メフィスト

メフィスト

中世で魔女狩りの犠牲となったアルマ・ラウネが、現代に降り立ち、人々を救済する姿を描く魔女奇譚。第1巻~第2巻は、連続殺人犯の流動玲二とアルマとの時空を超えて展開する長編ラブロマンスだが、第3巻以降は構成が変わり、アルマの営む薬局を訪れる、さまざまな人々の人生模様が1話完結の短編形式で描かれる。さらにその後、最終章としてカルト宗教の教祖を陰であやつる悪魔のメフィストフェレスと、アルマが対決する中編で物語が完結するという構成になっている。三山のぼるの代表作で、「コミックモーニング」1984年24号から1988年33号にかけて掲載された作品。

正式名称
メフィスト
ふりがな
めふぃすと
作者
ジャンル
天使・悪魔
 
オカルト
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あらすじ

第1巻

16世紀末、黒死病(ペスト)の研究をしていた医者のジャンは、最愛の妻、マドレーヌがペストに冒された事を知り、悪魔と盟約を交わす。すると、妻は回復して妊娠し、悪魔の烙印を押されたアルマ・ラウネが誕生する事となった。幾年月が過ぎ、アルマは父親の職を受け継いで病に苦しむ人々を助けた事で、時の領主、ニコラ・レミに魔女の嫌疑をかけられて磔刑(はりつけ)に処される。時は現代、流動玲二は次々に少年を誘拐して殺害し、降魔の儀式の生贄として捧げていた。彼は悪魔の力を借りて「賢者の石」の秘密を解き明かし、この世界を我が物にする事を望んでいた。そしてついに、流動は恋人の夏川真理子の胎児を取り出し、その血を悪魔に捧げると、魔女のアルマが降魔する。流動と契約を交わしたアルマは、誘拐殺人の容疑で逮捕された流動に「賢者の石」の秘密を授けようとするが、彼の上園葉子に対するこだわりがその邪魔をしていた。ある時、アルマは流動に獄中で犯されたショックで、流動と共に中世のアルマの故郷へと時空を超える。

第2巻

中世に戻り、人々の病を自ら調合する薬で治していたアルマ・ラウネは、時の権力者であるニコラ・レミに、再び魔女の嫌疑をかけられ囚われてしまう。レミの家臣となっていた流動玲二は、アルマを待ち受ける執拗な拷問を回避すべく、アルマをひと思いに槍で突き殺す。すると、夜な夜な甲冑の騎士の足音が城内に響き渡るようになり、魔女のたたりだとみんなが怯えるようになる。そんな中、レミは何者かに毒を盛られ、その疑いをかけられた流動は火炙りの刑を言い渡される。しかし、その直前にレミが死亡し、アルマに助け出された流動は真実と向き合うため、上園葉子のいる元の時代へアルマと時空を超える。その後、地元のヤクザの餌食になっていた葉子と流動の魂を引き合わせたアルマは、その妖術で暴力団の売春組織を壊滅させる。一方、死刑を言い渡された流動は、葉子の未来をアルマと共に見届けると、自分は処刑によって死に至る瞬間に跳躍(リープ)するつもりだと、アルマに告げる。

第3巻

一人の老画家は、自分が描こうと思った完璧な地獄のイメージが湧かず、不眠症で苦しんでいた。そんな折、ヌードモデルを務めてもらっているアルマ・ラウネの営む薬局を訪れ、その苦悩を吐き出す。そんな彼に対しアルマは、取り出した水晶体を見せる。そこには老画家の、若く美しい妻の本性が映し出されていた。思い詰めた老画家は、妻をローラー車で轢き殺す。(その1「描かれた地獄」。ほか、7エピソード収録)

第4巻

自分の顔にコンプレックスを抱く浅井百合子は、過去に結婚歴がある中小企業のサラリーマンと見合いする事になった。しかし結婚歴のある男だった事から、百合子は自分の女としての価値が低い事を自覚し、早々に席を立ってしまう。ほどなく、アルマ・ラウネの薬局に入った百合子は、ひょんな事からアルマに不美人の卑屈な思いを告白する事になる。すると驚く事に、美しいアルマから「入れ替わり」の提案を受ける。アルマの容姿を手に入れた百合子は、声を掛けて来た芸能関係者の芥真一に身を預け、女優デビューを果たす。しかし数年後、若くはない年齢のために人気は急落する。結婚するはずだった芥とも別れ、傷心となった百合子は、ふともとの自分の顔に会いたくなる。(その12「どじょうの涙・金魚の涙」。ほか、7エピソード収録)

第5巻

アルマ・ラウネの薬局の常連であるインストラクターの越川早苗は、エアロビクススタジオの会員で、金持ちのマダム、津村と肉体関係を持っていた。しかしある日、津村は早苗が自分をババア呼ばわりしていると知り、激怒した津村は早苗を殺害してしまう。そして形成外科医の夫に頼み、彼女の若い肌を自分に移植し、驚くほど若返る。早苗の肌が使いものにならなくなると、今度は早苗を探していたアルマに近づき、自宅に誘い込む。津村はアルマを刺したあと、警察へ連絡しようとした夫も殺害。そして老いの苦しみから開放されるたった一つの方法を悟る。(その20「皮」。ほか、6エピソード収録)

第6巻

唯魔教へ入信したルポライターの美村ナオミと連絡が取れなくなった婚約者の秀樹は、以前ナオミから取材を申し込まれたアルマ・ラウネと共に、唯魔教の本拠地・マホロバに潜入した。教祖の黒瓜ミノルは、アルマ達を信者として迎え入れ、薬漬けにされたナオミの痴態を彼らに見せつけ、秀樹はそのショックで教団をあとにする。劣悪な生い立ちのせいで心を閉ざしていた黒瓜は、やがて悪魔の存在を狂信して悪魔のメフィストフェレスを呼び寄せ、悪魔から宗教活動のノウハウを教わったのだ。しかし、黒瓜は次第にナオミに惹かれていき、それに気づいたアルマは黒瓜のファンドマネージャーの姿をしたメフィストフェレスに賭けを申し込む。それは、黒瓜が1週間以内に人間として更生すればメフィストフェレスが彼から手を引く、それに失敗すればアルマがメフィストフェレスの家来になるというものだった。(最終章「7番目の男」。ほか、4エピソード収録)

