行方不明の妻を捜して新興宗教の信者に
30歳の頃の鴨目友司は「週刊胡蝶」のデスクであり、スクープのためには手段を選ばず、汚いことも平気でやる男だった。一人娘・唯の誕生日に、妻・恵に頼まれ、友司は幼稚園の迎えに行く。帰路の途中、部下から電話があり、当時追っていたバラバラ事件の胴体が見つかったという連絡が入る。現場の住所をメモするために目を離した隙に、唯は信号無視の自動車にはねられて命を落としてしまう。友司はショックのあまり仕事にも行かず、廃人のようになった。妻の恵は、いつまでも現実に向き合わない友司に嫌気が差し、家を出て行方がわからなくなる。それから2年後、うだつの上がらないフリーライターになっていた友司の家に、「心笑会」という宗教の勧誘が訪ねてくる。勧誘パンフレットに妻・恵の姿を発見した友司は、恵に会うために偽名を用いて心笑会に入会した。
不気味に笑い続ける心笑会
心笑会は、公称会員数25000人を擁する日本発祥の宗教団体。1998年、笑嫣をはじめとする“救世主”によって設立され「人は笑顔によって幸せになる」というのが重要な教義である。信者は常に笑顔を保ちながら生活し、一日に3回、「礼笑」という礼拝でみんな揃って大笑いする。心笑会に潜入した友司は、薄気味悪い笑顔にうんざりしながらも、教育係の鈴村由香に近づき、笑嫣の世継ぎ・笑光の「ご誕生祭」に参加する資格を得た。誕生祭では、笑光に選ばれたある信者に「悦儀」が執り行われる。それは、生きたまま顔の皮を剥いで、笑顔の人面と交換するという狂気の儀式であった。2023年5月12日に掲載された「日刊SPA!」のインタビューによると、本作を描くきっかけは「人の作り笑いが苦手」で「あまりにも演じている人を見ると、ちょっと気持ち悪い」という感覚だったという。その言葉どおり、心笑会の不気味な笑顔の下には、恐ろしい闇が潜んでいる。
都合の悪い人間を消す「失笑」
心笑会を探るうちに、友司はその闇を知ることになる。心笑会に都合の悪い人間を消す「失笑」という行為もその一つである。「週刊胡蝶」の立石前編集長は、心笑会の裏の顔をスクープする予定だったが、雑誌の発売直前に記事を差し替えられ、その後自殺してしまう。また、その記事を書いたフリージャーナリストの長岡は、顔を潰された丸裸の遺体となって発見された。さらに、長岡からあるデータを預かっていた山本という友司の後輩も、同様の遺体となった。心笑会は「週刊胡蝶」や警察、政治家など、あらゆるところに潜んでいて、「家族」となった心笑会の信者を監視している。しかし、友司同様、心笑会を潰そうとしている人間も存在する。本作はカルト集団の異常性・残虐性とそれに抗う人々の戦いをスリリングに描いたエンターテインメントである。
登場人物・キャラクター
鴨目 友司 (かもめ ゆうし)
32歳のフリーライター。2年前に愛娘を亡くして以来、無気力になる。かつて勤務していた「週刊胡蝶」編集部に出入りしているが、ネタを採用してもらえず貧乏生活を送っている。「心笑会」という宗教の勧誘パンフレットに、行方不明の妻・恵の姿を発見し「佐藤甲平」という偽名を使って心笑会に潜入する。
魚住 京平 (うおずみ きょうへい)
鴨目友司の友人で現職のエリート刑事。友司が「週刊胡蝶」のデスクだった頃は、よく情報を交換し合っていた。子供の頃、「心笑会」の信者だった母親に、叱られて暴力を受けており、心笑会を憎んでいる。用意周到に準備をして、心笑会の撲滅に乗り出す。
鈴村 由香 (すずむら ゆか)
「心笑会」で、鴨目友司を指導する、教育係のような女性信者。鴨目恵のママ友であり、2年前恵に心笑会を紹介した人物。しかし、信者ではない内縁の夫を、幹部に殺されたために心笑会に不信感を抱く。心笑会に入信した友司と協力し、恵を救おうとする。
書誌情報
スマイリー 9巻 日本文芸社〈ニチブンコミクス〉
第1巻
(2022-05-09発行、 978-4537145014)
第2巻
(2022-08-08発行、 978-4537145342)
第3巻
(2022-11-09発行、 978-4537145670)
第4巻
(2023-02-17発行、 978-4537146073)
第5巻
(2023-06-08発行、 978-4537146547)
第6巻
(2023-09-08発行、 978-4537146912)
第7巻
(2023-12-07発行、 978-4537147339)
第8巻
(2024-03-29発行、 978-4537147940)
第9巻
(2024-07-29発行、 978-4537148596)