ヒヤマケンタロウの妊娠

ヒヤマケンタロウの妊娠

舞台は男性も妊娠・出産できるようになった世界。世間の不条理と戦い、男性の妊娠・出産が応援される世の中にするべく奔走する独身エリートサラリーマン・桧山健太郎と、彼の行動に影響されて変化していく周囲の人々の姿を描いた、妊娠・出産を巡るヒューマンドラマ。「BE・LOVE」2012年第17号から第23号にかけて掲載された作品。

正式名称
ヒヤマケンタロウの妊娠
ふりがな
ひやまけんたろうのにんしん
作者
ジャンル
社会問題
 
妊娠・出産・育児
レーベル
BE LOVE KC(講談社)
関連商品
Amazon 楽天

世界観

舞台は現代の日本。女性だけでなく、男性も妊娠が可能になって約10年が経過している。ただし、男性が自然妊娠する確率は女性の10分の1程度。ほとんどの一般男性にとって妊娠はまだまだ他人事ととらえられており、妊娠した男性への無理解や偏見なども多く世にはびこっている。男性の妊娠については医学的に未だ不明な点が多いため、妊娠週数は母親側の最終月経を基準に算出される。また誤解も多く、妊娠した男性はゲイやオネエキャラと混同されることもあるが、男性であっても女性であっても妊娠するのは相手が異性の場合のみとなっている。男性が妊娠した場合、女性と違って産道がないため、出産はすべて帝王切開で行われることになる。また、中絶を希望する男性も多いが、実際のところ中絶方法に関しては明確に確立されていないため、開腹手術が一般的となっており、1週間から10日程度の入院が必要となる。それらを鑑み、現状では出産よりも中絶手術の方がリスクが高いとされている。育児する男性が「イクメン」と呼ばれるようになったことから派生して、子供を産んだ男性は「ウムメン」と呼ばれ、妊娠している男性は「妊夫」と表記される。

あらすじ

男性が妊娠、出産できるようになって早10年が経過した。それでも世間の一般男性にとって妊娠はまだまだ他人事だった。そんな中、エリートサラリーマンの桧山健太郎は、自身の妊娠が判明して動揺を隠せずにいた。子供嫌いの健太郎は中絶しようと考えていたが、実際に診察を受けてみると、医師によれば出産よりも中絶手術の方が危険を伴うという。話を聞いた健太郎は、一転出産を検討するようになる。それ以来、健太郎は食事や飲酒、満員電車への乗車など、まったく気にならなかったことが気になり始め、さらに男性の妊娠に対する偏見を目の当たりにする。また、その後に妊娠が会社にばれたことで、社内から好奇の目にさらされ、女性が妊娠すればお祝いムードになるのにと、笑い者にされたことに憤慨。この悔しさをきっかけに健太郎は出産を決意し、会社での立場や妊夫という珍しさなど、利用できるものはすべて利用し、自分の居場所をつくってみせると胸に誓う。そして、妊娠中の男性、子供を産んだ男性、育児中の男性のためのカフェ「PaPa&Kids」の企画を立ち上げ、自らの妊娠をマスコミに明かすことで注目を集めることにより、サービス業界で革命を起こそうと奮闘する。そんな健太郎の世の中を変えたいという情熱が、川端みずき内海翼をはじめとするさまざまな人たちの気持ちに影響を及ぼし、変化を与えていく。さらに周囲の動きが巡り巡って、健太郎自身にも変化を及ぼすことになる。

関連作品

漫画

本作『ヒヤマケンタロウの妊娠』の続編に、坂井恵理の『ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編』が講談社「BE LOVE KC」より刊行された。こちらは本作『ヒヤマケンタロウの妊娠』から3年後を描いた物語となっている。

メディア化

ネット配信ドラマ

本作『ヒヤマケンタロウの妊娠』のネット配信ドラマ版『ヒヤマケンタロウの妊娠』が、2022年4月から「NETFLIX」で配信された。監督は箱田優子、菊地健雄、脚本は山田能龍、岨手由貴子、天野千尋らが務めている。キャストは、桧山健太郎を斎藤工、瀬戸亜季を上野樹里が演じている。

