あらすじ
望み叶え給え
高校2年生の安楽岡花火と粟屋麦は、美形の優等生同士として、校内では理想のカップルとして知られている。しかし、実際はそれぞれに思いを寄せる相手がおり、これを隠すために、表向きは交際しているふりをしていたのだった。花火は国語教師の鐘井鳴海に、麦は音楽教師の皆川茜に、長らく片思いをしているが、この二組は教師と生徒の関係になる前からの知り合いだった。そんな中、花火たちが高校2年生になった時、鳴海と茜が新任教師として赴任したことで、四人とも同じ学校にそろったのだ。当初はこの出会いを喜んだ花火と麦だったが、鳴海は次第に茜に思いを寄せるようになり、茜もまたまんざらでもない様子だった。そんな二人を見るうちに、花火と麦は精神的に追い詰められ、お互い叶わぬ恋をしていることに気づく。そこで二人は、慰め合うようになるが、お互いに好意を抱いているわけではなかった。二人は思い人の代用品としてお互いを見ているため、性的なことをするときも、それぞれの思い人を思い浮かべながら、行為に耽っていたのだ。それでも友人としては比較的相性のいい花火たちだったが、そんな二人の関係を、次第に周囲は訝(いぶか)しがるようになる。
DREAMING GIRL
高校2年生の鴎端のり子は、幼なじみの粟屋麦に片思いをしている。二人は同じマンションの住民として知り合い、幼い頃から非常に仲がよかった。そのためのり子は、いつか麦が自分の王子様になってくれると信じて疑わず、自分もまた、お姫様にふさわしい女性になるべく努力を重ねてきたのである。しかし、中学受験を機に二人は学校が別々となってしまい、高校でようやく再会した時には、麦は安楽岡花火と交際を始めていた。のり子はこの現実をどうしても受け入れられず、麦が花火に騙されて付き合っていると思い込んでいた。その理由は、周囲からの花火の評判がよすぎることだった。のり子は花火とかつて同じ小学校に通っていたが、当時の花火は、まじめながらもきつい性格だったにもかかわらず、現在の花火は心優しい品行方正な女性として知られているため、のり子には花火がとても同一人物とは思えなかったのである。しかし麦は、花火のそんな本性を知っていながらも、彼女のことが好きなのだと語る。さらにのり子は花火から、もう不用意に麦と親しくするなとまで言われてしまう。
アンハッピーリフレイン
絵鳩早苗は、友人の安楽岡花火に高校受験の日から片思いをしている。受験当日早苗は、会場に向かう電車で痴漢に遭っているところを助けてもらい、痴漢が逃げたあとも、ずっと付き添ってくれたのが花火だった。それまで早苗は、自分は恋愛に関心がないか、単なる男嫌いなのだとばかり思っていたが、花火と出会ったことで、同性愛者であるという事実に気づいてしまったのだ。それでも早苗は花火に思いを打ち明けることはせず、友人として付き合っていた。それは、花火が粟屋麦と付き合っており、自分が入り込む余地はないと考えていたからだった。そんな高校2年生のある日、早苗は突然、鴎端のり子から声を掛けられる。のり子は花火と仲が悪く、花火が意地悪な本性を隠して暮らしているととらえていたため、花火の本性を知っているのか気になって、早苗に話し掛けたのだという。しかし早苗が関心を抱いたのは、その件ではなかった。のり子は、麦が花火に利用されているだけだと主張しており、早苗もまた、これを否定しきれない部分があったのである。
Prisoner Of Love
