あらすじ
第1巻
女子大学生の高木美琴は、大学教授の葦原に連れられ、親友のこのはをはじめとする友人たちと共に、山間にある八坂村へとやって来た。廃村寸前の八坂村独特の風習を調べることが目的だったが、美琴たちを舐め回すような視線で見つめてくる村人たちに不吉なものを感じていた。村に到着した翌日、唯一ウォシュレットトイレを設置している村人の家に行った比奈と沙霧は、その村人からレイプされそうになる。そのうえ、村で信仰される猿田彦神の面をつけた何者かが、村人を殺害するところを目撃してしまう。
第2巻
沙霧を囮にして逃げ出した比奈は、その後、沙霧が平然と戻って来たことに困惑する。さらに村人を殺害した猿田彦神の面の男が伊助であることを知った比奈は、八坂村から脱出することを決意する。その頃、香坂は、五瀬さよりが東美耶の死体を切り刻んでいるところを目撃する。一方、天野の家では高木美琴がアルバムを発見。そして美琴は、アルバムに収められた写真に女性がいっさい写り込んでいないことに気づく。
第3巻
比奈たちを襲った村人を殺害した人物が伊助だと知った天野は、高木美琴たちを村の外へ逃がさないよう、村人たちを集めて女狩りを命じる。そんな中、外を散策していたこのはは、村人たちに右足を撃たれ、廃屋の中に連れ込まれてしまう。一方、誰もいない部屋で目覚めた美琴は天野家の中を歩いている際、偶然、天野未智乃の手足がないことを知ってしまう。さらに天野が美琴たちも同じ姿にすると話しているのを聞き、脱出を決意した直後、2階に監禁されたうずめを発見する。
第4巻
猿田彦神の面をつけた何者かがこのはを殺害した現場を目のあたりにした高木美琴は、伊助が犯人だと確信し、天野の家に戻る。そこで伊助に指示を出したと考えられる天野未智乃に会った美琴は、彼女の悲劇的な半生と伊助の無実を聞かされる。しかし、そこに猿田彦神の面をつけた何者かが現れ、未智乃を殺害。さらに一連の事件の犯人として伊助が火あぶりの刑とされ、美琴もまた、天野家の蔵の中に閉じ込められてしまう。
第5巻
天野の家から上がった炎が、八坂村全体に広がり始めていた。生き残っていた村人たちは五瀬さよりを連れて山を降り始める。一方の比奈は、高木美琴との合流を目指して宇受女神社の宮司、鹿屋野と共に神社へたどり着いていた。しかしそこで、避難していたうずめの姿を見た鹿屋野は目の色を変え、うずめを生贄として神に捧げようと決意し、儀式の準備を目撃した比奈を絞殺する。
登場人物・キャラクター
高木 美琴 (たかぎ みこと)
葦原たちと共に八坂村にやって来た女子大学生。金髪に近い茶髪をミディアムボブヘアにしている。なにかと親友のこのはに頼りがちだが、些細な違和感も見逃さない鋭い感性の持ち主でもある。伊助に案内されて天野未智乃と面会した際、八坂村から逃げるよう警告された。その後、天野と未智乃の会話を聞いて八坂村の異常性を知り、偶然出会ったうずめを連れて村から逃亡を図る。
天野 貴彦 (あまの たかひこ)
天野と天野未智乃とのあいだに産まれた次男。優男風の青年で、東京の国立大学を卒業後、八坂村に戻って来た。八坂村を呪われた村だと話し、車に同乗させた五瀬さより、香坂、東美耶を八坂村から脱出させようとしていた。うずめを逃がすタイミングを計り続けており、高木美琴と共に逃げるよううながした。天野には「未智乃が産んだ唯一まともな子」と評され、大事に育てられた。
うずめ
天野の家の天井裏で密かに育てられている少女。長い黒髪をポニーテールにしており、フリルの付いた服を着ている。3年ほど前、八坂村の近くの峠道で起こった事故で生き残った。世間的にも村人たちにも行方不明と告げられていたが、密かに連れ帰った天野に、宇受売にするため育ててられていた。
甲斐 (かい)
八坂村をうろついていた男性。3か月ほど前に村の近くを車で通りがかった際、同乗していた恋人の女性とケンカとなる。恋人が車を降りて行ったため、しばらくその場で待機したが、行方不明となってしまったため探し続けていた。八坂村の村人を怪しみ、密かに出入りして調査していたが、村人たちが恋人を殺したことを知り、復讐のため首謀者を探っていた。
