落園の美女と野獣

落園の美女と野獣

ベルは、母親のレティシアが野獣に攫(さら)われた責任を感じていた。父親のエヴァンスはそれを助長するかのようにベルを醜い者として扱い、一生家に閉じ込め、人の目に触れないように監禁生活を強いていた。しかし、レティシアが生きていることを信じていたベルは、ある日再び野獣と対峙することになり、もう一人の野獣キリルの存在を知ることとなる。人外に恋した少女が、奪われた母親を捜すために奔走する姿を描くダークファンタジー。「Palcy」で2019年10月から配信の作品。

正式名称
落園の美女と野獣
ふりがな
らくえんのびじょとやじゅう
作者
ジャンル
ダークファンタジー
 
片思い
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あらすじ

美しさと醜さ

薄紫色の髪を持つ少女ベルは、父親のエヴァンスや母親のレティシアと似ていないため、村人からは妖精の取り違え子だと揶揄されていた。まだ幼かったある日、ベルは村では育たない赤い色のバラの花を欲し、禁じられた森の中に足を踏み入れる。ベルを追って森の中に入ったレティシアは、美しい女性を攫(さら)うといわれている野獣の噂をベルに話して聞かせ、ベルの恐怖心をあおることで森から遠ざけようとする。しかしやんちゃなベルは、野獣の噂に耳を貸そうともしない。そんな二人の前に、異形の者が突然姿を現す。二人は噂の野獣に出会ってしまった。野獣はベルを見て、その子供は美しいかと問う。レティシアは、とっさに美しくないと返事をし、ベルの顔を確認しようとする野獣から彼女を守るため、ベルを崖下の川に突き落とした。ベルの身代わりとなって野獣に攫われることとなったレティシアは、その後、顔のないイドールとなり、遺体で発見されることになる。しかしベルは、その遺体がレティシアのドレスを着ているものの、母の手の甲にあったはずのバラの花の紋章がないことに気づく。エヴァンスにその事実を知らせようとするが、エヴァンスは妻を失った悲しみに我を忘れ、取り合おうともしない。さらにエヴァンスは、妻の遺体を焼かれたことで正気を保つことができなくなり、そのすべてが醜い髪を持つベルのせいだと考えるようになる。ベルに歪んだ感情を抱くようになったエヴァンスは、一生家から出ずに生きることをベルに強要。ベルに自分は醜いと強く思い込ませ、外とのつながりをいっさい断って家の中に閉じ込めてしまう。ベルの引きこもり生活はその後5年にも及んだ。仕立ての仕事を請け負って生活費を得ていたベルは、その収入をすべてエヴァンスに奪われ、閉ざされた部屋の中だけの生活を続けていた。そんな中、ベルの前に再びあの野獣が姿を現す。レティシアを攫った野獣を前に、ベルは5年前からずっと抱いていた疑念を晴らすチャンスを得る。

もう一人の野獣

恐ろしい野獣に襲われそうになったベルは、もう一人の野獣キリルに助けられ、野獣の城へと連れ去られることとなった。見知らぬベッドの上で目を覚ましたベルは、目の前にいるかわいらしい小鳥のジゼールにうながされるまま、城から逃げ出すために行動を起こす。ジゼールは、キリルが若い娘を攫(さら)ってきては愛を得られないとわかると食い殺したり嬲(なぶ)ったりすると語り、ベルに早く城から逃げるように急かそうとするが、ベルが誘導されたのは、なぜかイドールがたくさん閉じ込められている部屋だった。そこでイドールに襲われかけたベルは、キリルに助けられる。その後、何がなんだかわからないながらもベルは必死に逃げ続け、キリルはそんなベルを追いかける。追い詰められたベルは、ジゼールから崖の下に飛び降りるようにうながされ、ためらうと美しい自分と醜い化け物とどちらを信じるのかと詰め寄られる。ベルは外見だけで判断させようとする、この質問に違和感を覚えるものの、足をすべらせて崖から転落してしまう。その瞬間、ベルはすべてがジゼールの策略だったことに気づき、生きることをあきらめかけるが、身を犠牲にして自分を助けてくれた母親のレティシアのことを思い出し、今死ぬわけにはいかないと必死に抗う。そんな生きることを決めたベルに手を差し伸べたのは、またしてもキリルだった。しかし、それでもなおベルが自分の殻に閉じこもろうとする姿を見て、キリルは「自縛趣味」「ドS野郎」とベルを罵倒し、魂の囚人に用はないとベルを元の場所へ返すことを宣言。だが、そこにキリルの恐ろしさとは違う感情の片りんをかいま見たベルは、レティシアの行方を捜すため、このまま城で針子として働くことを決める。

