ファンタジー老人ホームばるはら荘

ファンタジー老人ホームばるはら荘

王立特別養護老人ホーム、通称「ばるはら荘」には、かつて魔王を倒した英雄たちが歳を重ね、老いた姿となって集っていた。そこに新人介護士としてやってきたマリーは、何を隠そう、英雄たちによって倒された魔王の孫だった。無念の最期を遂げた祖父の敵を討とうと、意気込んでやってきたマリーが、一筋縄ではいかない介護の最前線で奔走する姿をコミカルに描いた、命がけの異世界介護ファンタジー。「MAGCOMI」で2019年4月から配信の作品。コミックス各巻の巻末には、描き下ろしエピソードも収録されている。

正式名称
ファンタジー老人ホームばるはら荘
ふりがな
ふぁんたじーろうじんほーむばるはらそう
作者
ジャンル
ファンタジー
 
老人介護
関連商品
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あらすじ

第1巻

ばるはら荘」と呼ばれる王立特別養護老人ホームには、たくさんの老人たちが職員の手を借りながら日々を過ごしていた。この老人ホームの入居者たちは、過去の大戦において、魔王討伐の功績が称えられた英雄だった。しかし時が過ぎ、平和になったこの世界ではただの老害に成り下がっていた。そんなばるはら荘にある日、新人介護士のマリーがやってくる。実は彼女は、過去に英雄たちの手によって倒された魔王の孫であった。無念の最期を迎えた祖父の敵を討つため、今や無力となった元英雄たちを葬り去ろうと、意気込んでこの老人ホームへと乗り込んできたマリーだったが、入居中の元英雄たちは、多少の衰えはあるもののまだまだ健在だった。同時にマリーは、このホームの職員たちが、粒ぞろいの能力者であることを知る。「竜を狩る者」の称号を持つ武道家のテオや、四大精霊を使役する寵愛の踊り子のヒルデガルドをはじめとする猛者が集い、さらにマリーの教育係となったヴィルヘルムは、魔王を倒した勇者の孫だという。想像を遥かに超える困難な状況に愕然としながらも、いつの日か必ず仇討ちを果たすことを強く胸に誓い、マリーは介護士としてさまざまなことを学びながら、スキルアップを図っていく。そして、介護の日々を送るうちに、マリーは介護士としての地位を確立し、ばるはら荘の入居者たちとの距離も不思議と縮まっていくのだった。

第2巻

手紙や小包の配達から始まり、翌朝までさまざまな仕事をしなければならないばるはら荘の夜勤は、精神的にも肉体的にもかなりハードであるにもかかわらず、広い施設内を四人の職員だけで回さなくてはならない。その日、マリーイズモと初めて夜勤を務めることになり、ヴィルヘルムティアナの二人組と二手に分かれて対応することになった。深夜23時に消灯時間が過ぎ、マリーがイズモと共に2時間に1度の巡視を行っていると、目の前に入所者のオスカー・ルーンが姿を現した。徘徊癖のあるオスカーは、家に帰ろうと施設内を歩き回っていたが、イズモに諭されながら自室へと戻って行く。時間が過ぎ、3度目の巡視を行っていたマリーは、今度はオスカーが他人の部屋で休んでいることに気づく。マリーが慌ててオスカーを連れ戻そうとすると、騒がしさに目を覚ました元吟遊詩人のコルネアが、寝ぼけて歌を歌い始めてしまう。これを皮切りに、ほかの老人たちも次々に起き出すという最悪の状況に陥り、対応しきれなくなったマリーは涙目で大混乱する。イズモの手を借り、なんとか老人たちを落ち着かせようと奔走していると、今度は窓の外にオスカーの姿を発見。自宅に帰ろうと、離設しようとしているオスカーを引き止めに走ったマリーは、彼の説得を試みる。すると次の瞬間、人狼のオスカーは満月でもないのに巨大な狼に姿を変える。高位の人狼であるオスカーは、MPが最大値であれば満月でなくても己の意思で変身することが可能だったのだ。施設では、彼のMPが最大値にならないように配慮していたが、コルネアの歌の付与効果が影響し、いつの間にか減少させていたはずのMPが全回復していたのである。身の危険を感じ、その場を離れようとするマリーだったが、時すでに遅く、狼となったオスカーは目の前のマリーを腕に抱え、月夜の空の下を走り始める。

