用達のロイヤルコペンハーゲンのデミタスカップソーサ―だ。新しい茶藝文化を創設したい一心で参加者に茶藝の心を訴えていた林は、藤田に西洋のカップを取り入れると客の歓心を買うと言われ、激怒してしまう。藤田は茶藝文化への熱意ある林の姿に千利休と同じだと言って讃えるのだった。林の茶藝に対する夢は若き頃にさかのぼる。茶畑で倒れた政治家だった林を助けて介抱したのは白蠍の祖父だった。そこで林は茶藝の心、清香の意味を知る。介抱のお礼にと紫砂の玉を白蠍の祖父に預けた林だった。女装が得意な白蠍は美しい女に変装して藤田を中正記念空港まで迎えに出向いた。藤田が林の水先案内人だと見定めて近づいたのだった。白蠍は中国の銘品紫砂の茶壷を持ってきて、藤田に鑑定と林への売買の依頼をした。(第2話)

第16巻

高田美術館は満を持して現代アート専門の美術館分室を作ることとなった。若手のキュレーターを育てるためだ。館長の三田村小夜子藤田玲司に専属のスーパーバイザーとしてのサポートを依頼する。しかし、藤田は現代アートに関しては無知に近いと自分を評価し、スーパーバイザーになる件は一旦棚上げとなるのだった。日本の現代アートは、主に漫画、アニメ、ゲームなどのキャラクターを映像化し、絵画風に表現をするといったポップアートが主流だ。オタク文化の中心にいる若者に絶大な人気を博している。その中で人気絶頂、新進気鋭の芸術家・六園寺ハジメの作品展を開催する企画プランが小夜子から藤田の元に届いた。藤田はその日からアニメや漫画のヒーローたちの映像を見続けていた。藤田の住むアパートに、フィギュア作家の宮森という男性が引っ越してきた。宮森の仕事場で見せてもらったフィギュアもかつて大人気を博したガンバリオンというキャラクターだった。宮森は儲けよりも創作に一切の情熱を注いで生きてきた。オタクに人気のアニメや漫画を映像化して作られた現代アートなどにはまったく興味はなく、六園寺ハジメなる作家のことも全く知らなかった。宮森の話を聴いた藤田は、小夜子もアートばかりを追い求めてその世界に浸かってばかりいたため、オタク文化を理解していないのではと感じるのだった。(第1話)

クリスマスを目前に控えた12月のある日。ロマンチックなイルミネーションの周りでは恋人たちが愛を囁いている。サラ・ハリファは羨ましそうにそれを眺めていた。藤田玲司は相変わらず絵画の買い付けで海外へ出ている。サラは東京で藤田の帰りを待ち望んでいた。そんな時、サラは藤田の指示で絵画の真贋判定をするために翡翠の店に出向くことになった。翡翠の店で絵画を見たサラは真作だとすぐに思った。しかし、翡翠は偽物だとしてもとても良い作品だと言う。サラは、藤田がこの絵画を買わなければ自分が買いたいと伝えた。翡翠の店を後にしたサラをある男が後ろから付けていた。ある日、翡翠はアリス&ルイスのコッホコレクションを1ケース、43個のリングを譲りたいという裏情報のメッセージを受けた。コッホコレクションをどうしても手に入れたいと思った翡翠は依頼主のいるドイツへと飛び立った。そこで翡翠を待っていたのは依頼主の仲介人、藤田だった。コレクションを見た翡翠はその完璧な姿形に心底惚れ込んで、ぜひ自分が欲しいと買い付けてしまうのだった。ところが、翡翠の手に渡ったコッホコレクションは当初43個だったはずが42個しかなかった。(第4話)

第17巻

13年前に藤田玲司に裏の仕事を教え込んだのは菱沼棋一郎という人物だ。ある日、その菱沼から藤田に重要な依頼が飛び込んでくる。サラ・ハリファがデパートで特上のカニちらしを買い込んで来た時だった。藤田は大好物にも目もくれず、一目散に菱沼の入院している病院へ急ぐのだった。

菱沼は元々虚弱な体つきをしていたが藤田には以前よりもさらに痩せ細っているように見えた。菱沼の依頼は行方不明になっている『鳥獣人物戯画』の断簡を探してほしいという内容だった。『鳥獣人物戯画』はある旧家の当主が長年所有していた。しかし、当主は亡くなってしまい、その財産一切を未成年の跡取り息子に代わって叔父が管理していた。早速、藤田は跡取り息子に会いに向かった。

藤田はかつてメトロポリタン美術館をある事件で追われ、日本に戻って無為の日々を過ごしていた。菱沼はそんな藤田を弟子として拾ってくれた恩人だ。当時を思い出す藤田だった。旧家の跡取り息子は南雲圭介と言う名前だ。現在は医大受験のため予備校に通っている。藤田は菱沼が言うことに従い、まずは息子と接触し、その後改めて南雲の実家を訪ねることにした。南雲の実家に行った藤田をばあやが中へ手招きして案内する。藤田は古びた掛け軸の修復を亡くなった当主から依頼されていたとばあやに告げた。そして家の中を軽く物色しながら財産管理している叔父の帰りを待った。

藤田が掛け軸を修復していると、叔父が帰ってきた。藤田は単刀直入に『鳥獣人物戯画』の断簡のありかを尋ねた。叔父は無いと言い続けた。しかし、藤田が国宝にも価する『鳥獣人物戯画』の断簡は今、修復しなければ痛んで葬られてしまうのではないのかと脅し、無理矢理出させた。作品は予想どおりの痛み具合だった。藤田は早速、修復に取り掛からせてほしいと伝え、蔵の一部での作業が始まった。そして、贋作を持ってきていた藤田は南雲家の真作を丁寧に修復し、鴈作と差し替える事に成功する。(第1話)

日本のある都市にロシアのエルミタージュ美術館の別館を作るというプロジェクトで来日したエカテリーナ・コラシニコワ女史。彼女は藤田玲司のメトロポリタン時代の先輩であった。来日したコラシニコワ女史は藤田に会うのをことのほか楽しみにしていた。

その都市は以前、鉄鋼の街として栄えたのだが、今ではすっかり寂れて人口も減少の一途をたどっていた。この都市でコラシニコワ女史はエルミタージュの至宝展という企画を立て、事前の仕込み段階から様々な点まで総括する勢いで臨んでいた。