登場人物・キャラクター

主人公

レストランチェーンで企画部部長を務める独身男性。年齢は32歳。行動力があり、仕事ができるいわゆるエリートサラリーマン。社内では人望があり、部下からの信頼も厚い。ある時、独身でありながら妊娠していること... 関連ページ:桧山 健太郎

川端 みずき (かわばた みずき)

同じ会社に勤める同僚・たかちゃんと交際中の社会人の女性。たかちゃんには彼女がいることを知っているが、彼女とは別れるというたかちゃんの言葉を信じ、待ち続けている。そのため、現状のたかちゃんとの関係は会社には明かしていない。ある時、自分が妊娠していることが発覚。たかちゃんに報告すると、今度こそ彼女に話をつけて別れるから結婚しようと思いがけずプロポーズされた。正直期待していなかったため、結婚の言葉には驚いたが、素直に喜ぶことにした。しかしその直後、別れ話を切り出したら彼女が手首を切って自殺未遂したと報告を受け、早々と結婚話にストップがかかった。つわりで体調も悪い中、会社に妊娠を打ち明けることもできないまま待たされていた時、駅で桧山健太郎と知り合った。ひと目で健太郎が妊娠していることに気づき、満員電車に乗ることを躊躇していた健太郎を女性専用車両に招き入れた。その後、偶然にも健太郎に再会することになり、自分の現状について打ち明けた。同時に、たかちゃんから結婚は待ってほしい、お腹の子はあきらめてほしい、金銭面は責任を取るからとメールで連絡を受けた。男性にとってしょせん妊娠は他人事に過ぎないのかと、理解のない男性への苛立ちを健太郎にぶつけるが、それがただの八つ当たりであることに気づき、恥じ入ることになった。結局、たかちゃんと彼女の結婚話が進んでいることを知り、妊娠したのが自分でよかったと捨て台詞を吐いて関係を清算。健太郎のように強くしたたかになりたいという気持ちと、妊夫に負けたくないという反骨精神から、子供を産むことを決心した。のちに会社を辞め、無事に出産。シングルマザーとして子供を育てながら、友人と共に設立した会社「smile☆mama」を軌道に乗せるために必死に立ち回っており、ベビーカーで電車に乗ることが大変だったという川端みずき自身の経験を糧に、都心で借りて都心で返せるレンタルベビーカー事業に力を入れている。

たかちゃん

川端みずきと交際中の男性。一方で大学時代から交際している彼女もおり、みずきとは二股状態を続けている。みずきに対しては、彼女とはもうだめだから別れると言ってあるものの、実際には別れていない。みずきとは会社の同僚でもあるが、会社にはみずきとの交際を内緒にしている。ある時、みずきの妊娠が発覚。一瞬うろたえたものの、今度こそ彼女に話をつけて別れるから結婚しようとプロポーズした。しかし彼女に別れ話を切り出すと、手首を切って自殺を図られてしまう。幸いにも未遂で終わったが、それを理由にその後もみずきを放置し、最終的には結婚は待ってほしい、お腹の子はあきらめてほしい、金銭面は責任を取るからと、顔を合わせることなく大事な話をメールでの連絡で済ませた。その後、彼女の方と結婚話が進んでいることがみずきにばれ、別れを告げられることとなった。

内海 翼 (うつみ つばさ)

同じ学校に通う里美と交際中の男子高校生。つい先日自分が妊娠していることが発覚したが、両親の勧めで中絶手術を受けた。学校や友人たちには盲腸炎で入院し、手術を受けたと説明してあり、自分の家族と里美の家族以外には妊娠、中絶の事実は伏せてある。この一件以来、特に母親がまるで何事もなかったかのように振る舞うようになったことが引っかかっており、母親が自分を妊娠した時、本当に喜んでくれたのだろうかと、疑念を抱くようになってしまう。ある時、通学時に同じ電車に乗っていた桧山健太郎と知り合った。いっしょにいた友人たちが、妊娠している健太郎を見て嘲笑するなど、明らかに馬鹿にしたような態度を取ったことで、複雑な心境を抱くが、その後カフェ「PaPa&Kids」のオープンに向けて奔走する健太郎に遭遇。男性の妊娠と出産について理解のない世の中を変えたいという、強い気持ちを持っていることを知った。そんな健太郎の言葉に心を動かされ、自分も行動を起こさなければという衝動にかられて、ギクシャクしていた里美に自分の気持ちを伝え、思いやることができた。