登場人物・キャラクター

マリー

介護職員として新たにばるはら荘で採用された女性。その素性は隠しているが、実は魔王の孫にあたる。人間たちの策略により、50年前に無念の最期を迎えた祖父の敵を討つため、年老いた元英雄たちを葬り去ろうと意気込んでいる。しかし食事に毒物を仕込んだり、ストレートに背後から刃物で襲い掛かったり、有力な入居者に取り入って復讐を遂げようとするものの、なんだかんだと扱いの難しい入居者たちに翻弄され、なかなかうまくいかずにいる。簡単には引き下がらない、よくも悪くもしつこい性格が功を奏し、介護士として教育を受けるに従って、さまざまな能力を発揮し始める。特に排せつ介助に関しては天賦の才を発揮し、いっしょに働く先輩職員からもお墨付きをもらうほど。段階を踏んで介護士としての勉強を進めていくが、それは施設内で復讐しやすい地位に上り詰めることが目的であり、虎視眈々とそのチャンスを窺っている。毎日寝る前には、その日にあった敵討ちに役立ちそうな出来事を記録するための日記をつけているが、内容は日に日に変化していき、最近では学んだ仕事内容についての記載がほとんどという、ただの仕事日記になっている。施設の入居者が使うオムツについて、スライムを乾燥させて粉砕し、利用する画期的なアイデア「スライム式高分子吸水帯」を提案。それが評判となり、看護師のティアナからは看護・介護史に残る偉業と称えられ、過去50年内ではトップクラスの新人と太鼓判を押されることになった。生まれ育った魔界では、祖父が魔王であることを理由にいじめに遭っていた。両親は不在がちで、幼い頃から寂しい思いをしていたこともあり、遊び相手も話し相手もすべて祖父だったため、魔王である祖父を誰よりも慕っていた。

ヴィルヘルム

ばるはら荘で介護士を務める男性。新人としてやってきたマリーの教育係として、介護の基本を指導している。実は魔王を倒した元勇者のフリードリヒの孫。魔王が死の直前、勇者一族に施したという呪いのせいで、たとえ回復魔法であっても、光魔法のいっさいを受け付けない体質になってしまった。そのため、光魔法を受けると、血を吐いてしまう。優しく穏やかな性格で、入居者や職員たちからも慕われている。入居者のHPやMP、レベルなどの状態を目で見えるようにする状態掲示魔法「ターフェル」を使うことができる。仕事をこなす量が尋常でなく、夜勤明けでも関係なく人の分まで働こうとする。職員と職員のスキを見つけてはすかさず手を出し、そっと手伝っては素早く去っていくため、業務時間外の労働を見とがめられることがない。この状態は、職員のあいだで問題視されているが、まだ具体的な防止策はとられていない状態にある。なお、ヴィルヘルムの仕事に対する姿勢は、「勇者の孫」として周囲の期待に応えようとしすぎるところに原因があり、そのことを自覚もしている。ふだんは冷静だが、動揺すると言葉がたどたどしく、ろれつが回らなくなる。

エルザ

ばるはら荘に入居中の老婦人。現在は車いすでの生活を余儀なくされているが、魔王との大戦中は手練れの獣使いとして活躍した。そのため、彼女の周りにはつねに複数の火竜、ドレイクが控えていて、そのどれもが彼女に懐いており、武装なしでドレイクを従えることによって、獣使いとしての能力の高さが健在であることが誇示されている。最初は、失敗ばかりの新人介護士、マリーを心配していたが、次第に彼女を信頼するようになっていく。趣味はお散歩。のちに、LP型の漏命病に冒されてしまう。

