あらすじ
ヨモツヘグイの章
女子校で教師をしている水故祐一は、学級委員長の守川美晴と性的な関係を持ち、授業の合間を縫って校舎内で情事を繰り返す退廃的な日々を送っていた。そんなある日、フードをかぶった謎の男が祐一の前に姿を現す。祐一のプライベートと家族構成を知り尽くしていた謎の男は、美晴との情事を口外しないことを条件に、「黄泉戸喫」と呼ばれる奇妙な食べ物を祐一に渡し、必ず食べるように強制する。その夜、情事中の美晴といっしょに黄泉戸喫を食べた祐一は、強烈な飢餓感に襲われ、情事中に美晴の肉体を食い尽くす幻覚を見てしまう。その後、黄泉戸喫の虜となってしまった祐一は、大金を払ってフード男から黄泉戸喫を買い続けるが、支払いが滞ったため、美晴を売り払って代金を支払う。後日、授業中も強烈な飢餓感に襲われるようになっていた祐一は、自宅に突如として発生した不気味な穴へと入り込む。穴の先は森林になっており、行方不明になっていた美晴が祐一を待ち構えていた。美晴は祐一をセックスへと誘うが、行為の最中に美晴に新たな黄泉戸喫を食べさせられてしまう。実は美晴は祐一に売り払われてからすぐに亡くなり、現世とあの世である黄泉をつなぐ場所「黄泉比良坂」の住人となっていたのだ。黄泉戸喫を吐き出し、なんとか現世へと逃げ帰った祐一だったが、すでに精神が汚染されていた祐一は娘の水故由香里を貪り食ってしまう。その醜態を確認したフード男は、容姿を祐一そっくりに変化させ、翌日から祐一に成り代わって何食わぬ顔で授業を始めるのだった。
深夜と深月
犠牲者を食い散らかす喰人犯と呼ばれる犯罪者が、頻繁に出没するようになっていたある日、女子高校生の宵闇深夜は同じ女子校に通う、性別は男性だが心は女性である弟の宵闇深月と共に授業を受けていた。そんな中、深月が突如として発狂したクラスメートの犬山美加に襲われてしまう。深夜はすかさず二人を追跡するが、そこに水故祐一の指示を受けた喰人犯の吉良吉継が清掃車に乗って突撃してくる。美加の攻撃を回避したものの、吉継の清掃車に巻き込まれそうになった深月をかばった深夜は、清掃車につぶされて即死してしまう。後日、意識を取り戻した深夜は、同じ場所にいた死神から自分が死んだことを聞かされ、この世に未練を残したために霊躰となって黄泉から戻ったことを聞かされる。美加も黄泉返りをしたのではと思った深夜は、深月のクラスへと急行。教室に入った深夜の姿が見えていた祐一は、ひそかに霊躰となった美加を呼び出して襲い掛かる。何もわからなかった深夜だが、死神のアドバイスに従いながら心の剣を振るい、みごとに美加を消滅させる。その後、傷心の深月を守るため、姿は見えずとも深月の周囲に居続けた深夜は、行方不明になっていた教師の優子に学校で遭遇する。深夜が敬愛していた優子もまた、祐一に黄泉戸喫を与えられ、喰人犯になり果てて自らを食らい、黄泉返りをしていた。深夜を食べたいという強烈な衝動を抑え、成仏した優子の姿を見た深夜は、その後、元凶である祐一と対峙するが、そこに5年前に死んだ深夜の父親の黒鷺雄治が姿を現す。祐一の協力を得て強力な霊躰となり、新宿を根城に閻魔大王に成り替わろうとする黒鷺と決着をつけようとする深夜だったが、街中で出会った稲荷から、その弱さでは黒鷺を倒すことは到底不可能であると諭され、統治者とよばれる江東区で最も強い霊躰を倒すように指示される。深夜は統治者を探す過程で、黄泉返りした子供たちを集める学校を襲う霊躰の結合体を撃破し、麻理亜を仲間にするのだった。
現世への帰還