展覧会の当日、会場で藤田は三田村小夜子に会った。小夜子はすでにエルミタージュ日本別館計画の情報を持っていて、その件で藤田と話し込んでいるところへ、東日本芸術大学教授の丸山茂油樹が割り込んできた。コラシニコワ女史との再会を果たしたばかりの藤田と知っての事だ。コラシニコワ女史はエルミタージュ日本別館の館長を藤田に任せたいと思っていた。丸山はそうと知って、自分が館長の椅子を狙おうとコラシニコワ女史に近づこうとしていたのだ。

コラシニコワ女史は藤田が館長になってくれるものと思い込んでいた。しかし、当の藤田に全くその気はなかった。丸山も引き下がらないため、コラシニコワ女史は絵画の修復の技術を2人に競わせてジャッジしようと企てた。藤田が勝てば、ロシアから日本に駐在できる館長を招くという約束をした。

1回戦はフランドル派の風景画を二人で同時に修復するというテストだ。二人の迫真極まる修復作業は周りも甲乙つけがたい結果だった。(第5話)

第18巻

ギャラリーフェイク藤田玲司の秘書として働くサラ・ハリファは、高級ホテルのスイートに長期滞在中だ。ホテルのコンシェルジュは日々サラに意見や要望はないかと尋ねてくる。この日もサラはモーニングビュッフェのベーコンやソーセージの塩が効きすぎている事や、客室の栓抜きが錆びていたことなどを指摘した。サラの一言はホテルにとってありがたい指摘だった。サラが滞在するようになってからホテルの至る所が改善された。支配人はサラをホテルの女神と呼んでいた。

ある日、サラはホテルのエレベーターで人気歌手のMASA唐沢と偶然出くわした。MASA唐沢は自身の結婚披露宴のためにこのホテルに部屋を取っていた。MASA唐沢のファンで『カメオ=貴婦人』というCDも買っているサラは、握手を求めたが、彼は何かにおびえているようなそぶりを見せた。MASA唐沢はマスコミに結婚を発表して以来、毎日のように悪質な嫌がらせのファックスやメールを受けていた。ストーカー被害を受ける恐れもあるためホテルの部屋も隠密で取って滞在しているのだった。

MASA唐沢の披露宴当日、大型トラックが事故を起こし車体ごと大炎上した。そのトラックに積まれていたものは、宴を彩るカシニョールの版画300枚だったのだ。この大変な事態、ギャラリーフェイクにもこの版画作品を揃えられないかとの問い合わせがきていた。その頃、カメオをつけた女がホテルの客室へ勝手に侵入してきた。それはMASA唐沢の花嫁の支度部屋だった。女は花嫁に『カメオ=貴婦人』は貴方のことを書いた歌だとMASA唐沢から聞いたと言って、いきなり花嫁の首を絞めてきた。(第1話)

幻の『モナ・リザ』があると聞いた藤田玲司はベルリンへ飛んだ。『モナ・リザ』はナチス・ドイツの時代にナチスに隠蔽されていたといわくつきの名画だった。藤田はこの幻の『モナ・リザ』を求めて、ドイツ・パリ・ブリュッセル・ロシア・ブラジルへと依頼人の指示に従って追い求めてきたのだ。ついにブラジルで最後の1枚を拝むこととなったが、作品は若きラファエロが描いたものだった。それだけでも相当価値は高い。しかし、作品は依頼人とともに招かれた館が大火に包まれたため焼失してしまった。

ショックを受けた藤田は生気を失ったかのようになり、すぐに日本へは帰らなかった。そんな藤田にイタリアにオペラでも見に行ったらどうかとバーの主人が声をかけた。北イタリアのある劇場のチャリティーオペラだ。三大テノールも登場するというので気を取り直してイタリアへ飛んだ藤田だった。

ボローニャは最古のボローニャ大学を有する学生の街であり、また音楽が盛んな街だった。さらに高い塔が200もある塔の街でもある。以前、メトロポリタン美術館に藤田を父親だと聞いて尋ねてきたエリザベータ・ジョコンダ。彼女は今、ボローニャの音楽学校に入ってその歌声に磨きを懸けていた。

藤田はすぐさまエリザベータに会いに行く。久しぶりの再会に2人は抱き合って喜んだ。その姿はまるで親子のようだった。傍で見ていた友達のジェラルドは、エリザベータは孤児だと聞いていたのに身寄りがあるのかと思った。ジェラルドは歌の才能に恵まれたエリザベータが心底羨ましかった。そして彼は急に身を隠していなくなってしまった。エリザベータはジェラルドを誰よりも大事に思っていた。ジェラルドがお腹を空かしていれば、食事に誘い、世話焼き女房になっていた。しかし、ジェラルドは歌の上手さが圧倒的なエリザベータに比べて自分を卑下してしまい、もう歌を辞めてしまおうかと毎日悩んでいたのだった。もうすぐアマゾネス劇場のチャリティーオペラが開催される。エリザベータはジェラルドを何とか見つけたいと藤田を引き連れてボローニャの塔を探し回った。そして、一番高い塔のてっぺんにジェラルドの姿を見つけたのだった。エリザベータはその塔に登った。(第7話)

第19巻

動物園を定年退職した宍戸文夫は、暇な毎日を過ごす中、美術館のボランティア活動に参加することになった。仕事の内容は美術展の案内の宛名書きや展示室の監視委員などだ。美術品に触れることなどはもちろんできない。現在、この美術館の館長は病気療養のため長期入院中だった。学芸員の中には館長の椅子を狙い始めている者もいた。

そんなお家事情を知ってか知らずか、ギャラリーフェイク藤田玲司は20世紀の名作を一堂に集結させたコレクションの企画をこの美術館に持ち込んだ。ピカソやマティスの名画の展示だ。この企画内容の凄さに館長代理は今すぐにでも食いつきたそうだった。しかし、開催するには莫大な費用がかかる。

館長代理とギャラリーフェイクの藤田が会っている事を嗅ぎつけた大神学芸員は藤田が持ってきた企画をぜひ自分にやらせてほしいと懇願する。美術館ではちょうど企画展の始まった時でもあり、両者から招待を受けた藤田は再度足を運んだ。展示は中国の掛け軸コレクションを持つ増田凡翁の展示だった。

