舟を編む

舟を編む

三浦しをんの小説『舟を編む』のコミカライズ作品で、『昭和元禄落語心中』などで知られる雲田はるこが作画を務める。神保町にある出版社、玄武書房の辞書編集部を舞台に、国語辞典「大渡海」の編纂に携わる人々の人間模様を描く。物語の時系列はおおむね前半と後半に分かれ、前半では言葉を愛する不器用な青年、馬締光也の成長を主軸に描かれる。前半から13年が経過した後半では、若手女性社員である岸辺みどりの成長に重点が置かれている。講談社「ITAN」で2016年34号(10月7日)から2017年40号(10月6日)にかけて連載された。

正式名称
舟を編む
ふりがな
ふねをあむ
原作者
三浦 しをん
漫画
ジャンル
出版・マスコミ
レーベル
KCx(講談社)
巻数
全2巻完結
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

上巻

玄武書房で長年辞書作りに携わってきた荒木公平は、定年退職を間近に控え、辞書制作の仕事を引き継げる人材を探していた。その矢先、荒木は同僚の西岡正志から、うってつけの人材の噂を聞き出す。それは第一営業部にいる馬締光也という青年だった。こうして、馬締、荒木、西岡らを中心に、新しい国語辞典「大渡海」の編纂作業が始まった。同じ頃、馬締は同じ下宿に引っ越してきた林香具矢に一目惚れし、初恋を経験する。そんな中、社内で「大渡海」の編纂が中止になるかもしれないという噂が流れているのを西岡が聞きつけ、編集部に暗雲が立ち込める。

下巻

営業部へと移動を命じられた西岡正志は、辞書編集部に心残りを抱きながらも、「自分にできること」を成し遂げようとする。それは、内向的な馬締光也が苦手とする、気難しい学者たちに対する外部折衝だった。西岡が詳細な引き継ぎ資料を残して辞書編集部を去ったあと、13年が経過する。辞書編集部に、岸辺みどりが新しいメンバーとして異動してきた。上司にあたる馬締の変人ぶりに振り回されながらも、彼女は少しずつ辞書作りの魅力にのめり込んでいく。長く冷遇されてきた辞書編集部だったが、ついに本格的な編纂作業がスタートし、「大渡海」は少しずつ完成に向けて進み出す。

関連作品

本作『舟を編む』は、三浦しをんの小説『舟を編む』を原作としている。変わり者だが言葉に対して強い熱意を持つ青年の馬締光也を主人公に、日の当たりにくい辞書編纂に携わる人々のひたむきな姿を描いている。タイトルには「辞書は言葉の海を渡る舟であり、編集者はその舟を丁寧に編んでいく」という意味が込められている。

メディアミックス

実写映画

2013年4月、本作『舟を編む』の実写映画版が公開された。監督を石井裕也が務め、馬締光也役を松田龍平、林香具矢役を宮﨑あおい、西岡正志役をオダギリジョー、荒木公平役を小林薫が、それぞれ演じた。

テレビドラマ

2024年テレビドラマ化。『舟を編む 〜私、辞書つくります~』のタイトルで2月18日からNHK BS、NHK BSプレミアム4Kにて放送。岸辺みどり役を池田エライザ、馬締光也役を野田洋次郎(RADWIMPS)が演じる。

登場人物・キャラクター

馬締 光也 (まじめ みつや)

玄武書房に勤める男性社員。年齢は物語開始時で27歳。玄武書房の第一営業部にいたが、自身の後継者を求めていた荒木公平の目に留まり、国語辞典「大渡海」の編纂に携わることになる。長身で痩せており、ぼさぼさの髪に眼鏡を掛けている。苗字のとおり「まじめ」かつ几帳面な性格で、整理整頓を得意としている反面、内向的で外部折衝を苦手としている。言葉にはこだわりがあり、最新の辞書に相応しい正確な語釈をいつも考えている。恋愛には奥手だったが、同じ下宿に引っ越してきた林香具矢と恋愛関係になる。物語の後半では、辞書編集部の「主任」の肩書を得ており、香具矢とは夫婦になっている。

岸辺 みどり (きしべ みどり)

玄武書房に勤務する若い女性。物語の後半で辞書編集部に異動してきた。入社後3年間は女性ファッション誌の部署におり、華やかな世界で自分磨きを怠らずにいた。そのため異動した当初は、地味な辞書編集部になじめず、上司にあたる馬締光也の変人ぶりにもとまどっていた。しかし、「大渡海」編纂に長年携わる人々に接するうち、次第に辞書作りの魅力に気づいていく。馬締たちに鍛えられる中で、語釈について真剣に議論するなど一人前の辞書編集者に成長する。また、「大渡海」の用紙の発注のため、「あけぼの製紙」の宮本慎一郎と交流を持つようになり、彼に好意を抱く。

荒木 公平 (あらき こうへい)