安楽岡花火は、クラスメートから恋愛相談を受けたことがきっかけで、絵鳩早苗とお泊まり会をすることになった。花火は、相手が誰なのかまでは知らないが、早苗もまた恋をしていることを知っていた。そこで、一度ゆっくり恋愛話で盛り上がりたいと考えていたのである。しかし早苗は、その思い人が花火だとは言えるはずもなかった。それでも二人は楽しい時間を過ごすが、花火が早苗の思い人について尋ねたことで、事態は一変。思わず早苗は花火にキスをし、粟屋麦の関係について質問する。早苗は以前から、花火と麦の関係をどこかおかしいと感じており、先日の鴎端のり子との件も重なり、聞かずにはいられなかったのである。そんな早苗の様子を察した花火は、もはや隠し通せないと判断し、自分は叶わぬ恋をしているが故に、麦に慰めてもらっていることを打ち明ける。しかし、これを聞いた早苗は自分も麦と同じように、花火を慰めたいと言い出す。翌日早苗はこの件について謝罪したうえで去っていくが、花火は軽い気持ちで始めた麦との関係が、のり子だけでなく、早苗をも巻き込み始めていることを認識するのだった。
絶体絶命
安楽岡花火は、絵鳩早苗との件もあり、粟屋麦のことを本気で好きになりたいと願うようになるが、やはり好きになることはできずにいた。そんな中、花火と麦が深夜のレストランで食事していると、そこへ皆川茜と若い男性がやって来る。麦曰くその男性、寺内タクヤはかつて茜が家庭教師をしていたうちの一人らしいのだが、花火には、二人が単なる教師と生徒の関係には見えなかった。そこで花火は翌日、茜にタクヤのことについて直接尋ねるが、茜は何も答えずに疑惑は深まっていく。一方茜は、この件を内心楽しんでいた。茜は学生時代から、自分の容姿に自信を持っており、異性に好かれる自覚があった。また、友人の思い人を奪った快感が忘れられず、以来わざと誰かに好かれている男性や、恋人のいる男性ばかりを狙って恋愛を繰り返していたのだ。そんな茜は、当然花火が鐘井鳴海に思いを寄せていることも知っており、自分がタクヤとも親しくしているせいで、花火を苛立たせていることを理解していた。そこで茜は、後日花火を呼び出し、わざと鳴海が自分に告白する現場を目撃させる。
純愛デリュージョン
安楽岡花火は、鐘井鳴海が皆川茜に告白する現場を見たことに深いショックを受け、衝動的に絵鳩早苗と関係を持ってしまう。早苗は自分が花火の思い人の代用品でも構わないと告げたことで、花火はそんな早苗に甘えてしまったのである。その後花火は、あらためて茜の、故意に人を傷つけて喜ぶ残忍な性格を知り、今の自分では彼女には勝てないと理解したうえで、自分を変える方法を模索するようになる。しかし実際は、相変わらず粟屋麦や早苗と、友人とも恋人ともつかない性的な行為を繰り返すばかりで、いたずらに時は過ぎていくのだった。一方その頃、鳴海は茜を呼び出し、先日の告白の返事を尋ねていた。鳴海に関心のない茜は適当にあしらおうとするが、酔った鳴海が、茜を「花火」とまちがえて呼んだことで雰囲気は一変。茜は花火をさらに苦しめるために、鳴海と関係を持つのだった。そして茜は、翌日これを嬉々として花火に告げる。またも傷つけられた花火は、自分も茜のように、人の気持ちをもてあそんで楽しめる人間になれば、茜に勝てるのだろうかと考えるようになってしまう。
誰か、海を。
安楽岡花火は、粟屋麦と正式に交際することを決め、絵鳩早苗とは距離を置くことにした。花火は、これ以上早苗を巻き込んではならないと考えていたのだ。しかし早苗はお構いなしに、変わらず花火に接してくる。さらにそのうえ、もし男性を振り回したいのなら、心を開いているふりを装えばいいと、花火にアドバイスまで送るのだった。その直後、道で偶然寺内タクヤに再会した花火は、さっそくこれを実行して後日タクヤと会うことになる。しかしタクヤは、皆川茜が複数の男性と関係を持っていることを知りながら付き合っていたため、この状況に満足できず、自分もまた同じように、複数の女性と関係を持とうとしていることが判明。その場はタクヤに関心があるふりをして適当にごまかすものの、自分は茜のようになることは不可能だとあらためて自覚するのだった。一方その頃、麦は最近の花火の行動に不信感を抱き、ほかの男性とも交際していることに気づいていた。麦はもともと茜のような不誠実な女性が好みであるため、花火の変化にも、すぐに気づいたのである。そんな中、麦は鴎端のり子からデートに誘われる。