鹿屋野 (かやの)
八坂村にある宇受女神社の宮司を務めている男性。大雨の中で村人たちに追い回され、疲弊していた香坂を偶然発見し、神社に匿った。その際、香坂に八坂村の来歴を語り、村から脱出するよう勧めた。以降は高木美琴たちを全員集めて匿うと約束し、村の中を奔走していた。しかし、村全体が炎に包まれていく様子を見て、神の生贄に捧げるための処女を探し始める。
五瀬 さより (いつせ さより)
葦原たちと共に八坂村にやって来た女子大学生。肩で切り揃えられた黒髪をワンレンにして、眼鏡をかけている。葦原の教科単位は足りているが、東美耶に同行してレポートを代行しろと強要された。美耶からタバコを買って来るよう指示され、雨宿りしている際に女性の死体を発見し、動転して道路に飛び出したところを葦原が運転する車にはねられた。その後意識を取り戻したが、殺人現場を目撃してパニックに陥っているところで美耶に罵倒され、逆上して美耶を殺害し、精神を病んでしまう。八坂村が全焼した際には村人たちに抱えられて脱出したが、渡っていた吊り橋を自ら落とし、村人共々川へ落ちる。
比奈 (ひな)
葦原たちと共に八坂村にやって来た女子大学生。金髪をポニーテールにしている。ウォシュレットトイレでないと用を足せないという、非常に現代的な感覚の持ち主。男性に媚びを売る女性で、SNSでは友人や知人の悪口を書き散らしている。ウォシュレットを借りに行った先で村人にレイプされそうになったが、猿田彦神の面をつけた伊助が村人を殺害したため事なきを得た。しかし目の前で殺人が行われたショックから、悪夢を見るようになる。その後一人で村から脱出しようとしていたが、宇受女神社で鹿屋野がうずめを生贄にしようとしている場面を目撃してしまい、絞殺された。
香坂 (かごさか)
葦原たちと共に八坂村にやって来た女性。葦原の助手を務めている。黒髪のショートカットヘアで、眼鏡をかけている。民族学の知識が豊富なため、知識をひけらかしてしまう癖がある。村人たちに追われ疲弊したところを、鹿屋野に匿われ、八坂村の異常な風習を聞かされた。その後も村人たちの目を搔い潜りながら村の風習を探っていたが、猿田彦神の面をつけた何者かに殺害される。
このは
葦原たちと共に八坂村にやって来た女子大学生。高木美琴の親友。シャギーを入れた黒髪で、関西弁をしゃべる。兄がおり、少々ブラコン気味。もともとは実家に帰る予定だったが、兄が婚約者を連れて実家に戻って来ることを知り、顔を合わせたくないために急遽合宿に参加した。楽観的な性格で、五瀬さよりたちが次々行方不明になっても、そのうちに帰って来ると考えていた。しかし、天野が女狩りを始めてから、事情を知らずに外出したところを村人たちに襲われ、右足を銃撃された。村人たちに犯されそうになっているところを、猿田彦神の面をつけた伊助に助けられたが、美琴と合流したあと、同じく猿田彦神の面をつけた何者かに殺害された。
東 美耶 (あずま みや)
葦原たちと共に八坂村にやって来た女子大学生。肩までのボサボサな金髪を、カチューシャでアップにしている。骨太な体型をしており、粗暴で非常にマナーが悪い。タバコのバージニアを愛飲する喫煙者で、五瀬さよりを使い走りにしている。村から脱出するようにと、天野貴彦に説得された時も聞く耳を持っていなかったが、津村が襲い掛かって来たのを目のあたりにして困惑。その後、避難した小屋の中でさよりを罵倒していたところ、逆上したさよりに殺害された。
沙霧 (さぎり)
葦原たちと共に八坂村にやって来た女子大学生。茶髪をウェーブがかかったワンレンにしている。ミスコンに優勝したこともあるほどの美女ながら、その審査員と当時付き合っていたなど不正疑惑もある。比奈が悪口をSNS上にバラ撒いているのを知っており、軽蔑している。比奈に付き添ってウォシュレットトイレを借りに行った先で村人に監禁されていたが、猿田彦神の面をつけた伊助に助けられた。しかし、その後同じく猿田彦神の面をつけた何者かに首を折られ、殺害された。
天野 (あまの)
