ホストと社畜

本作は、新宿歌舞伎町を舞台に、システムエンジニアの直人と大学生兼ホストの蓮がダブル主人公を務める。容姿や性格、職業、価値観、さらには生活時間帯まで、あらゆる面で正反対の二人。彼らの唯一の接点は、行きつけの牛丼屋で朝食を共にするわずかな時間だけ。この早朝の牛丼屋で交わされる何気ない会話と不思議な友情が、1話完結のショートストーリー形式で描かれている。また、本作ではモーニングルーティンの描写に加え、現代社会で働く人々が共感できる日常のあるあるや、グルメ要素も盛り込まれている。

システムエンジニアの直人は、早朝出勤と深夜残業が常態化した、いわゆる「社畜」としての日々を送っている。彼のささやかなモーニングルーティンは、午前5時に「吉田屋」という牛丼屋で朝定食を食べること。そんなある日、派手な身なりの佐々木蓮が、同じ時間帯に同じカウンターで、同じ朝定食を注文する姿を目にするようになる。当初はお互いの名前すら知らなかったが、ある日、蓮から声をかけられたことをきっかけに、朝食の短い時間に言葉を交わすようになり、店を出る際には挨拶するのが新たな日課となった。直人にとっては、これから始まる長い一日のための腹ごしらえの時間であり、夜の仕事を終えたホストの蓮にとっては、ようやく訪れた休息の始まりだった。真逆の世界を生きる二人は、一見何もかもがかけ離れているように思えたが、会話を重ねるうちに、実は同じゲームに夢中になっていたり、互いに姉や妹がいたりと、意外な共通点が明らかになっていく。

毎朝、同じ牛丼屋で同じ定食を食べる直人と蓮は、心地よい距離感を保ちながら少しずつ心を通わせていく。最初は趣味の話や他愛のない雑談が中心だったが、いつの間にか互いの悩みを打ち明けるような関係に変わっていく。それは、親友と呼ぶにはまだ遠く、ただの知り合いと呼ぶには近すぎる、彼らだけの特別な友情が育まれていく。この二人の微笑ましい関係性と、朝の限られた時間だからこそ生まれる穏やかで心温まる会話が魅力となっている。物語が進むにつれて、当初は直人と蓮の二人だけだった世界に、それぞれの同僚や家族、友人、隣人といった新たな登場人物が加わっていく。彼らの登場によって、直人たちの日常はより一層にぎやかになり、これまであまり語られなかった二人のプライベートや家族関係も本作の見どころとなっている。