登場人物・キャラクター

アルマ・ラウネ

16世紀末にフランスのロレーヌ地方で生まれた女性。医者のジャンとその妻のマドレーヌの娘だが、その正体はジャンが黒死病に冒された妻を救おうと悪魔との盟約を結んだ末に生まれた悪魔の子で、いわゆる魔女。胸には蛇の紋様をした悪魔の花押(かおう)の搔き疵がある。父親の死後は病に苦しむ村人達の相談に応じていたが、時の領主、ニコラ・レミの魔女狩りにより、磔刑(はりつけ)に処された。その後、連続殺人犯の流動玲二により現代に降魔し、彼に「賢者の石」の極意を授けようとするが、それを阻む流動の上園葉子への執着を解くため、流動と幾度となく時空を超える旅に出る。流動を憎からず思っているが、最終的には契約を結んだ彼への責任を果たすため、現代に戻り、流動と葉子の魂を向き合わせる。魔女ながらその精神は自己犠牲と慈愛に満ちており、流動の死後も日本に残り、薬局を営みながら、自分のもとを訪れる人々に助けを施す。無限の能力を持つが、人々への干渉は必要最小限に留めている。自然科学の奥義を極めた妖術を多く使う。

流動 玲二 (るどう れいじ)

不老不死の霊石といわれる「賢者の石」を手に入れようと、幼児連続誘拐殺人事件に手を染めた男性。全知全能の神の秘密に迫り、この世界に君臨する事を目論む。そのため、悪魔崇拝の儀式の生贄として次々と幼児を誘拐し殺害した。ついには恋人の夏川真理子の腹から胎児を取り出し、降魔の儀式でアルマ・ラウネを呼び出す事に成功。父親を事故で亡くし、母親は男を作って家を出て行ったという不幸な生い立ちで育つ。いじめられていた中学時代、唯一優しく接してくれた上園葉子に好意を抱き、彼女と付き合っている浜本を生体解剖しようとして、鑑別所送りとなる。その後も一途に葉子を思い続けて毎日手紙を書いていたが、流動玲二との接触を許さなかった葉子の両親を殺害。葉子を不幸にしたという自責の念に駆られている。獄中でアルマを犯し、魔女狩りの恐怖を思い出したアルマと共に中世のフランスへ跳躍。そこでは幼児虐待の性癖を買われ、ニコラ・レミの家来となり、したたかに生き抜いていたが真実と向き合うため、再び葉子のいる現代へアルマと戻る。次第にアルマと心を通わせるが、死刑判決を受けて死の瞬間での跳躍に挑む事を決意する。

ジャン

16世紀末、フランスのロレーヌ地方の片田舎で黒死病(ペスト)の研究をしていた医者の男性。アルマ・ラウネの父親。最愛の妻、マドレーヌが黒死病に冒された際、妻を救うために禁断の黒魔術で悪魔との盟約を結ぶ。しかし、自らは一向に悪魔に召される気配はなく、元気になった妻が待望の妊娠。生まれる子供が悪魔の子という事が判明し、僧侶を呼んで悪魔払いの儀式をするが、それが悪魔の逆鱗に触れ、マドレーヌは難産の末に死亡した。ジャン自身は罪の重さに苦しみ、精根尽きてこの世を去った。

マドレーヌ

ジャンの妻。黒死病に冒されるが、夫が悪魔と盟約を結んだ事で回復した。その後、妊娠するが、生まれて来る子供が悪魔の子と知ったジャンが、僧侶を呼んで悪魔払いをした事で悪魔の逆鱗に触れ、難産の末に死亡してしまう。その時に生まれた子がアルマ・ラウネ。

夏川 真理子 (なつかわ まりこ)

人気急上昇中の女優。グラマラスな体型をしている。流動玲二の恋人で、彼の子供を妊娠している。流動と結婚する事になれば、女優の仕事を辞めるつもりでいるが、流動と同居する辛気臭い島原正夫には家から出て行ってほしいと思っている。流動に眠らされ、降魔の儀式で胎児を取り出されて、殺害された。

上園 葉子 (かみぞの ようこ)

中学時代の3年間、流動玲二と同じクラスだった女性。幼児連続誘拐殺人事件を起こした流動の人間形成の一面を検証するため、証人尋問に呼ばれた。中学時代、いじめられていた流動に優しくした結果、流動が自分の恋人の浜本を生体解剖するという事件を起こす。のちに浜本に妊娠させられ、上園葉子は心に傷を負ってしまう。しかし毎日、鑑別所から手紙を送って来る流動の出所を次第に待ちわびるようになる。だが、脱獄して来た流動に、流動との交流を禁じていた両親を殺害される。以降は身寄りもないため、地元暴力団の餌食となり、ヤクザの売春宿で働いていた。そんな中、潜入して来たアルマ・ラウネに助けられ、流動の魂と引き合わされる。魂同士での逢瀬だったが、肉体の交渉なしに妊娠して流動とのあいだにできた子供を育てている。未来をアルマが確認するが、流動には彼の子供だとは知らせていない。

浜本

流動玲二と同じ中学に通っていた男性。上園葉子と付き合っていた。クラスの不良グループを裏からあやつっていた根っからのワル。葉子に思いを寄せていた流動に眠らされ、学校内で検屍官にあこがれていた流動に生体解剖されるが、幸い致命傷には至らずに済んだ。この事件で流動は鑑別所に送られる。のちに浜本は葉子を妊娠させ、彼女の心に傷を残した。

