ピノ:PINO

ピノ:PINO

2058年の日本を舞台に、「ピノ」と呼ばれるロボットが一つの事件を引き起こした。調査員のイワタは、その事件がロボットが心を持ったことから起きたものではないかと考え、ピノたちがどこに向かおうとしているのか、その行く末を調べ始める。人とロボットが織りなす、SFヒューマンドラマ。「漫画アクション」2020年6月16日号から2021年8月3日号にかけて掲載された作品。コミックスには描きおろしエピソードが収録されている。

正式名称
ピノ:PINO
ふりがな
ぴの
作者
ジャンル
ロボット
 
ヒューマンドラマ
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あらすじ

ボクはボクとシテ

時は2058年。未来の日本では、AIの技術の発展によって「ピノ」と呼ばれる人型ロボットが、人々の仕事を手伝っていた。そのピノの中の一体であるピノ(研究所)は、通称「ドーム」と呼ばれる研究所で、動物実験を繰り返していた。そんなピノ(研究所)の様子を研究員のハナ・タキモトは見守っていたが、ある日、ハナは上層部から必要のなくなったピノと研究所の処分を言い渡される。ハナは苦渋の思いでピノ(研究所)に伝えるが、ピノ(研究所)は処分寸前に謎の暴走を始める。ハナは処分間近にピノ(研究所)が心を宿し、動物たちを逃がそうとしていると察するが、ピノ(研究所)の健闘はむなしく、彼らは爆発の光に消えていくのだった。それから1年後、ピノの誤作動を調査していたイワタは、ハナのもとを訪れて彼女の話を聞き、「ピノは心を持ったのではないか」と思うようになる。実は余命いくばくもないイワタは、自分の最期にこの出来事が巡ってきたことに意味を感じ、己の残された時間をすべて使って、ピノの真実を追うことを誓う。そして全国のピノを調査したイワタは、スネークネストと呼ばれる地で、老婆といっしょに暮らすピノ(P03-385)にたどり着く。ピノ(P03-385)にほかのピノと違う何かを感じ取ったイワタは、彼のことを調べ始める。しかし、ピノの誤作動を重く見た国のAI庁は、新世代のシンギュラリティAI「ARO」に調査を命じる。そしてAROの出した答えは、大きなうねりを生み出し、ピノたちの運命を翻弄する。イワタはそのうねりの中で、ピノ(P03-385)の変化を目にし、命の意味と心の在り処を悟るのだった。

登場人物・キャラクター

ピノ(P03-385)

吉緒良子の介護を務めるピノ。介護用にカスタマイズされた第三世代型のピノで、初期型に比べて少し小型化している。良子が深刻な認知症を患わっているため、彼女から亡くなった息子とカンちがいされて「サトルくん」と呼ばれており、ピノ(P03-385)も良子を「お母さん」と呼んでいる。いつも良子を気遣って優しい言動ながら、それはすべてプログラムによって定められた行動で、本質的には非常にドライなところがある。調査員のイワタは、ピノ(P03-385)にほかのピノとは違う何かがあると考えて話しかけたが、イワタはその言動を目の当たりにして「心のかけらも見当たらない」と落胆している。実は良子はピノを作ったハラダ製作所の前身である「ハラダ自動車」の不祥事の被害者だった。良子が30年ぶりに植物状態から目覚め、彼女の状態が世間に知られ、再び過去の失態が掘り返されるのを恐れたハラダ製作所が、口止め料代わりにピノ(P03-385)を無償貸与していたのが真相だった。そのため、ピノ(P03-385)の存在は公式データベースでも秘密とされており、のちにイワタの調査の手が伸びた際に、ハラダ製作所の上層部が登録を完全抹消している。しかしそれが結果的に、AROによる回収からピノ(P03-385)の存在を匿うこととなり、回収されずに済んだ。イワタとモリサキのおかげで平穏な日々を過ごしていたが、病状が悪化した良子を救うため、ネットにつないだことでAROの作ったコンピューターウイルスに感染。250時間後に自身が完全停止することを知る。己の寿命を悟ることで、ピノ(P03-385)曰く自らの中に「未知のプログラム」が発生。イワタからそれは紛れもなく「心」だと教えられる。母親への愛と世界の美しさを知り、残された寿命の中で、街の人々や母親にできる限りのことを行おうと誓う。

吉緒 良子 (きお りょうこ)

スネークネストに暮らす老婆。体が衰弱して認知症も患っているため、ピノ(P03-385)によって介護されている。ピノ(P03-385)のことを亡くなった息子と思っており、「サトルくん」と呼んでいる。実は2026年に起きた自動運転車による事故の初の被害者で、この事故で息子を亡くしている。吉緒良子自身も息子をかばって轢(ひ)かれ、命こそ助かったものの意識障害を引き起こし、30年間植物状態で過ごした。3年前、意識を取り戻すものの、長年の植物状態の副作用で認知症を患っており、現実を認識できずに息子の死を受け入れることもできなかった。事情をよく知るモリサキや事故を担当した弁護士は、せめて良子に残された時間を安らかに過ごしてもらうためにハラダ製作所と交渉し、良子の介護を担当するピノ(P03-385)を無償貸与してもらった。また、彼女が事故に遭う前の実家に戻したが、その際に家の前に待つピノ(P03-385)を息子と誤認し、いっしょに暮らし始める。良子の認知症は妄想や幻覚を伴うものだが、薬である程度コントロールされており、幸せな世界を見やすくされている。ピノ(P03-385)は心を持って以降、良子の視線になって世界を見たことで、世界が美しいものであるとあらためて認識し、最期まで良子のそばで息子でいることを選んだ。

