光と影のような共依存の二人が織りなす芸能ドラマ
天才的な演技力を誇りながらも、つねに情緒不安定な宝田多家良と、内心では多家良の才能に嫉妬しながらも心酔している鴨島友仁の表と裏の顔にスポットを当てている。友仁によって開花した多家良の演技力とこだわりは、長いあいだ無名俳優だった二人の運命を大きく変えていく。役に入り込んだ多家良の迫真の演技は現場に大きな影響を及ぼし、共演者同士の演劇のワンシーンに対する捉え方を巡る論争に発展。その議論を経て臨場感があふれるシーンが完成するなど、演技の構築という点にも深く切り込んでいる。
才能と歪みを併せ持つ「ダブル」
本作のタイトルである「ダブル」は、主人公の宝田多家良と鴨島友仁を表しているほか、二人の内に秘める愛憎や二面性、長所と短所などが作中で描写されている。多家良は卓越した演技力を持つものの、生活能力・社会適応性が欠如しており、生活すらままならないほどで、必要なことをすべて友仁に依存していた。一方の友仁は、多家良の役者としての才能を早くから見抜き、同じ役者として強いコンプレックスを抱きつつも、多家良の才能を世界に知らしめたい欲に駆られている。そのかいがいしさは芸能関係者からマネージャーだとカンちがいされるほど。結果的に互いが互いを必要とする状態で、彼らの関係性が本作の魅力の一つとなっている。
多家良に変化をもたらす芸能関係者
宝田多家良は本格的に俳優としての道を歩み始め、舞台への出演やCMにも起用され、やがて人気俳優として世間から注目を浴びるようになる。さらに実力を認めながらも、鴨島友仁の影響を強く受けている多家良の演技に憤りを覚えている黒津壮市や、変わり者同士としてリスペクトし合っている今切愛姫との交流を経て、やがて自立への意識を深めていく。しかし、多家良は友仁に対する依存からなかなか抜け出せずに二人のみならず、多くの関係者の頭を悩ませている。
登場人物・キャラクター
宝田 多家良 (たからだ たから)
劇団英雄に所属する男性。年齢は30歳。端正な顔立ちで純粋無垢ながら天然で社会性に欠け、生活能力は皆無。精神的にも不安定で、失声症の経験がある。演じる人物の過去を想像して役に落とし込むのを得意としており、天才と評されている。しかしいまだ無名で、アルバイトをしている。自力で台本を読めないこともあって、アパートの隣室で暮らす俳優仲間・鴨島友仁に公私ともに助けられている。友仁との出会いは7年前に遡り、小劇場で見た彼の演技に惚れ込み、縁ゆえに入社した会社を辞めて役者になった。現在でも友仁にあこがれているが、それが凡才の友仁を苦しめてもいる。ある公演をきっかけに芸能事務所と契約する機会に恵まれる。楽しければ満足と契約を断ろうとしたが、友仁に背中を押されて契約することになる。すると映像の仕事も増え、子役出身の俳優・轟九十九や人気アイドル・今切愛姫など交友関係も拡大した。映画監督・黒津壮市の鬼気せまる指導を経て、役者として自立する一歩を踏み出すと同時に、友仁の嫉妬に気づく。
鴨島 友仁 (かもしま ゆうじん)
劇団英雄に所属する男性。年齢は30歳。裸眼では足元もおぼつかないほど目が悪く、ハーフリムの黒縁眼鏡をかけている。几帳面な性格で、面倒見が非常にいい。世界一の役者を志し、アルバイトをしながら舞台に立っている。アパートの隣室で暮らす俳優仲間の宝田多家良の世話を焼いており、互いの部屋を行き来して家事全般をこなしつつ、スケジュール管理やオーディション手配など、マネージャー顔負けの援助をしている。台本読みや稽古の代役を通して多家良の役作りにも貢献しているが、友仁は芝居が完成するのは二人で構築した演技プランを多家良が裏切った瞬間だと考えている。多家良が芸能事務所にスカウトされた際には、面接に付き添うなど過保護とも思える行動に出ているが、彼が契約を断わろうとした際には、厳しく咎めて契約に踏み切らせた。その後も多家良への支援を惜しまず、多家良のマネージャーに「彼を引き離せば役者としての多家良は死ぬかもしれない」とまで言わしめている。