島原 正夫 (しまばら まさお)

流動玲二の友人の男性。流動と共に豪邸で暮らしている。純然たる悪魔礼拝の目的で少年を誘拐している流動に手を貸していたが、流動が性的に倒錯した残虐な殺人を繰り返すようになったため、怖気づいている。悪魔礼拝の儀式に興味はあるが、流動が夏川真理子から胎児を取り出し、降魔を成功させた事で流動のもとから逃げ出した。しかし島原正夫自身がすぐに警察に捕まってしまい、流動も連続幼児誘拐殺人の容疑で逮捕される。

ヤクザ

米兵相手にした売春組織を牛耳るヤクザの男性。上園葉子を助けるために潜入したアルマ・ラウネを捕らえ、士官クラス専門の売春婦にしようとシャブ漬けにし、葉子を自分の情婦とした。これと決めた女は必ず自分のモノにして来たが、アルマの自信満々の目を恐れ、アルマには手を出せないでいる。

大佐 (たいさ)

米兵の空軍大佐の男性。ヤクザの売春宿の常連。サド嗜好で女性を縛って殴るプレイを好み、お気に入りの女性を瀕死の状態にした事もある。ヤクザからアルマ・ラウネを差し出されるが、彼女に妖術をかけられて爆撃機で売春宿に墜落させられる。

ニコラ・レミ

16世紀末、フランスのロレーヌ地方の検事総長に就任した男性。時の領主を務める。司法上の生殺与奪権を握っており、魔女の摘発に精を出し、残忍な魔女弾圧を行っていた。ヒマと退屈を持て余した地方の貴族を招き、夜毎大饗宴を繰り広げて囚人達を慰み者にして、無下に扱っていた。病に苦しむ者を治療したとして、アルマ・ラウネに魔女の嫌疑をかけて彼女を凌辱し、磔刑に処した。のちに、アルマと共に時空を超えて来た流動玲二の残虐さを認め、自分の部下とした。再び、魔女の嫌疑をかけられて目の前に現れたアルマに復讐を告げられると、自分の研究書の実験材料として残忍無比な拷問を施す。流動にアルマを拷問するよう命じるが、その命令に従わずにアルマを槍で突き殺した流動を地下牢に拘束する。その後、みんなが死んだはずのアルマのたたりに怯える中、陰部に毒を仕込んだアルマに寝込みを襲われ殺される。実在の人物、ニコラ・レミがモデル。

ジル・ド・レエ

ジャンヌダルクの配下武将として華々しい実績を残した男爵。浪費癖や好色でも悪名高く、「青ひげ」とあだ名されている。1440年9月、悪魔信仰と幼児殺害の容疑で裁判に付された。因習的な倫理にほとんど敬意を払わず、錬金術や占星術に関心を示し、降魔の儀式のため魔術師ブレラーティと組んで幼児140名以上を誘拐し殺害したとされる。生い立ちや人間形成の過程については不明な点が多い。現代で絞首刑となった流動玲二が死に至る瞬間に跳躍し、ジル・ド・レエとして名を残したと作品中で示唆されている。実在の人物、ジル・ド・レがモデル。

大家 (おおや)

16世紀末、フランスのロレーヌ地方に住む大家の女性。現代の日本から時空を超えて跳躍して来たアルマ・ラウネに部屋を貸した。子供が梅毒に罹ってしまうが、慢性化した鼻疽(馬やロバの病気が人間に感染したもの)だと見抜いたアルマが薬を処方し、命を救った。アルマからは街の人々には秘密にしてほしいと釘を刺されるが、喜びを独り占めするのは主の教えに背く事だと、みんなに言いふらしたため、アルマに魔女の嫌疑がかけられた。

ラブレー

16世紀末、フランスのロレーヌ地方の弁護士を務める男性。斜視で、とんがり帽子をかぶっている。魔女を発見する権威と呼ばれており、アルマ・ラウネの処方する薬のせいで商売がうまくいかなくなった街の薬屋が、妖術を使っていると密告した事でアルマを拘束した。

老画家 (ろうがか)

クリスチャンの男性画家。歳の離れた美しい妻がいる。「地獄」と題された絵によって、初めて世間の注目を浴びる。その絵はひときわ異彩を放ち、評論家達のあいだでも賛否両論の物議を醸し出したが、その絵が忽然と姿を消す。不眠症がひどく、アルマ・ラウネが営む薬局をたびたび訪れており、アルマに絵のヌードモデルを頼んでいた。画家としての情熱は我と我が身を主の御霊に捧げた証だとして、キリストの12使徒の心境だとアルマに語っている。アルマに完璧な地獄を描きたいと打ち明けたため、妻の裏切りを知る事になる

美しい妻 (うつくしいつま)

老画家の妻で、若く美しい女性。敬虔なクリスチャンで、ヌードモデルになるのを頑なに拒否したため、アルマ・ラウネが老画家のモデルを務める事となった。夫の絵のよき理解者で、夫に尽くしている。しかし若い男性と不倫関係にあり、夫の財産を狙っているという裏の顔がアルマにより暴かれる。

(おとうと)

大柄な体型の顔の長い男性。兄貴の実弟。コカイン中毒でアルマ・ラウネの薬局で倒れたところを、アルマに助けられた。アルマにその礼として、兄貴の宝物である純金のアステカの黄金像を手渡すが、逆上した兄貴から銃殺されてしまう。メキシコからのコカインの密輸を兄貴から手伝わされ、逃げ出さないようコカイン中毒にされていた。

兄貴 (あにき)

メキシコからコカインを密輸している男性。弟の実兄。三白眼で眉毛が濃く、口ヒゲを生やしている。情け容赦のない性格で、ずる賢い。弟に無理やりコカイン密輸の仕事を手伝わせ、逃げないようコカイン中毒にしていた。アルマ・ラウネの薬局で介抱されていた弟を、アステカの黄金像を盗んだとして銃殺した。その後にアルマを犯そうとして、アステカ文明が栄えた時代に跳躍させられる。

