チャンドラハース

チャンドラハース

かつて龍の王を討伐した英雄「"不滅の7人"」の一人であるガルワールの娘ヒマラヤと、歴史から消された八人目の英雄を名乗るアルジュナが、それぞれの目的のために手を組み、復讐を果たすべく動き出す。「"不死"のアルジュナ」の異名を持つ少年と、"輪舞"という特殊な能力を持つ故に奴隷に身を落としていた少女が、それぞれの特徴を生かして数々の強力な敵を討ち果たしていく姿を描くダークファンタジー。物語が進むにつれて、アルジュナとヒマラヤ、そして"不滅の7人"のメンバーや、彼らの宿敵である龍の王に隠された真実が明かされていく。「別冊少年マガジン」2019年10月号から掲載の作品。

正式名称
チャンドラハース
作者
ジャンル
ダークファンタジー
レーベル
講談社コミックス(講談社)
巻数
既刊3巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第1巻

父親のガルワールに捨てられ、現在は猟兵団から奴隷として扱われていたヒマラヤは、笛を鳴らしてをあやつる"輪舞"を使えることから、いいように利用されていた。ヒマラヤは、自由も希望もない生活を嘆きつつも、生きるために猟兵団の団長に従い、彼らが龍を打倒する手助けを続けていく。そんなある日、猟兵団の野営地に、"上位種"が襲撃を掛けてくる。"上位種"に団長を殺害された猟兵団のメンバーたちは、たちまちのうちにパニックに陥り、次々に命を落としていく。そしてヒマラヤにも"上位種"の牙がせまるが、そこに二振りの刃を持った剣士が現れ、ヒマラヤの窮地を救う。ヒマラヤは、命を助けられたことに安堵するが、剣士は自らをアルジュナと名乗り、かつて自身を殺害したという"不滅の7人"を皆殺しにするという目的と、ヒマラヤを助けたのも、ガルワールの娘である彼女を自らの手で殺害するためであることを語る。再度窮地に陥ったヒマラヤは逆にこれをチャンスと考え、自身もまた父親であるガルワールに復讐を果たしたいことを告げる。アルジュナは当初は歯牙にもかけなかったものの、命を張った説得によって、ヒマラヤのガルワールへの憎しみがウソではないことを感じ、さらに龍をあやつる力が復讐を果たすために有用だと判断して、一時的に手を組むことを決める。錆び谷にあるデーシャ砦で"不滅の7人"が会合を開くという情報を得たアルジュナとヒマラヤは、さっそく復讐のチャンスを得たと考え、現地へと赴く。だが、それはアルジュナをおびき寄せるための偽りの情報で、デーシャ砦に侵入した二人はカルナ・シン・ハンの懐刀である"不滅の7人"の一人、ジャムシードに急襲される。体を龍の形状に変化させる能力を持ち、ヒマラヤの"輪舞"もほとんど通じないジャムシードに、アルジュナたちは苦戦を強いられる。しかし、ヒマラヤがジャムシードの意思と矛盾しない命令を下すことで行動を限定し、さらに不死であることを生かしたアルジュナの戦法により、ジャムシードは敗れ去る。アルジュナはジャムシードにトドメを刺そうとせまるが、そこにガルワールが現れる。彼は娘であるヒマラヤを一瞥だにせず、自分にアルジュナと敵対する意思はないことや、15年前にアルジュナの額に刃を突き立てたのはカルナであること、本当の会談場所が王都シャンティであることを語る。そして、ジャムシードを連れてその場を立ち去るのだった。

第2巻

ジャムシードを退けたアルジュナは、持てる力のほとんどを使い果たし、深い眠りに就いていた。ヒマラヤは彼を引きずりつつ山を下りていたが、そこに現れたルフナに助けられ、「工房都市ダビシッタ」に案内される。ルフナはアルジュナの顔を見るなり、15年前に助けてくれた恩人に瓜二つだと告げ、かつてに襲われたところを助けられたことを語る。ルフナの話を聞いたヒマラヤは、その恩人がアルジュナ本人であることに気づくが、話を聞く限りは彼と"不滅の7人"の関係は決して悪いものではなかったため、アルジュナがなぜ殺害されたのかと疑問を抱くようになる。その夜、ダビシッタが"猿型"の軍勢に襲われるが、目覚めたアルジュナとヒマラヤの活躍で退けられる。翌日、二人はダビシッタを出発して王都シャンティへの道を進むが、そこでヒマラヤは、15年前にアルジュナと"不滅の7人"のあいだに何があったのかを尋ね、アルジュナは自らの過去を語り始める。かつてギィの船団に所属していたアルジュナは、ギィに言われるまま捨て駒のように扱われながらも戦いを続けてきた。その中で、カルナ・シン・ハンが率いる王都シャンティの軍勢と戦って敗れて捕虜になるが、その力を惜しんだカルナによって命を助けられる。そして、彼と共に戦うにつれて、やがて無二の親友になったことを語る。しかし、15年前の戦いの中で、カルナに刃を向けられた理由はおろか、そもそも龍の王と戦ってから一度死亡するまでに何があったのか、ほとんど覚えていない素振りを見せる。ヒマラヤは疑問をさらに深めていくが、王都シャンティを目前に控えた二人の前に、カルナ、バララーマアシュビンカムシーンが姿を現す。四人は巧みな連携を見せ、バララーマの毒とアシュビンの幻でアルジュナを弱らせ、そこにカムシーンが挑みかかる。アルジュナはこれに対して、ヒマラヤの笛の音で自らを強引に動かさせることで毒や幻の影響を弱め、三人が怯んだスキにカルナを仕留めようとする。しかし、カルナの罪の左手を受けることで倒れ、カムシーンの"輝く星"の力によって結晶石の中に封じられてしまう。カルナは残されたヒマラヤに対して、かつてアルジュナの命を奪ったこと自体は認めるものの、決して彼への悪意によるものではなく、それどころかアルジュナこそが真の英雄であると主張する。そして、15年前に発生した"大侵攻"に端を発する、"不滅の7人"と龍の王の戦いに隠された真実を語り始めるのだった。

