動物の特徴を持つ牙耳氏たち
本作には、獣の特徴を持つ人間「牙耳氏」が多数登場する。彼らは英雄の血を継ぐ特別な存在「牙氏」と、その従者に該当する「耳氏」に分かれており、牙氏は耳氏を上回る身体能力や鋭敏な感覚を備える。具体的には、オオカミの特徴を持つ「狼牙氏」や、トラの特徴を持つ「虎牙氏」、ウシの特徴を持つ「牛牙氏」など、12の氏族が存在する。一方の耳氏は、タヌキやアライグマの特徴を持つ「狸耳氏」、イヌの特徴を持つ「狗耳氏」やネコの特徴を持つ「猫耳氏」などが存在し、縞太郎とその親族は狸耳氏、千風は狼牙氏に該当する。牙氏は英雄の血を引くため並外れた正義感を持つ者が多く、近しい存在が危機に瀕した際には自らの身を顧みず助けに向かう傾向がある。また、耳氏にはそれぞれ「鬼門食」と呼ばれる食品が存在し、それを食べると完全に獣の姿に変異してしまう。
冴えない大学生に思わぬ転機が訪れる
縞太郎は目立った特徴のない平凡な大学生だが、彼の親族は非常に優秀な人物が多い。祖父の駁太は一代で大きな不動産会社を立ち上げ、兄の多紋はエリート刑事、姉の亜紋は大手芸能プロダクションの社員、また従兄弟の直緒は中学生ながら経済に造詣が深い。これらの背景から、縞太郎は自分に自信を持てずにいた。そんな中、駁太の兄である先太郎が亡くなり、彼の跡取りを決めるための家族会議が開かれる。予想に反して縞太郎が先太郎の跡取りに選ばれ、古道具屋「文火武火堂」の店主に任命される。縞太郎は突然の指名に驚くが、引っ越しの準備を進めていると、彼のもとに千風の身体が入った段ボール箱が送られ、駁太から千風を守るよう指示される。こうして縞太郎は、千風と文火武火堂の召使を自称する少女・大黒と一つ屋根の下で生活を共にするようになる。
牙耳氏たちの交流と謎の氏族の陰謀
縞太郎は「文火武火堂」の店主として、千風の世話や大学生活との両立に忙しい日々を送っていた。しかし、先代の先太郎を慕う猫耳氏の涅町から力不足を指摘され、また先太郎を裏切り者呼ばわりする狗耳氏・刀祢家のきょうだいたちに敵視されるなど、さまざまな困難に直面するが、千風や大黒からは強い信頼を得ている。八ノ宮学院中等部に転入した千風は、自らが特異な存在であることから自己主張をできずにいたが、クラスメイトの刀祢旭との対立と和解を経て、徐々に本来の自分を受け入れるようになる。そんな中、旭が誘拐されたり、千風が狼のような外見を持つ謎の男に襲われるなど、物騒な事件が頻発する。これらの事件の背後には、牙氏や耳氏とも異なる謎の氏族による陰謀が静かに進行していた。
登場人物・キャラクター
鈴森 縞太郎 (すずもり しまたろう)
とある三流大学の経済学部に通っている狸耳氏の男性。年齢は21歳。取り立てて秀でたところがないうえに要領も悪いため、家族や友人からはからかわれることが多い。身体は華奢(きゃしゃ)で温厚な性格のため、男らしさに欠けると見られがちだが、一部の女性から人気がある。家族中では常識人で、ほかの牙耳氏の奇抜な行動に対してツッコミ役を担っている。また、一族の特異な生態について何も知らずに育ったため、それを理解するには時間がかかっている。鬼門食のチョコレートを食べた際に、完全にタヌキの姿になったことがある。家族の中で唯一、自分が狸耳氏であることを知らなかったが、大伯父である先太郎が亡くなった際に、自らの出自を知ることとなった。葬式のあとに行われた親戚たちによる跡継ぎを選ぶ儀式により、縞太郎自身が「文火武火堂」を継ぐことが決まる。その後、鈴森家の主君筋にあたる伏屋家の千風と、召使を自称する大黒と共に暮らすようになる。ちなみに、タヌキの姿になると尻尾が縞模様になるため、「縞太郎」と名付けられた。姉の亜紋がいる。
伏屋 千風 (ふしや ちかぜ)
狼牙氏の少女。年齢は12歳。ふだんから獣の耳としっぽが生えているが、母親の伊吹から「知らない人には決して耳としっぽを見せてはいけない」と言い聞かせられている。その影響から、口数が少なく人見知りがちだが、一度心を許した相手には明るく朗らかに接している。華奢な体型にもかかわらず大食漢で、ふつうの人間の5倍の量を食べる。傷だらけの状態で発見され、何者かの手によって箱に入れられ、「文火武火堂」に送られて縞太郎や大黒と共に暮らすようになる。のちに八ノ宮学院中等部に編入するが、クラスメイトの刀祢旭に一方的に敵視され、険悪な関係に陥る。しかし、彼女が何者かに連れ去られそうになった際に、旭に助けられたことで互いに本心を認め合い、良好な関係を築いていく。