グウェン

ばるはら荘に入居中の老人。魔王との大戦中は最高位大魔導士として活躍した。現在は軽度の認知症があり、出された食事に毒が盛られていると思い込み、すべてひっくり返してしまうなど、問題行動が多い。職員を魔王の手下と認識してしまうことも多く、自らに起こる不都合のすべてが魔王の手下の仕業と発言している。マリーの行動もあるため、あながち間違いではないものの、認知症も相まって扱いにくさをこじらせている。時おり、大戦中の記憶を蘇らせ、爆破魔法や麻痺魔法を乱発して施設内を混乱させることもある。そのため、いまだ衰えを知らぬ魔力を弱らせるため、MPドレイン薬を服用させられているが、グウェン自身はそれを嫌がっている。一方で体力の衰えは著しく、自力での歩行は一応は可能ながらも、移動時にはつねに杖が欠かせない。甘いものが大好きで、血糖値が高め。のちに、LP型の漏命病に冒されてしまう。

テオ

ばるはら荘で機能訓練指導員を務める男性。武道家で、身のこなしは素早くしなやか。武道家最高の栄誉となる「竜を狩りし者」の称号を有する。顔の左半分に大きな十字の傷跡があり、迫力のある外見をしているが、入居者の安全第一の考えで行動する心優しい人物。介護士のヒルデガルドと共に安心設計体操を考案し、日々の指導に役立てている。対象者の体力を奪う固有スキル「気功・陰」と、対象者の体力を回復する固有スキル「気功・陽」を持っている。入居者を運動させることに対し否定的な考えを示し、回復魔法を使えば解決できるという間違った考えを持っていた新人のマリーに対し、自分の固有スキルを使って、回復魔法を受ける側にもスタミナが必要であると体感させ、指導する。

ヒルデガルド

ばるはら荘で介護士を務める女性。現役の踊り子だが、その中でも舞踏で四大精霊を使役することができる世界有数の「寵愛の踊り子」。施設内では、体力維持のためのレクリエーションなどを担当している。機能訓練指導員のテオと共に安心設計体操を考案し、日々の指導に役立てている。いつも笑顔で優しいが、言うべきことは笑顔ではっきり口にするタイプで、その姿は謎の威圧感にあふれている。

カトリナ

ばるはら荘で調理士長を務める女性。調理室で働くさまざまな種族の従業員たちを統括する立場にあり、入居者が食べる食事を作るのを主な仕事としている。薬を混ぜても味が変化しないように工夫するなど、入居者が日々美味しく食事が摂れるように努力している。施設の食事は美味しいと評判で、希望する職員にも同じメニューを提供している。

フリードリヒ

ばるはら荘に入居中の老人男性。魔王を倒した元勇者で、ヴィルヘルムの祖父にあたる。施設では、大勢が入居する建物とは別の塔の中に居室を構え、他人との接触のない状態で日々を過ごしている。

アデーレ

ばるはら荘に入居中の老婦人。元道具屋なのが影響し、今でも事あるごとにアイテムを使おうとする。右耳が聞こえにくいため、左側から声を掛けないと気づいてもらえないことが多い。そのため、ある朝の起床時に右側から声を掛けたマリーに気づかず、突然手を引かれたことに驚いて、魔物のグールと思い込んで煙幕弾を投げつけたこともある。ヘルガとは同じ村の出身で、彼女とは姉妹のような間柄。60年前の魔王との大戦時、村は焼け落ちてしまったが、当時のことをよく覚えており、思い出を語る時にはテンションが上がり、いつもより声が大きくなる。ヘルガとなかよくしたいと考えているが、施設内では避けられているように感じており、悲しんでいる。歯が少ないため、日々の食事には細かく刻んだ状態のものが主に出されている。ちなみに、夫と興した道具屋「キヨスケ商会」は24時間営業中で、事業を拡大し全国どこでも利用できるようになり、今やアイテム補給拠点国内最多設営となっている。孫から届く小包と、文通が日々の楽しみ。