登場人物・キャラクター

アルジュナ

かつて"不滅の7人"と行動を共にしていた少年。「"不死"のアルジュナ」の異名を持つ。"譲"の儀によって異能と不老を獲得し、その名のとおり、本来なら致命傷となる傷を負っても決して死を迎えることがなく、腕や足を切断されても、切断面同士をくっつければたちどころに元に戻るという、常軌を逸した再生力と治癒力を誇る。若干皮肉屋なところがあるが、本来は仲間思いで正義感の強い性格をしている。また、強者と戦うことや、自由に生きることを望むといった奔放な一面も見られた。しかし現在は、15年前に裏切った挙句に致命傷を負わされた"不滅の7人"に対して強い憎しみを抱いており、彼らを皆殺しにすることを目的として動いている。ヒマラヤに対しても、"不滅の7人"の一人であるガルワールの娘ということで、復讐の一環として自らの手で殺害しようとするほどだった。だが、ヒマラヤ自身も父親であるガルワールへの復讐を志しており、利害の一致を見たために共闘することになる。かつてはギィの船団と呼ばれる海賊団に所属しており、海賊団の頭領であるギィから王族を打倒するように言葉巧みに言い含められ、さながら捨て駒のような扱いを受けていた。アルジュナ自身も、薄々利用されていると理解しながらも、王族を鼻持ちならないと考えていたことや、戦うことで未来を得るというギィの主張には同調していたため、海賊団の切り込み隊長として、カルナ・シン・ハン率いる軍勢に果敢に挑みかかる。しかし、ギィは敵の作戦によってあっさりと降伏し、アルジュナ自身もカルナに敗れて捕われるが、その力を惜しんだ彼に部下として取り立てられる。それからは、カルナと共に龍を退治して世界を巡り、やがて"不滅の7人"と並んで戦うようになる。ただし、"不滅の7人"によって命を狙われた理由や、殺される時の前後の状況をほとんど覚えておらず、ただ"不滅の7人"が自分を殺害したという事実と、彼らに対する憎しみだけをはっきりと認識している。一方で、カルナを親友だと思っていたと語るなど、彼に対する友情を捨て切れていない面も見られる。また、のちにカルナも、ヒマラヤに対して真の英雄はアルジュナだけだと告げ、15年前の出来事に関して何かしらの事情があることをうかがわせた。一方でジャムシードとは、カルナに対する気安さを咎められたりするほか、戦い方の方向性などから相性がよくない。

ヒマラヤ

"不滅の7人"の一人であるガルワールの娘。彼と同様に"輪舞"を使うことで、人類の脅威である龍の動きをある程度自在にコントロールできる。並はずれた度胸の持ち主で、目的を果たすためなら、自分の命すら秤にかけることもいとわない。奴隷生活によって体が鍛えられ、女性でありながらそれなりに身体能力も高くなっているが、泳ぐことができないという弱点を持つ。かつては父親からかわいがられており、ヒマラヤ自身もガルワールを尊敬していた。また彼が所有する笛や、奏でられる"輪舞"の音色に強い興味を持っていたが、笛にだけは決して触らないようにと言い聞かせられており、現在ヒマラヤが奏でる"輪舞"は、ガルワールが吹いていた音色を彼女なりに再現したものにすぎない。しかしある時、突然ガルワールが家族や仲間たちを裏切り、母親を含めた多くの同志を殺害。ヒマラヤ自身はかろうじて生き残った従者と共に逃げ延びたが、やがて一人ぼっちになり、龍を狩る猟兵団に奴隷として利用されることになった。それからは長らく団長の意のままに"輪舞"で龍を狩る手助けを強要される日を送っていたが、ある時猟兵団が"上位種"によって壊滅させられ、意図しないまま自由の身となる。その際に出会ったアルジュナから、一度はガルワールの娘という理由で命を狙われるが、ガルワールの命を狙っている点から利害が一致し、一時的に手を組むことを互いに了承する。アルジュナと共に行動するようになってからは、ジャムシードとの戦いで、"狂戦士"の力で体を龍に変化した彼の動きを制限したり、バララーマの毒やアシュビンの幻で動きの鈍ったアルジュナの体を、強制的に活性化させたりと、"輪舞"の新しい応用法をマスターしていく。当初は、"不滅の7人"がアルジュナを殺した理由を、15年前に龍の王を討伐した手柄を彼らが横取りするためだと考えていた。しかしルフナとの会話によって、アルジュナと彼らの関係が良好だったことを知ると、その推測に違和感を感じるようになり、アルジュナと"不滅の7人"のあいだに何があったのかを知りたいと思うようになる。またガルワールに対しても、裏切られたという憎しみだけではなく、彼に対する愛情も残っており、殺す前に家族を裏切った理由を知りたいとも思っている。のちにヒマラヤ自身も、ガルワールと同様に「"輪舞"のヒマラヤ」と呼ばれるようになる。

