あらすじ
中学時代に陸上に打ち込んでいた町田圭祐は、中学最後の駅伝大会でわずか18秒差で敗退してしまうが、親友の山岸良太と、高校進学後もいっしょに陸上をする約束を交わす。当初、圭祐には陸上の名門校である青海学院高校の偏差値が高すぎて尻込みするが、良太に背中を押されて猛勉強でみごと合格を果たす。しかし、入学式の直前に交通事故で足に大ケガを負ってしまい、陸上部に入部することをあきらめなくてはならなくなった。目標を失っていた圭祐の前に、同学年の宮本正也が現れ、圭祐がいい声の持ち主だと絶賛して放送部に誘う。初めはまったく興味を持てなかった圭祐だが、正也の快活な性格に絆され、放送部の見学に向かった。やがて圭祐は、放送部制作のドラマに出演したり、脚本家志望の正也から物語構成のコツを教わったりして、放送部の活動の奥深さを知っていく。また、正也は同学年の久米咲楽の声にも注目し、彼女を放送部に誘った。このことが、これまでいじめに遭って卑屈な性格だった咲楽を、大きく変えるきっかけにもなった。新入部員を迎えた放送部は、学年ごとのチームに分かれ、コンテストに参加するための作品制作に取り組むこととなる。1年生の三人はラジオドラマ制作に挑戦し、正也が脚本を担当した。迎えたコンテストの日、圭祐たちの作品「ケンガイ」はみごとに予選を突破し、全国大会への切符を勝ち取る。しかしその矢先、圭祐の足の回復が近いと知った陸上部の顧問が、再び陸上をやってみないかと誘いにやって来る。この勧誘によって圭祐は、放送部を続けるべきか、再び陸上を始めるかで思い悩むようになる。
関連作品
小説
本作『ブロードキャスト』は、湊かなえの小説『ブロードキャスト』を原作としている。原作小説版は角川文庫から刊行されている。
登場人物・キャラクター
町田 圭祐 (まちだ けいすけ)
青海学院高校に通う1年生の男子。中学時代は陸上に打ち込んでおり、チームメイトの山岸良太と、高校に進学してもいっしょに陸上をしようと約束をしていた。猛勉強のかいあって陸上の名門と知られる青海学院高校に合格するが、入学式の直前に交通事故に遭い、足に大ケガを負ってしまった。目標を失っていたところ、同学年の宮本正也から放送部に誘われる。正也にスカウトされたのは、低音のいい声を持っているためで、ほかの放送部員からも高評価を得ている。当初は放送部に興味を持てなかったが、ドラマ制作の活動にかかわるなどの経験を通じて、放送部を新たな居場所だと感じるようになっていく。周囲を引っ張るタイプではないものの、同級生の久米咲楽がいじめられているのを気に掛けるなど、強さと優しさを併せ持っている。
山岸 良太 (やまぎし りょうた)
青海学院高校に通う1年生の男子。中学時代、同学年の町田圭祐を陸上部に誘い、圭祐が陸上に打ち込むきっかけをつくった。中学陸上部のエースを務めていたが、中学最後の大会では部内の事情によって駅伝のメンバーからはずれ、優勝を逃してしまう。同じ高校に入って陸上部を続ける約束を圭祐としていたが、圭祐が事故に遭ったことで果たされずに終わった。圭祐に対する気遣いから、腫れ物に触るような扱いをするようになり、かえって圭祐につらい思いをさせている。
宮本 正也 (みやもと まさや)
青海学院高校に通う1年生の男子。脚本家志望で、ラジオドラマの脚本などを書くために放送部への入部を決めていた。その際、同学年の町田圭祐を、いい声を持っているという理由で放送部に誘う。明るく快活な性格で、目標を失っていた圭祐を大いに勇気づけた。一方で、先輩に対しても物おじせずに意見を言うなど、肝が据わった一面を持つ。また、人の気持ちを見抜く洞察力にも優れている。入部まもない頃、3年生部員のヒカルのわがままのためにドラマ出演者の代役を探すことになり、1年生の久米咲楽をスカウトした。脚本家になるという夢を実現させるため、作劇の理論などをかなり本格的に学んでいる。放送部入部後は、コンテストに出すためのラジオドラマ「ケンガイ」の脚本をわずか3日で書き上げた。