藤田が目を留めたのは12世紀中国南栄時代の貴重な掛け軸だった。一匹の猿が描かれた掛け軸がどういうわけだか気になる藤田だった。これは毛松という高名な画家の作品だが、200年以上も前から真作だと言われ続けてきた作品だ。作品の蘊蓄を語る声をボランティアで会場に来ていた宍戸が耳にした。そして、大笑いをし始めたのだ。掛け軸の猿は日本猿だと言うが、日本猿は昔から日本列島にしか棲息していない。従って中国の高名な画家が200年以上も前に中国でこの作品を書く事は不可能だと思って宍戸は笑ったのだった。長い間動物園で猿山の飼育をしてきた宍戸ならではの見解だ。これは毛松の模写であり贋作だと言い切った宍戸に思わず舌を巻いた藤田や大神学芸員だった。

長期入院していた現在の館長が急遽、美術館を訪れた。次期館長の椅子を狙っている者たちがいるとの外部告発を受けての事だった。(第1話)

休日になると各地の骨董市を巡ることが趣味のサラ・ハリファ。骨董市で藤田玲司にそっくりな男性と出会う。男性は藤束 礼一と言って名前までよく似ていた。どうしてフリーマーケットに出店してるのかとサラが聞くと、勤めていた会社が倒産し、嫁に言われて実家の蔵にあった骨董品を売って生活の足しにしているのだと言う。

サラは、藤束の低姿勢な接客態度に感激し、自分がギャラリーフェイクで骨董を売りさばいてあげると言って藤束を東京に連れ帰ってしまう。藤束はきれいにひげを剃り、スーツを着た。そして髪型をオールバックにすると藤田そっくりだ。

藤束はサラに言われたとおりに客に自分の骨董品を売ろうとするが、つい本音で話してしまいなかなか売れない。サラは歯がゆくなった。そして客は本物だけを求めているわけじゃなく、ギャラリーフェイクには藤田目利きの品を買うという一種の遊びをしに来ているのだと話した。つまり客は面白ければフェイクであってもいいのだ。お宝に出会えるかもしれないというときめきもある。気を取り直した藤束は、イギリス大使館謂れの品だという皿2枚と壺1つを売り上げた。お祝いに二人で食事に出かけるサラと藤束。藤田そっくりの藤束に見つめられてサラは舞い上がってしまうのだった。

翌日、家に戻ってこない藤束を追ってギャラリーフェイクに藤束の妻が押しかけてきた。

(第3話)

第20巻

警視庁では都内で200台以上の高級外車を盗み海外に売り飛ばした事件の容疑者を特定し、行方を追っていた。容疑がかかったのは高級外車窃盗団、主犯格は谷口篤だ。谷口は盗んだ高級外車で軽井沢まで逃げてきていた。共犯はケンジとミサト。ミサトは谷口の女だった。しかし、谷口が警察に追われている間、ミサトは窃盗団のアジトでケンジと男女の関係を結んでいたのだ。ミサトの裏切りが許せない谷口は二人に重傷を負わせた。谷口はその容疑でも追われているのだ。絶対に逃げ延びてやると勢いづいた谷口。軽井沢に入ったところでひとりの婦人を危うく轢きそうになった。婦人は倒れ込んでいる。谷口は介抱しようと近づいた。婦人は全盲で、体がふらっとよろけてしまい倒れこんだのだった。谷口は彼女の家まで車で送り届けた。軽井沢で行く当てもなかった谷口は、その日から好意に甘えて婦人の家に滞在することになった。山口という偽名を名乗った。滞在の決めては大型用の車庫があることだった。盗んだ高級外車を隠すには絶好の場所だ。しかも車庫にはあの1987年製のトヨタ2000GTが眠っていたのだ。その車を手に入れたくなった谷口は修理をさせて欲しいと婦人に頼み込んだ。あの車は亡くなった主人の形見だからエンジン音が聴ければ嬉しいと言う婦人は修理の件も二つ返事で了承した。谷口はその日から昼夜を問わず、車の修理に明け暮れた。婦人はこの車を絶対に手放すはずがない、だから盗むしかないと谷口は思っていた。そして、完璧に修理を終えた。売買のための書類を揃え、エンブレムの修理はギャラリーフェイクに依頼した。藤田玲司が谷口のもとへ修復したエンブレムの納品に来た。藤田は谷口に気になることを言った。エンブレムの裏側に婦人の夫と女の名前が刻印されていたと言うのだ。藤田はエンブレムの裏の女の名前は消しておいた。亡くなった婦人の夫は仕事と女遊びが止められない男だった。しかし、婦人は遥か先のトンネルから減速する2000GTのエンジン音が聞こえると、夫が女ではなく私の処に帰ってきてくれたのだと安心していた。そのエンジンが谷口の修理で見事に蘇ったのだ。婦人の家を去る日、谷口は婦人には会わずに藤田にあることを頼む。(第1話)

サラ・ハリファはQ首長国に一時帰国した。ところが、藤田玲司の元に彼女が搭乗したはずの飛行機カンタス航空706便がインド洋上にて爆発墜落したとの一報が入る。藤田は何も手につかない。仕事はおろか、食事さえも摂れなくなっていた。イタリアのボローニャでニュースを聞いたエリザベータもすぐに日本にやってきた。自分を妹のように可愛がってくれたサラを心配してのことだ。三田村小夜子からもサラの無事を願うという連絡を受けた。一方、Q首長国ではサラが常宿にしているホテルが今年もチャリティーパーティーを開催しようとしていた。しかし、サラが不在のため、急遽、Q首長国日本大使のアリがサラ主催のパーティーの代理を務める事となった。サラは日頃からその広い人脈を使い、幅広い寄付や支援を世界で行ってきた。サラの社会貢献度の大きさに驚く藤田だった。藤田がチャリティーパーティーに出展するために用意した絵画はミレイ作『オフィーリア』。浅瀬の川底で瀕死のオフィーリアの命が燃え尽きるまでを再現したなんとも切なく美しい名画だ。藤田はまだサラが亡くなったとは信じていない。瀕死でも必ず帰ってくるはずと思ってこの絵画を出展したのだった。(第7話)

