あらすじ
高校を辞めて世界を放浪した末に日本に帰国した青年・酒井俊は、熱中症にかかって銀座で倒れてしまう。近くのバーで働いているバーテンダー・佐島蓮と澄田麻紀に介抱された俊は後日、お礼をするために再度バーを訪問する。帰国したばかりで仕事のあてがなかった俊は、世界のバーを見てきたという自負心から、麻紀と酒の銘柄をブラインドで当てる勝負に勝利したら店で雇ってもらうことを条件に、勝負を挑む。その勝負には負けた俊だったが、ベテランバーテンダー・久間の助言で、俊は上階にあるバー「紐育」で無事にアルバイトとして雇われることになる。テレビで見るような有名人が来店する紐育の華やかさとは裏腹に、戦力外で手持ち無沙汰な日々を過ごす俊の現状を聞いた友人の坂上純は翌日の夜、仲間と共に紐育を訪れるが、バーテンダーの佐島はラフな格好をしていた彼らの入店を毅然とした態度で拒否する。激怒して帰宅する純をよそに平然としている佐島に疑問を抱いた俊は、紐育では常連と一見を区別するのかと尋ねるが、佐島は当たり前のようにその問いを肯定する。そのうえで佐島は、バーは客にとってのいつまでも変わらない灯台であり、バーテンダーは歩幅にしてわずか6歩ぶんしかないカウンターで客の心と触れ合うことで、世界とつながっているのだと俊を諭す。佐島の言葉を受け、旅でも見つけることができなかったものを見つけることができるのではないかと考えた俊は、アルバイトを継続することを決意。バーテンダーとして、本当の第一歩を歩み始める。(Glass:1「6歩の世界」)
とある紐育の営業中、俊は初めて訪れた客にグラスセットを出し忘れ、佐島は閉店後に俊を厳しく叱りつける。そして、俊のグラスへの氷の入れ方の間違いや、ライムの絞り方の甘さも厳しく指摘。ここ最近急に厳しくなった佐島の態度に、俊はすっかり自信をなくして意気消沈する。飲みに行った席で純に慰めてもらうものの、同職の麻紀からは、バーテンダーのことをまだ無意識に甘く見ている心底を見抜かれてしまう。その後、ただ闇雲に頑張るのではなく、佐島を納得させる成果を見せるために意識を持って修業に励んだ俊は、とある日の閉店後、佐島の要求を受けてジントニックを作る。俊が苦心してたどり着いた一杯を味わった佐島は、これを紐育の新しいジントニックと認める。そして自らが独り立ちした過去をひとしきり思い起こした佐島は、新しく開店するウェイティングバーのバーテンダーとして自分が誘われていること、そして月の半分は俊一人に紐育を任せることを告げるのだった。(Glass:7「師」)
俊はメーカーの試飲会に参加した帰りに、電車に轢(ひ)かれそうになった女性を救出する。その女性はなんと高校時代の同級生で、卓球部の元キャプテン・桂木結だった。商社を辞めてフリーターになったいう結を、自らが通う書道の教室に誘った俊は、その後も彼女を連れ回し、最後には紐育へと誘う。俊は結を助けた時に彼女が落とした大量の睡眠薬から、何かがあったことを察してウイスキーに詳しい結に話を合わせ、ブレンドウイスキーのシックスアイルズを提供する。その一杯を味わった結は、商社への入社後に家庭を持つ男性を好きになり、3年間不倫をしていたこと、そして最後には関係が破綻して修羅場となり、会社にもいられなくなったことを俊に語る。そんなキャラではなかったと陰鬱な表情で自虐する結に対し、俊は必ずまた来店するように約束を取り付ける。そのうえでシャンパンコルクを卓球の玉に見立てて結に思い切りスマッシュさせ、彼女の心を振っ切らせるのだった。(Glass:15「キャプテン」)
ウエディングコンサルタントの仕事を始めた結は、先輩のフランス人女性・サラが日本にいるかつての思い人と同じ空気を吸いたいという理由で、来日して働いていることを知る。なんとかサラの力になりたいと思った結は、バーテンダーである俊と真木亮介に相談するものの、恋愛事にほとんど頼りにならない二人に業を煮やし、単独で問題を解決しようとする。その後、サラとの親睦を深めた結は、サラに思い人と会う決心をさせることに成功する。だが、サラの思い人が紐育のバーテンダーであることを知り、結は内心で激しく動揺してしまう。しかし、サラの思い人は俊ではなく、現在では店を離れている佐島であった。俊の案内で佐島の勤めるバーへと出向いたサラは、そこで佐島との再会を果たす。しかし、あくまでバーテンダーとしての姿勢を崩さない佐島は、サラが注文したホワイトレディを提供。佐島の絶品カクテルを味わったサラは、立派なバーテンダーとなった佐島を涙を流しながら賞賛し、パリに帰ることを告げるのだった。(Glass:22「白衣の花嫁」)