玄武書房に勤めるベテランの男性社員。小さな頃から言葉に興味があり、中学生の時に国語辞典の魅力に取りつかれた。大学卒業後は玄武書房に入社し、40年近い会社人生を辞書作りに捧げた。定年退職を前に、辞書作りを引き継ぐ人材として、馬締光也を第一営業部からスカウトする。定年後は嘱託社員となり、辞書編集部のサポート役に回る。会社の方針で「大渡海」編纂が中断しそうになった時は、根回しをして役員から譲歩を勝ち取った。

西岡 正志 (にしおか まさし)

玄武書房に勤める男性社員。年齢は物語開始時で27歳。玄武書房の辞書編集部で、荒木公平の部下として働いている。第一営業部にいた馬締光也を「辞書向けの人材」として荒木に紹介した。軽い軟派な性格で、周囲からはよく「チャラい」と評されている。恋愛に奥手な馬締に対しては、しばしば助言したり背中を押したりする。一方、「一つの物事に夢中になる」という馬締の特性については、自分が持ち合わせないものとして羨ましさも感じている。

松本 朋佑 (まつもと ともすけ)

玄武書房の辞書編纂に協力している国語学者で、老齢の男性。非常に温厚でいつも微笑んでいるが、辞書に懸ける思いは強く、「我々は辞書にすべてを捧げなければならない」と語るほど。新しい言葉や用例を書き留めるため、いつも専用のカードを持ち歩いている。甘党であり、辞書編集部のスタッフは好物のエクレアを差し入れするのを常としている。「大渡海」編纂に最終段階まで携わっていたが、完成目前にがんの診断を受け、出版を待たずに逝去する。

佐々木 (ささき)

玄武書房に契約社員として勤める中年の女性。口数が少なくそっけない印象で、あまり笑うこともないが、時折人間味のある表情を浮かべる。軟派な西岡正志にはやや当たりが厳しいが、馬締光也については彼女なりに気にかけている。言葉の用例採集カードの分類および整理を主に担当しており、テキパキとした仕事ぶりを見せる。

林 香具矢 (はやし かぐや)

馬締光也が住むアパートに引っ越してきた若い女性。すらりとした長身で、長い黒髪が印象的な美女。京都で板前修業をしていたが、上京して祖母であるタケのアパートに住むことになり、東京の料亭で働いていた。同じ下宿の馬締に一目ぼれされ、不器用なアプローチを受ける。変わり者だが一つのことに打ち込む馬締に徐々に惹かれていき、彼と交際することになった。物語の後半では、馬締と夫婦になっている。

タケ

馬締光也が住むアパートの大家を務める、老齢の女性。孫のような年齢の馬締のことをよく気にかけており、食事を作ってやるなど世話を焼いている。上京してきた孫の林香具矢を、自分のアパートに住まわせる。馬締が香具矢に一目ぼれしたことを察すると、ウソをついて馬締と香具矢を二人きりにしようと仕向けるなど、恋を応援する立場に回る。

三好 麗美 (みよし れみ)

西岡正志の通う大学のサークルで後輩だった若い女性。もともと西岡に恋愛感情はなかったが、コンパのあとに酔った勢いで肉体関係を持ってしまう。以来、ほとんど恋人のように互いの部屋を行き来するようになった。ただし、西岡には恋人とはみなされず、「腐れ縁」と評されている。メイクの技術が並はずれており、化粧を落とすと別人のようになってしまう。内面に不器用さを抱えている西岡にとってはよき理解者でもある。

宮本 慎一郎 (みやもと しんいちろう)

製紙会社「あけぼの製紙」の営業部に所属する若い男性。あけぼの製紙が「大渡海」の本文用紙の発注を受けたため、たびたび玄武書房の辞書編集メンバーと打ち合わせを行う。自分の仕事に誠実な好青年であり、「理想的な辞書の紙質」について熱心に語るあまり、初対面の岸辺みどりを引き気味にさせていた。しかし、「大渡海」出版の仕事を通じてみどりと徐々に打ち解けていき、やがて交際するに至る。

場所

玄武書房 (げんぶしょぼう)

神保町に所在する出版社。自社ビルは本館と別館に分かれており、辞書編集部は別館にある。辞書以外に、女性ファッション誌や子供向けゲームの百科事典なども手掛けている。既に主力の国語辞典を出していたが、新たに「大渡海」の企画を立ち上げる。採算の取りにくい「金食い虫」である辞書編集部は社内での発言力も弱く、上層部の意向で「大渡海」の企画が立ち消えになりかける場面もあった。

その他キーワード

大渡海 (だいとかい)

玄武書房が新たに企画した国語辞典。「辞書は言葉の海を渡る舟」という思いから、荒木公平と松本朋佑によって名付けられた。荒木が定年退職を控えていた時期に企画が動き始め、荒木は編纂の主力として馬締光也を第一営業部から引き抜いた。玄武書房上層部が協力的でなく、編纂作業には時間がかかっていたが、企画から13年を経て完成に至る。

クレジット

原作

三浦 しをん

書誌情報

舟を編む 全2巻 講談社〈KCx〉

第1巻

(2017-07-07発行、 978-4063809329)

第2巻

(2017-11-07発行、 978-4065104651)

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