愛されているベル

ベル野獣の城の秘密を知るため、ジゼールに案内されて廃墟へとやって来た。呪いが強くて中には入れないというジゼールを置いて、一人廃墟の中庭を目指して歩いていた。明かりの先にベルが見たものは、ひざまずくキリルの姿だった。キリルは、ソファに座る美しい女性を「ベル」(水晶のベル)と呼び、愛おしそうに語り掛けていた。女性のあまりの美しさに呆然とするベルは、同時にその美しい女性が野獣に愛されていることに気づく。そして、これは見てはいけないものなのだと感じた時、見られていることに気づいたキリルは激昂。二人だけの聖域に足を踏み入れたことに怒りをあらわにし、一旦はベルを追い出す。だが、その後ベルがジゼールに騙されてここに来たことを知り、ベルも城にいる以上は知る必要があると判断したキリルは、ベルを廃墟の中庭へと案内する。キリルにうながされ、ソファに座る美しい女性に恐る恐る触れたベルは、彼女が冷たく固いことに気づく。そして、その美しい女性は呪いによって全身が結晶化し、水晶となったことを知る。すべてはキリルの国であるイシュの城から始まった。守護聖母である巫女様が、キリルに裏切られ、年老いた自分の姿に絶望したことにより、キリル本人だけでなく、婚約者である水晶のベル、そして彼らを含む城内の者すべてが呪いをかけられたのだった。事の起こりを知ったベルは、この城に呪いをかけ、配下である野獣を使って美女を集めてはイドールを作り出した巫女様こそが、母親のレティシアを捜すために必要な人物であると断定。あらためて、レティシアを取り戻したい思いと、巫女様への憎悪を強く抱く。さらにベルは、キリルが美しい婚約者のため、そして城の者たちのために呪いを解こうと奔走していることを知り、そこにキリルの深い愛情を感じてしまう。キリルに出会った時、ベルが自身の中で感じたざわめきは、このことを予感していたのかと、ベルは自分がキリルに叶うはずのない恋をしてしまったことに気づく。

巫女様

キリルへの歪んだ思いから、強い復讐心を募らせる巫女様は、キリルと共にいるベルに目を付けた。イゾルデの意識を乗っ取って野獣の城に現れた巫女様は、イシュで待っていると告げて城を去る。巫女様を追ってイシュへと向かったキリルについていったベルは、そこで長らく捜し続けた母親レティシアの姿を目にする。ベルはレティシアに駆け寄って抱きしめるが、それはレティシアの体を乗っ取った巫女様本人だった。そしてベルは、巫女様に捕えられてしまう。その後、巫女様はベルを連れ、再びキリルの前に姿を現す。そこで巫女様は、キリルへのいびつな愛情を語るが、ベルはそれに真っ向から反発する。その後ベルはキリルに助けられ、キリルのもとへと戻ることができた。巫女様が去り、緊張がほどけた瞬間、暗闇から再び現れた巫女様の手により、ベルは顔を奪われ、キリルのもとに残った肉体はイドールとなってしまう。変わり果てた姿となったベルを見て、動揺したキリルは急いで城に戻ってドクトールに対して、なんとかしてベルを元に戻せと息巻くが、長いことイドールの研究を続けているドクトールでさえ、未だそれを叶えることはできなかった。一方、顔を奪われて自我を失ったベルの魂は、イドールの魂が彷徨(さまよ)うといわれるサオインに存在していた。自分が誰なのか、ここがどこなのか、何もわからないことに絶望して恐怖を抱いていた時、そんな彼女に駆け寄り、抱きしめて落ち着かせようと優しく声をかける者がいた。それは、唯一意思を持つイドールとして野獣の城で暮らすイゾルデだった。