ヨハンナ・バルヒェット

ばるはら荘に入居中の老婦人。元ギルドマスターで、王都最大手のギルドを何十年ものあいだまとめていた女傑。凄腕の戦士や施設の職員も彼女には頭が上がらない。車いすでの生活を余儀なくされているが、男勝りで勝気な性格をしている。その姉御肌は健在で、どんなことに対しても的確な解決策を提示する。入居したばかりの頃は、介護士を頼ろうとせず、職員と衝突することも少なくなかった。しかし現在は、強気なところは変わらないものの、職員・入居者を問わず頼られる存在として、良好な関係を築いている。固有スキル「鷹の目」を持っているため、状態掲示魔法「ターフェル」を使わなくても対象者のHPやMP、レベルなどの状態を見ることができる。このほか、いっしょにいる対象者が取得する経験値を増加するスキル「取得支援」も持っている。趣味は株取引。

ダニエラ

ばるはら荘に入居中の老婦人。元城勤めの事務官で、現在は体力もなくなったもやしっ子。最近右足が上がらなくなったため、行動には気配りが必要な状態。ヨハンナ・バルヒェットを慕っていて、よく彼女に愚痴を聞いてもらってはすっきりした顔で帰っていく。同室の元吟遊詩人のコルネアが一晩中歌を口ずさんでいることが気になり、眠れないことを悩んでいる。ぬるめの紅茶が好み。

オスカー・ルーン

ばるはら荘に入居中の老人男性。かなりボケているが、元気なために大抵のことは自分でできる。しかし昼夜問わず徘徊し、家で娘が待っているなどと何かと理由をつけて施設外へと出ようとするため、職員にとっては目が離せない存在。実は巨大な狼に変身する体質を持つ人狼。通常は満月の夜にのみ変身するが、高位のために満月でなくてもMPが最大値であれば自らの意思で狼に変身することができる特殊スキルを持っている。MP減退薬を常用し、予測不能の変身が起こらないように管理されており、日常的に注意が必要。ある夜、不測の事態によってMPが全回復し、自宅に帰りたい思いが彼を狼の姿に変身させた。職員が同行すれば大丈夫だろうという考えがあったのか、目の前の新人介護士・マリーを腕に抱き、施設を出ようとして大騒ぎとなった。休日には家族が面会に来ることもあるが、ひ孫の少女、ロミーを自分の娘のリタと思い込んでいる。

シャルロッテ

ばるはら荘に入居中の老婦人。元占い師で、現在も入居者を占うことがある。右足が悪いため、移動には介助が必要。職業柄口数は少なく、暗い印象を与える。マリーを占い、近々死ぬと告げた。異界の獣を召喚する御禁制の魔導書を勝手に取り寄せ、何も知らないマリーに黙って手伝わせて、異形の者を召喚しようとしたことがある。

ランベルト

ばるはら荘に入居中の老人男性。腕のいい武具鍛冶屋だったが、現在は体全体の動きが鈍くなり、椅子から立ち上がるのも自力では難しい状態。そのため、何かと職員の介助が必要となっている。

ティアナ

ばるはら荘で看護師を務める女性。ハーフエルフなので外見は若いが、実はそれなりに年を取っている。入居者それぞれに必要な薬の処方などを行っているほか、入居者が使うオムツの使用感改善に尽力している。もともと布製だったオムツを紙製のものに変更し、実際に使用したあとの状態を確認する。具体的な改善に役立てるために奔走していたが、新人介護士のマリーの発案で、乾燥したスライムを使って吸水帯を作ったところ、使用感が劇的に改善した。彼女に対し看護・介護史に残る偉業と称え、過去50年内ではトップクラスの新人と太鼓判を押した。

