新進気鋭の社員と変わり者の上司
歴史に名を刻むドラマ制作を夢見ていた野村真希乃は、念願叶って「山手テレビ」に入社する。しかし、配属されたのは希望していたドラマ制作部ではなく、映画事業部だった。さらに、真希乃は「金曜深夜テレビキネマ館」という深夜番組の担当を命じられ、変わり者として知られる東崋山との連絡係も任されることになり、戸惑いを隠せない。崋山はさまざまな映画を手に入れ、「山手テレビキネマ室」で上映を続けているが、真希乃はその独特な仕事ぶりに疑問を抱く。そんな中、崋山は左遷されたプロデューサーの桑原に対して「お前には才能がない」と言い放ち、餞別としてアメリカ映画『風と共に去りぬ』を鑑賞させる。その映画でスカーレット・オハラの野心に触れた桑原は、根拠のない勇気が湧いたと崋山に感謝の意を示す。この出来事を通じて、真希乃は崋山の映画に対する情熱と卓越した洞察力に気づき、彼をよきライバルとして敬意と対抗心を抱くようになる。
さまざまな映画メディアを擁する「山手テレビキネマ室」
民間放送局「山手テレビ」の裏側には、昭和30年代に建設された旧社屋がある。その古いビルの地下には、「山手テレビキネマ室」と呼ばれる小さな映写室が存在する。かつては倉庫として使用されていたが、現在は部屋の管理者である崋山によって改装されている。内部はあまり清潔ではないが、崋山のこだわりにより、部屋の明るさや音響に関する配慮が行き届いており、映画鑑賞に最適な環境が整っている。さらに、部屋の奥にはフィルムやVHS、DVDなど、さまざまなメディアの映画ファイルが保管されており、崋山の指示で即座に上映が可能となっている。なお、山手テレビキネマ室に置かれているメディアは、バイヤーの小津美登里によって提供されている。
映画の力で人々の心を動かす
「山手テレビキネマ室」は、崋山の許可さえあれば誰でも自由に出入りできるため、実際に訪れた関係者は多い。たとえば、真希乃の同期入社である岡本憲明は、ジャーナリストとして活動していたが、上司の鬼頭プロデューサーとの関係がうまくいかず、悩んでいた。しかし、『オール・ザ・キングスメン』を鑑賞したことで、困難に立ち向かう勇気を得て、鬼頭と粘り強く交渉した結果、自らの主張を受け入れさせることに成功する。また、山手テレビに映画を配給する会社に所属する倉本篤は、優秀でありながらも食わせ者の父親に対して苦手意識を抱いていた。しかし、崋山の招待で『エルマー・ガントリー/魅せられた男』を鑑賞したことで、エルマーと父親の共通点に気づき、彼への認識を改める。このように、崋山が用意する映画は、鑑賞者が心の奥底で求めているものを的確に表現しており、この事実が、崋山が多くの人々から一目置かれる理由の一つとなっている。
登場人物・キャラクター
東 崋山 (あずま かざん)
関東最大の民間放送局「山手テレビ」の映画事業部に所属する男性。深夜映画番組「金曜深夜テレビキネマ館」のプロデューサーを務めており、旧社屋にある試写室「山手テレビキネマ室」の実質的な室長として「第三の男」と呼ばれている。映画を心から愛し、感動した際には人前で涙を流したり、大げさなボディランゲージを見せたりする。思ったことをすぐに口にするタイプで、他者の長所と短所を的確にとらえ、それを言葉で表現する能力に長けている。しかし、その率直すぎる物言いが誤解を招くことが多く、気まぐれな振る舞いも目立つため、山手テレビの上層部からは扱いにくい存在と見なされている。一方で、敏腕プロデューサーの桑原や岡本憲明、倉本篤など、東崋山が紹介した映画を通じて立ち直った人々からは、深い敬意を表されている。特に桑原からは「本当の天才」と称賛されるなど、人柄だけでなくその才能も高く評価されている。野村真希乃と出会った当初は、相性が悪く一方的にライバル視されていたが、崋山が映画の魅力を語ることで、ドラマ第一だった彼女の心境に変化をもたらし、やがて信頼を得るようになる。
野村 真希乃 (のむら まきの)
関東最大の民間放送局「山手テレビ」に入社した女性。入社当初はドラマ制作部を希望していたが映画事業部に配属され、深夜枠の「金曜深夜テレビキネマ館」の担当を命じられる。直属の上司・東崋山は有能である一方、問題社員として知られており、彼の連絡係を任されるなど、入社早々に閑職に追いやられる。明るく勝気な性格で、人当たりがよく正義感も強いため、周囲からは好感を持たれているが、思い込むと後先を考えずに突き進む癖があり、恋人の祐から度々注意を受けている。しかし、崋山の影響を受けて映画の魅力に引き込まれ、「山手テレビキネマ室」での作業に居心地のよさを感じて、次第に映画の世界に没頭していく。
クレジット
- 原作
書誌情報
テレキネシス 山手テレビキネマ室 全4巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2005-05-30発行、978-4091875914)
第2巻
(2005-12-26発行、978-4091875921)
第3巻
(2006-11-30発行、978-4091808042)
第4巻
(2007-06-29発行、978-4091812469)