愛はたくさん(LOTS OF LOVE)
夏休みのある日、安楽岡花火は寺内タクヤと、粟屋麦は鴎端のり子とデートするが、二組ともうまくいかずに終わった。花火は結局タクヤに遊ばれる形で終わり、麦はのり子の一途な思いを受け止めきれなかった。この失敗を経て再会した花火と麦は、ついに夏休みが終わるまでに、それぞれが鐘井鳴海と皆川茜に告白しようと決意するのだった。一方その頃、絵鳩早苗は夏期講習でいとこの桐島篤也に再会していた。篤也は昔から早苗に思いを寄せているのだが、レズビアンである早苗は、篤也の気持ちには応えられないでいた。篤也はこれを理解したうえで、相談役でもいいから、早苗といっしょにいたいと考えていたのである。早苗はそんな篤也に花火との関係を話すが、もし早苗が相手の性別ではなく人間性を重視して恋愛しているのなら、自分も今後恋愛対象になる可能性があるのではないかと指摘され、返答に窮するのだった。こうしてそれぞれの夏休みは過ぎ、花火と麦は、同じタイミングで告白したあとに公園で落ち合う約束をする。しかし、鳴海にふられた花火が公園に到着するものの、麦は姿を見せることはなかった。
地獄でなぜ悪い
安楽岡花火は、粟屋麦が皆川茜とうまくいったのだと判断し、絵鳩早苗の誘いで、軽井沢へ旅行に来ていた。ここは早苗の親戚の桐島家が所有する別荘があり、二人はそこでいっしょに過ごすことになったのである。しかし花火たちが到着すると、そこには早苗のいとこである桐島篤也がいた。これに早苗は不機嫌になるが、篤也は今回、早苗が旅行に来た真意を理解していた。早苗は口でこそ、この旅行で花火を振り向かせると言っているが、実際は最後の思い出作りで、早苗は今回の旅行を機に、花火と距離を置く決意をしていたのである。しかし篤也は、これに耐えられるほど早苗が精神的に強いとは思えず、心配してやって来たのだった。そして旅行2日目の朝、一人外へ出た花火は篤也に遭遇し、早苗を誰かの代用品にはしないでほしいと念を押されるのだった。花火はこれを重く受け止めたうえで早苗と楽しい時間を過ごすが、篤也が席をはずした折、早苗は花火のことをあきらめることを宣言する。
カラノワレモノ
安楽岡花火と絵鳩早苗は、話し合った結果、時間をかけて元の友人関係に戻ることになった。こうして二学期を迎え、花火と早苗は一度距離を置き、失恋を受け止めた鴎端のり子は晴れやかな気持ちで過ごしていた。しかし粟屋麦は、皆川茜との爛(ただ)れた関係を繰り返しており、麦は茜の本性を知ったうえで好きだと告白する。茜はこの告白を受け入れ、二人はセックスするものの、その後も麦は振り回されるばかりの日々を送っていた。そのうち麦は、自分では茜の空虚な人間性を変えるどころか、その心をゆさぶることもできないと思い知らされるのだった。一方そんな茜は、並行して鐘井鳴海とも交際を続けており、デートを繰り返していた。しかし最初の日以降、鳴海は茜を求めようとはせず、自分のテクニックに絶対の自信を持つ茜は、この状況に不信感を抱くようになる。そんなデートの途中、過去の交際相手に遭遇した茜は、彼から茜がいかに不誠実で、遊んでいる女性であるかを暴露されてしまう。これで鳴海との関係は終わりだろうと判断した茜は、正直にすべてを話すが、なぜか鳴海はそんな茜でも構わないと言い出す。