カルナ・シン・ハン

大陸をおさめる国の国王にして、"不滅の7人"の筆頭を務める少年。文武両道の名君で、「"調停者"カルナ・シン・ハン」「"英雄の王"カルナ」など、さまざまな異名を持つ。かつて"譲"の儀を果たしたことで、不老と体内から龍の力をある程度発揮する能力を獲得し、癒しの力に変換して他者を癒す救いの右手と、破壊の力に変換して他者を攻撃する罪の左手を使いこなす。生まれた時から次期国王となることが決まっており、幼い頃から優れた指導者になるべく努力を続けてきた。その結果、一軍を率いるほどの統率力と、優れた剣の腕を身につけるに至る。また、作戦の立案にも優れた才能を発揮するが、カルナ・シン・ハン自身も駒と認識しており、時には自らを囮として利用するような危険な作戦を実行することもいとわない。一方で、かつては自分が王の器であるか疑問に思っていたり、"譲"の儀を受けることに不安を覚えていたりなど、自分の力量に自信を持っていない節も見られる。アルジュナとはかつて敵対していたが、彼の所属していたギィの船団を壊滅させた際に、その闘争心と向上心を見込んで部下として取り立てる。そして、互いに衝突しつつもやがて無二の親友として互いを認め合い、世界各地で龍を討伐しては世界を平定していき、やがて"不滅の7人"のメンバーとなる人々と知り合っていく。15年前に発生した"大侵攻"では、アルジュナやほかの"不滅の7人"と共に龍の王と戦うものの、今までにない苦戦を強いられる。その顚末については語られていないが、アルジュナはその前後で"不滅の7人"から裏切られ、さらにカルナに殺害されたと主張している。アルジュナが死を迎えてからは、15年のあいだ、"不滅の7人"の筆頭として世界のために尽くしてきた。しかし、最近になって"上位種"を含めた龍が組織立った動きを見せるようになったことから、大きな異変の前触れを予測し、各地に散っていた"不滅の7人"を招集し、その対策へと乗り出す。復活したアルジュナが、ヒマラヤと共に王都シャンティまでせまった時は、仲間を率いて自ら迎え撃ち、罪の左手を用いて戦闘不能に追いやる。そして、ヒマラヤに対して敵意がないことを告げつつ、15年前にアルジュナを殺害したことを事実と認めながらも、彼に対して悪意があるわけではなく、むしろアルジュナこそが真の英雄であると主張する。

ガルワール

"不滅の7人"の一人に数えられる男性で、目元を仮面のようなもので覆っている。ヒマラヤの父親で、彼女と同様に笛の根で龍の動きを制限する力である"輪舞"を使えることから「"輪舞"のガルワール」と呼ばれる。この力はガルワールが"譲"の儀によって得たもので、その精度はヒマラヤをはるかに上回る。かつてはカルナ・シン・ハンやアルジュナの仲間として世界を巡り、"輪舞"の力で彼らを助けつつ龍と戦っていた。そして、15年前の"大侵攻"で龍の王を倒し、"不滅の7人"の一人に数えられるようになる。それからは王都シャンティを離れて、独自で部族を率いつつ、やがて結婚して娘のヒマラヤをもうける。娘に対しては、"輪舞"や笛については厳しく制限していたものの、いつも優しく、その性格や能力により、彼女から深く尊敬されていた。しかしある時、突然部族を裏切り、ヒマラヤの母親を含めた多くの仲間たちを殺害し、その場を去ってしまう。これがきっかけとなって、ヒマラヤがすべてを失って奴隷として利用される羽目になったため、彼女から恨まれるようになり、やがて復讐の対象となる。錆び谷のデーシャ砦でジャムシードを退けたものの満身創痍(そうい)となったアルジュナとヒマラヤの前に姿を現す。しかし、娘であるヒマラヤをまったく見ることなく、アルジュナに対して、自分はジャムシードを助けに来ただけで、敵対する意思はないことを伝える。さらに、カルナこそがアルジュナを裏切った真の敵であることをほのめかしつつ、ジャムシードを連れてその場を去っていった。

ジャムシード

"不滅の7人"の一人に数えられる少年。"譲"の儀によって、不老および全身を龍と同質に変化させる"狂戦士"の能力を獲得していることから、「"狂戦士"ジャムシード」と呼ばれている。「ウルカー家」と呼ばれる東方の名家の出身で、若干10歳で龍を撃破したという実績を持つ。幼い頃から己の腕一つで身を立てることを決意し、御前試合などに積極的に参加して、ジャムシード自身の強さを示すために躍起になっていた。そんな中、ジャムシードの腕に興味を抱いたカルナ・シン・ハンから腕試しを申し込まれる。当初は王族といえど自分に敵うとは思っておらず、実際にジャムシードが勝っていたものの、次第に拮抗するようになったことから認識を改める。そして、王族の臣下ではなく、カルナ個人に付き従うことを望まれ、これを快諾。「"王の剣"」と呼ばれるカルナの忠実な部下となり、王国の将官長を務めるようになる。それ以降は、つねにカルナの傍らに控えて、彼の力になれるように剣の腕を磨き続ける。しかし、カルナが新たに部下として取り立てたアルジュナに敗北し、彼に強いライバル心を抱くようになる。龍の王による"大侵攻"では、カルナと共にアルジュナに刃を向け、彼が致命傷を負うきっかけをつくった。カルナがアルジュナを手にかけたために心に深い傷を負っていると知っており、それを周囲に知られることを恐れている。それだけに、アルジュナが生きていると知った時は、カルナに知られる前に再び殺害することを決意し、錆び谷のデーシャ砦に現れたアルジュナとヒマラヤを"狂戦士"の力を使って迎え撃つ。しかし、体を龍に変化させたことを逆手に取ったヒマラヤの"輪舞"によって動きを制限され、そのスキをついたアルジュナに敗北する。そのままトドメを刺されかけたが、そこに現れたガルワールの介入によって一命を取り留めた。その後はガルワールのもとで、傷の治療に専念する。