黒鷺雄治は欲望のまま情事を繰り返し、その力を増大させていく。宵闇深夜は新たに仲間になった麻理亜の協力を経て、江東区周辺で黄泉から戻った子供たちを学校へと連れていくという、治安を守りながら統治者を探し続ける日々を送っていた。そんな時、深夜は麻理亜が連れてきた吉田誉という少女と出会う。深夜と同じく単身で凶悪な霊躰を狩り続けていた誉だったが、実は彼女こそ「特別な武器」を所持する統治者の一人だった。気が進まないまま誉と戦うことになった深夜だったが、手練れである誉のみごとな攻撃を受け続けたことで、やがて本気になっていく。深夜は本来の力を発揮して誉を追い詰めるものの、とどめを刺すことはできず、誉を新たな仲間に加えることで統治者としての誉に勝利するのだった。その後、入学式を迎えた宵闇深月の高校では、悪霊化した生徒の渡辺が生徒の恐怖を吸って実体化したことで、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。現場に乱入した深夜は、深夜の姿が見えるようになった深月と涙の再会を果たす。勇気100倍となった深夜は実体化した渡辺をたやすく撃破。学園に一時の平穏を取り戻す。深月らとつかの間の平和な日常を満喫した深夜はとある夜、仇敵である黒鷺を倒すために単身で新宿へと向かうのだった。
登場人物・キャラクター
宵闇 深夜 (よいやみ みや)
とある女子校に通っている2年生の女子で、スタイル抜群の美少女。能天気でズボラながら、家族思いで男気あふれる性格をしている。性別は女性だが、精神的には男性で一人称は俺。そのため、女性からはよくモテる。腕っぷしが非常に強く、あらゆるトラブルを拳一つで解決しようとする。若干気弱な性格の弟、宵闇深月をいつも優しく見守っている。担任の水故祐一が差し向けた喰人犯の吉良吉継から深月を守ろうとして清掃車に轢き殺されてしまうが、この世に未練を残していたため、霊躰となって黄泉へ舞い戻る。それからは死神の助力を得て、祐一や父親の黒鷺雄治の魔手から深月を守るため、苛烈な戦いの場に身を投じるようになる。心から生み出される刀「月夜命」を巧みに使いこなし、凶悪な霊躰を切り刻んでいる。並はずれたタフさを備えているが、他者を傷つけるのをためらう繊細な心も持ち合わせている。そのため、化け物のような霊躰と化した犬山美加にトドメを指す時も躊躇し、彼女を倒したあとも罪悪感から悪夢にさいなまれていた。
宵闇 深月 (よいやみ みつき)
とある女子校に通っている1年生の男子。性別は男性ながら、心は女性。宵闇深夜の弟で、頼りがいのある深夜に懐いており、傍から見ても非常に仲がいい。一年前に性別の取り扱いに関する法律が施行されたことで、男性だが女子校に通えることになった。見た目は深夜同様に美少女にしか見えず、まったく男性を感じさせない容姿をしている。おとなしくて気弱ながら芯の強い性格で、偏見からいじめられることがあってもくじけないタフさを持つ。喰人犯である吉良吉継の襲撃を受けた際に、深夜が自分をかばって死んだことで長らく落ち込んでいたが、友人の立花と平穏な学園生活を送るうちに、少しずつその傷を癒していく。黄泉を徘徊する深夜に守られているが、その存在をいっさい認識できないでいる。
黒鷺 雄治 (くろさぎ ゆうじ)
元シャブの売人の男性。暴力的で粗暴なうえ、サディスティックな性格の持ち主。宵闇純の元恋人で、宵闇深夜と宵闇深月の実父。シャブを純に売りつけ、シャブづけにして性的な関係を持つ。生まれてくる子供の行く末を案じた純が黒鷺の前から姿を消したため、純を執念深く捜し回り、新たな住まいに乱入。そして、深夜と深月を面白半分で虐待していた。シャブの売人同士の抗争で5年前に命を落としたが、この世に未練を残していたために黄泉へ舞い戻る。当初はなんの力も持たない霊躰だったが、彼を神輿にする水故祐一の思惑によって強大な力を得る。祐一に命じて深夜と深月をおびき寄せたうえで殺害しようと画策した。地獄の閻魔大王に成り代わるため、新宿で力を蓄え続けている。