ローラント

ばるはら荘で1階の日勤リーダーを務める賢者見習いの男性。妻帯者で、娘がいる。もともとは魔法使いを育てる私塾を開いており、その生徒の一人がイオナだった。しかし介護の業界に転職した際、イオナもついて来ることになり、現在に至る。そのため、イオナからは今でも「お師匠」と呼ばれている。サブ教育係として、マリーに食事介助の基礎を指導した。何度教えてもうまくできないマリーに、食形態や誤嚥などについて、根気強く教えた。何かと失敗しては入居者の地雷を踏みがちなマリーに対し、固有スキル「地雷踏み」を持っていると揶揄していたが、のちにマリーが排せつ介助に関して天賦の才を見せた際には、大いに感動することとなった。

ニコラウス

ばるはら荘で生活相談員を務める元諜報員の男性。愛煙家で、よくイライラしつつタバコをふかしている。入居者本人や、その家族からの苦情対応、面会や各種手続きの連絡および調整のほか、医療や行政機関との連携、入所案内や手続き支援など、仕事内容は多岐にわたる。そのため入居者本人だけでなく、家族とのかかわりを持つことも少なくない。新人介護士のマリーに関し、彼女がかかわると何ごとか必ずトラブルを引き起こすと感じていて、彼女の起こしたことの尻拭いをするのは自分だと立腹。マリーを「ばるはら荘きっての馬鹿介護士」「役立たず介護士」「赤毛クズ」と揶揄し、まだ介護士として認めていない。固有スキル「魅了」を持っており、一時的に対象の生物の自分に対する好感度を増幅させ、軽度の精神支配をすることが可能。

レギーナ

ばるはら荘で介護支援相談員を務める元王宮付き文官の女性。介護支援を行ううえで何らかの問題が発生した際に行われる会議・事例検討会において、通常は段取りを行い、取り仕切る立場にある。しかし無口で引っ込み思案な性格のため、ニコラウスに丸投げしている。

ジークリンデ

ばるはら荘の施設長を務める元騎士団長の女性。従業員を統括する立場にあり、終戦記念式典を2か月後に控えた時期には、その準備に忙殺。同時に、この式典の主役となる元英雄の入居者たちが、万全の体調で式典に参加できるようにと、厳しく体調管理を行うよう、従業員たちにより一層気持ちを引き締めるように求めた。英雄好きで、少しミーハーなところがある。

ノルベルト

ばるはら荘に入居中の老人男性。魔王との大戦中は僧侶として活躍した。その後も戦いに傷ついた人々を癒してまわるなど、慈善活動を行った。その実績から「癒しの風」との呼び名を持ち、国中から絶大な支持を得る伝説の人物として崇められている。施設に入居後、感染症のため隔離されていたが、このほど回復して日常に戻ることになった。足元がおぼつかないため、転ばないようにケアする必要があるほか、ほかの入居者と共に時間を過ごすにあたり、何かと回復魔法を乱用しがちなため、自らの体力を消耗することがないように監視する必要がある。そのため施設の職員たちにとっては、かなり手のかかる存在として扱われている。歯がほぼない状態で飲み込むのも困難なため、食事にはムース状のものが出されている。昼寝をすることが日々の楽しみ。のちに、LP型の漏命病に冒されてしまう。

ヘルガ

ばるはら荘に入居中の老婦人。元戦士だが、自らの意思で食事を拒絶している。最近、2日にわたって食事を摂取できていない状態が続いているため、心配したローラントがおしゃべり人参で対応しようとした。もとはアデーレと同じ村の出身だが、60年前に魔王との大戦により、村は焼け落ちてしまった。14歳で兵士に志願し、19歳で王都防衛戦線にて多大な功績をあげた。終戦後に冒険者として各地を巡り、さまざまな撃破記録を樹立。その後30歳で王立近衛付き特別指南役に就任し、以降20年間、兵の育成に尽力して52歳で退役。その後を故郷で過ごし、現在に至るが、自らの手で食事をすることも難しく、話すこともたどたどしく、歩行もままならない状態。誰かの手を借りなければ生きていけなくなってしまった自分をもどかしく感じており、何十年もかけて貫いてきた人生を、思い通りに進めなくなったことに傷ついている。アデーレが自分の気持ちを伝えたことと、職員たちからの懸命のサポート、しつこく付き合ったマリーの努力が実を結んで心を開き、介助を受け始める。栄養を取ればとるほど回復が早まるという固有スキル「高速代謝」を持っているため、食事を再開して以降、みるみるうちに体調が回復していく。その後、リハビリのための鍛錬が日々の楽しみになった。