バララーマ

"不滅の7人"の一人に数えられる少女。「カーマ神教」と呼ばれる宗教の導師長を務めている。"譲"の儀によって、不老およびさまざまな種類の毒を散布する能力を獲得したことから「"腐王"のバララーマ」の異名で呼ばれている。バララーマ自身の美容に気を遣ったり、気に入った女性をそばに置くことを好んだりなど、明るくふざけるのが好きな性格をしている。そのため、武骨なカムシーンとは相性が悪く、彼をよくからかっては不興を買っている。面倒事を嫌っているため、戦うことが嫌い。しかし苦手というわけではなく、いざというときは龍の動きすら鈍らせるほどの毒素を振りまいて敵を翻弄する。かつてアルジュナや"不滅の7人"の仲間たちと共に龍の退治を行っていた頃は、アルジュナとカムシーンが龍の動きを引き付け、バララーマの仕掛けた毒の攻撃で仕留めるという手を多用していた。また、搦(から)め手を得意とすることから戦闘ではアシュビンとの相性がよく、アルジュナとヒマラヤが王都シャンティにせまった時は、アシュビンの幻と連携してアルジュナの動きを鈍らせることに成功する。しかし、ヒマラヤの"輪舞"でアルジュナの体を強引にあやつることで克服され、彼の刃にかかって手傷を負ってしまう。

アシュビン

"不滅の7人"の一人に数えられる青年で、「西の隠者」の異名を持つ。温厚だがつかみどころのない性格で、バララーマに合わせて軽口を叩くこともあれば、彼女とカムシーンが険悪な状況になった際に、穏便に済ませるように取り計らうこともある。また、アルジュナと"不滅の7人"の関係を知ってショックを受けたヒマラヤを気遣うなど、優しい一面も持つ。"譲"の儀によって、不老および他者に幻を見せる能力を獲得したことから「"蒙"のアシュビン」とも呼ばれている。アルジュナに対しては特に敵意を見せていないが、戦わなければいけない相手であることも理解しており、彼とヒマラヤが王都シャンティにせまると、先んじて彼に幻を見せて戦意をくじこうとするが、"不滅の7人"の戦術を知り尽くしているアルジュナからはすでに見破られており、失敗に終わる。これはアシュビンにとっては想定内で、一度退いてからアルジュナがカムシーンと撃ち合っている最中にバララーマの毒と連携して彼を幻惑し、自分たちに有利な状況をつくり出そうとする。しかし、ヒマラヤが"輪舞"を使ってアルジュナの体を強制的に活性化させたことで毒と幻を無効化され、これも失敗する。なお、バララーマとの連携を完全に破られたのはこれが初めてで、この結果に関してはうろたえつつも感心していた。

カムシーン

"不滅の7人"の一人に数えられる男性。「山の神鷲」と呼ばれる部族の首長を務めている。"譲"の儀によって、不老および超硬質の石を生成する"輝く星"の能力を獲得したことから「"輝く星"のカムシーン」と呼ばれている。"不滅の7人"の中でも特に力技に優れており、"輝く星"の力で生成した石を棍棒の形に変形させ、力任せに振り回すことでリーチと威力の両方に優れた攻撃を繰り出せる。武骨かつ豪快な性格で、一見するだけでは大雑把に見られやすい。しかし、根拠のないものを信用しようとせず、"上位種"が増えたことに理由があると即座に見抜いたり、後ろを向いたままアルジュナの攻撃を防いだりするなど、用心深さや視野の広さを思わせる点を見せることも多い。その一方で、武術の心得に関しては、アルジュナやカルナ・シン・ハン、ジャムシードに及ばず、技の拙さをパワーで補っている面もある。向上心の強い野心家で、"不滅の7人"の中では唯一、"大侵攻"が平定されたあとにカルナと敵対することを選択し、山の神鷲を率いてカルナの軍と小競り合いを繰り返していた。のちに"上位種"の異常発生を理由に和平を結ぶが、その時もいつかカルナに代わって大陸の王になると公言している。バララーマとは性格的に相性が悪く、彼女と互いに挑発し合って険悪な空気になったところを、アシュビンに止められることもある。ただし、戦闘では息を合わせられることも多く、かつてアルジュナや"不滅の7人"の仲間たちと共に龍の退治を行っていた頃は、アルジュナとカムシーンが前線で龍の動きを引き付け、バララーマの仕掛けた毒の攻撃で仕留めるという手を多用していた。アルジュナとヒマラヤが王都シャンティにせまった時も仲間と共に迎え撃ち、前線でアルジュナと切り結びつつ、アシュビンとバララーマが彼のスキをつくように誘導する。さらにカルナがアルジュナを戦闘不能に追いやると、再びよみがえられないようにするために"輝く星"の力を使ってアルジュナを石の中に封印してしまう。

シーター

"不滅の7人"の一人に数えられる女性。"不滅の7人"の中では最も謎が多く、王都シャンティで開かれた会合にも唯一参加していない。そのため、ヒマラヤとは面識がないほか、どこにいるのか、何をしているのかも明らかになっていない。ただし、錆び谷には彼女を象った像がほかの六人のものと並んで配置されているため、アルジュナはもちろん、ヒマラヤからも存在そのものは認識されている。