水故 祐一 (みずこ ゆういち)
とある女子校で教師を務める中年男性。、眼鏡を掛けており、年齢は34歳。知的で端正な顔立ちのため、女子生徒からの人気が非常に高い。水故祐一自身の浮気が原因で妻とは別居しており、一人娘の水故由香里と暮らしている。自分に好意を持つ女子生徒を誘惑しては校内で情事に及んでおり、今は学級委員長の守川美晴を慰み者にしている。謎のフード男に、秘密を口外しない代わりに黄泉戸喫を食べるように強要されて黄泉戸喫の虜になり、徐々に精神に変調をきたしていく。自己中心的な姑息な性格で、黄泉戸喫の支払いができなくなった際には保身のために美晴をフード男に売り飛ばした。のちに霊躰となって黄泉に戻った美晴に復讐され、娘の水故由香里を自ら食い殺したうえ、発狂してしまう。その後はフード男の「郡司」が祐一に成り代わって何食わぬ顔で教壇に立っている。なお、本物の祐一の消息は不明。
守川 美晴 (もりかわ みはる)
とある女子校に通っている女子。学級委員長を務めている。優等生ながら、担任である水故祐一に誘惑されて性的な関係を持ち、授業の合間に祐一との情事を繰り返していた。祐一に黄泉戸喫を食べさせられてからはグロテスクな幻覚を見るようになり、最終的に祐一に裏切られてフード男に売られ、すぐに死亡する。現世に未練を残していたために黄泉に舞い戻り、祐一を追い詰めて復讐を果たす。その後は、祐一に食い殺された彼の娘である水故由香里の霊躰を連れてどこかへ去った。のちに黒鷺雄治のもとで性奴隷として庇護されるようになる。
犬山 美加 (いぬやま みか)
とある女子校に通っている女子。水故祐一に洗脳され、黄泉戸喫を食べさせられて思うがままにコントロールされるようになった。授業中に祐一の命令を受けて宵闇深月に襲い掛かり、結果的に姉の宵闇深夜を死に追い込む。死後の世界から黄泉へ戻ってきた深夜と対峙するが、刀「月夜命」で頭部を破壊されて消滅した。
吉良 吉継 (きら よしつぐ)
目つきの鋭い男性。年齢は32歳。手にかけた犠牲者を食い散らかす残虐な凶悪犯の一人で、喰人犯と呼ばれる。水故祐一に黄泉戸喫をもらって各地で人間を食っていた。それらの行為が限界に達し、死を迎える段になって祐一から宵闇深月を殺すように命じられる。深月をかばった宵闇深夜を清掃車で轢き殺し、自らも事故死する。その後、黄泉へ舞い戻り、統治者の配下となった。
吉田 誉 (よしだ ほまれ)
死後に黄泉へ舞い戻った謎の少女。ツインテールの髪型で、小柄な体型をしている。霊躰が跋扈(ばっこ)する江東区をうろついていた際に、麻理亜に保護されて宵闇深夜と出会った。巨乳の女性が大好き。能天気な性格ながら、実は江東区を支配する統治者の一人。冥府の化け物「ヤツメ」を武器として扱う実力者で、黒鷺雄治を倒すため、統治者を探していた深夜と戦うことになる。生前に自分を虐待していた義父が黄泉の国に戻ることを予感しており、彼を待ち受けて復讐しようとしていた。
麻理亜 (まりあ)
死んだあとに未練を残し、黄泉に舞い戻った女子高校生。同じ境遇の小さい子供たちを集め、学校を作って暮らしていたが、凶悪な霊躰の一群に襲撃された。窮地に陥ったところを宵闇深夜に助けられ、それ以来いっしょに行動するようになる。頼りがいのある深夜に恋愛感情を抱いている。
優子 (ゆうこ)
とある女子校の音楽教師を務める若い女性。優しく穏やかな性格をしている。生徒からも人気があったが、一年ほど前に失踪した。肉体関係を持つ水故祐一に黄泉戸喫を食べさせられ、人間を食べたいという欲求が抑えられなくなり、自らの肉体を食べて亡くなる。未練を残して死んだために黄泉に舞い戻り、夜の音楽室でピアノを弾いていた際に、自分を慕っていた宵闇深夜と再会。彼女を食べたいという欲求の衝動に負けそうになるが、最終的に欲求に打ち勝って成仏を果たす。