アウグスト

ばるはら荘に入居中の老人男性。貴族のため、誰に対しても態度が大きい。自宅から、領地の権利書や金品を施設内に持ち込んでは、失くしたの盗られたのと大騒ぎをし、あわや職員が辞めさせられそうになる騒ぎとなったこともあった。ばるはら荘設立時の出資貴族、ラッツェル家の関係者のため、職員たちも強く出ることができず、つねに悩まされる存在。最近便秘気味で3日も便通がなく苦しんでいたが、マリーが排せつ介助を行ったところ、無事排せつすることができた。

イズモ

ばるはら荘で介護士を務める男性。長めの前髪が邪魔をして、目元が見えない。介護士になる前は、東の最果ての国で忍として活躍していた。固有スキル「分身」を持ち、イズモ自身を大量に複製することができるため、人員が不足しがちな夜勤では特に重宝されている。マリーにとって初めての夜勤の日、マリーの指導を任されたため、彼女のフォローをしながら二人で夜勤を務めることになった。

コルネア

ばるはら荘に入居中の老婦人。元吟遊詩人で、夜通し歌ったり、寝ぼけて歌い出すことが多くあり、同室のダニエラをよく悩ませて怒らせている。歌う曲目によって、物理攻撃力が上がったり、MPの自動回復効果を付与したり、特別な効果をもたらす。

オリヴィア

ばるはら荘に入居中の老婦人。元聖女で、現在はベッドか車いすでの生活を余儀なくされている。魔王との大戦末期、疲弊して連携が取れなくなった各王立軍をまとめあげ、勇者と魔王の最終決戦時に王都防衛戦線を押し上げた功績者の一人。当時、単なる農婦だった彼女が神の加護により、突如として固有スキル「伝えの力」に目覚めた。そのスキルのおかげで、望んだ相手の心に直接語りかけ、情報を伝達できる。効果範囲や伝達の精度は思うまま、神からの魔力供給があるためにMPの消費もまったくない。そのため、現役時代は同時に何万人もの人々に呼びかけることが可能だった。最近は、その力を利用して昼夜関係なく、その日にあった出来事を息子のマルセルに呼びかけ、語って聞かせいる。完全に無意識に行ってしまっていたことで、息子から直接指摘されるまで、自分が呼びかけていることに気づいていなかった。加齢からか、伝えの力を完全に制御することができなくなってしまっており、迷惑になっていることを気に病んでいる。

マルセル

オリヴィアの息子。母親がばるはら荘に入居する時からニコラウスに世話になっているため、ニコラウスを信用している。最近オリヴィアから直接心に語りかける「伝えの力」による呼びかけが、毎日何十回にもわたって続いており、昼夜関係なくその日にあった出来事を呼びかけてくるため、不眠気味となって疲弊している。そんな折、施設に面会に来てみると、オリヴィアのオムツ交換がされていないことを発見。担当の介護士のマリーに排せつ介助の遅れを指摘したことが発端で、やったやらないの押し問答となり、口論に発展した。

イオナ

ばるはら荘で介護士を務める女性。魔法使いの弟子として修行中だったが、魔法使いを育てる私塾をしていた師匠のローラントの転職を追う形で、介護の業界に入った。自分の魔法が通用しない場面の多さに驚き、仕事を始めたばかりの頃は混乱と失敗の連続だった。そのため、新人のマリーがなんとなく当時の自分と重なるところがあり、放っておけないと感じている。日勤パートのロニヤとはプライベートでも仲がよく、休日にはいっしょに食事に出かけることもある。