登場人物・キャラクター

ベル

珍しい薄紫色の髪を持つ少女。幼い頃、禁じられた森に足を踏み入れた自分を追いかけてきた母親のレティシアが、野獣に連れ去られてしまったことに、負い目を感じている。その後レティシアは、イドールとなって変わり果てた姿で発見される。妻を失ったショックから、正気を失った父親のエヴァンスから5年にわたり、監禁生活を強いられることになる。両親どちらにも似ていない髪色や、レティシアが連れ去られる直前の美しくないという言葉、そしてエヴァンスから醜いと言われ続けたことで、自分は醜いと信じ切っており、長い前髪で顔を隠し、特に髪色には過度なコンプレックスを抱いている。首には母親と同じバラの花のような紋章がある。レティシアの遺体として見つかった女性の体には、母親にあったはずのバラの印がないことに気づき、その遺体は母親ではないと思っている。そのため、母親はまだ生きていると信じ、監禁生活中はレティシアを攫(さら)った野獣と再び対峙することを望みながら、働く気力をなくしたエヴァンスの代わりに仕立ての仕事をして家計を支え続けた。5年後、野獣が再び森の中に姿を現したことを知るが、野獣に連れ去られそうになったところをキリルに助けられ、野獣の城に連れて行かれることとなった。初めは異形の姿のキリルを恐れていたが、共に過ごすうちに彼の荒っぽい言葉や態度の裏に隠された優しさを実感し、キリルに恋心を抱くようになる。そんな中、城にかけられた呪いや、レティシアの行方にも巫女様の存在が深くかかわっていることを知り、強引にもキリルと共に巫女様のもとへと向かう。そこで皮肉にもレティシアとの再会を果たすが、中身が母親でないことに気づいた時にはすでに遅く、レティシアの体を乗っ取った巫女様によって自分の顔を奪われ、イドールになってしまう。もともとはやんちゃで男勝りな女の子だったが、長いあいだの監禁生活と自責の念にとらわれ、成長するにつれて卑屈な性格へと変化していく。

キリル

野獣の城に住む悪魔の角のような耳を持つ王子。野獣の姿で、身長は2メートル近くあり、指が爪と一体化しているために手が非常に大きい。目はふだんは白いが、赤く光るときもあり、大きく裂けた口に尖った歯と大きな牙を持つ。態度や声が大きく、所作は何かと荒っぽいが生きる意思のある者に対しては懐深く、通常見せない優しさを隠し持っている。ある日、野獣に襲われているベルを助けて城に連れ帰ったが、一時生きる意欲をなくしたことで元の場所へと戻そうとした。しかしその後、ベルが再び生きる決意を固めたことで、自分の仲間として城に迎え入れることを決めた。お針子を一人雇うという体裁でベルを手元に置くことにしたが、次第に彼女の強さや無鉄砲な破天荒ぶりを知ることになり、ベルに振り回されるようになる。もともとは、緑の国イシュの王子で、自国の守護聖母だった巫女様によって愛され、慈しまれて育った。しかし、次第に自分が彼女を親のように慕う愛情と、巫女様がキリルに抱く愛の形に大きな違いがあることに気づく。そして、とある思いから両親を倒してほしいと願い、巫女様の力を利用する形となった。だが、婚約者であるベル(水晶のベル)の美しさをかいま見て、さらにキリルから愛されていないことに気づいた巫女様が逆上して城ごと呪いをかけたため、婚約者は水晶へと姿を変え、自分と城の中の者たちはみな異形の姿へと変えられてしまう。その後、キリル自身のサファイアのような美しい右目を抵当に、自分の魔力のすべてと魂を竜に食わせるとヴィーヴィルと契約を交わす。城の者たちの呪いを解くまで朽ちてしまわないように、城に時空を飛ぶ力を与え、自らも魔力を得た。それ以来、水晶のベルを生き返らせ、この城の呪いを解くために巫女様とその配下の跡を追い、何百年も時空を旅して世界を彷徨(さまよ)い続けている。

ジゼール

野獣の城に住むキリルの妹姫。キリルにかけられた呪いに巻き込まれる形で、頭部が鳥かごという異形の姿になってしまう。鳥かごの中には大きなりぼんで着飾った小鳥が住んでおり、その小鳥が意思を持つ自分自身の分身として鳥かごを出入りし、行動している。本体は黒っぽい地布に白フリルや、りぼんがふんだんに付いたゴシックロリータ風のドレスを身につけ、お人形を抱いている。城に連れてこられたベルに対しては、嘘八百を並べ立て、キリルという存在を怖がらせるように仕向け、早々に城から追い出そうとした。しかし何度となくベルを騙そうとした、その悪行がキリルに知られることになり、ベルを追い出すことはできなかった。その後、仲間としてベルを城に置くことになってからも、何かとベルをキリルから引き離そうと、ベルをだまし討ちするが、結果的にうまくいかずにいる。