久米 咲楽 (くめ さくら)
青海学院高校に通う1年生の女子。眼鏡を掛け、髪をお下げにしている。非常に内気な性格で、同学年相手にも敬語で話す。見た目が暗い印象を与えるため、木崎たち同級生の女子からは陰口を叩かれている。いつも一人で過ごしているため、入学直後から町田圭祐に気に掛けられていた。一方、透明感のあるきれいな声の持ち主で、宮本正也からひそかに注目されていた。放送部で急きょドラマ出演者の代役を探すことになったため、圭祐と正也から放送部に誘われる。いじめられていることから卑屈な性格だったが、放送部での活動を通じて少しずつ明るさも見せるようになる。声優オタクでもあり、イケボ(男性のいい声)を聴くのが大好き。
月村 アカリ (つきむら あかり)
青海学院高校に通う3年生の女子で、放送部の部長を務めている。優しい性格で人当たりがいい一方で、部員たちを厳しくまとめることを苦手としている。放送部でのテレビドラマの制作中、ヒカルが起こしたトラブルをすぐに解決できず、新入部員の町田圭祐と宮本正也に頼りない印象を与えてしまう。当初は厳格な部長として知られていたが、その厳しさについていけなくなった部員がまとめて退部してしまい、そのトラウマから強硬な態度を取れなくなったという経緯がある。しかし、トラブルの解決を通じて、部長として少しずつ成長を遂げていく。
ヒカル
青海学院高校に通う3年生の女子。放送部3年生部員のなかよし女子グループの一人で、おとなしく繊細な性格をしている。放送部制作のテレビドラマに出演していたが、後輩である宮本正也から演技について指摘を受け、機嫌を損ねてしまう。さらには役を降りると言い出し、正也と町田圭祐が代役探しを手伝う羽目に陥る。結果的に、久米咲楽が放送部に勧誘されるきっかけをつくった。
白井 (しらい)
青海学院高校に通う2年生の女子で、放送部の2年生部員のまとめ役を担っている。態度や物言いが非常に厳しく、町田圭祐たち1年生からは怖い先輩と評されている。部長の月村アカリたち3年生にも容赦ない発言をするが、基本的に言うことの筋は通っている。本質的には不器用な性格で、素直に人を褒めるのが苦手。周囲もそのことは理解しており、とりわけ2年生部員たちからは愛されている。
ミドリ
青海学院高校に通う2年生の女子で、放送部員の一人。ショートカットヘアが特徴的。町田圭祐が入学した時、体育館で行われた部活紹介で、放送部の活動内容を説明した。本格的なアナウンスの技術を持ち、マイクを通じての声で圭祐の心を動かした。放送部のコンテストでは、青海放送部からただ一人アナウンス部門に出場した。予選は突破するものの、県大会決勝で惜しくも敗退する。
その他キーワード
ケンガイ
宮本正也が書いたラジオドラマの脚本。放送部のコンテストに出場するため、正也がわずか3日で書き上げた。SNSを使った現代的ないじめをテーマとした作品で、町田圭祐が主役に抜擢される。県大会の決勝を突破し、みごと全国大会への出場を果たした。また、この内容が圭祐が久米咲楽へのいじめの傍観者で終わらず、止める勇気を持つきっかけともなった。
クレジット
- 原作
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湊 かなえ
書誌情報
ブロードキャスト 2巻 KADOKAWA〈MFコミックス ジーンシリーズ〉
第1巻
(2019-10-26発行、 978-4040640785)
第2巻
(2020-03-27発行、 978-4040644882)