第21巻

藤田玲司に水晶のドクロという超A級オーパーツが入手できるとの裏情報が入った。藤田は急遽メキシコに飛んだ。水晶のドクロは8年前に入手を諦めたお宝だ。当時それを所有していたアギラル社長はすでに何者かに殺害されてしまっていた。藤田に情報を提供したマフィアのボスのサバタは藤田をアギラル社長夫人の元へ案内した。サバタには8年前に藤田に娘を助けてもらったという恩がある。恩に報いるためだったら何でもできるというのだ。藤田は、メキシコに着いた初日から手荒い盗賊まがいのマフィアたちに遭った。骨董品を売りつけられてとんでもない多額の請求をされてしまったのだ。藤田はこれも何かの縁と紙幣を渡してまがいものの品を買い取ったのだった。その夜、マフィアたちは藤田を襲い、ある場所へ監禁する。そこでサバタと再会したのだ。8年前、水晶のドクロを求めてメキシコに飛んだ藤田が案内人に雇ったのが、当時はマフィアの子分だったサバタだった。サバタの案内で藤田は水晶のドクロを見つけ出す事に成功するが、その夜、サバタが藤田を銃殺しようとした。理由は娘の心臓病を治す手術に多額の資金が必要だったからだ。サバタは、藤田を殺して宝を売り飛ばし費用に充てなければ娘は死んでしまうと言った。藤田は、マフィアに通じている自分を殺せばサバタ自身もすぐにボスから殺されるだろうと返した。藤田は娘に会わせてほしいと頼み、サバタと共に病院へ向かった。藤田は娘を励まし、サバタに多額の現金を渡した。水晶のドクロを引き取るために用意した金だった。人助けは藤田の美学のひとつだった。その後、娘は助かり、サバタはマフィアの子分として弱音も吐かずに仕事をした。そして今、マフィアのボスとして君臨する立場になったのだった。(第1話)

かの有名な地蔵大作氏の料亭を借り切って、大日新聞取材による茶碗の銘品の撮影が行われていた。地蔵が貸し出した時代物の茶碗・志野の撮影中、アシスタントがつまずき、うっかり茶碗を欠いてしまった。急を要する撮影だったので、地蔵は高田美術館館長の三田村小夜子に修復を頼んだ。そして小夜子からはすぐさま藤田玲司に依頼が飛んだ。しかし、藤田は小夜子に修復と修理は意味が違うから自分はこの仕事は引き受けられないと断る。そこで、地蔵が修復家を見つけ出した。美術界で一躍有名になった若き修復家、レスリー・ロンだ。ただし、レスリー・ロンは、藤田玲司を同席させるなら引き受けるという条件付きだった。困った地蔵は藤田の元へ出向き、レスリー・ロンの依頼条件を告げた。しかし、藤田はここでもその依頼を断るのだった。数日後、レスリー・ロンが修復した志野を持って地蔵の料亭に現れた。(第2話)

第22巻

某国の売春宿・鳥籠酒家をある調査のために訪れた藤田玲司。実は売春宿にある鳥籠がほしいという依頼を受けていた。依頼人は貿易会社を経営するケン・高村という人物だった。売春宿に着くなり藤田は、フロントにいた老婆に女はいらないが泊まれる部屋を用意してくれと言った。そして鳥籠を見つけるために早速ホテル内を調査しはじめた。そこへちょうど藤田が泊まる部屋を普段使っている女が帰ってきた。ルウという娘だ。セックスしないなんて変な客だとかえって怪しまれたため、旅で疲れた肩を揉んでもらうことにした藤田だった。藤田はルウの案内で各部屋の鳥籠を見せてもらった。西洋やインド、日本の物もあった。しかし、ケンから聞いた中国清王朝時代のものは見当たらなかった。それはべっ甲のつるが付いた豪勢な鷹とネズミのオブジェの鳥籠だった。その晩、藤田はフロントの老婆に30年前にここで働いていたミニーという女の行方を尋ねた。そして、ケンに聞いた鳥籠の話を告げた。ケンはミニーという女と、迎えに行く約束を交わしていたのだ。すると老婆は急に険しい顔をし出した。そして藤田にミニーはもう死んだ、ケンのことをずっと待っていたと言った。そして、鳥籠はあるがあれだけは譲れない、しかしケン本人が来ればまた考えると言ったのだった。藤田はその時、老婆の腕に小さなネズミの入れ墨があるのを見逃さなかった。日本に帰国した藤田はその足ですぐに、ケンの元を訪ね、某国の鳥籠酒家での一部始終を話す。それを聞いたケンは、やはり自分が行くしかないと決意する。(第1話)

ある日、藤田玲司は国立瑞宝美術館へ出向いた。請け負った名画の修復代金が滞っていたからだ。1年前、美術館の空調が故障してしまい主要な5点の名画にカビが発生した。企画展前だったため藤田は昼夜を問わず修復した。その時の代金だ。国立である瑞宝美術館で200万ほどの費用が1年も未払いになるのはどうしたものかと思った藤田は学芸員に聞き込みをしてみた。すると新しく館長に就任した加納実篤という人物の話があがった。加納は妻が経営するリストランテを館内併設にしたり、客寄せのファッションショーを開催したりしていた。美術館の運営の足しになればという理由だ。学芸員からは美術の造形に詳しくもない人物だと評されていた。さらに極めつけは、美術館が所蔵する作品を再鑑定にかけて、贋作とみなされた絵画はすべてリアトリビューションしているのだ。リアトリビューションとは真贋が定かでない作品を鑑定して作者名を変更、作品を売買する仕組みのことだ。学芸員たちは加納のやり方に金の亡者だと陰口を叩いていた。そしてリアトリビューションの鑑定を買って出てくれと藤田に懇願した。藤田は1年前の修復費用も支払えないような美術館の仕事はできないと断った。しかし、帰りしなにリアトリビューションの件が気になって、一旦保留にした。藤田がメトロポリタン美術館のキュレーターという職を追われてしまったのは、リアトリビューションが絡んでの事だった。真贋を鑑定させられて、まんまと上司にその結果を奪われた挙句、職まで奪われてしまったのだ。藤田は今回の件は自らのリアトリビューションのリベンジになるとも言えると考えた。そうして、藤田はリアトリビューションの依頼を受けた。藤田は館長の加納と一度会うために加納が接待で訪れていたゴルフ場へ行った。ゴルフ場には高田美術館館長の三田村小夜子もいた。加納はリアトリビューションの鑑定を小夜子に依頼し、学芸員たちは藤田に依頼したのだ。(第12話)