リュカ

野獣の城でキリルの侍従としてそばにいる幼なじみ。大きな羊の角を持っている。男性に見えるが、実は女性。まだ人間だった時、自分に違和感を感じながらも、男勝りな女性として生きてきたが、ジゼールから自分らしく生きることを勧められ、男性として生きることを決断した。城内では、野獣と化したキリルに危険が及ばないように、キリルの食事を前もってチェックする毒見役を本人には内緒で担っていた。だがキリルに自ら直接毒を盛るなど、複雑な思いを抱いている。

巫女様 (ら めでぃうむ)

すべての元凶といえる存在。美しさに強い執着を持っており、下々の者には「麗しい」「美しい」などの形容詞を名前の前に付けて呼ばれないと返事をしない。これまで、美を欲した数々の女性たちに自らの力を使って奇跡を起こしてきたと伝えられている。そのため、愛の館と呼ばれるサロン「永遠同盟」には、巫女様を崇拝する貴族たちが集まり、彼女を崇めている。実際は自らの力を使い、野獣に美女を攫(さら)わせて美しい顔を奪い取り、利用するために保管している。美しくなりたいと願う王妃には、数々の顔の中から欲するものを選ばせて与えている。もともと緑の王国イシュでは、精霊の血を持つ守護聖母として、聖なる力が与えられた守り神的存在だった。国の繁栄は、巫女様の存在と共に約束されていたため、崇め奉られた。幼い頃から国王に封じられて視力はなく、ただ幼い少女のようにいつも幸せそうに笑顔を浮かべ、自分は美しいと信じ切っていた。イシュの国王とは、政略結婚のせいでいっしょになれなかった代わりに、王子のキリルといっしょになることを国王から約束されていたため、ずっとキリルを愛し続けて将来いっしょになる日が来ると信じていた。しかしある時、キリルから国王と王妃を倒してほしいと懇願され、キリルを愛するあまりその願いを叶えた。すると、自分を封じていた国王が死んだことにより、封じられていた眼の視力を取り戻すこととなった。そして、キリルには美しい婚約者のベル(水晶のベル)がいること、自分の顔が年老いて醜くなっていたことを知り、自分が美しくないからキリルに愛されなかったと思い込むようになる。そこで初めて、自分はキリルに利用され、騙されていたことに気づいた。絶望した巫女様は憎悪のあまり、美しいベルの心臓をいくつにも裂いて配下へと分け与え、肉体を作るための核として使わせた。そしてキリルも城も、すべてが永遠に呪われ、醜い姿で苦しみ続けるようにと呪いをかけた。さらに、キリルが愛した者はみんな不幸になるようにと呪い、自分の力は自分のためにだけ使うと誓う。美に執着するあまり、自らの顔をとっかえひっかえしながら長いあいだ生き永らえているが、巫女様自身の肉体は秘せる人々の証を持つ者でないと入れ替えられないため、証を持つ者を探している。

ヴィーヴィル

キリルのスポンサーを名乗る謎多き美少年。便宜上は人の形を取っているが、キリルの少年時代を模しただけであり、本来の姿はドラゴンに似た魔物。人間の願いを聞く代わりに、その代償として美しいものを欲しがる。指には人間の瞳でできた指輪を多数つけており、その中にはキリルの瞳も存在している。キリルとは、瞳を賭して契約が成立しており、野獣の城の広間にある大時計が12時になったとき、城の時も止まることになっている。それまでに巫女様に打ち勝って呪いを解かなければ、キリルと交わした契約どおり亜空間の彼方に飲み込まれ、城ごと消えてなくなることになっている。さらに、キリルはヴィーヴィルのものとなり、魂も体も含めてすべてを食らうことが決まっている。

レティシア

ベルの母親で、エヴァンスの妻。以前、禁じられた森で1週間ほど行方不明になったことがあり、その後妊娠が発覚した。左手の甲にバラの花のような紋章がある。明るく優しい性格で、ベルを非常に愛している。当時まだ幼かったベルが、ある日禁じられた森に足を踏み入れたため、その跡を追いかけて自らも森へと入った。その際、野獣の出現で命の危機に陥るが、ベルの顔は美しいかと野獣に問われ、ベルを守りたい一心で美しくないと答え、ベルの代わりに自分が野獣に攫(さら)われた。その後、レティシアの服を着せられた別の女性が、イドールとなった自分の遺体として発見されることになった。本当の体は、のちに巫女様の力によってレティシア自身の意思を封じられ、巫女様の精神が入った状態で巫女様として生きることになる。