里美 (さとみ)

同じ学校に通う内海翼と交際中の女子高校生。つい先日、翼が妊娠していることが明らかになった。翼はその後、内密に中絶手術を受けたが、里美の中で翼に対する申し訳なさや、いなくなってしまった赤ちゃんに対して、もやもやした複雑な思いが渦巻いている。その後母親からは、翼と別れた方がいいと言われるようになり、学校以外の外出も禁じられるなど制限を受けることになる。里美は翼とのセックスが好きだと思う一方で、いつか自分が妊娠してしまうのではないかという恐怖心も感じていたことを明かした。

瀬戸 亜季 (せと あき)

フリーライターとして働いているアラサーの女性。周囲が結婚や出産に焦り始める中、自分は結婚にも出産にも興味はない、子供は嫌いとつっぱね、我が道を行っている。同世代で独身の女友達には共感してもらえないが、子連れで居酒屋に来るファミリーを敵視し、子育てがまともにできないなら子供を産むなと周囲を攻撃しまくっている。桧山健太郎とは、行きつけの飲み屋で出会い、酔ったテンションで話しかけたことをきっかけに意気投合し、その流れで体の関係を持った。それ以来恋人としてではなく、互いに会いたいときに会うだけの関係を続けていた。ある時、健太郎から自分の子を妊娠したと告げられ、産んでもいいかと答えを求められた。認知も養育費も求めないからと言われ、咄嗟のことで曖昧な返事しかできなかったが、その後、同時期に友人女性の妊娠が判明して結婚を決めたという話を聞き、自分が責任を取って結婚しようと健太郎に言うべきだったのではないかと反省する。さらに、片親や独身であること、子供を持たないことを不幸だという世間の常識はただの偏見であり、間違っていることはわかっていたはずなのに、当事者になったとたん揺らいでいる自分に気づいた。だが、健太郎が自分との結婚を望んでいないことを察し、形を変えて子供の母親としてフォローしていくことを誓った。これを機に考えを改め、子供に対してもその保護者に対しても寛容になり始めた。その後、仕事のPRのためにテレビ出演などを経て妊夫であることを明かした健太郎が、子供の母親が誰だかわからないシングルファーザーだとマスコミに突っ込まれ始めたため、自分が子供の母親だと名乗り出ることで助け舟を出した。それ以来、何かと一人で頑張ろうとしがちな健太郎を陰ながらフォローしつつ、健太郎とはいい関係を築いていく。また、健太郎の妊娠と出産に伴い、妊夫について細かな取材を行い、執筆した男性の妊娠に関する本「妊夫」を出版した。

宮地 紀子 (みやじ のりこ)

パート勤めの主婦。夫のパパとのあいだに自らが産んだ幼稚園児の息子・タクヤがおり、現在は育児に奮闘中。そんな中、夫の妊娠が発覚。自分が妊娠した時には買い物一つ手伝おうとせず、家事を行えないことに文句を言うだけでいっさい手を貸そうとしなかったのに、パパは自分のことになると、つわりがつらいという理由で会社を休み続け、仕事も家事もしないで横になってばかりいた。二人目を自分が妊娠できなかったという悔しさもあって、男性の妊娠を認めたくないと考え、夫が妊娠した事実を周囲にも知られたくない思いがある。勤め先は近所のスーパーマーケットだが、まだ仕事を始めたばかり。家事も仕事も任されっぱなしの日常に、まだ体がついていかず、イライラをため込んでいる。パート先の店長と話す中で、店長夫婦が共働きで、家事を分担していることなどを聞き、羨む気持ちが沸き上がる。しかし、後日店長の妻と話した際、店長夫婦には子供ができず悩んだ時期があったことを知る。その時に目にしたタクヤの行動をきっかけに、パパが妊娠と出産を怖いと思っているのではないかと気づき、妊娠と出産を経験した先輩として、今の夫の気持ちに寄り添うことができた。