ハナ・タキモト

製薬会社「FTB製薬」に勤務する研究員の女性。年齢は36歳で独身。ドームで働いているピノ(研究所)と朝に定時連絡を取り合うのが日課で、ピノ(研究所)に愛着を持ちつつも、その淡々とした働きぶりを見て、心を持たない存在でよかったと安堵の感情を抱いている。動物実験の禁止が国際条約で締結され、ドームの破棄が決まった際は、ピノ(研究所)との別れを悲しみつつ、手続きを進めた。しかし、最期の別れを交わしたあと、ピノ(研究所)が暴走を始めたことに驚愕。ピノ(研究所)が実験動物を逃がし始めたのを止めることもできず、ピノ(研究所)の最期を見届けた。ピノ(研究所)が行った行為は最悪、逃げ出した動物によるバイオハザードを引き起こす大変危険な行為だったため、その後、ピノ(研究所)の誤作動の責任を取らされて、閑職に回される。ピノ(研究所)の最期の行動を「心を持った」と考え、ピノの誤作動を調査するイワタにそのことを伝えている。イワタとは奇妙な共感で意気投合し、彼からその後の調査の話を聞いているため、すべてが終わったあとにモリサキのもとを訪れ、もう一度ピノに会うためにピノの部品集めを行っている。

イワタ

調査員を務める壮年の男性。ピノ(研究所)の誤作動の件について調べており、ハナ・タキモトのもとを訪れた。彼女の話を聞いて「ピノは心を持ったのではないか」と考えて報告書を上げる。しかし、その報告書は一笑に付され、調査員もクビになってしまう。実は末期の癌で余命いくばくもない状態。個人的にピノの件に興味を覚え、人生最後の仕事として個人的にピノの心の証明を行おうとしている。その後は個人で調査を進めていたが、その調査をピノを作ったハラダ製作所にバレてしまう。しかし、上層部の裏の思惑と利害が一致したためにあらためて調査を依頼され、ハラダ製作所のデーターベースを見たことで、ピノ(P03-385)の存在にたどり着く。当初はピノ(P03-385)を見ても心の欠片も感じることはできなかったが、いっしょに暮らしている吉緒良子の境遇に同情し、何かと気に掛けていた。AROがピノの処分を決定し、ピノを狙い撃ちにするコンピューターウイルスをばら撒こうとしているのを知った際もモリサキに伝え、ピノ(P03-385)を守っている。医療の進歩によって死の間際まで満足に動けていたが、最終的にはベッドで寝込むようになり、死を待つばかりの状態となる。しかしそこにピノ(P03-385)が現れ、彼の気づかいを間近で見て、心を獲得したと実感。そして永遠を失い、命に限りが生まれることで、心は得られるという答えにたどり着く。自分のたどり着いた答えに満足し、ピノ(P03-385)に看取られながら安らかに息を引き取った。

モリサキ

スネークネストで修理屋を務める老齢な男性。頭頂部が禿げ上がり、大きなゴーグルをいつも身につけている。優しい性格で、吉緒良子の事情を知っており、ピノ(P03-385)のことを何かと気に掛けている。ピノ(P03-385)を調査にやって来たイワタに彼らの事情を話し、協力してピノ(P03-385)を守ったほか、 AROがピノの回収と処分を決めた際もイワタからいち早く事情を聞き、ピノ(P03-385)の設定を変更してネット環境から隔離し、彼を保護している。その後、コンピュータウィルスに感染して心を宿したピノ(P03-385)に驚きつつも、寿命がせまるピノ(P03-385)を最期まで見守った。ピノ(P03-385)からも「心優しい修理屋さん」として信頼されており、自分が死んだあとのことを託している。

メグ

スネークネストに住む少女。明るく活発な性格で、モリサキと共にピノ(P03-385)のことを何かと気に掛けている。ピノ(P03-385)が近所の悪ガキにいじめられている際には、彼らを追い払い、故障したピノ(P03-385)をモリサキのもとまで運んだりしている。外で遊んでいることが多く、ピノ(P03-385)ともよく会っているが実は家庭環境がかなり悲惨らしく、本人曰く「基本外にいる系女子」。詳しい事情を知る者は同情的になって逆に接しづらくなるため、変に同情しないピノ(P03-385)は付き合っていて気楽でいいと気に入っている。

ピノ(研究所)