エヴァンス

レティシアの夫。妻を深く愛しているが、娘のベルが自分とはまったく違う髪色をしているため、彼女が本当に自分の子なのか、疑いを持っている。もともとは働き者のいい夫だったが、レティシアが亡くなったことで正気を失い、いっさい働かなくなった。ベルに対して醜いと言い続け、彼女が外に出ないように監禁し、仕立ての仕事をさせて得た金を飲み代として没収し、5年ものあいだ監禁生活を続けた。その後、家を抜け出したベルに、それまでひた隠しにしてきた憎悪をあらわにして襲い掛かるが、野獣に襲われて無念の死を遂げる。しかしその後、野獣に体を乗っ取られることになり、野獣の城に連れ去られたベルを、優しい父親のふりをして取り返そうとした。ベルが幼い頃から彼女の髪色を忌み嫌い、髪を隠すために帽子をプレゼントしたこともあった。だが一方で、野獣に乗っ取られた状態でベルに危険が及んだ時、奥底に生きていたエヴァンス自らの意識がベルを襲おうとする自分の中の野獣を制止し、親としてベルを愛する気持ちもかいま見えた。

野獣 (やじゅう)

巫女様の力によって、醜い野獣の姿に変えられたカラス。大きなマントにシルクハットをかぶっており、骨の馬が引く鋼鉄の馬車に乗って、美しい女性を片っ端から攫(さら)って巫女様のもとへと連れて行く役割を担っている。野獣に攫われた女性たちは、顔を奪われ、イドールとなって変わり果てた姿で発見されるため、イドールを作り出す犯人として国から追われる存在でもある。ベルが幼い頃、レティシアを攫った張本人。その5年後、再び姿を現したベルを連れ去ろうとして失敗し、キリルにやられて野獣としての体の大半を失ってしまう。その際、自ら手にかけたエヴァンスを自分の体として利用し、国王軍と共に、ベルとキリルを返り討ちにしようとするが、ベルから父親ではないと見破られ、あえなく失敗。カラスの姿に戻って巫女様のもとへと帰還するが、そのまま消されてしまう。

ドニ

野獣の城で庭師を務める男性。クマの頭部を持ち、言葉は話せないが、イドールのイゾルデをいつも気にかけている。朴訥(ぼくとつ)に仕事をこなす非常にまじめな人柄をしている。しかし、いつの間にか心の奥に自分でもわからない空虚な部分ができてしまい、無自覚のうちに、巫女様の使い魔である蜘蛛が巣くって宿り主となってしまう。

水晶のベル (すいしょうのべる)

野獣の城の奥にある、廃墟の離れの中庭に結晶化した姿で眠っている女性。キリルの婚約者で、心臓は動いているが、放っておくと全身が水晶のかたまりになってしまうため、キリルの力によって水晶のベルがいる離れだけ時間の流れが遅くなっている。水晶のベルの欠片はさまざまな魔物に封じられる形で点々と存在しており、元の姿に戻るためには魔物を倒して欠片を取り戻し、すべてを集めて自らの体内に戻す必要がある。

王妃 (おうひ)

国王の妻。暴漢に襲われ、顔の右半分が焼けただれたようになっている。数々の奇跡を起こしてきたと噂される巫女様のもとを訪れ、自分を陥れたのは夫を我が物にしようとするイヴォンヌだと語り、自分の顔を美しくしてほしいと懇願した。その際、巫女様が所有する顔の中から自分好みの美しい顔を手に入れたが、表向きは夫の心を取り戻したいけなげな妻を演じながら、実際はイヴォンヌに対する復讐心が上回っている。王宮絵師のラファエルは、もともと貧しい身分だったところを自らが拾い上げ、専任絵師として召し抱え、秘密の恋人とした。王宮で行われたお茶会の際、巫女様に勧められた毒薬でイヴォンヌの顔をめちゃくちゃにしようと画策するものの、逆に巫女様とラファエルの謀りに陥れられ、自らの顔が再び醜くなってしまう。

イヴォンヌ

国王に気に入られ、寵愛を受ける美女。王妃からはかなりの恨みを買っているが、実は王妃よりも先に巫女様のもとで顔を美しく変えていた。その事実を知る者は巫女様だけで、王妃が自分を謀ろうとしていることを知り、さらに巫女様の力添えもあって逆に王妃を陥れることに成功する。