第23巻

大樹という青年が美術大学への入学を夢見て受験に臨んだ。結果はあえなく不合格だった。大雨の中打ちひしがれた大樹が向かった先は、若くして大成し、若くして急逝した青年画家、村山槐多の作品展だ。そこで大樹は無心に槐多の作品を模写する一人の女性と出会う。その日から大樹は、彼女に会いたくて熱心に村山槐多展に通った。女性に一目ぼれしてしまったのだ。大樹は行く当てもなく東京の街をうろついていた。受験に失敗した後、無気力になった大樹は村山槐多展に行く以外は公園のホームレスたちが寝床にしている場所にいた。そこに入れもらうお礼に昼間は缶ゴミ収集の手伝いをする毎日だった。ある時大樹は、村山槐多展で藤田玲司と展覧会の開催者が談笑している場面に出くわす。藤田は開催者に招待を受けて来ていた。大樹が耳にしたのは、ギャラリーフェイクで所蔵している村山槐多の最後の1枚をぜひ譲ってくれという話だった。藤田と開催者は、槐多の人生は波乱と情熱の塊で、それをキャンバスにじかにぶつける事ができる画家は意外に少ないといった話もしていた。大樹はどうして村山槐多の重く暗い作品が若者に支持されるのかがわからなかった。この程度なら自分にだって書けるとさえ思っていた。いつもの模写をする女性が来ていないことを大樹は悔しく思っていた。実は彼女は美術大学生で重い病に冒されていた。そのことを知った藤田は村山槐多の最後の1枚をこのギャラリーに売ると決める。(第1話)

ある日、藤田玲司はサラ・ハリファの常宿であるホテルで、ムニールという外国人の男性を紹介された。ムニールは自国に帰国するため、絵を買い取ってくれる相手を探してほしいと藤田に依頼する。ムニールが持つ数多い贋作の中にはボナールの名画もあった。贋作ばかりのコレクションだったが、サラの知人ということもあり、それなりの対価で引き取るようにした。東京でムニールから預かったボナールの絵画。絵画は偽装とテロリストの資金源という2つの事件がからんでいた。ボナールの絵画の下からとんでもないお宝であるルノワールの真作が現われたのだ。これは偽装事件であり、何も知らない藤田も偽装の容疑で警察から追われることになる。さらに絵画をテロリストの資金源にしていたのではないかという疑いまで藤田に降りかかったのだ。実はこれらはサラを政略結婚させるために起こったことだった。邪魔な藤田をサラから引き離すための壮大な謀略だったのだ。まんまと偽装事件の容疑者にされてしまった藤田は警察に行動を制限され東京で店を続ける事もできずにいた。そんな時、藤田に1通のメールが届く。内容はムニールとサラはあのアルカイダの手先ではないかという内容だった。そこでまず藤田はパリに飛んだ。今回のルノワールにかぶせたボナールの絵画を描いたパリの画家ピトーを訪ねるためだ。情報元はワーナー捜査官だった。藤田はピトーに会えたものの、ピトーの妻シモーヌが病で苦しんでいるところで、ボナールが売れた金で病院へ緊急入院するのだと取り付く島もない。藤田は次にあるつてを頼ってトルコに入国する。そしてその晩、何者かに銃で撃たれてしまうのだ。そこへ、なぜか一文無しのトレジャーハンター、ラモスが現われて藤田をすぐに病院へ担ぎ込む。しかし身の危険を感じた藤田はその晩、病院からラモスと共に、Q首長国へと入国するのだった。なぜなら、今回の絵画偽装事件の最大の目的は藤田自身にある事が掴めてきたからだった。連絡が取れないサラの安否を急いで確認すると、サラはビザの書き換えでQ首長国に帰っていたことがわかる。サラはビザの書き換えだけではなく、一族の重要な会議に参加していた。その会議の案件はサラに婿養子を取るという政略結婚の話だった。相手はアブドーラ・ビン・アマハドという、サラが大株主を務めるシンドバット石油の重役だ。叔母の紹介で話がどんどん進んでゆくが、サラには全くその気がない。それどころか、アブドーラ家のギャラリーに展示されていた『裸のモナ・リザ』の傷み具合が気になっていたため、預かって修復を手掛けるのだった。藤田の修復を側で見続けてきたサラは自分でもやってみたくなったのだ。それが終わったらさっさと東京に戻ろうと思っていた。たとえ藤田がいなくてもギャラリーフェイクは自分が守ると意気込んでいたのだった。そんな時、サラは一族の叔父がサラの亡くなった両親から預かっていたというスイス銀行の貸金庫の鍵を渡される。Q首長国に入った藤田は何者かにずっと狙われ続けていた。しかし、サラの無事を確認するまではつかまるわけにはいかないと、ラモスと共に逃げる藤田だった。ほどなくして藤田とサラは再会した。そして、ある情報筋から、今回のルノワール偽装事件はアブドーラが仕組んだものだと聞く。(第4話)

登場人物・キャラクター

藤田 玲司

30代後半と見られる中年男。美術に関する尋常でない知識と人並み外れた観察力、そして神技に近い絵画修復技能を持つ。表向きは贋作・レプリカ専門の画廊ギャラリーフェイクの経営者で画商だが、裏では犯罪組織・闇社会と通じ、盗品や税金逃れが目的の正規に扱えない真作を法外な値段で売る画商として美術界の鼻つまみ者とされる存在。 美大生時代、主としてヨーロッパを回る無銭旅行を行い、見識を高めた。そのため語学は堪能で、世界中を駆け巡る。彼の父は、贋作作成者として仲間の罪を着せられ、画壇を追われた日本画家藤田東湖。彼自身も知識と観察眼の鋭さで、ニューヨークのメトロポリタン美術館の敏腕キュレーター(学芸員)として名を馳せたが、同僚の陰謀で退職に追い込まれた過去がある。 日本に戻ってから、悪徳画商菱沼棋一郎のもとで日本画の修復や裏商売の方法を学んだが、その手口の悪質さから袂を分かった。そういった過去から、権威主義的で古い慣習にとらわれ、権力者におもねる美術界を嫌っている。また審美眼を持たず美を愛する心もなく、私利私欲の道具として美術品を求める者を軽蔑し、決して本物を渡さない。 だが、美を理解すると認めた相手には、信じられない程安価な金額で譲る。一流の仕事をする人間には、見返り以上の援助を惜しまず、迫害があれば守ろうと力を尽くす。工芸品は、ふさわしい人間に使われるのが望ましいという持論があり、国家が保護し展示のみになってしまうことを嫌悪し、国宝Gメンの知念護人と対立する。 金はあるのに好んで一間の風呂なし安アパートに住み、パチンコを愛する。体力が全く無く、腰痛の持病に苦しむことも。カニが大好物で、誕生日は蟹座の6月22日。女性関係は多いが、押しかけ助手のサラ・ハリファには手を出していない。高田美術館館長の三田村小夜子に好意を寄せているが、関係には至っていない。