自宅の近くで轢き逃げされた会社員の男性。妻子を残していく事への無念を感じ取ったアルマ・ラウネにより記憶を残したまま、事故の12時間前に戻される。心霊現象などのオカルトに詳しいため、その日の夜に信自身が事故に遭う確信を深めていく。夜中12時前後に轢き逃げ現場から離れるため、身を隠そうとする。しかし、異変を感じ取った愛人の奈穂子に捕まってしまう。

奈穂子

信の愛人で、彼と同じ会社に勤めている女性。強気だが、ナイーヴで傷つきやすい性格をしている。どこか様子のおかしい信を尾行し、自分と別れるつもりだと直感する。信を強引に捕まえ、自宅へと連れ込んで関係を持つ。夜中の12時を過ぎ、浮かれた態度の信に自宅まで車で送ってほしいと頼まれ、自分はセックスの対象でしかない事を思い知らされる。

カメラマン

カメラマンの男性。太った妻と太った娘が二人いる。気弱な性格で、内にため込むタイプ。若いタレントの写真ばかり撮影する仕事に嫌気がさし、早く独立して好きな写真を撮りたいと思っていたところ、極度のノイローゼとなり、アルマ・ラウネの薬局を訪れる。アルマが親切心でかけた催眠術で、二人で世界旅行をするトリップゲームの高揚感を体感。次第にアルマとの旅行の幻想に依存するようになるが、トリップゲームの副作用で、脳に変化が生じて未来を予知する念写の能力が開発されてしまう。

バリバリー

カリブ海の小国、サバト共和国の大統領の男性。黒い肌で眉毛がつながっており、アフロヘアをしている。30年間にわたり恐怖の独裁体制を敷いていたが、政権が崩壊。魔術をあやつるカリスマ的指導者として有名で、降魔術でアルマ・ラウネを呼び出した。新政府のフェリックスを呪い殺すようアルマに掛け合うが、浪費家の妻のカトリーヌと共に、人類が死滅した遥か未来の地球に跳躍させられる。

フェリックス

バリバリーの後任として、サバト共和国の新政府の議長を務める事になった男性。黒い肌で眼鏡をかけており、唇が分厚い。大統領となったあかつきには血で血を洗う政治は終わったと、バリバリーに新しい平和憲法の恩恵を授けた人格者。

眼鏡をかけた男性 (めがねをかけただんせい)

弁護士を務める男性。眼鏡をかけている。アルマ・ラウネが無類の怪談好きを集めて「百物語(数人の者が順番に怪談を語り合い100番目の物語が終わると本物の化け物が現れるといわれる怪談会)」を主催した際のメンバーの一人。みんなのネタが尽きた99本目に、事実に基づいたとっておきの話を語り出した。その内容は、旋盤工の仕事をしながら司法試験の受験勉強をしていた26歳の時、大学時代の友人の大場年男を殺害し、バラバラにした死体をコンクリートミキサー車に放り込み、弁護士となった数年後に彼と驚くべき再会を果たしたというもの。

大場 年男

眼鏡をかけた男性の大学時代の友人の男性。売れない脚本家。怠け者で、そのくせ尊大なところがあり、無頼漢を気取っていた。なにか嫌味を言わなければ気が済まないような性格で、司法浪人中で貧乏な眼鏡をかけた男性のアパートにやって来て、金を貸してほしいという男性の頼みをすげなく断ったため、殺害された。

不動産業者 (ふどうさんぎょうしゃ)

不動産業者をしている初老の男性。二重アゴをした肥満体型。アルマ・ラウネが無類の怪談好きを集めて「百物語」を主催した際のメンバーの一人。実は大場年男の父親で、いなくなった息子の手掛かりを探すためアルマの協力を得て、怪談会に参加した。

名もない男 (なもないおとこ)

不況のため会社を解雇された男性。独身でうだつがあがらず、家族も身寄りも友達もいない。自殺するためにアルマ・ラウネの薬局に薬を買いに訪れた際、自分の名前を気に留めてくれる人が一人だけでもいてほしいと打ち明けた。すると、小劇団からアドルフ・ヒトラー役にスカウトされ、初めて人に必要とされる快感を味わう。あらゆる書物を読みあさり、完璧なヒトラーを演じるが、高揚感が高まったその時にヒトラーそのものになってしまう。

漫画家 (まんがか)

無精ひげを生やした漫画家の男性。根っからのルーズな性格で、いつも締め切り間近に、アシスタントにアルマ・ラウネの薬局に眠気覚ましの薬を買いに行かせている。眠気覚ましより効くという薬を注意書きを読まずに飲んでしまい、自分以外の人間の時間の止まった世界を体験する事になる。

加山 (かやま)

会社員の男性。新婚当初、妻の幸子を3年前に亡くして以降、生きる気力を失くしている。ギリシャ神話に登場するオルフェウスに共感し、その悪夢でうなされる事が多い。手術をすればよくなるアダムス・フリークス症候群という心臓の病気を患っている。アルマ・ラウネにより黄泉の国に連れて行かれ、オルフェウスのように妻を生き返らせるチャンスを与えられる。知らずに緒方知子の手を握り、加山自身の願望を果たそうとするが、その道中に手を引く相手が妻ではないという事に気づいてしまう。

緒方 知子 (おがた ともこ)

会社員の女性。加山と同じ課に所属している。入社した時から加山に思いを寄せていた。加山が結婚した事で一度はあきらめたものの、妻を亡くした加山を今でも気に掛けている。ある日、加山に思いを打ち明けようとした矢先、加山が心臓発作で倒れてしまったところに出くわし、アルマ・ラウネに助けられる。アルマの計らいにより、加山に自分の思いを伝えるチャンスを得る。