団長 (だんちょう)

ヒマラヤの所属する猟兵団の団長を務めている男性。ヒマラヤに手かせをつけて奴隷扱いし、酷使している。さらに仲間が失敗したときは容赦なく嫌みを口にしたり、団員を平気で捨て駒として扱ったりするなど、粗野で傲慢な性格の持ち主。ただし、ならず者の集団を束ねているだけあって統率力は高く、団長についていくことで道が開けると考える団員もいる。ヒマラヤの持つ"輪舞"の力を重要視しており、彼女を利用して多数の龍を撃破することで猟兵団の名を挙げて、やがて王国軍の将官になることを志していた。しかしある時、猟兵団のアジトに現れた"上位種"によって強襲を受け、みっともない様子を見せつつ、団員たちに対して助けを求める。

ルー

猟兵団に新たに加入してきた青年。ほかの団員と同様に団長によってこき使われており、龍と戦う際は前線に駆り出され、平時も家畜の世話をさせられている。龍との戦いで絶体絶命の危機に陥った際に、ヒマラヤの"輪舞"の力に救われ、彼女を慕うようになる。それからは食料を分けてあげたり、会話に付き合ったりと、恭しい様子を見せるが、"上位種"に襲撃された時にヒマラヤを置いて逃げるなど、自己中心的な性格の片鱗を見せるようになる。さらに、ルーとヒマラヤ以外の団員が全滅したことで、とうとう利己的な本性をあらわにしてヒマラヤから失望される。その後、ヒマラヤに手かせで殴打されて昏倒し、彼女の命を狙おうとしたアルジュナをおびき出すための囮として利用される。

"上位種" (じょういしゅ)

龍の中でも、特に強力な存在の一つ。並の龍とは桁違いの巨大な体軀と強い力を誇っているほか、二足歩行を可能としている。龍を狩ることを生業とする人々からも、相手をしてはならないと恐れられているほど。ただし、"不滅の7人"には及ばず、15年前は彼らによって相当数が駆逐されている。強力な分、数も少ないといわれているが、最近になって異常なまでに数を増やしており、王都シャンティでは明らかな異変として考える人もいる。カルナ・シン・ハンもその一人で、15年前に龍の王を退けてから各地に散らばっていた"不滅の7人"を招集し、対策を練っていた。ヒマラヤを奴隷として扱っていた猟兵団も、"上位種"の襲撃によって団長を殺害されて壊滅状態に陥るが、皮肉にもこれが原因でヒマラヤは自由の身となる。

ルフナ

工房都市ダビシッタに住んでいる少女。ジャムシードとの戦いで力を使い果たしたアルジュナと、彼をなんとかして人里へ連れていこうと励むヒマラヤと偶然遭遇し、彼らを救助してダビシッタへと案内し、自らの家に泊めさせる。15年前の"大侵攻"でダビシッタを"猿型"に襲撃されたことがあり、ルフナ自身も城壁の隙間から街の外に出ていたところを襲われる。しかし、窮地に陥った際に、アルジュナとカルナ・シン・ハンに助けられる。その際に腰が抜けて立てなくなるが、アルジュナによっておぶられ、さらにその状態のまま、アルジュナとカルナが多数の"猿型"を軽々と駆逐したところを目の当たりにしたことで、アルジュナに強いあこがれを抱くようになる。ただし、幼い頃の記憶故にアルジュナの顔をはっきりと思い出せないうえに、彼が"譲"の儀によって不老になったことを知らないため、ヒマラヤといっしょにいたアルジュナが本人だとは気づかなかった。ダビシッタで休憩していたヒマラヤに当時の出来事を話すことで、アルジュナと"不滅の7人"の関係が良好だったことを認識させる。その一方で、仲のよかった相手を手柄のためだけに殺害したことが不自然に映ることから、彼女が15年前に何があったのかを知りたがるきっかけをつくることにもなった。二人を家に招いた日の夜、複数の"猿型"がダビシッタを襲撃するが、アルジュナとヒマラヤの連携で撃破される。その際に、アルジュナがかつて自分を助けてくれた英雄と同一人物であることを確信する。

"猿型" (はぬまっと)

15年前に大量発生した龍の一種。小柄な肉体と二本の腕が特徴で、龍の中では唯一、崖や城壁をのぼることができる。また、高い所から岩を投げ落として攻撃を仕掛けたり、複数で徒党を組んで行動したりするなど戦術も優れており、時と場合によっては"上位種"に匹敵する脅威にもなり得るといわれている。龍の王が"大侵攻"を始めると、それに呼応するように動き出し、工房都市ダビシッタの街を陥落させようとせまる。その際に、退屈が高じて城壁の外に出ていたルフナを襲おうとするが、アルジュナとカルナ・シン・ハンに阻止される。さらに80匹以上の軍勢で二人を狙おうとするが、返り討ちに遭って全滅した。それからはしばらく姿を現すことも少なくなったが、アルジュナが復活し、"上位種"が大量発生するなどの異変が頻発すると、"猿型"もまた姿を現すようになる。そして、複数で再びダビシッタを襲撃しようとするが、ルフナに泊めてもらった恩を返すために立ちはだかったアルジュナとヒマラヤによる連携の前に敗れ、再び全滅する。