パパ

宮地紀子の夫。妻の紀子が出産した幼稚園児の息子・タクヤがおり、現在はパパ自身が第二子を妊娠中。つわりがひどく、連日にわたって会社を休んでおり、家の中で横になってばかりの日々を送っている。紀子に何を求めても、冷たくあしらわれるばかりで、話すら聞いてもらえず、優しくしてもらえないことに不満を感じている。もともと口数が少ない方だったが、妊娠が明らかになって以来さらに口数が少なくなった。また、以前は紀子が妊娠中だろうが、高熱を出そうが、文句をいうばかりで家のことはいっさい手伝おうとしなかった。ある時、桧山健太郎が立ち上げた妊夫やウムメン、イクメン向けカフェ「PaPa&Kids」のことを知り、興味を持った。実際に調べてお店に足を運び、出産経験のある男性スタッフと話をするなど、PaPa&Kidsで過ごす時間が増えていく。自分の妊娠により、紀子との関係は悪化する一方だったが、紀子が出産に向けて自分が抱いている不安に気づき、寄り添ってくれたことで、自分の気持ちをさらけ出して夫婦関係を取り戻すことができた。

店長 (てんちょう)

宮地紀子が勤めるスーパーマーケットの店長を務める男性。気遣いのできる優しい性格の持ち主。店長の妻とは夫婦共働きのために家事を分担し、自分が朝ごはんとお昼の弁当作りを、妻が夜ご飯を担当している。実は子供を望んでいたが、夫婦共に授かることができなかった。今は夫婦二人で仲睦まじく過ごしている。

店長の妻 (てんちょうのつま)

宮地紀子が勤めるスーパーマーケットの店長の妻。夫婦共働きのために家事を分担し、夫が朝ごはんとお昼の弁当作りを、自分が夜ご飯を担当している。実は子供を望んでおり、不妊治療も受けていたが、時間もお金もかかるためにやめてしまい、結局夫婦共に子供を授かることはできなかった。そのため妊娠の話や妊婦、妊夫に対してはネガティブになりがちで、妊娠にまつわるさまざまな言い伝えなども、すべて信じないようにしている。夫と散歩中に紀子と会って話をした際、パートナーの妊娠について恥じ、知られたくないような態度を取ったことに気づいたが、自分たち夫婦のことを話して妻でも夫でも妊娠できるのが羨ましいと、本心を滲ませた。

桧山 幸太郎 (ひやま こうたろう)

桧山健太郎が産んだ息子。働きながら育児する健太郎と、ピンチヒッター的な存在の母親・瀬戸亜季の協力のもと、大切に育てられた。健太郎から生まれて30年後、妻のアオイとのあいだに子供ができた。授かったのは桧山幸太郎自身であり、自分の妊娠を心から喜んだ。

佐藤 (さとう)

桧山健太郎の部下の男性。ある時、健太郎が産婦人科に一人で入っていくところを見かけて健太郎の妊娠を察し、社内に言いふらした。ほかの社員たちと共に男性の妊娠を馬鹿にし、陰で健太郎を笑い者にしていたが、のちに佐藤自身の妊娠が判明した。交際中の彼女とのあいだにできた子供だったが、彼女に婦人科系の持病があったため、産んでほしいと言われた。自分も将来的に子供が欲しいと思っていたことから、自分が出産することを決めて彼女と結婚した。それを機に男性の妊娠について考えを改めたが、出産を決意できた背景には、健太郎の成功も大きく影響している。

場所

PaPa&Kids (ぱぱあんどきっず)

桧山健太郎が企画して実現させたカフェの名称。妊娠中の男性「妊夫」、子供を産んだ男性「ウムメン」、育児中の男性「イクメン」のためのカフェというコンセプトのもと、オープンした。従業員は全員子供のいる男性で、男性用トイレにも授乳室やおむつ替えベッドを設置。さらに託児所を併設し、子連れで来ても親だけでゆっくりと酒や食事を楽しめる空間となっている。

書誌情報

ヒヤマケンタロウの妊娠 講談社〈BE LOVE KC〉

(2013-01-11発行、 978-4063803747)

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