登場人物・キャラクター
酒井 俊 (さかい しゅん)
バーテンダーを務める男性。金髪でスラリとした体型をしている。能天気な飽きっぽい性格で、後先のことを深く考えずに行動してしまう。特に理由や目的がないまま高校を退学し、コツコツと貯めたお金で世界を1年間放浪した末に日本に帰国した。小学生時代からの友人・坂上純のアパートに転がり込み、同居している。銀座のバー「紐育」の入ったビルの前で熱中症で倒れたところをバーテンダーの佐島蓮と澄田麻紀に助けられる。それが縁となり、当座の生活費を稼ぐために紐育で新人バーテンダーとして働くことになった。酒井俊自身は特に意識していないが、鋭敏な感覚と鋭い観察力の持ち主。世間知らずながら世界を旅したことがあるという自負心から、紐育で働く前はバーテンダーに対して見識が狭い人が多いという偏見を抱いていた。しかし、先輩バーテンダーである佐島のプロフェッショナルな立ち居振る舞いを間近で見るうちにその考えを改め、多くの客との一期一会を果たしながら、プロのバーテンダーとして少しずつ成長を遂げていく。逃げ足がやたらと速い。
佐島 蓮 (さじま れん)
銀座にあるバー「紐育」でバーテンダーを務める男性。爽やかな風貌をした黒髪の好青年。優しく落ち着いた性格で物腰も柔らかいが、仕事に関しては非常に厳しい。カクテルに造詣が深く、話題も豊富で客の心情を汲んだうえで的確な接客を実践できるプロフェッショナル。期せずして後輩となった酒井俊に対し、バーテンダーとしての基礎や考え方を教え込んだ。俊が仕事上で苦悩しているときは、佐島蓮自身の過去の経験を踏まえてさらりと解決のヒントを与えるなど、厳しくも優しい先輩として俊を見守っていた。バーテンダーは多くの客の心に寄り添い、魂と魂が触れ合う仕事であると考えている。のちに別のレストランにあるウェイティングバーのバーテンダーとなり、紐育を俊に任せるようになる。
桂木 結 (かつらぎ ゆい)
フリーターをしている若い女性。ショートヘアで整った顔立ちをしており、明るく朗らかで、誰からも好かれる性格をしている。酒井俊の高校時代の同級生で、卓球部の主将をしていたことから、俊に「キャプテン」と呼ばれていた。大学卒業後にとある商社に勤めていたが、そこで家庭を持つ男性と不倫関係になる。3年間ずるずると付き合った挙句、男性の妻にバレて修羅場となり、最後には別れを切り出されてそのまま会社も退職した。街中で具合が悪くなっていたところを偶然に再会した俊によって助けられ、心が弱っていることを見抜いた俊に対し、桂木結自身の現状をありのままに伝えていた。その後は、紐育に毎日通いつめるほどの常連客となる。人の心に寄り添えるバーテンダーとして成長した俊に、徐々に心惹かれていく。
坂上 純 (さかがみ じゅん)
優しげな風貌をした端正な顔立ちをしている大学生の男性。友達思いな性格で、正義感が非常に強い。医学部に在籍しており、多くの人々を救いたいという思いを胸に秘め、医者を志している。酒井俊とは小学生からの気の置けない親友同士で、世界を放浪した末に帰国した俊を自宅アパートに住まわせていた。将来のプランもなくその日暮らしの俊のことを心配していたが、ひょんなことからバーテンダーの道を歩み始めたことを喜び、友人として暖かく見守っている。小学生の頃にキャンプで川遊びをしていた際に川に落ち、俊の父親・酒井洋一によって命を救われた過去を持つ。
サラ
ウェディングコンサルタントを務めるフランス人の女性。ポニーテールの髪型をしている。純粋で一途な性格の持ち主。佐島蓮がフランスにいた頃の恋人で、佐島とは3年前に別れている。別れたあとも佐島のことが忘れられず、佐島と同じ言葉をしゃべり、同じ空気を吸いたいという理由で日本で働いている。もう佐島と会うつもりはなかったが、同僚の桂木結の後押しを受けて佐島と再会し、彼の作ったカクテルを堪能する。頼もしいバーテンダーに成長した佐島の姿に感動し、フランスへの帰国を決意する。
真木 亮介 (まき りょうすけ)
「ラッツホテル六本木」のバーテンダーを務める男性。眼鏡をかけているのが特徴。向上心のある野心家で、世間を驚かせる型破りなカクテルを作り、バーテンダーとして高みに立ちたいと思っている。すでに社内のカクテルコンペで優勝するほどの実力の持ち主だが、そのせいでホテルの先輩からは嫉妬されて孤立している。大学時代のサークルの後輩である桂木結とは今でも交流がある。勉強熱心で、休日には各地のバーを訪問してカクテルを味わっている。結衣の紹介で同じバーテンダーである酒井俊と知り合い、俊の作ったカクテルのおいしさを素直に認める。