ギィ

ギィの船団と呼ばれる海賊団を率いている男性。南の国の出身で、体にペイントを施す独自の習慣を持ち、ギィの船団の団員に対してもそれを徹底する。血気盛んで行動力に富んでおり、生きるため、成り上がるために戦いは避けて通れないことを公言する。だが、その実態は手下たちに危険を負わせながら、安全な所で待機する卑劣な性格の持ち主。誘拐した子供たちを言葉巧みに仲間になるように誘い、戦意が高揚するための飲み物を振る舞ったり、大陸の人間たちに対する敵意をあおったりすることで、ギィ自身の手足として利用している。アルジュナに対しても同じような手段で仲間になるように誘いかけたが、やがてその力量を高く評価するようになり、ほかの団員たちとは違う扱いを見せる。そして、カルナ・シン・ハンを抹殺して大陸の支配者となるべく、団員たちを扇動してカルナの率いる船団を襲撃させる。もとから自分以外の存在は捨て駒として使い捨てるつもりで、玉砕戦法に近いやり口でカルナたちを翻弄し、アルジュナの奮闘もあって戦局を有利に運んだかに見えた。しかし実際は、カルナの囮作戦に引っかかったに過ぎず、やがてジャムシードの手によって追い詰められる。そして、ギィ自身に身の危険がせまるや否や、彼らの軍勢に対してあっさりと降伏を宣言する。さらに見苦しく命乞いをして、カルナやアルジュナを呆れさせた。

ハリドル

カルナ・シン・ハンの従者を務めている男性。褐色肌を持つ禿頭の巨漢で、右目に眼帯をつけている。"不滅の7人"には数えられていないものの、カルナとの付き合いはジャムシードやアルジュナ以上に長く、有事の際はつねに彼の傍らに控えている。戦場では戦斧を振るい、カルナに敵対する兵たちをなぎ倒す。ギィの船団との戦いでは、自ら囮役を買って出たカルナと共に最前線に出撃し、船に乗り込んできたアルジュナと激突する。当初は体格の差もあって、有利な態勢のまま攻撃を仕掛けていき、やがて組み伏せることに成功する。しかし、トドメを刺す寸前に頭突きによる不意打ちを食らい、怯んだところで短剣を投げられ、右目を失うほどの重傷を負わされる。作戦後は、カルナの部下となったアルジュナと共に戦うようになる。

龍の王 (りゅうのおう)

15年前に"大侵攻"を引き起こした最大最強の龍。並の龍はもちろん、"上位種"と比較しても次元の違う能力を誇る。さらに、外殻を破壊されても内部からゲル状の本体を抽出して無傷で活動することが可能で、そのまま人間の体に乗り移ることもできる。乗り移られた人間ごと殺害すれば、龍の王も死ぬと考えられているが、その真偽は未だ不明とされている。15年前に"大侵攻"と呼ばれる大規模な戦乱を引き起こし、王都シャンティをはじめとした各都市に大きな被害を与える。そして、駆けつけたアルジュナや"不滅の7人"たちと戦うが、圧倒的な力をもって全滅寸前にまで追い詰める。その後の顚末については語られていないが、世間では"不滅の7人"によって討伐されたといわれている。また、カルナはこの戦いについて何かを知っている素振りを見せるが、この中で何より大切なものを失ったと嘆いており、現在に至っても彼の心の中に深い傷として残っているほど。その戦い以降、目撃証言はいっさい見られなかったが、最近になって"上位種"の増加が目立つなどの異常が発生しており、一部では龍の王が再び現れたのではないかといわれている。

集団・組織

"不滅の7人" (ちゃんどらはーす)

15年前に龍の王を退治したことで、英雄とあがめられるようになった七人の戦士たち。錆び谷には"不滅の7人"の姿を象った石像が祀られている。全員が"譲"の儀を経ることで不老長寿と龍に関係する異能の力を獲得しており、並の龍はおろか"上位種"すら凌駕する戦闘能力を誇る。かつてはカルナ・シン・ハンとジャムシード、そしてアルジュナが龍を退治するために各地を巡っていた際に、加入した仲間たちに過ぎなかったが、やがてかけがえのない戦友となる。現在は各地に散らばっており、それぞれの職務に就いているが、最近になって"上位種"が異常発生したことから、新たな異変を予感したカルナから招集された。アルジュナからは、自分を裏切って殺害した相手と認識されており、強い憎しみを抱かれている。また"不滅の7人"の一人であるガルワールも、家族や仲間たちを皆殺しにしたとして、娘のヒマラヤから復讐の対象として狙われている。その一方で、"不滅の7人"の筆頭とされるカルナは、本当の英雄はアルジュナただ一人で、"不滅の7人"は彼の手によって生き永らえたに過ぎないと主張している。

猟兵団 (りょうへいだん)

ヒマラヤを奴隷として利用していた傭兵の集団。決まった拠点を持たず、人々を脅かす龍を狩ることで報酬を得ながら各地を巡っている。奴隷や犯罪者といった訳ありの人間たちが集っており、統率こそ取れているものの、新入りの兵士を平気で捨て駒扱いするなど、環境が優れているとはいえない。ヒマラヤの"輪舞"によって龍の動きを制限し、そのスキをついて狩りを行うことで、龍退治の実績を着実に積んでいき、大陸の住人たちからもその存在を認知されるようになる。しかしある時、"上位種"の奇襲によって団長が殺害され、残された団員たちも次々に食い殺されていき、壊滅状態に陥る。

ギィの船団 (ぎぃのせんだん)