さみしいかみさま
皆川茜は、自分の本性を知ってなお交際を続けたいという鐘井鳴海に気圧され、一泊旅行をすることになった。鳴海の真意を測りかねていた茜は、手っ取り早くセックスに持ち込もうとするが、鳴海はそれに応じずに夜となる。これに焦れた茜は、とうとう自分の浮気性や、不誠実な人間性をなぜ肯定できるのかと鳴海に尋ねる。すると鳴海は、浮気や異性との遊びを趣味の一つととらえており、そうすることで茜が幸せなら、止める理由はないときっぱりと言い切る。そんな鳴海の無償の愛情に驚いた茜は、とうとう泣き出してしまい、今後いくら浮気してもよいという条件で、結婚を承諾するのだった。こうして鳴海と結ばれた茜は、粟屋麦に会いに行き、鳴海と結婚することを告げる。麦はこれを真摯に受け止め、それでも自分は決して茜を忘れないと本心を伝えるのだった。そして時は流れ、文化祭を迎えるが、その作業中に安楽岡花火は麦と再会する。
メディアミックス
TVアニメ
2017年1月から3月にかけて、本作『クズの本懐』のTVアニメ版『クズの本懐』がフジテレビ系列で放送された。監督を安藤正臣、シリーズ構成と脚本を上江洲誠、キャラクターデザインと総作画監督を黒澤桂子が担当している。キャストは、安楽岡花火役を安済知佳、粟屋麦役を島﨑信長が演じている。
ネット配信ドラマ
2017年1月から、本作『クズの本懐』のネット配信ドラマ版『クズの本懐』がFODで配信され、その後フジテレビでも1月から4月まで放送された。脚本は萩原恵礼と髙橋幹子が担当。キャストは、安楽岡花火役を吉本実憂、粟屋麦役を桜田通が演じている。
登場人物・キャラクター
安楽岡 花火
とある高校の2年C組に在籍する女子。黒髪をボブヘアにした、清楚でかわいらしい印象の美少女。鐘井鳴海とは幼なじみで、学校以外でのみ「花ちゃん」と呼ばれている。まじめで一途な性格で、子供の頃から鳴海に思いを寄せている。それ故に自分と同じ誠実さを他者に求めてしまったり、他者の不誠実な行動を許せなかったりと、潔癖な一面を持つ。この性格が災いして攻撃的になりがちで、言動がきつかったりすることから、子供の頃は周囲と衝突することが多かった。しかし現在では、鳴海によく思われたいと考えるようになり、彼に迷惑を掛けないためにもこれを隠し、品行方正な優等生として振る舞っている。両親は離婚しており、母親と二人暮らし。そのため幼い頃に聞いた、父親は自分が産まれたために去っていったという言葉を忘れられずにいる。近所に住む鳴海には恋愛感情を抱きつつ、兄や父親のようにも感じている。このような複雑な思いを抱えつつも鳴海と親しくしていたが、高校2年生の時に、鳴海が自分の通う学校の国語教師として赴任。いっしょに過ごせる時間が増えると喜んでいたところ、鳴海が皆川茜に思いを寄せていることに気づいてしまう。そんな中、茜に片思いしている粟屋麦の存在を知り、麦と友人とも、恋人ともつかない関係を築くようになっていく。成績は非常に優秀で、料理も得意。
粟屋 麦
安楽岡花火と同じ高校で、特進クラスに在籍する2年生の男子。鴎端のり子とは同じマンションに住んでおり、子供の頃から仲がいい。栗色のさらさらショートヘアの、中性的な美少年。その外見からかわいらしいと評されることが多く、女性から人気がある。一見近寄りがたく無気力そうな雰囲気を漂わせているが、実際は付き合いがよく、身内にはとことん甘いタイプ。そのため花火のきつい性格や、のり子のわがままな一面も許容するどころか、むしろかわいいとさえ感じている。中学時代に自分の家庭教師を務めていた皆川茜に片思いしており、高校2年生になって彼女が自分の学校の音楽教師となってからも思い続けている。