霧島 雄二 (きりしま ゆうじ)

アルマ・ラウネの薬局で、精神安定剤(トランキライザー)を処方してもらっている手品師(マジシャン)の男性。クラブやキャバレーの座興をしている細面のイケメンで、代金の代わりにアルマにマジックを披露している。フランスから来たダンサーのミレーユ・ダリューと恋愛関係になり、それを逆手に取ったマネージャーからイリュージョンをやって有名になろうと持ち掛けられる。

ミレーユ・ダリュー

パリからやって来たダンサーの若い女性。年齢は20歳位で、日本人好みのかわいらしい顔立ちをしている。マネージャーにスカウトされて日本にやって来た。フランスで日本人留学生と付き合っていたため、日本語が少し話せる。霧島雄二と恋愛関係になる。

マネージャー

芸能プロダクションの社長を名乗っている小太りの中年男性。ヤクザのヒモのような事を生業としており、いつも一攫千金を夢見て、できもしない事を熱弁している。パリで売れっ子だったダンサーのミレーユ・ダリューをスカウトして来た。霧島雄二とミレーユの縁を取り持って、支配人に密告する。雄二にイリュージョンをやって有名になろうと話を持ち掛ける。

蝶の収集家 (ちょうのしゅうしゅうか)

蝶の収集家の男性。本業は文筆家。良子の夫だが、妻は蝶ばかり追いかけている夫に愛想をつかし出て行ってしまう。電車の中で蝶の標本を落として踏まれ、パニックになっているところをアルマ・ラウネに助けられる。5年前、奄美大島で蝶を追いかけていた時に、ハブに嚙まれて片足を失っている。アルマに背中を押され、失ってしまったコレクションの蝶をもう一度捕まえるため、再び奄美大島に向かう。

良子

蝶の収集家の妻。美しい顔立ちながら暗い表情をしている。夫が蝶ばかり追いかけているのに愛想をつかし出て行ってしまう。夫が奄美大島に蝶の収集に出掛けている時に戻って来た際、アルマ・ラウネと出会う。

浅井 百合子

顔にコンプレックスを持っている20代半ばの女性。卑屈な性格で、プライドが非常に高い。見合い相手の男性に、目減りする自分の付加価値を見た気がして落ち込んでいる中、頭痛薬を購入しに行った薬局で、アルマ・ラウネに声を掛けられ、容姿の「入れ替わり」を提案される。アルマの姿で街を歩いているところを、芥真一からスカウトされ、女優としてデビューする。数年後、演技のまずさと若くはない年齢がネックとなり人気は下降。芥とも別れて傷心の中、古い自分の顔に会いに行く。アルマの姿になって以降は「浅田百合枝」と名乗っている。

サラリーマン

浅井百合子の見合い相手の男性。中小企業のサラリーマンで結婚歴がある。眉毛が太く眉間にホクロがあり、小柄の体型で眼鏡をかけている。百合子を気に入り、見合いの途中で百合子が帰ってしまった事を心配している。百合子がアルマ・ラウネと入れ替わった数年後、百合子の姿をしたアルマと幸せな家庭を築いていた。

芥 真一

アルマ・ラウネの姿になった浅井百合子を女優としてスカウトし、彼女のマネージャーになった男性。業界ではやり手で有名なスマートなイケメン。当初から百合子と恋人関係にあり、百合子と結婚の約束をしていた。百合子の人気が落ち目となった際には、芸能界で生き延びるため、婚約祝いと銘打った乱交パーティーに百合子を連れて行き、そのせいで百合子と破局した。

亀山 西六 (かめやま さいろく)

金融業を営む高齢の男性。人の弱味につけこむ強欲な性格で、多くの人から恨みを買っていた。家を放火され、意識を失っている時に、アルマ・ラウネに地獄の裁判に連れて行かれ、生前の所業を法廷で報告される。金貸しとして事業をスタートさせ、極端な人間不信が徹底した経営理念となり、成功者となった。しかし、優しかった西六の姉を戦争で失っており、その裏には他人の非情を恨むようになった悲しい過去がある。

西六の姉 (せいろくのあね)

亀山西六の姉。戦時中、父親は軍を脱走し、母親は兵役免除の男性と逃亡してしまい、一人で幼い西六の面倒を見ていた健気な少女。西六を疎開させるため、自分の宝物であるオルゴールを売って布団を買おうとしたが、両親のせいで非国民呼ばわりされ、結局布団を手に入れる事ができなかった。そのため、1組しかない布団を西六に持たせて自分は東京に残ったが、東京大空襲ののち、焼け跡からオルゴールが見つかる。その時から西六は他人の非情を恨むようになった。

健一

保険会社に勤める男性。亀山西六の幼なじみ。西六の姉の死で人間不信に陥った西六を不憫に思い、見守り続けた。家が放火されて重傷を負った西六を見舞い、西六の姉の形見のオルゴールの中から、姉のメッセージを見つけた。

山本

外務省経済協力局に勤める初老の男性。元帝国陸軍の将校を務めており、50年前の中国で一人の若い中国人の男性を殺害した。それ以来、安眠できない日が続き、頭痛薬を購入しようとアルマ・ラウネの営む薬局を訪れる。アルマから、西の方角が凶と出ており、中国の少年の撃った弾丸に命を奪われると宣告される。しかし天命だと悟り、複雑な思いを抱えながら、日中合併事業の視察のため中国河南省を訪れる。

孫 海峰 (そん かいほう)

社会科学院農村発展研究所に勤務する若い中国人の男性。日本語を流暢にしゃべる。山本から、50年前に中国侵略した当事者だと打ち明けられるが、日本兵達に罪があるわけではないと、中日間の未来のために山本を暖かく迎え入れた。

眼鏡をかけた青年 (めがねをかけたせいねん)