南海を拠点に暴れ回る悪名高き海賊団。「水棲龍」と呼ばれる龍の海賊旗を掲げている。頭領であるギィが各地からさらってきた子供たちを洗脳することで手駒とし、特殊な訓練によって並の兵士を凌駕する勢力に仕立て上げている。かつてはアルジュナも所属しており、彼もまた、生きるために戦うという名目に同調していた。大陸の侵略をもくろんでおり、子供たちに大陸への憎悪を植え付けたうえで、カルナ・シン・ハンが率いる船団に奇襲を仕掛ける。自分の船に火をつけて突っ込ませるという玉砕戦法を行い、ハリドルをはじめとしたカルナの臣下たちを大いに苦戦させた。しかし、ギィの指揮は粗末なもので、カルナが仕掛けた囮作戦に簡単に引っかかり、そのスキをついたジャムシードの手にかかったギィが降伏したことで、壊滅した。生き残ったアルジュナもその場で捕えられるが、彼の力に興味を持ったカルナが説得し、カルナの軍に身を寄せることとなった。

場所

錆び谷 (さびだに)

15年前の"大侵攻"で、"不滅の7人"と龍の王の戦場となった渓谷。かつては緑の豊かな場所だったが、現在は見る影もなく、あちこちで毒の沼が発生する不毛の荒野になり果てている。龍の王を退けた功績を鑑み、谷の中腹には"不滅の7人"を象った石像が残されている。深部には「デーシャ砦」と呼ばれる砦が存在し、15年前も龍の王との戦いの拠点として利用された。"不滅の7人"の会談の会場として利用されるという噂があり、それを聞きつけたアルジュナとヒマラヤによって急襲される。しかし、それはカルナ・シン・ハンが、不穏分子をあぶり出すために流したニセ情報で、ジャムシードが率いる精鋭部隊が待機していた。襲撃を仕掛けたのがアルジュナということはジャムシードにとっても予想外だったが、カルナに会わせるわけにはいかないという考えから、アルジュナを止めるために"狂戦士"の力を開放し、デーシャ砦が半壊するほどの大規模な戦いを繰り広げた。

工房都市ダビシッタ (こうぼうとしだびしった)

錆び谷と王都シャンティのあいだに位置する工房都市。龍の骨や仮面などを加工した産業がさかんなことから「龍の町」と呼ばれている。東部の地方の中では屈指の発展を遂げており、ヒマラヤから「ここまでにぎわっている市場を見たことがない」と言われるほど。15年前の"大侵攻"では、"猿型"をはじめとした龍の攻撃を幾度も受け、人口の4分の3を失うほどの被害を被ったうえに、孤立無援の状態に追いやられる。住人の一人であるルフナも、孤立した町の雰囲気に耐えきれず、城壁の隙間から外に出たところで"猿型"に襲われてしまう。しかし、そこにアルジュナや"不滅の7人"を含めたカルナ・シン・ハンの手勢が現れ、ルフナの窮地を救う。さらに、襲撃していた龍の軍勢を駆逐し、やがて平穏を取り戻す。このことから、ほかの地方以上に"不滅の7人"を英雄視する声が大きく、彼らをモチーフにした人形が人気商品となっている。ただし、龍の骨で作られている関係上、モチーフとなった"不滅の7人"たちとはかけ離れた姿をしていることが多い。昨今では、"上位種"の増加に伴い、工房都市ダビシッタの周辺でも再び龍の姿が見られるようになる。そして、複数の"猿型"が奇襲を仕掛けようとするが、滞在していたアルジュナとヒマラヤによって阻止される。なお、街の中に被害を出さないまま退けられたことから、ダビシッタの住人たちからは、15年前と同じように"不滅の7人"が来てくれたのかもしれないと考えられた。

王都シャンティ (おうとしゃんてぃ)

大陸の中心部に存在する大都市。国王であるカルナ・シン・ハンの手によって統治されていることから、"不滅の7人"に対する信仰が特に強い。15年前の"大侵攻"では、龍の王による圧倒的な暴威になすすべもなく蹂躙され、一時は人が住めない状態にまで陥る。しかし、アルジュナや"不滅の7人"が死を覚悟して戦いに臨み、龍の王から解放された。それからは各都市の中でも屈指のにぎわいを見せ、カルナの手腕によって治安も高く保たれている。のちに"上位種"が増加した問題を解決するため、王都シャンティで"不滅の7人"による会談が開かれることが決まる。ただし、国家転覆を企む不穏要素への対策のため、王都シャンティが会場となることは伏せられており、錆び谷のデーシャ砦で会談が開かれるというニセ情報が流された。なお、会談の結果、小競り合いを続けてきたカルナとカムシーンが正式に和解し、再び"不滅の7人"が一丸となって事態の対処を行うことが決まる。

その他キーワード

(りゅう)

大陸全土で生息している生物で、仮面のような形状の顔を持つ。人間をはるかに上回る巨体と、岩のような硬さを誇る外殻、そしてあらゆるものを嚙み砕く牙を備えており、その強さと狂暴さから人間の天敵として認識されることが多い。一方で、外殻を加工することでさまざまな武具や日用品などに利用できるため、猟兵団をはじめとした龍の退治を専門とする集団も存在する。龍のあいだには個体差があり、通常の龍は数でかかれば人間でも十分対処が可能だが、特に高い身体能力を誇る"上位種"や器用な手足を持つほか、つねに集団で行動する習性を持つ"猿型"など、太刀打ちすることが難しい龍も多数存在する。中でも、龍の王は"不滅の7人"すら上回る力を備えており、カルナ・シン・ハンに「龍の王は殺せない」と言わしめるほど。

"大侵攻" (だいしんこう)