ロニヤ

ばるはら荘で日勤パートを務める兎の獣人。大きく長いウサギの耳が帽子から飛び出ている。介護士のイオナとはプライベートでも仲がよく、休日にはいっしょに食事に出かけることもある。

場所

ばるはら荘 (ばるはらそう)

王立特別養護老人ホーム。王都から馬車で10時間という国の外れに建設されている。過去の大戦において、魔王討伐の功績が称えられたかつての英雄たちが集う楽土となっている。元勇者や元武道家、元魔法使い、元占い師など、入居者の職業は多岐にわたる。平和が訪れたこの国で老いたかつての英雄たちは、昔日の栄光を笠に着て下の世代を圧迫したり、魔法の誤爆で町一つを破壊したりと老害化しており、王はそんな彼らを入居させ、戦の世で力を発揮するはずだった英雄の後継者を集めて介護士という職を与えた。その結果、魔術や体術、剣術や知識、あらゆる分野のプロフェッショナルが、強者の老人たちを介護し続ける施設「ばるはら荘」が誕生することとなった。そのためこの施設は、この世でもっとも激しい日常が繰り広げられる、ある意味で戦場となっている。ばるはら荘は年齢や体調も入居者個人個人で違うため、それぞれに合わせた食事メニューや調理方法などで対応しているほか、体力維持のためのレクリエーションなども行っている。また、強力な能力を有する者が集まるため、場合によっては薬を使って入居者の能力を制限することもある。調理場は家事妖精や巨人族、竜人族などさまざまな種族が働く場となっていて、浴場の火力として火竜、ドレイクの力を利用している。介護士のほかに、機能訓練指導員や生活相談員、介護支援相談員、看護師などさまざまな職務の者が配置されており、入居者の安全のため万全を尽くしている。入居者である元英雄たちに対するファンレターも多く届き、特に誕生日が近づくと、贈り物なども増える傾向にある。広い敷地内には本館、別館、薬剤局や塔など複数の建物が存在する。また入居者の離設防止のため、施設内での転送魔法・転移魔法が使えないように制限結界が張られている。

その他キーワード

おしゃべり人参 (おしゃべりにんじん)

精霊の森の禁足地に自生する非常に貴重な野菜。ふつうの人参に手足と顔が付いている。つねにボエボエと声を出しており、どのように調理しても声を出し続ける性質がある。そのため、食べたあとに体内のどこを通っているかがわかるので、誤嚥防止やむせ防止に効果があるとされており、介護の現場で利用されることも少なくない。

終戦記念式典 (しゅうせんきねんしきてん)

ばるはら荘で、魔王との大戦直後より行われている年中行事。王や国賓も訪れる大々的なもので、魔王を討伐して国を守ったことを祝うと同時に英雄たちを偲び、功績をたたえる式典となっている。英雄の一人を主役にして行われる劇「大戦英雄譚」は、大きな見せ場となっており、楽しみにしている人も多い。もともとは王都で開催されていたが、英雄たちの高齢化に伴い、開催地がばるはら荘に移された。

漏命病 (ろうめいびょう)

感染性MP流出型胃腸炎、感染性LP流出型胃腸炎の2種の病の総称。微細な病魔が体内に侵入することで発症する。大戦中は特に厄介な流行り病として人々を恐怖させた。MP型は嘔吐や下痢と同時に魔力が流れ出るのが主な症状で、魔力をたっぷりと吸った病魔が汚物の中で集まり、河川などから瘴気になって再び拡がっていくという厄介な性質を持つ。これにより、魔法使いやスキル持ちは役立たずになってしまう。しかし、MPが尽きても亡くなることはなく、最近では補給薬や浄化、消毒用の聖水が開発されたため、怖い病気ではなくなった。しかしLP型は生命力が流出するため、罹って3日で死ぬといわれているほど重篤な病として扱われる。治療には、LP譲渡が可能な躁命術士が派遣され、対応にあたっている。

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