ラファエル

王宮絵師を務める画家の男性。もともとは貧しい身分だったが、王妃に気に入られたことで救われ、王宮専任の絵師になることができた。王妃の恋人でもあり、側近として王妃と行動を共にしている。王妃に忠実に従っているように見えるが、実は秘密裏に巫女様とつながりを持っており、のちに王妃をも裏切ることになる。王宮で行われたお茶会では、王妃から襲われそうになったイヴォンヌを助けたことで、国王から認められ、イヴォンヌを専門に描く画家という栄誉を授かることとなる。

イゾルデ

野獣の城で暮らすイドールの女性。ドクトールによって研究の対象とされているが、同時にドクトールの助手としても働いており、いつも看護師の制服とベールを着用している。イドールで唯一、人の言葉を理解することができるが、念のため口枷をつけられている。イゾルデ自身は言葉を失ってしまったが、理性があり、人の心を読むことができる。そのためか、のちに巫女様が乗り移るための媒体にされ、城の場所を特定されてしまう。ふだんは服で隠れているが、胸元にバラの花の形をした紋章を持つ。サオインでは、イドールになりかけたベルに話しかけて自分という存在を思い出させ、イドールになりきってしまうのを防ぎ、ひいてはベルが元に戻るための助けとなった。もともとベルが同じ証を持つ秘せる人々の関係者であることに気づいており、何かとベルを追いかけ回していた。初めのうちはベルからただ怖がられていたが、この一件以降は互いの存在を認め合って、親友のようになかよくなる。

ドクトール

医師兼魔術師の男性。大きなマントに鳥のくちばしのようなマスクをつけている。野獣の城の地下深くに作られた迷宮で、イドールの研究を続けている。自らの研究のおかげで、イゾルデのような心優しいイドールが生まれたのだと自負している。もともとは、非人道的な実験に没頭して地位を追われたマッドサイエンティスト。それをキリルに拾ってもらったため、ドクトール自身は呪いを受けておらず、城へと参入したのも途中から。マスクを脱ぐとかなり若々しい色男だが、年齢は60歳を超えているらしい。キリルには恩があるが、それをまったく表には出さず、彼とはつねに対等な関係で接する。

場所

野獣の城 (やじゅうのしろ)

キリルやジゼール、リュカなど、巫女様の呪いで異形の姿に変えられた元人間たちが暮らしている場所。もともとは緑の国イシュに存在した城で、正式名称は「エグランティ城」。現在は大地から離れ、あらゆる時空を移動しており、移動中に城の敷地から落下すると、どの時間のどの空間に出るかわからない。200年以上前から呪いを解くために時空を旅し続けている。広間にある大時計が12時になったとき、城の時も止まることになっており、それまでに巫女様に打ち勝って呪いを解かなければ、キリルがヴィーヴィルと交わした契約どおり亜空間の彼方に飲み込まれ、消えてなくなる。作りは古いため、装備は一昔前のものだが、守りは堅牢。

サオイン

イドールの魂が彷徨(さまよ)うとされる場所。通常はイドールとなってここにたどり着いた者は意識を保つことはできないが、精霊の守りである秘せる人々の証を持つ者に限り、意識を保つことができる。この世界には、時折「虚夢」という存在が発生する。虚夢は、サオインにいる者に一つになろう、いっしょにいよう、一人はさみしいと呼びかけて捕えようとする。虚夢に捕われたら最後、精神も肉体もすべてが死に至り、元に戻ることはできなくなってしまう。

その他キーワード

イドール

「顔なし人」と呼ばれる者。野獣によって連れ去られた女性は、巫女様の力で顔を奪われて顔面が真っ黒な状態になり、自我をなくした状態で死んでしまう。通常遺体は土葬されるのが決まりだが、イドールは眼と口が生まれ、顔を求めて動き出し、生きた者を襲うといわれており、遺体を焼くことが決められている。

秘せる人々 (ひせるひとびと)

幻の精霊たち。周囲の草や花の色と同じ目や髪をしているといわれており、一族の者か一族に愛された者には、体のどこかにバラの花の形をした紋章を持っている。もともとは、秘せる人々たちが暮らす王国があったが、現在ではその存在はすでに失われ、伝説として語られていたことすら忘れられている。しかし、実は世界のどこかにまた存在している可能性が高い。

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