澄田 麻紀 (すみた まき)
銀座にあるバー「エルメホール」のバーテンダーを務める女性。眼鏡をかけているのが特徴。勝ち気な性格で、研究を欠かさない努力家の有能なバーテンダーで、客が好むカクテルの作り方をすべて個別に記憶している。女性であることが理由で、カクテルの味に何度か言いがかりを付けられた過去を持つことから、カクテル作りには人一倍の努力を重ねている。店が入っているビルの前で倒れていた酒井俊を発見して介抱し、俊がバーテンダーになるきっかけをつくった人物。俊が酒の席で仕事の愚痴を吐いていた時は、その甘さを見抜いて叱責することもあった。俊の友人である坂上純に気に入られ、たびたびアプローチを受けていた。
川上 京子 (かわかみ きょうこ)
新宿にあるバー「ノースリバー」のバーテンダーを務める女性。カクテルコンペの全国大会で優勝した経験を持つすご腕のバーテンダーで、酒井俊の知人。カクテルの勉強をしていた真木亮介が、俊と共に店を訪れた際、バーテンダーとしての心構えを亮介に教えた。亮介からカクテルに必要なのはバーテンダーの経験かと問われた際、カウンターという川の中で10年経たないとその重さはわからないと語る。そのうえで、俊と亮介に対して型を破りたければライバルをつくるようにとアドバイスを送った。
酒井 洋一 (さかい よういち)
酒井俊の父親で、大手建設会社に勤務していた男性。故人。建築デザイナーとして会社で手腕を振るっていた。10年前に息子の俊とその親友である坂上純を連れてキャンプに出かけた際、川で溺れた純を救助するものの、酒井洋一自身は力尽きて亡くなる。
久間 (ひさま)
銀座にあるバー「エルメホール」のバーテンダーを務める中年男性。品のある風貌をしている。店の前で倒れていた酒井俊を店内で介抱した。後日、お礼をするために店を訪れた俊を、上階にあるバー・紐育にアルバイトとして紹介した。
河瀬 良彦
大手建設会社勤務で、アメリカ支社店長を務めている男性。酒井洋一の同期で、大の親友だった。洋一が事故死したあと、残された酒井俊たちの面倒を親身になって見ていたため、俊からは実の叔父のように慕われている。久しぶりに日本に帰国した際に俊と飲みに出かけるが、同席した俊の親友・坂上純が洋一の事故死のきっかけをつくったことを知り、思わず純に辛辣な態度を取ってしまう。
立山 風狂 (たてやま ふうきょう)
高名な落語家の男性。人の心を見透かすような鋭い目をしている。べらんめえ口調でとっつきにくそうに見えるが、実は面倒見がいい人情家。バー「紐育」の常連客で、時折弟子を引き連れて店を訪れている。観察力が非常に鋭く、紐育を任されて一人で四苦八苦していた酒井俊に対し、まず人に助けを請うようにとアドバイスを送る。
場所
紐育 (にゅーよーく)
銀座にあるビルに入っている小ぢんまりとしたバー。バーテンダーの佐島蓮が店を任されている。佐島の温かいキャラクターもあり、つねに「紐育」は落ち着いた雰囲気を漂わせている。佐島が作るカクテルにも定評があり、有名人も訪れる隠れた名店として知られている。のちにバーテンダー修業中の酒井俊が店を任されることになる。
クレジット
- 原作
前作
バーテンダー
城アラキ原作の「バーテンダー」シリーズ1作目。作画は長友健篩が担当。フランス帰りの若きバーテンダー佐々倉溜を主人公に、さまざまな酒にまつわるエピソードをからめながら描かれる人間ドラマ。続編に『バーテン... 関連ページ:バーテンダー
バーテンダー a Paris (ばーてんだー あ ぱり)
城アラキ原作の「バーテンダー」シリーズ2作目。バーテンダーとしての修業を積むため、パリを訪れた日本人青年を主人に、酒と人に纏わるさまざなエピソードが語られていく。前作とは物語上の繋がりこそ薄いものの、... 関連ページ:バーテンダー a Paris
バーテンダー a Tokyo (ばーてんだー あ とうきょう)
『バーテンダー』『バーテンダー a Paris』に続く、シリーズ3作目。続編に『バーテンダー6stp』がある。物語は基本的に一話完結形式。作画は、1作目のみ長友健篩で、以降は加治佐修が担当。原作者はい... 関連ページ:バーテンダー a Tokyo