サラ・ハリファ

藤田玲司の秘書(助手)。アラブQ国の王族の少女で、隣接するP国がQ国に侵攻して紛争となった際、家族は皆殺しにされ、屋敷に火を付けられた。その時失った絵が日本に渡っていることを知り、東京に来て藤田の助力で絵を取り戻す。そのことによって藤田に好意を抱き、強引に押しかけてギャラリーフェイクに居付く。 肌は褐色で長い黒髪のスリムな美少女だが、右の腕に火事の時に受けた火傷の痕がある(中盤に特殊なファンデーションをもらい、以降それで隠すようになった)。美術に関する知識はさほど深くはないが、美的感覚に優れており、作品終盤では絵画の修復もできるようになっていた。天真爛漫な性格であるが、感情をコントロール出来ないことも多い。 一家の遺産を継承した上に、シンドバッド石油という国家企業の大株主であり、億単位の金を顔色一つ変えずに動かす。藤田の窮地も、何度かその財力で救ったことがある。高級ホテル「ホテル・ニュートントーキョー」の一泊十万円のエクゼクティブ・フロア(スイート)を、年間契約で借りきって一人暮らしをしており、出勤前にホテルのトレーニングジムで運動をすることを日課としているので、体力は藤田より上。 イスラム教徒であるが、特に強い信仰心はなく、水着になったり飲酒を気にせず行う。戒律で禁じられた「偶像崇拝」とみなされる美術品の鑑賞も、ムスリムと一緒でない限りは気にしない(自国に戻った時は自重して口にしないが)。 その美貌と性格の良さから、様々な男たちから言い寄られているが、サラは藤田を想い続ける。ただ、調香師のジャン・ポール・香本は彼女の体臭に惚れ込んでしまい、彼の罠であわやというところまで進むが、藤田の仕掛けがうまく働き純潔を守りぬいた。その後に、サラは平気で香本 に仕事の依頼をしていた。 最終エピソードで、物語の中心となる。

三田村 小夜子

美人で才媛、気が強くて生真面目。29歳。エール大学卒業後、ニューヨーク近代美術館キュレーターを経て、高田美術館の館長に就任する。日本の権威主義的な美術行政や学会、閉鎖的な市場、作品の真贋問題を明確にしない体質を粉砕しようとする。「美術界のジャンヌ・ダルク」とも呼ばれる。藤田玲司ほどではないが、美術品に関して非常に豊かな知識と観察眼を持ち、絵画貸出の依頼のために世界中を飛び回る。 日本国内における藤田のライバルの一人。作品序盤では「メトロポリタン美術館時代の藤田は尊敬していたが、今は美術界に巣食う魑魅魍魎」と吐き捨てるが、物語が進むに連れ藤田の美に対する真意やその韜晦を知り、彼が表の世界へ戻ることを望むようになる。 マラソンやゴルフを趣味としているが、同時に酒豪で藤田や部下の舟越貢を酔い潰したこともある。マンションに、モデルでタレントの七つ年下の妹みちると同居しており、彼女の男性関係に頭を痛めている。藤田は小夜子に対し、「優等生の女子をいじめたい」気持ちと、「彼女の奴隷になりたい」気持ちの両方を抱いているらしい。

知念 護人

文化庁嘱託の役人で、文化財保護審議会(現在は文化審議会に統合された)とは別に、国宝(重要文化財)の発見と保護を職務とする「国宝Gメン」。元東京地検特捜部。初登場は「国宝の守り人」。彼は民間に存在する価値ある美術品や文化財を、文化財保護法のもとに国宝(もしくは重要文化財)に認定し、認定によってその品物を徹底した国家の管理下に置き、施設に収蔵してしまう。 そしてその後、一人でゆっくりその美術品を愛でるのを、唯一の楽しみとしている。小男で出っ歯で、黒縁の大きなメガネをかけている。藤田玲司の「器や道具は人に使われてこそ美しい」という美意識と対立するため、藤田のライバルの一人となった。ただ、優れた美術品を国家の管理下に置きたがる以外は、日本の伝統芸術に関して膨大な知識と見識と情熱を持ち、美をないがしろにしようとする者を許さないという藤田に近い感性を持っているため、共闘することもある。 パソコンで、京都の町並みや美術のデジタルアーカイブを作るのが趣味。団地に家族と暮らすが、子供が五人おり、その上何千冊も美術書を貯めこんでいるので、妻からはいつも文句を言われている。

カルロス

国際的美術品窃盗団のボスでブローカー。苗字は不明。初登場は「13人目のクーリエ」。禿頭で、口ひげと顎ひげを生やした巨漢。ヨーロッパ、主にイタリア在住。藤田玲司を日本の有能な代理人として重視している。かつては怪盗として有名で、そちらは引退していたが「ジョコンダの末裔」で久しぶりに盗賊装束に身を包む。 オペラが好きで、見たあとにいつも感涙にむせぶ。来日した時もオペラを鑑賞していた。閉所恐怖症で、狭いところへ行くと喘息の発作が出る。娘が四人いて、家族思い。最終エピソードのオールスター集合では、フランスに登場する。

エリザベータ・デル・ジョコンダ

イタリア人の少女で、藤田玲司の隠し子と称して日本にやってくる。初登場は「ジョコンダの末裔」。母親のフローラは、13年前藤田がヨーロッパで無銭旅行中に、ローマで二週間同居した女性。母が死に、その遺言に従って遺品を持って藤田のもとを訪れた。子供のくせにビールが好き。 「モナ・リザ」のモデルの秘密をめぐる暗闘に巻き込まれ、誘拐されフィレンツェに連行されるが、藤田とカルロスに救出される。その後藤田が引き取り東京で暮らしていたが、ホームシックでイタリアに戻った際、偶然オペラ歌手のパパロッティにソプラノの声を認められ、北イタリアのボローニャにあるG・G・マンティーニャ音楽院に通うこととなる。

ラモス・コルテス

トレジャーハンターの男で、隻眼(左目を眼帯で覆う)。鞭やナイフを武器に使う。初登場は「海底に眠る夢」。登場前から、マヤ文明の遺跡を藤田玲司に案内すると言いながら、ジャングルに置き去りにして金を持って逃げた過去がある。海底の難破船の調査、エジプトでのファラオの墓盗掘、シカゴの地下トンネル探索、マヤ文明の少女のミイラ発掘など、派手なエピソードが多い。 最終エピソードのオールスター集合でも、かなり重要な役を演じた。ショーンという大柄な女性のトレジャーハンターとの間に、ミランダという幼い娘がいる。子供の頃、父親に虐待されて、家出をした(その時すでに隻眼だった)。