古いアパートに住む青年。冴えない顔つきで眼鏡をかけている。レンタルビデオ店で、アルマ・ラウネの薬局に飾ってあるバフォメットの絵(キリスト教の悪魔の一人で、黒山羊の頭、額には五芒星の刻印、黒い翼を持つ姿で描かれている)と同じ絵柄のパッケージのビデオを借りたところ、アルマと共に奇想天外な冒険の旅に出るという不思議な体験をする。

原田 琴美 (はらだ ことみ)

作詞家の家で家事手伝いをしている若い女性。歌手になるという夢を持っている。3年前、家出同然で上京して来たところを、作詞家の男性に拾われ、住み込みで働く事になった。デビューをチラつかせる作詞家の都合いいように扱われ、過去には中絶手術を2回受けており、現在も妊娠4か月。原田琴美自身は作詞家と結婚してもいいと思うほど、彼を愛しており、アルマ・ラウネの力を借りて作詞家の本心を知る事になる。

作詞家 (さくしか)

作詞家の男性。今一番人気の女性歌手が歌う事になっている曲の作詞を手掛けており、ヒットが約束されている。ギリシャ神話のラビュリントスをモチーフに、闇を抱えた暗い詞を完成させる。そんな中、家事手伝いをさせている原田琴美から妊娠を告げられたため、彼女にその歌詞を書かせてから殺害して、それを遺書に見せかけようとしている。アルマ・ラウネの妖術にかかり、その計画を白状させられたのち、ラビュリントスに幽閉されてしまう。

首なし幽霊 (くびなしゆうれい)

首のない姿でアルマ・ラウネの薬局を訪れた男性。アルマにより、自分が幽霊だと知る事になるが、自分が誰なのかもわからない。奥多摩で首なし死体が発見されたため、身元を隠すため首を切り取ったと、アルマは顔見知りの犯行だろうと推理。犯人には今の首なし幽霊の姿が見えるため、アルマの力を借りて、自分の首を探す事になる。お人好しの性格で間が抜けており、自分を殺した犯人の見当もつかない。幽霊同士はお互いの姿が見えるため、生前家族愛に恵まれなかった幽霊が集う会の仲間になり、絞殺された女性と知り合う。

絞殺された女性 (こうさつされたじょせい)

優し気な中年女性の幽霊。長年連れ添った夫とその愛人に絞殺され、生前家族愛に恵まれなかった幽霊が集う会の仲間になり、首なし幽霊と知り合う。

昌子 (まさこ)

ブティック経営をしている厚化粧の中年女性。首なし幽霊の妻。週に1度、アルマ・ラウネの薬局に避妊具を買いに来る常連で、首なし幽霊の姿を見て一瞬驚いたため、関係者であると推理したアルマが霊媒師を装い自宅を訪ねた。共働きのために夫とはすれ違いの生活だったため、ヤクザな男と付き合いはじめたという経緯がある。浮気現場を夫に目撃されたため、夫を撲殺した。

鈴木

厚生省公衆衛生部局の役人を名乗り、アルマ・ラウネの薬局を訪ねて来た男性。濃い顔立ちで眉毛が太い。アルマを毒薬の専門家だと見抜き、薬事法ならびに薬剤師法違反で申告する代わりに、誰にも見破る事のできない毒薬を所望した。民間の製薬会社で新薬の研究に従事しており、出世の妨げになるライバルの高木を消そうとしている。アルマの妖術にかけられ、犬やネズミなどに生まれ変わり、そのたびに高木から新薬の実験材料に使われるうち、高木の真意に気づく。

高木

鈴木と同じ製薬会社で新薬研究をしている男性。寡黙な性格で、太いフレームの眼鏡をかけている。どことなく鈴木に似ている猿が実験動物として持ち込まれた際、唯一の友達だった鈴木がいなくなってから研究に身が入らないと嘆き、猿の姿になった鈴木を改心させた。

ホームレスの高齢男性 (ほーむれすのこうれいだんせい)

駅の構内で金の無心をしているホームレスの高齢男性。趣味は残飯で造る盆景で、その腕は超一流。作品はすべて故郷の風景を模している。出稼ぎで上京して20年、博打にはまってホームレスに身を落とした。一度でいいから故郷に帰りたいという願望を持つが、落ちぶれ果てた姿である事から帰る勇気が出ない。シャク(胸や腹に激痛が走る)という持病があり、自分の身体を気遣ってくれたアルマ・ラウネに盆景を披露した。

越川 早苗 (こしかわ さなえ)

エアロビクススタジオ「ジョイ」のインストラクターの若い女性。アルマ・ラウネの薬局の常連で、慢性的な筋肉痛の持ち主。元気いっぱいの性格で、唇が分厚く肉感的な容姿をしている。スタジオの会員の津村と肉体関係を持ち、金品を受け取っている。津村の事をババア呼ばわりしている事を本人に知られ、殺害される。

津村

エアロビクススタジオ「ジョイ」に通う中年女性。金持ちのマダムで、夫は「津村形成外科」を経営している。越川早苗と肉体関係を持ち、金品を与えている。早苗が自分の事をババアと呼ばわりしている事を知り、殺害する。医師の夫に頼み込み、彼女の皮膚を自分に移植した。早苗を捜索していたアルマ・ラウネを次の標的にして自宅に誘う。

鮎川

プロ野球選手の男性。甲子園でエースとして活躍し、人気球団「東京シャイアンズ」にドラフト1位で入団した。順風満帆だった新婚当時、鮎川の妻を抱きかかえた事から肩を壊して成績は下降の一途をたどり、なにかと妻に辛くあたるようになる。アルマ・ラウネの薬局で処方された薬の用量を無視してガブ飲みし、肩は復調したものの、副作用として目に支障を来たして角膜移植が必要となる。妻から角膜を提供されて成績は上がるものの、一方では盲目になった妻を家政婦扱いするようになる。しかし優勝争いの最中、痛烈な打球を顔面に受けて視神経を損傷する。妻からは「アッちゃん」と呼ばれている。