八坂村の村長を務めている老齢の男性。高木美琴たち全員を宇受売にしようと目論み、行方不明になっている五瀬さよりや香坂たちを探すべく、村中に女狩りを命じた。ほかの子供たちとは違って知的障害もなく、器量もいい次男の天野貴彦を大切に育てており、美琴を貴彦専用の宇受売にしたいと考えている。天野家の当主は代々猿田彦を名乗るため、「41代目猿田彦」を名乗っていた。
天野 未智乃 (あまの みちの)
形式上、天野の妻とされている老齢の女性。宇受売として村中の慰み者になった女性であり、布団と着物で隠されているが四肢が切り落とされている。旅館の仲居として働いていた20歳頃、天野をはじめとする村人たちに八坂村へ誘拐され、宇受売にされた。村人のほとんどを産んだ女性でもあり、成人後はその子供たちにも犯されていたため、孫を産んだこともあるかもしれないと嘆いていた。高木美琴たちがやって来たことを知って、悲劇を繰り返さないようにと、伊助に美琴たちをできる限り守るようにと言いつけていた。美琴に自分の過去を話した直後、猿田彦神の面をつけた何者かに斧で殺された。
伊助 (いすけ)
天野と天野未智乃のあいだに産まれた長男。20代後半の青年。坊主頭の巨漢で、知的障害と言語障害を持っている。非常に優しい性格で、ずっと未智乃の面倒を見ており、未智乃の言うことを聞く唯一の人物でもある。未智乃から高木美琴たちを守るように言いつけられたため、猿田彦神の面をつけて美琴らを襲う村人たちを殺害していた。未智乃が死んだ際、現場に居合わせたことから親殺しの疑惑をかけられ、火あぶりにされたが、燃えながらも天野家に戻り、天野を抱き込むようにして焼き殺した。また、この時の火が天野家の邸宅に燃え移り、八坂村全体に延焼することとなった。
葦原 (あしはら)
比良坂大学で民族学の教授を務める初老の男性。以前から八坂村の実情をある程度把握しており、若い女性に餓えている村人や天野貴彦の嫁候補にと、教科単位を餌にする形で高木美琴たちを合宿に誘った。誤って五瀬さよりを車ではねてしまい、病院に運ぼうとしたが、土砂崩れで断念。不祥事の証拠隠滅のため、さよりを崖から突き落とそうとしたところを、村人に殺害された。
場所
八坂村 (やさかむら)
M県T山地、N県との県境にある村。人口わずか43人の、廃村寸前の集落。スマートフォンの電波は入るが、大雨が降ったりすると圏外になってしまう。もともと閉鎖的で近親婚が多かったため、女児の出生率が異常に低く、公式には50年ほど女児が生まれていないとされるが、実際には600年間女児が生まれていない。600年ほど前に飢饉と疫病などで女子が一人もいなくなった際、村を訪れた夫婦の男性を殺して食べ、女性は四肢を切り落として慰み者にした。それ以来、女児が生まれないのはこの時の女性の祟りだといわれている。村人たちは近隣の村から女性をさらっては、四肢を切り落として慰み者にするという風習を続けている。
その他キーワード
宇受売 (うずめ)
八坂村で慰み者にされる女性。「ウズメ小屋」と呼ばれる小屋で監禁され、手足を切り落とされて村人全員の慰み者にされる。もともとは600年ほど前、四肢を切り落として慰み者にされた女性の傷口に蛆が湧き、「蛆女(うじめ)」と呼ばれていたのが語源。しかし女児が生まれなくなったため、これを「蛆女の祟り」と考え、八坂村で信仰されている猿田彦神と縁のある天宇受売命(あめのうずめのみこと)として祀るようになった。
八坂村秘史 (やさかむらひし)
香坂が宇受女神社で発見した古文書。天宇受売命祭祀縁起が記載されている。それによると400年前に天野某がふなど祭の最中に発狂して村人を虐殺したため、天野某は猿田彦神の面をかぶったまま村人たちに殺害された。しかしその年に大災害が重なり、村人たちは天野某の祟りだと恐れ、四肢を切った乙女を生贄に捧げて怒りを鎮めたと書かれている。この八坂村秘史を読んだ香坂は、鹿屋野から聞いた来歴と違うことに違和感を覚えていた。
ふなど祭 (ふなどまつり)
八坂村で毎年1月に行われる祭。「猿田彦」の名を継承する天野の家の当主が、猿田彦神の面をつけて猿田彦神を演じる。飛鳥坐神社のおんだ祭に似ている祭で、天孫降臨の際に猿田彦神がニニギノミコト一行を先導したという説話を再現する。