さらに、一見清純な女性として振る舞う茜が、実際は性に奔放で、複数の男性と交際しているという、欲望に忠実な一面を理解したうえで恋している。だが、自分はその中の一人にもなれないことに苦しみながら、茜が国語教師の鐘井鳴海といい雰囲気になっている様子を眺めていた。そんなある日、花火と知り合って、お互いに叶わぬ思いを抱えていることを知る。そこで慰め合ううちに、花火と性的な行為を含めた、友人とも恋人ともつかない関係になっていく。しかし、基本的にはまじめで潔癖な花火のことを尊重して、体には触れるものの、セックスはしないようにしている。
鐘井 鳴海
安楽岡花火たちが通う高校で、国語教師を務めている若い男性。花火とは幼なじみで、近所に住んでいる。ショートヘアに眼鏡を掛け、相手を安心させる穏やかな雰囲気を醸し出している。温厚で心優しい性格で、相手の悪い一面も前向きに受け止めながら接している。その一方で、相手の好意にも悪意にも鈍感で、騙されやすいところがある。そのため、長らく花火から思いを寄せられていることにも、皆川茜の本来の人柄にもまったく気づいていない。近所に住む花火の面倒を学生時代からよく見ており、父親もきょうだいもいない花火に、時には兄のように、時には父親のように接してきた。この経緯もあり、花火のことを非常に大切に思っているが、それは家族同然と思っているだけで、恋愛感情はいっさい抱いていない。花火が高校2年生になるのと同時に、かねて夢だった教師となり、花火の通う高校の新任教師となる。この時いっしょに赴任した茜に一目ぼれし、その本性を知らないまま、彼女に積極的にアプローチするようになる。子供の頃に母親を亡くしており、以来父親と二人きりで暮らしてきた。そのため、母親の記憶はあいまいになっているが、母親と同じロングヘアの女性に惹かれる傾向があり、茜に一目ぼれをしたのも、その容姿が好みだったというのが大きい。また、母親を亡くしていることから、大切な人に対しては、その人が生きているだけで十分であるという考えを持つようになり、非常に寛容である。
皆川 茜
安楽岡花火たちが通う高校で、音楽教師を務めている若い女性。教師になる前は家庭教師のアルバイトをしており、粟屋麦や寺内タクヤは当時の生徒。茶髪をストレートロングヘアにした、清楚な美人ながら、やや田舎っぽい印象を与える。ちなみにこれは、親しみやすい女性に見せかけるため、皆川茜が意図的にしている演出である。周囲からは、天然気味と認識されているものの、実際はすべての行動が計算ずくであり、わざと他人を傷つけたり騙したりすることで快感を得る、狡猾で身勝手な性格をしている。学生時代から自分の容姿に自信を持っており、出来心ながら、友人が思いを寄せる男性に近づき、奪い取った経験がある。これ以来、人の思い人を奪う快感に目覚め、わざと誰かに好かれている男性や、恋人のいる男性を狙って恋愛をするようになった。同時に思い人を第三者に奪われても泣き寝入りするしかない、弱い人間には絶対になりたくないと思っている。このため、複数の男性と同時に交際したり、浮気相手や不倫相手になったりするのも当り前で、恋愛において、自分はつねに奪う側だと認識している。しかし茜自身の、男性に誘われるとまず断らない流されやすい一面や、第三者が価値を認めている男性にしか魅力を感じられないなど、自らの価値観が定まっていないところには目を向けていない。花火たちが高校2年生の時に新任教師として赴任し、すぐに鐘井鳴海に思いを寄せられるようになる。そこで、花火が鳴海のことを好きだと理解したうえで、わざと鳴海をもてあそぶようになっていく。
絵鳩 早苗