鮎川の妻

人気球団「東京シャイアンズ」のピッチャー、鮎川の妻。夫が新婚当初に自分を抱きかかえた事から肩を壊し、成績不振に陥ったのは自身のせいだと悩んでいる。アルマ・ラウネの薬局で、副作用があるがよく効くという肩の治療薬を処方されるが、夫がその薬をガブのみしてしまう。夫の肩の調子はよくなったものの、副作用で目に支障を来して角膜移植が必要となり、鮎川の妻自身の角膜を提供した。盲目となってからも夫に尽くすが、成績が上がって調子に乗る夫から家政婦扱いされるようになる。

タカシ

世界地図が好きな小学生の男子。タカシの母は水商売をしており、家に男性を連れ込むため、近所から憐れみの目で見られている。夏休みの日記帳には世界旅行をしたと書いたため、母親から激しく叱責されてしまう。そんな時、アルマ・ラウネから声を掛けられ、いっしょに遊ぶ事になる。アルマに世界の地理を教えようと、地球儀を家に取りに行った時に車に轢かれて意識不明となる。

タカシの母 (たかしのはは)

タカシの母親。水商売をしている。お金のために家に男性を連れ込んでいるので、近所から白い目で見られている。はすっぱに振る舞っているが、タカシが事故に遭った際には献身的に看病するなど、息子を大事に思っている。

渋沢 (しぶさわ)

会社員の独身男性。内向的な性格をしている。社内で1、2を争う美女の竹内美智子とデートを重ねていたが、ほかの男性に取られてしまい、彼女に復讐心を燃やすようになる。黒魔術にはまり、美智子を呪おうとロウ人形作り試みるが、ある時、アルマ・ラウネから塑像の勉強を基礎から始めるよう勧められ、次第に創作の喜びに目覚めていく。

竹内 美智子 (たけうち みちこ)

渋沢と同じ会社に勤める若い美人女性。渋沢とデートする仲だったが、ほかの男性と恋人関係になる。渋沢の性格を知ってから、出世を望むのはとても無理だと考え、男らしくて有望な男性に乗り換えたというのが内情。

神田 正太郎 (かんだ しょうたろう)

九州から受験のために上京して来た浪人生の男性。既に2回受験に失敗しており、もうあとがないと焦っている。大学に合格して一流企業に就職できれば家族を呼んで養うつもりでいるが、現在は正太郎の母には連絡すら入れず心配をさせている。アルマ・ラウネに未来に連れて行かれて受験問題を手に入れるが、いつも自分を助けてくれる友人達を蹴落とす結果になる事や、母親を地獄に追いやるような悪夢にうなされる事となり、改心する。

正太郎の母 (しょうたろうのはは)

九州に住む神田正太郎の母親。手紙の返事が来ない事を心配し、正太郎の様子を見に来る。アルマ・ラウネに道を尋ねたため、アルマが正太郎の家庭の事情を知る事になる。東京の大学に進学しなくても、息子が傍にいてくれるだけでいいと思っている。

根上 耕太郎 (ねがみ こうたろう)

若手バイオリニストの男性。数々の国際コンクールに入賞し、天才の名をほしいままにしている。コンビを組んでいたピアニストの鳥海静子にプロポーズするが、拒絶されて自殺を図り昏睡状態に陥る。その1週間前、アルマ・ラウネに恋の悩みを打ち明けており、責任を感じたアルマが、静子に干渉する事になる。

鳥海 静子 (とりうみ しずこ)

ピアニストの女性。恵まれた環境で、生まれ持った才を遺憾なく発揮する美女。コンビを組む事になったバイオリニストの根上耕太郎のプロポーズを拒絶した事から、耕太郎は自殺を図り昏睡状態になる。実は究極のナルシストで、自分しか愛せない。ある時、鏡の中に入って自分相手に処女を失うという体験をし、悪魔の子供を身ごもった。アルマ・ラウネに相談したところ、悪魔の胎児は鳥海静子自身の罪悪感を栄養にして成長するため、耕太郎に対する罪の意識をなくすよう説得される。

老人 (ろうじん)

一人暮らしの高齢男性。地上げ屋から5億円で土地を売ってほしいと頼まれるが、まったく聞く耳を持たない。最愛の後妻である加代を10年前に亡くしている。その落胆ぶりが尋常ではなく、通夜で妻の顔を晒したくないと葬儀も行わなかった。庭の無花果の実を食べるたびに、奥ゆかしかった妻を思い出している。

老人の息子 (ろうじんのむすこ)

スーツ姿の男性。老人の息子。時おり狡猾そうな表情を浮かべ、腹に一物ある人物。アルマ・ラウネの薬局に老人性痴呆症に効く薬を求めてやって来た。アルマの前で、地上げ屋の嫌がらせを受ける父親の心配をしているふりをするが、実は遺産を手に入れるため、裏で地上げ屋を動かしている張本人。

黒瓜 ミノル (くろうり みのる)

唯魔教の教祖を務める若い男性。チリチリの前髪をまばらに垂らした独特のヘアスタイルをしている。生い立ちが悲惨で、実の母親にかわいがられる事なく施設に送られた。その時すでに自閉的な傾向が著しく、以降は心を閉ざしたままでいる。それにより芽生えた厭世観は、社会への復讐心にエスカレートして次第にオカルト的なものに興味を持ち始め、悪魔の存在を狂信するようになる。やがてオカルト小説家として身を立てようとした際に、悪魔のメフィストフェレスが現れ、宗教活動のノウハウを教えられた。悪魔から派遣されたファンドマネージャーの力を借り、難なく富と権力を手に入れ現在に至る。そんな中、教団に潜入して来たルポライターの美村ナオミに初めて恋をする。ナオミには心を許しており、自分がある言葉を発せば、悪魔との契約を破棄できると語っている。

