概要・あらすじ
有名ポルノ作家のジェラール・アングラードは、通いの娼館で、貴族の少年ジャック・フィリップ・ド・サンジャックを買う。しかし、ジャックは男に抱かれることに屈辱を感じて暴言を吐き、その言葉にジェラールは怒りを覚える。ジャックを抱いたジェラールはその後に見受け金を支払い、彼に自由を与える。それは仕事をして生きていくことが、どれほど大変なのかを知ってもらうためだった。
その後、職を探し始めたジャックは、偶然にも下男を探していたアングラード邸の執事、ポールによって、ジェラールのもとへと連れて行かれる。こうしてジャックはジェラールの屋敷で働くことになったが、彼の真面目な仕事ぶりを見るうちに、ジェラールはジャックに対し、まるで息子のような想いを抱くようになる。
一方のジャックは、ジェラールの小間使いに対する態度や彼の知識に敬意を抱き、ジェラールに対する考え方を改めるのだった。こうして2人は良好な関係を築いていくが、ある日、ジャックのもとに母親からの迎えが来たことにより、互いの意識が変化していくこととなる。
登場人物・キャラクター
ジェラール・アングラード (じぇらーるあんぐらーど)
40歳過ぎの平民男性。銀色の長髪で、左目に傷を負い、眼帯をしている。酒が好きで性格は大らか、性に奔放なところがある。若い頃は苦学生をしており、新聞記者を経て現在はポルノ作家として活動している。学生時代に貴族の女性、ナタリーと結婚したが、彼女が、明らかにジェラール・アングラードの子ではない容姿の赤ん坊、ジャンヌを死産と偽り、小間使いに預けてしまったことが許せずに喧嘩になる。 左目の傷は、その際に負ったものである。その後、ナタリーはジェラールのもとを出て行き、行方不明となる。ジェラールはジャンヌを迎えに行くが、病を患っていたため、2週間で死別。かなりの時が経ってからの調査で、ナタリーは既に亡くなっていることを知る。長い間、ナタリーのこと、そして彼女を許せない自分自身を許せずにいたが、ジャック・フィリップ・ド・サンジャックの面倒を見ることにより、次第に人の愛情を信じられるようになっていく。
ジャック・フィリップ・ド・サンジャック (じゃっくふぃりっぷどさんじゃっく)
貴族の少年。黒髪のショートカットの髪型で、緑の目を持つ。ド・サンジャック家の12代目当主。真面目な勉強家で、キスで失神するほどうぶなところがある。幼い頃は両親と一緒に仲睦まじく暮らしていたが、生活が困窮した父親によって娼館に売られてしまう。ジェラール・アングラードに買われた後は、見受け代を支払ってもらって解放され、自由の身となる。 のちにアングラード邸にて下男として働くようになる。
シャルロット
ジェラール・アングラードの屋敷で働く女性の使用人。屋敷に来て4年になる古株。台所を任されており、料理の腕は抜群にいい。主人であるジェラールを尊敬しているが、はっきりとした物言いをする。ジャック・フィリップ・ド・サンジャックを、実の弟のようにかわいがっている。
ポール
ジェラール・アングラードの屋敷で働く優秀な秘書の男性。主であるジェラールをとても大切に想っている。真面目で仕事熱心で、ジャック・フィリップ・ド・サンジャックに、仕事と読み書きを教えた。
ナタリー
ジェラール・アングラードの妻だった女性。出会った当時、金髪で美しく奔放な性格の彼女に、学生であるジェラールが一目惚れをした。その後ジェラールが猛烈なアプローチをし、愛以外に与えられるものがない、という理由でプロポーズ。愛を信じていなかったナタリーは、彼に物珍しさを感じ、結婚に至る。結婚前も後も複数の愛人を持ち、特にラウル・ド・アマルリックとは、長い間関係を続けていた。 一度は妊娠し、女の子の赤ん坊であるジャンヌを出産したが、その子はラウルとの子である。ジェラールには、赤ん坊は死産と偽り、小間使いのジュデットに預けていたが、ばれて大げんかになる。その際にジェラールの目を傷つけた。使用人が駆けつける前に屋敷を飛び出し、その後は行方知れずとなった。 のちのジェラールの調査によると、パリの郊外で、キツネ狩り見物の最中に、落馬して亡くなっている。