水故 由香里 (みずこ ゆかり)
水故祐一の一人娘で、小学生の女子。妻と別居している祐一といっしょに暮らしている。黄泉に戻った守川美晴の復讐によって、精神が破壊されてしまった祐一に食われて亡くなる。その後は美晴に保護され、霊躰となって各地をさまようことになった。
死神 (しにがみ)
黄泉をさまよっている特殊な霊躰。眼鏡を掛けた長髪の女性の姿をしており、現世で体を失った通常の霊躰と異なり、まだ現世に肉体が残っている「生霊」である。死後に黄泉に舞い戻った宵闇深夜に出会い、黄泉や霊躰について彼女に教えていた。それ以降も深夜の力となり、孤独な戦いを続ける彼女の心の支えとなった。
渡辺 (わたなべ)
とある女子校に通っている女子。黄泉戸喫を食べて発狂した犬山美加の精神的な汚染を受け、自らも狂って亡くなる。それからは霊躰となって学校を徘徊するようになった。その後、入学式でほかの生徒の精神を汚染し、複数の生徒の恐怖を食って実体化。学校を大混乱に陥れるが、宵闇深夜によって退治される。
宵闇 純 (よいやみ じゅん)
宵闇深夜と宵闇深月の母親で、主婦。もともと薬物中毒者で、売人の黒鷺雄治からシャブを買い続けて廃人状態だった。黒鷺の子を宿したことで薬を断ち、黒鷺の前から姿を消して一人で子供を育てようとしたが黒鷺に見つかり、その後も暴力を振るわれるつらい日々を送っていた。しかし、5年前に黒鷺が死んでからは、親子三人で平穏に暮らしていた。
稲荷 (いなり)
橋を守っているお稲荷様。狐の耳を生やした白髪の少女の姿をしている。黒鷺雄治を討伐しようとする宵闇深夜と出会った際に、彼女の力不足を指摘。まずは区の統治者を倒して、橋を自由に通行できるようになれとアドバイスを送っていた。
場所
黄泉 (よみ)
現世と近く、遙かに遠い異世界。未練を抱えて未だ成仏できない霊躰が数多く徘徊している。現世とリンクしており、霊躰側からは現世にいる人間の姿や言葉を見聞きできるが、現世の人間には黄泉にいる霊躰の姿は見えずに言葉も聞き取れない。
その他キーワード
喰人犯 (しょくじんはん)
犠牲者の肉を食らう残虐な殺人犯。ここ数か月で頻繁に出現するようになり、世間を騒がすようになる。その正体は黄泉戸喫を食わされて精神的に汚染されてしまい、肉を食らう欲求に抗えなくなった人間。救済の道は死しか残されていない。
霊躰 (しにびと)
未練を残して死んだ人間が、黄泉にとどまる際の姿。生前と同じ姿をしており、思考も同じだが通常の人間からは姿は見えず、声を聞くこともできない。一部地域では、黄泉戸喫を取り込んで凶悪化した霊躰が徒党を組んでほかの霊躰を襲い、地獄絵図となっている。
結合体 (けつごうたい)
複数の霊躰が合体して形作られる巨大な霊躰。ふつうの霊躰よりも戦闘力が遙かに高い怪物で、「特殊な武器」と、強力な「統治者」や宵闇深夜のような優れた戦闘力を持つ霊躰でないと、到底太刀打ちすることはできない。
統治者 (とうちしゃ)
特殊な武器を装備する霊躰の中でも特に強いとされる強者。統治者を倒した者は、その統治者がおさめていたエリアを奪い、新たな統治者として君臨できる掟が存在する。統治者の一人である吉田誉は、のちに宵闇深夜と戦うことになった。
黄泉戸喫 (よもつへぐい)
黄泉の食べ物。生者が食べるとあの世から帰れなくなるとされている食物で、現世にいる人間が食べると強烈な幻覚と凄まじい飢餓感にさいなまれ、生きた人間を食べずにはいられなくなってしまう。幼虫のような姿をしたものから、肉片のような姿をしたものまで、さまざまな種類の黄泉戸喫が存在する。