15年前に発生した、龍の王による侵略行為。カルナ・シン・ハンとアルジュナ、ジャムシードは、"譲"の儀に成功すると、その力を生かして世界各地の龍を退治していたが、これを快く思わない龍の王は報復のためにカルナたちの拠点である王都シャンティを襲撃する。龍の王と、彼の率いる龍たちの力は圧倒的で、カルナたちが不在の王都シャンティを陥落させる。さらに工房都市ダビシッタなどの都市を次々と襲い、人類を窮地に陥れる。アルジュナと"不滅の7人"たちは、この事態を打開すべく急いで王都シャンティに戻り、やがて龍の王と対峙する。しかし、彼らの力をもってしても龍の王に対抗することはできず、アルジュナ以外の全員が戦闘不能に追いやられてしまう。なお、この戦いの終盤で"不滅の7人"がアルジュナを裏切り、彼を殺害したとされているが、詳しい状況は明らかになっていない。

"譲"の儀 (じょうのぎ)

勇猛な戦士のみが受けることを許されるという儀式。儀式の内容は明かされていないが、完遂することで龍の力を得ることができ、年を重ねても老化することがなくなり、さらに独自の特殊能力を獲得することができる。ただし、儀式の成功率は低いうえに、失敗すると死を免れないといわれる。このことから、王都シャンティでは"譲"の儀は禁忌の一つと見なされている。しかし龍の脅威が本格化し、世界に混乱が巻き起こると、背に腹は代えられないとしてカルナ・シン・ハンが"譲"の儀を受けることが決まる。カルナは、自らの力量に自信を持っていないこともあり、失敗する可能性を考えていた。そのため、アルジュナに対して儀式の詳細を明かすことなく、単身で臨もうとしていた。だが、ハリドルに儀式の詳細を聞いたアルジュナから水臭いと詰め寄られ、共に儀式を受けることを要求される。なお、カルナとアルジュナのほか、"不滅の7人"の全員が"譲"の儀を受け、それぞれ不老と特殊能力を授かっている。また、"譲"の儀を受けた人間の子供にも特殊能力が宿ることがあり、ヒマラヤはガルワールが"譲"の儀で会得した"輪舞"を使いこなすことができる。

救いの右手 (すくいのみぎて)

カルナ・シン・ハンが"譲"の儀によって獲得した能力の一つ。右手をかざすことで、他者に生命力を分け与えることができる。生命力を与えられた相手は、重傷を負っていても徐々に回復し、やがて万全の状態を取り戻せる。ただし、あくまで分け与える効果であるため、使用に応じてカルナの体が弱っていくという欠点を持つ。しかし、カルナ自身はその副作用を、あって当然のものと受け入れており、仲間や部下たちが負傷した際は、ためらうことなく救いの右手を使う傾向にある。

罪の左手 (つみのひだりて)

カルナ・シン・ハンが"譲"の儀によって獲得した能力の一つ。左手をかざすことで、他者から生命力を奪い取る。非常に高い威力を誇り、不死であるアルジュナすら一撃で倒すほど。また、攻撃そのものを目視することができないため、防いだりかわしたりすることも困難を極める。そのため、アルジュナからは「王の死刑宣告」と呼ばれており、カルナが左手を前にかざす前に決着をつける必要があると考えられている。

"輪舞" (りんぶ)

ガルワールが"譲"の儀によって獲得した能力。笛を鳴らすことで、それを聞いた龍の動きを制限および活性化させる。また、命令を聞かせることもできるが、"上位種"などの強力な龍に対しては、きき目が薄くなることもある。発動するには音を聞かせる必要があるため、距離が離れていたり、雑音が激しい場所では十分な効果を発揮することができない。ガルワールの娘であるヒマラヤにも"輪舞"の能力が宿っており、ガルワールに捨てられてからは、この能力を重宝する奴隷商人にさらわれ、猟兵団へと売り渡されている。ガルワールの使う"輪舞"は、ヒマラヤのものよりはるかに精度が高く、"狂戦士"の力を使って体を龍に変化させたジャムシードを自由自在にあやつるほど。

"狂戦士" (きょうせんし)

ジャムシードが"譲"の儀によって獲得した能力。体の一部、あるいは全体を龍の形に変化させることで、"上位種"すら圧倒するほどの力を発揮できる。ただし、完全な龍の姿に変化した場合、ジャムシードの自我は失われ、疲労によって活動を停止するまでのあいだ、敵味方関係なく周囲の人間や龍を殺害するだけの存在となり果てる。さらに、ヒマラヤの"輪舞"もほとんど受け付けないが、ガルワールの"輪舞"を聞かせることで、彼の思うがままにあやつることができる。なお、人間が変化した龍の姿は、"上位種"以上に巨大、かつ歪なもので、龍の王は"狂戦士"の力を使って全身を龍に変化させたジャムシードを醜いとさげすむ。

"輝く星" (かがやくほし)

カムシーンが"譲"の儀によって獲得した能力。手のひらから透明の結晶石を具現化し、好きな形に変化させることができる。生成される結晶石は極めて頑丈で、武器として振るえるほかに敵の攻撃を防ぐための盾としても機能する。また、相手に直接触れることで、石の中に閉じ込めることも可能で、アルジュナが復讐のために王都シャンティにせまった時は、カルナが彼を戦闘不能に追い込むと、結晶石の中に閉じ込めて不死の力をもってしても活動できない状態に追い込む。ただし、結晶石の中に閉じ込められても生命活動が停止することはない。

書誌情報

チャンドラハース 3巻 講談社〈講談社コミックス〉

第1巻

(2020-01-09発行、 978-4065178829)

第2巻

(2020-08-07発行、 978-4065193044)

第3巻

(2021-01-08発行、 978-4065220313)

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