ラウル・ド・アマルリック (らうるどあまるりっく)
黒髪で、黒目の子爵の男性。ジェラール・アングラードの妻だったナタリーの長きにわたる愛人。ジェラールとナタリーの結婚当初は、3人で関係を持っていたこともある。その後ジェラールに2人きりの関係を求めたが、ナタリーがいないのに付き合う必要はないと却下される。しかしラウルとナタリーとの愛人関係は続き、2人の間には娘のジャンヌが生まれる。 だが子育てをすることはなく、ナタリーがジャンヌを預けた小間使いに、金だけ渡していた。のちにこの子供のことでジェラールとジャンヌがケンカをし、夫婦関係が破たんした後は、ジェラールとの縁も切れていた。しかし、ロラン夫人のサロンで再会。ジェラールを口説いて無理に抱いたうえで、迎えに来たジャック・フィリップ・ド・サンジャックまで口説こうとする。 ジェラールに、そんなことをしたら殺してやると脅される。貴族のため革命中に捕まり、ジャック・フィリップ・ド・サンジャックも貴族だとばらしてから、ギロチンにかけられる。
ジャンヌ
ナタリーと愛人のラウル・ド・アマルリックの間に生まれた女の子。ナタリーとジェラール・アングラードの婚姻後で、黒髪と黒い目だったので、ジェラールの子供でないことが明白だった。そのため、ナタリーが死産したと偽って小間使いのジュデットに預けた。心優しい女の子だったが、ジェラールが会いに行って2週間後、幼くして肺病で亡くなる。
ド・サンジャック伯爵 (どさんじゃっくはくしゃく)
ジャック・フィリップ・ド・サンジャックの父親。神と学問と家族を愛していた優しい男性。貴族だが愛人を持たず、妻だけを愛し、一人息子のジャックを可愛がっていた。のちに賭博にふけって借金をし、ジャックを娼館に売った後、病死する。
ブラヤック侯爵夫人 (ぶらやっくこうしゃくふじん)
ジャック・フィリップ・ド・サンジャックの母親。ジャックが幼い頃は、ド・サンジャック伯爵と穏やかで愛に満ちた家庭を築いていたが、彼の死後、ブラヤック侯爵と再婚した。ジャックを引き取りたいと、ジェラール・アングラードの屋敷に使いのピエールを寄越す。
ピエール
ジャック・フィリップ・ド・サンジャックが家族と暮らしていた当時から仕えていた男性。現在はジャックの母親が再婚したブラヤック侯爵に仕えている。豪華な衣装を身に着け、かつらも化粧もしっかりしていて、かなり派手な風貌をしている。ジェラール・アングラードの屋敷で働くジャックを迎えに来る。
ブラヤック侯爵 (ぶらやっくこうしゃく)
ド・サンジャック伯爵の古い友人の男性。彼の死後、未亡人となった夫人と再婚した。この時、晩さん会に招待されたジャック・フィリップ・ド・サンジャックは、ブラヤック侯爵の若い頃の肖像画が自分に瓜二つであることに気付き、自分の本当の父親はド・サンジャック伯爵ではなく、ブラヤック侯爵だと察することとなった。
ピレル
出版社の社長を務める中年男性。小柄で小太りな体型で、眼鏡をかけている。ジェラール・アングラードの小説「コレットとジュヌビエーヴ 或いは禁断の果実」を出版しており、ピレル自身もこの作品の大ファンである。ジェラールの作品はのちに独裁者・ロベスピエールの命により、一度は出版停止となったが、ロベスピエールが亡くなってすぐ、最新刊の印刷を決めた。
場所
娼館 (しょうかん)
パレ・ロワイヤルにある男性専門の売春宿。かつてジャック・フィリップ・ド・サンジャックが父親のド・サンジャック伯爵に売られた店であり、ジェラール・アングラードとジャックが初めて出会った場所でもある。常連のジェラールは若くて美形で行為もうまいため、男娼たちに人気がある。