美村 ナオミ (みむら なおみ)

唯魔教の黒幕を暴くため、教団に潜入したルポライターの女性。入信してから1か月で連絡が途絶えたため、婚約者の秀樹とアルマ・ラウネが救出に向かう事になる。黒瓜ミノルにルポライターという正体がバレてしまい、薬漬けにされてスワッピングパーティーに興じている様子を、信者と偽り入信した秀樹に目撃される。しかし、マホロバで黒瓜と交流するうちに、黒瓜の優しさを感じて彼に惹かれ始める。

秀樹 (ひでき)

美村ナオミに唯魔教の記事を依頼した男性。ナオミの婚約者でもあり、ナオミの行方を探している。まじめな性格で、眼鏡をかけている。ナオミがアルマ・ラウネに「宗教とオカルティズム」について取材を依頼していたため、アルマのもとを訪れて彼女の協力を得る事になった。アルマと共に信者としてマホロバに乗り込むが、秀樹の正体を摑んでいた教祖の黒瓜ミノルにより、ナオミの痴態を見せつけられる。そのショックでナオミをその場に残し、マホロバを離れてしまう。

ファンドマネージャー (めふぃすとふぇれす)

唯魔教のファンドマネージャーを務める中年男性。小太りで丸眼鏡をかけている。株の相場を予知する千里眼の持ち主で、教団に莫大な資金をもたらした。気配をまったく感じさせず、のちに黒瓜ミノルをスカウトした悪魔のメフィストフェレスだと判明。黒瓜と利害が一致した事から彼を利用しており、黒瓜が蒔いた種により世界が崩壊に向かった際には、自分がこの世界に君臨しようと企んでいる。黒瓜の美村ナオミに対する恋心に気づいたアルマ・ラウネから、黒瓜が1週間以内に人間として更生すれば彼から手を引く、更生しなければアルマがメフィストフェレスの家来になる、という賭けを申し込まれる。

集団・組織

唯魔教 (ゆいまきょう)

古代ペルシャの魔王パズズをあがめるカルト宗教団体。黒瓜ミノルが教祖を務め、教義はただひたすら快楽を追及する事にあり、刹那的で退廃的な面が多くの若者達に支持されている。黒瓜は近代合理主義によって疎外されている若者達に、主体性と生き甲斐を提供していると豪語している。一方で、家庭崩壊や入信費欲しさの青少年による犯罪など、さまざまな弊害が社会問題化している。入信には、年齢制限や未婚既婚の差別はなく、入信者は全財産を教団に寄託するのが原則で、その代わりに衣食住を提供される。10年後には信者数が1000万人を超えると計算されており、世界各国にマホロバの建設を予定している。

場所

マホロバ

唯魔教の本拠地。宗教施設とは名ばかりで、敷地300ヘクタールの総合レジャーランド。各種遊戯施設のほか、ホテルやレストラン、マンション、総合病院、デパートに有線放送局、墓地となにからなにまで揃っている。ファンドマネージャーによる株の売買により莫大な資金を調達し、建設された。世界各国に建設を予定しており、自由の楽園として信者達は欲求の赴くままにスワッピングパーティーやドラッグパーティーなどに参加できる。

その他キーワード

賢者の石 (けんじゃのいし)

あらゆる卑金属を黄金に変える能力を持つ霊薬。「第五元素」とも呼ばれ、かつて、錬金術師達はその抽出のため、色々な物質を手当たり次第に煮たり混ぜたり冷却したりした。悪魔的な夢想を育むヘブライの密教「カバラ」の解釈によれば、賢者の石とは理性と信仰を和解させる仲介者であり、俗に不老不死の霊石といわれている。賢者の石を手に入れ、この世界に君臨しようと考えた流動玲二が、それには悪魔の知識が必要であると、降魔の儀式に必要な生贄を求めて連続幼児誘拐殺人事件を起こした。アルマ・ラウネによると、賢者の石とは広義の超能力の事で、その秘術を得た者は死の意識から解放され、時間軸を征服する事ができるという。

アステカの黄金像 (あすてかのおうごんぞう)

アステカ族の人類創造の神ケツァルコアトルに仕えた青年神官の彫像。アステカ族は太陽が死滅し宇宙が滅びるのを防ぐため、血と心臓を捧げて、太陽に活力を与えようとした。その儀式の際、印として生贄にされる若者に授けられる。アステカの来生観によると天国に行けるのは犠牲になった者だけであり、生贄に選ばれるのは大変名誉な事とされている。

オルフェウス

ギリシャ神話に登場する詩人で音楽家の男性。竪琴の名手でもある。最愛の妻、エウリディケを新婚で亡くし、彼女を連れ戻すために冥土へ下った。冥土の神ハデスの計らいで、地上に出るまで妻を振り返ってはいけないという約束のもと、妻の手を取り地上に戻る事を許されたが、この世の光が見えた時に妻の方を振り向いてしまい、望みを果たす事ができなかった。アルマ・ラウネの計らいにより、亡き妻への未練から生きる気力を失くしている加山は、オルフェウスと同じ体験をする事になる。

ラビュリントス

回廊が複雑に作られていて、一度中に入ると再び外には出られないというギリシャ神話上の建物。クレタ島の王、ミノスが、妻のパシファエが生んだ牛頭人身の怪物、ミノタウロスを幽閉するために作らせた。アテネとクレタが戦争していた頃、ミノスはアテネの王子、テセウスを捕虜にし、ラビュリントスに住むミノタウロスの餌食にする事を決めた。テセウスに恋をしたミノスの娘、アリアドネは彼を助けようと、糸玉を持たせたためにテセウスは無事ミノタウロスを倒し、脱出に成功した。ラビュリントスからヒントを得た作詞家は、妊娠した原田琴美を殺害しようと計画していた事を自白し、アルマ・ラウネによりラビュリントスに幽閉されてしまう。

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