安楽岡花火と同じ高校に通う2年生の女子。花火の友人で、胸の下まで伸ばしたストレートロングヘアにした、凛とした印象の美少女。のちに髪の毛を切り、セミロングのウルフカットになる。花火からは苗字が「絵鳩」であることから「えっちゃん」と呼ばれている。まじめな落ち着いた性格で、同世代よりも大人びている。しかし恋愛に関しては奥手で、非常に悲観的である。これは、花火と出会ったことがきっかけで自分が同性愛者であることに気づき、異性愛者の女性との恋愛を成就させるのは難しいと考えていることが大きい。花火とは高校受験の日、会場に向かう電車内で痴漢に遭い、困っていたところを花火に助けられたことで知り合った。この時、その場をおさめてくれただけでなく、傷ついた自分を気遣って付き添ってくれた花火の優しさに感動し、思いを寄せるようになった。だが、花火が異性愛者であることは理解しており、粟屋麦と交際していることも知っていたため、友人として親しくするまでにとどめていた。そんな高校2年生のある日、鴎端のり子から、花火と麦の関係の不自然さについて指摘される。これによって、実際は花火と麦はなんらかの理由があって交際しているだけで、両思いというわけではないのではないかと考えるようになった。また、この予想が当たり、花火は叶わぬ恋に苦しむあまり、麦に癒しを求めていると知ってからは、絵鳩早苗自身もそんな関係になりたいと立候補。友人でありながら花火と性的な行為に耽り、歪んだアプローチを繰り返すようになる。
鴎端 のり子
安楽岡花火と同じ高校に通う2年生の女子。粟屋麦とは同じマンションに住んでおり、幼い頃から仲がよかった。ロングヘアをツインテールにした、小柄な美少女。お姫様のようなかわいらしいファッションを好み、自分の美意識に絶対の自信を持っている。通学時も好みの服装を身につけているため、校則はいっさい守っておらず、風紀委員からいつも注意されている。また、「のり子」という自らの名前を気に入っておらず、「最も可愛い」の略として「モカ」あるいは「最可」と名乗って暮らしている。素直で純粋な性格で、一度愛したものには、とことん一途に尽くすタイプ。しかし、自分の美的感覚に自信がある分、我が強くわがままなため、なかなか自分自身を変えることはできない。幼い頃、麦といっしょに遊んでいる姿を王子様とお姫様のようだと褒められて以来、本当にお姫様のような女性を目指すようになる。そこで美容に気を使ったり、お姫様らしい立ち居振る舞いを身につけたりするようになるものの、肝心の麦はなかなか振り向いてくれず、さらに麦の中学受験により、別の学校に通うことになってしまう。そこで猛勉強して高校は同じ学校に入学するが、麦は花火と交際していることを知り、この現実を受け止められず苦しむようになる。その容姿から男性には非常に注目されるが、とっつきにくい女性であることが見た目からわかるためか、思いを寄せられる機会は少ない。
早川 芽衣 (はやかわ めい)
粟屋麦の中学時代の先輩で、当時交際していた女子。高校には通っていない。髪をショートヘアにしてピアスを開け、一見明るくさばさばした性格ながら、どこか陰のある印象の美少女。細身だが胸が大きく、スタイル抜群。明るく振る舞っているが、極度の寂しがり屋。入学後に麦を気に入って交際するようになるが、周囲にはこれを隠していた。また、麦が皆川茜に思いを寄せていることは知ったうえで付き合っていたが、これは麦のことが好きだからというよりも、自分の寂しさを埋めてもらう気持ちの方が大きかった。
平沼 さやか (ひらぬま さやか)