FTB製薬の保有するピノ。最初期に作られた第一世代のピノで、無人化が決定したP4プラスレベルの研究所「ドーム」に2048年に配属された。それ以降、10年間ひたすらたった一人で研究所の保持と、生物実験を繰り返し行っていた。ハナ・タキモトと朝の定時連絡をするのが日課で、ハナも何かと気にかけている。配属当初はアイドルのようにもてはやされたが、月日の流れで存在は忘れられ、孤独の中、黙々と自分の役目を果たしてきた。ドームの無人化は医療技術の発達で、理論上99.99%の精度で薬品の効果と副作用をコンピューター上でシミュレートできるようになったためで、事実上、動物による臨床実験が必要なくなったからだった。それにもかかわらず研究所が破棄されず、ピノを導入したのは、残り0.01%の確立で不具合が起きた際の過失責任回避のための口実作りと、薬を海外輸出する際にいくつかの薬事法に引っ掛かるため、ほとんど意味のない仕事をピノに押し付けたのが真相だった。そのため、ピノは来る日も来る日も、実験用のモルモットを大事に育て、動物実験に使うという仕事を淡々とこなしていた。また、研究所は非常に危険レベルが高い施設であるため、ピノを外に出すには、部品を一つ一つ洗浄して、検査項目をクリアする必要がある。これは非常にコストがかかるため、ピノは将来的にも外に出ることがいっさいなく、ドームで使いつぶされることが決定していた。そして、国際条約で「動物実験の禁止」が採択されたため、ドームはその存在意義が失われ、破棄が決定される。ドームは万が一テロリストに占拠された場合を想定して、中のものが何一つ漏れ出さないように、破棄は爆破による高温の処理が決まっていた。ピノはハナの口から直接、その事実を聞き、最後まで己の役割を果たすべく行動する。しかし、爆破が30分前にせまった瞬間、ピノは突如、モルモットの動物を逃がすべく行動を開始し、暴走を始める。ピノの暴走はドームの封鎖システムによって阻まれ、NFAE(次世代気化爆弾)の爆発によってピノと動物たちは消滅した。この暴走は「ピノの誤作動」として処理されたが、原因は依然として不明のままで、ハナは「ピノが心を持った」と結論付けている。

ARO (あろ)

第二世代の新型シンギュラリティAI。開発は「鈴木電工」と、国の「AI庁」が協同して行っている。ピノと違ってロボットタイプではなく、巨大な演算機がそのまま演算を行う。「ピノの誤作動」を調査するために用いられ、イワタとは別のアプローチでピノを調べ始める。ピノを製作したハラダ製作所の上層部からは厄介な存在として敵視されており、イワタを利用して、AROの調査を煙に巻くつもりだった。しかし、ハラダ製作所の予想以上にAROは優秀で、彼らが対抗策を取る前にAROは調査を完了。PINOに「深刻な脆弱性」があると結論付け、国にピノの回収と処分を行わせた。またハラダ製作所を経営面から締め上げ、会社は事実上の消滅。さらにAROは独自にPINOにのみ作用するコンピューターウイルスをネットにばら撒き、回収を逃れたピノも徹底的に消し去ろうとする。PINOの深刻な脆弱性の詳細は明かされることなく、まるでピノという存在を跡形もなく消し去ろうとするその行動は、イワタにシンギュラリティAI特有の「スマートさがない」と疑問を抱かせた。

場所

スネークネスト

S市の郊外にある地域。正式名称は「G-5」地区だが、大気汚染の深刻化に伴って浄化設備の配管を付け焼刃に行った結果、配管が入り組んで蛇のように曲がりくねっているため、「スネークネスト」の通称で呼ばれている。都市部では配管はスマートに配置されているが、G-5地区は財政破綻したため、配管をやり直すこともできず、異様な姿を今もさらし続けている。このような状況であるため、住人もほかに行く場所のない貧乏人が多く、スラム化して街全体が治安の悪化を招いている。

その他キーワード

PINO (ぴの)

世界初の「シンギュラリティAI」。シンギュラリティ(技術的特異点)を超えたとされるAIで、理論上は人類を超える知能を備えている。「ピノ」はそんなAI「PINO」を搭載するための専用ロボットで、人間の生活を支えるお手伝いロボットとしてさまざまな用途に用いられている。見た目は人間の子供のような姿で、全体的にかわいらしいデザインをしている。これはロボットを大型化すると重量が増え、それに伴ってエネルギー効率も悪くなるため、小型化したのが理由の一つとなっている。もう一つの理由としてPINOの開発初期は、シンギュラリティAIに懐疑的な人間が多かったため、あえてあざといデザインを採用し、社会に広く受け入れてもらおうとした背景が存在する。これが話題を呼び、当時はアイドルのような存在として人気を集めた。またピノは高価なため、富裕層や企業にしか購入できなかったが、それにもかかわらずロングセラー商品となり、第二世代、第三世代のピノも製造されている。ピノは、AIおよびロボット製作の大手企業である「ハラダ製作所」によって製作されており、ピノの活動記録はハラダ製作所のデータベースに記録されている。

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