翡翠

表向きは東京にある宝石店ジェイドの女主人だが、その正体は世界を飛び回る宝石泥棒。サディストの中年女性で、昔はモデルをやっていたほど美人。初登場は「翡翠(フェイツイ)の店」。盗んだダイヤモンドを人質にして、藤田玲司に「ギャラリーフェイクの得意先リスト」を渡すよう求めるが、「主人になじられたい」というマゾヒズムを持つフェイツイの部下の瑪瑙が、「叱られたい」がためにサラ・ハリファに手を貸して、リスト奪取は失敗する。 これ以後、準レギュラーとして、たびたび登場。クールでミステリアスに振舞っているが、どうしても欲しい宝石などを見ると、感情をむき出しにする。十年前は、大富豪モーガンの妻だったが(その頃の名はアイリーン)、夫の不貞に嫌気がさし、宝石だけを愛することに決め、離婚後宝石泥棒になる。

地蔵 大作

東京にある高級料亭「望月」の主人。禿頭なのか剃髪なのか頭に毛はなく、額に白毫のようなほくろがある。目は細く、穏やか。お地蔵さんを少し横に伸ばしたようなキャラクターである。初登場は「地蔵現る!」。地蔵が藤田玲司に、偽物の「朝鮮唐津」を売りつけられるが、地蔵の人柄に惚れ込んでいる骨董業者が藤田に贋作の肉筆浮世絵を売りつけて仇討ちをする話。 鑑定眼はそれほどないが、地蔵を慕う人間による人脈は非常に大きい。地蔵は藤田の才能を高く買っており、表の世界に出てくるように何度も説得するが、地蔵の包容力もしくは聖人君子的態度を嫌うのか、韜晦なのか、藤田は決して首を縦に振らない。 サラ・ハリファは素直に地蔵の人柄を受け入れている。父親は、犬塚墨堂という著名な陶芸家で書家だったが今は認知症で、地蔵が地方の家に使用人を雇って介護し、面倒を見ている(地蔵が幼いころ両親は離婚しているので、苗字が違う)。認知症になるまでの墨堂は、気むずかしく己の意に染まぬ者を徹底的に罵倒して排除するような人間で、そこに地蔵の闇があるようだ。

高倉

警視庁八曲署の警部補で、犯人には非常に強く出る強面の刑事だが、実は熱烈なブリキのおもちゃコレクター。パンチパーマに濃いもみ上げで、顎が大きい。名前は不明。初登場は「TIN TOY刑事」。サラが花園神社で買った、ウサギのブリキ人形を欲しがったのが、ギャラリーフェイクとの縁となった。 藤田玲司の危ない商売をよく思っていないが、美術関係の事件では仕方なく協力を要請する。ブリキのおもちゃ美術館のオーナー浪越は、古くからのコレクター仲間。

千手 計

クオーツ時計を嫌い、機械式時計にこだわる青年の職人(時計師)。天才的な精密時計制作能力を持つ。会員制の高級機械式時計専門店「千手堂」の店主。会員募集も兼ねて新宿で露天商も開いていたが(ただし料金はひとつ三百万円)、そこでサラ・ハリファが腕時計をひとつ小切手で購入したことで、藤田玲司が興味を持って交流が始まる。 「千手堂の男」が初登場。小柄でメガネをかけた美男子で、サラに好意を抱いている。実は「オイスター時計工業株式会社」社長の御曹司。スイスに修行のため留学していたが、帰国後、親の会社に入社せず「千手堂」を開店した。計を会社に入れたい父親が、仕事を続けられないような計略を仕掛けるが、藤田の提案で幻の複雑時計「マリー・アントワネット」を作れば店を続けられることとなり、サラの助けもあって完成させ、店は継続する。 その後も、精密腕時計1765モデルの制作や、からくり人形怪談の解決などで藤田に力を貸す。

ジャン・ポール・香本

天才的な調香師(香水調合士)。「鼻(ネ)」という、世界に二十人といない芸術家的調香師にのみ捧げられる称号を持つ。香道の家元でもある。絶世の美男子で、長髪。人間離れした嗅覚を有しており、相手の体臭から健康状態を把握したり、感情の変化に伴う大衆の違いも嗅ぎ分けることができる。「奈翁(ナポレオン)のオー・デ・コロン」で初登場。 藤田玲司の体臭を「カニ臭い」と嫌い、サラ・ハリファの体臭を「唐の楊貴妃もかくやという香り」と評して 讃美し、なんとか自分のものにしようとするが、藤田の仕掛けによって野望は潰える。その後も香り関係のエピソードで何度も登場し、最終エピソードのオールスター集合でも、かなり良い役を演じた。 ワサビの刺激臭が弱点。

木戸

日本一のニンベン師(自称)。偽の保険証・免許証・パスポート・登記簿等々、ありとあらゆる書類、身分証を偽造する。「偽」という字のにんべんから、ニンベン師という名称ができた。「ニンベン師」で初登場。手書きではなくパソコンのグラフィックソフトなどで作成する。街で藤田玲司が、木戸の作った日本酒の偽造ラベルをひと目で見破る現場に偶然出くわし、ギャラリーフェイクに興味を持つ。 ギャラリーフェイクに展示してあったクリムトの絵を、藤田から「一億円なら売ろう」と言われ、偽札を一億円分作って、クリムトの絵を手に入れるが、藤田は偽札と気がついており、クリムトも贋作であった。 その後もパチンコのROMの封印や、クレジットカードのスキミングなどで藤田とかかわる。婦警フェチで、後に婦警コスチューム専門の風俗店を開業する。

菱沼 棋一郎

アート・ディーラー(しかし悪徳画商)で、藤田玲司がメトロポリタン美術館を退職して帰国した際、日本画の修復方法や裏の仕事のノウハウを教えた。しかし手口があまりに悪辣なので、藤田はやがて袂を分かった。ダリのような泥鰌髭を生やしている。「罠」で初登場。菱沼は、贋作を密告された仕返しに、美術専門の運輸会社の社長を罠にかけようとしたが、藤田の機転で失敗する。 その後もほとんど詐欺のような商売を続ける。「もうひとつの鳥獣戯画」に登場したとき、入院していて、余命1ヶ月を宣告されていた。藤田は、その仕事を遂行後に、菱沼の真意を知る。