鴎端のり子の中学時代の友人の女子。ボブヘアで、眼鏡を掛けている。クラス委員長を務めており、まじめな人物として知られている。しかし、規則がすべてとは考えておらず、特に美に関しては理解がある。そのため、以前からのり子の個性的な服装や、容姿への強いこだわりを尊重し、お姫様のようだとあこがれていた。修学旅行の際も、校則を守らずに好きな服装で参加したのり子をサポートして、これがきっかけで親しくなった。イラストを描くのが趣味で、ひそかにのり子のイラストも描いていた。
寺内 タクヤ (てらうち たくや)
大学生の男子で、家庭教師アルバイト時代の皆川茜の生徒の一人。明るい色の髪をウルフカットにした、派手で軽薄な印象の人物。茜が複数の男性と交際していることを知りながら、寺内タクヤ自身も茜と関係を持っており、自分も茜と同じように複数の女性と交際したいと思っていた。そこで、茜を通じて知り合った安楽岡花火をその候補の一人にするが、身持ちの固い花火に飽きてほかの女性のもとへと去っていった。
あゆみ
安楽岡花火と同じ高校の2年C組に在籍する女子。ロングヘアをハーフアップにして、かわいらしい雰囲気を漂わせているが、やや自己中心的でいい加減な性格の持ち主。恋愛に対しても、相手の気持ちはお構いなしで、いかに自分が得をするかを考えている節がある。そのため、二股をかけるなど不誠実な行為も行うことから、一人の交際相手と長続きした試しがなく、同性の友達も三戸しかいない。さらに、三戸に対しても自分の考えを押し付けがちで、恋愛に関心の薄い彼女のことを不思議に思い、三戸も恋愛をするべきであると主張していた。しかし悪気はなく、三戸のことはなんだかんだで大切に思っている。
桐嶋 篤也 (きりしま あつや)
高校生の男子で、絵鳩早苗のいとこ。安楽岡花火たちの住む町のとなり町に住んでいる。ボサボサのショートヘアで、前髪を目が隠れそうなほど伸ばしている。マイペースな性格で、どこかつかみどころのない人物。落ち着いたまじめな性格ながら、口下手で、思っていることをうまく伝えられない。実家は裕福だが、家庭の事情から親戚とは距離を置き、中学2年生の時、葬式で6年ぶりに早苗と再会した。この時、美しく成長した早苗に一目ぼれして告白するが、早苗が男性嫌いで同性愛者であることを知り、仲のよい親戚として付き合うにとどめていた。そんな高校2年生のある日、早苗が花火に思いを寄せており、そのために早苗が苦しんでいることを知る。そこで実家が所有する別荘を、花火と早苗の宿泊先として提供した。また、これを機に早苗が花火を距離を置くことも理解しており、早苗をフォローするためにも桐嶋篤也自身も同行する。
三戸 (みと)
安楽岡花火と同じ高校の2年C組に在籍する女子。前髪を短く切ったボブヘアで、眼鏡を掛けている。穏やかでマイペースな性格で、誰に対しても性的欲求を抱くことのないアセクシャル。そのため、あゆみとは友人として親しくしつつも、彼女の恋愛中心の考え方は理解できずにいた。そこで高校2年生のある日、花火であれば恋愛について詳しいだろうと考え、恋愛に悩むあゆみの相談役になってほしいと頼む。
書誌情報
クズの本懐 8巻 スクウェア・エニックス〈ビッグガンガンコミックス〉
第1巻
(2013-02-19発行、 978-4757538870)
第2巻
(2013-10-25発行、 978-4757541030)
第3巻
(2014-04-25発行、 978-4757542648)
第4巻
(2014-11-19発行、 978-4757544673)
第5巻
(2015-06-25発行、 978-4757546783)
第6巻
(2016-03-25発行、 978-4757548954)
第7巻
(2016-12-24発行、 978-4757551992)
第8巻
(2017-03-25発行、 978-4757552357)