ロジャー・ワーナー

ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)の美術骨董課に属する捜査官。美術骨董課とは、美術品の盗難・詐欺事件の捜査を専門に行っている部署。変装して裏の取引に参加し、盗品を取り戻す。初登場は「似たものどうし」。普段はオカッパ頭だがそれはカツラで、変装用にいつも丸坊主に刈ってある。 変装後の人物設定に非常にこだわる。紅茶のアールグレイを、ものすごく愛好する。盗まれた美術品を追う道中で、何度か藤田玲司と接触する。

賀茂 水仙

当代一流の茶人で、日本の伝統文化にも詳しく、茶道のみならず書道や香道のエピソードの際にも登場する。禿頭で、長く白い眉毛と細い目の、いかにも人格者の老人といった外見。三田村小夜子のお茶の師匠として、「傷ついた「ひまわり」」後編に初登場。藤田玲司を悪徳画商として懲らしめようとしたが、その鑑識眼に驚いて力を認める。 藤田も良い茶器などが出ると、水仙に優先して売るようになる。

長谷 万次

消費者金融会社「ミリオンローン」社長。強面の、目付きが鋭い中年男で、左の頬に傷がある。返済ができなくなった債務者の美術品を処分する際に、藤田玲司を使う。また藤田も長谷に借金をしている。初登場は「驕れる円空」。昔は大手のひので銀行で、旧大蔵省と交渉を行ういわゆる「MOF担」であったが、担当者の趣味の悪さに嫌気が差してやめてしまう。 古典落語愛好家でもある。

大沢ちえり

プリンスツアーの女性ツアーコンダクター(旅行添乗員)。若くて可愛いが、少し頼りない。「イングランドの根付」で初登場。細野不二彦の作品『りざべーしょんプリーズ』の主人公でもある(いわゆるゲスト出演)。「ガウディズ・ゴースト」にも登場。

場所

ギャラリーフェイク

東京のウォーターフロントにある、藤田玲司がオーナーのアートギャラリー。「贋作・レプリカ専門ギャラリー」が表向きの顔で、裏では盗品、マネーロンダリング用、税金のがれの品物といった「真作」を扱っており、闇社会では「あそこに行けば、必要な美術品が手に入る」と言われている。地下に、絵画の修復所がある。

書誌情報

ギャラリーフェイク 既刊33巻 小学館〈ビッグコミックス〉 連載中

第1巻 傷ついた「ひまわり」

(1992年1月発行、 978-4091830210)

第2巻 ジョコンダの末裔

(1993年9月発行、 978-4091830227)

第3巻 林檎を持つ女神

(1994年4月発行、 978-4091830234)

第4巻 狙われた天守閣

(1994年9月発行、 978-4091830241)

第5巻 ペルシャの秘宝

(1995年3月発行、 978-4091830258)

第6巻 五爪の竜

(1995年8月発行、 978-4091830265)

第7巻 ニンベン師

(1995年12月発行、 978-4091830272)

第8巻 真珠と少年

(1996年6月発行、 978-4091830289)

第9巻 ガウディズ・ゴースト

(1996年11月発行、 978-4091830296)

第10巻 山水の星

(1997年3月発行、 978-4091830302)

第11巻 顔のない自画像

(1997年11月発行、 978-4091846112)

第12巻 地震観音

(1998年4月発行、 978-4091846129)

第13巻 カンボジアクエスト

(1998年8月発行、 978-4091846136)

第14巻 放蕩息子の帰還

(1998年12月発行、 978-4091846143)

第15巻 加州昭和村

(1999年3月発行、 978-4091846150)

第16巻 花と器

(1999年6月発行、 978-4091846167)

第17巻 トンパ・ミステリー

(1999年11月発行、 978-4091846174)

第18巻 似た者どうし

(2000年3月発行、 978-4091846181)

第19巻 楊貴妃の香

(2000年7月発行、 978-4091846198)

第20巻 Kyoto pop

(2000年11月発行、 978-4091846204)

第21巻 清香茶会

(2001年5月発行、 978-4091861818)

第22巻 メソポタミアを統べる者

(2001年8月発行、 978-4091861825)

第23巻 リング・ring・指輪

(2001年11月発行、 978-4091861832)

第24巻 湿度

(2002年3月発行、 978-4091861849)

第25巻

(2002年7月発行、 978-4091861856)

第26巻

(2002年12月発行、 978-4091861863)

第27巻

(2003年4月発行、 978-4091861870)

第28巻

(2003年8月発行、 978-4091861887)

第29巻

(2003年12月発行、 978-4091861894)

第30巻

(2004年6月発行、 978-4091861900)

第31巻

(2004年11月発行、 978-4091873910)

第32巻

(2005年6月発行、 978-4091873927)

第33巻 アンソールの男。

(2016年11月30日発行、 978-4091893123)

ギャラリーフェイク 全23巻 小学館〈小学館文庫〉 完結

第1巻 Vincent van Gogh

(2002年12月発行、 978-4091926616)

第2巻

(2002年12月発行、 978-4091926623)

第3巻

(2003年1月発行、 978-4091926630)

第4巻

(2003年1月発行、 978-4091926647)

第5巻

(2003年2月発行、 978-4091926654)

第6巻

(2003年2月発行、 978-4091926661)

第7巻

(2003年3月発行、 978-4091926678)

第8巻

(2003年3月発行、 978-4091926685)

第9巻

(2003年4月発行、 978-4091926692)

第10巻

(2003年4月発行、 978-4091926708)

第11巻

(2007年3月発行、 978-4091960610)

第12巻

(2007年3月発行、 978-4091960627)

第13巻

(2007年3月発行、 978-4091960634)

第14巻

(2007年3月発行、 978-4091960641)

第15巻

(2007年4月発行、 978-4091960658)

第16巻

(2007年4月発行、 978-4091960665)

第17巻

(2007年5月発行、 978-4091960672)

第18巻

(2007年5月発行、 978-4091960689)

第19巻

(2007年6月発行、 978-4091960696)

第20巻

(2007年6月発行、 978-4091960702)

第21巻

(2007年7月発行、 978-4091960719)

第22巻

(2007年7月発行、 978-4091960726)

第23巻

(2007年8月発行、 978-4091960733)

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