概要・あらすじ
ある娘が悪魔に魅入られ、望まない結婚を強いられようとしていた。1人の占い師が娘の味方をし、人間界で権力を手にしようとしていた悪魔、グシオンの陰謀を暴く。その占い師の正体は、魔界の王サタンからグシオンへの刺客として派遣された魔界の大公爵、アスタロトその人であった。(悪魔の約束)
アスタロトが人間界に多数所持しているアジトの1つとの連絡が途絶えた。アスタロトが直接向かうと、そこにいた部下たちは「内部で謎の殺人があったため、アジトを閉鎖して原因を探っていた」という。調査の結果、犯人は人間の身でアスタロトの部下であったハナに寄生する、二口女という妖怪であることが判明する。(ファーイースト)
アスタロトの部下である魔女のミリンダは、芸術家ダミアン=ナイトの大ファンであり、実質的にダミアンのストーカーであった。ところが、ミリンダはダミアンがザンドラという別の魔女に魅入られていることを知ってしまう。ザンドラは自分は正式にダミアンと契約を結んでいると主張したが、実はその契約はザンドラによる詐欺であり、それをアスタロトによって暴かれることになる。その後ミリンダは魔女としての生き方に見切りをつけ、押しかけ女房となるべくダミアンのもとに向かうのであった。(魔女の宴)
ある少女が奇妙な夢に悩まされていた。彼女は「暗きもの」と呼ばれる存在であり、成人すると何らかの姿に変態する性質を持つ者であった。アスタロトは魔界にも脅威を及ぼしうる暗きものを処理するべく動いたが、変身後の彼女が人間と同じ姿で、同じく知性を持つことを知り、何もせず去って行くのだった。(暗きもの)
人間界に「100%の占い」を可能とする者がいる、という報がアスタロトのもとに入る。そんなことは魔界の王サタンでさえ不可能なはずであった。調べてみると、それは結局のところ、占い師に取り憑いた悪霊によるペテンであり、アスタロトによって悪霊は払われることとなった。(占者の闇)
最近、人間界で性転換手術というものが流行り始め、男の魂と女の魂を取り違える事態が多発し、アスタロトは頭を悩ませていた。そこで、魂の性別を変換する技術の開発が試みられた。その手段として、飲んだ人間が50%の確率で死亡する「吸血鬼草」が必要であり、しかも実験台になった人間は死亡してしまう。ところが、アスタロトに嫌がらせをしようとした下位の天使がおかしな干渉をしたため、実験台の人間が蘇生。話はこじれ、天界から強大な天使、ガブリエルが収拾に乗り出す事態に発展してしまう。(吸血鬼草)
ある日、アスタロトが人間界を訪れると、彼が悪魔だということを知らない人間の娘、イサベルがサフランライスを給仕した。面白半分でアスタロトはそれを平らげる。たまたまベールの配下たちとの抗争が起こり、イサベルは巻き込まれそうになったが、サフランを身につけていたおかげで助かる。しかし、騒動のためにアスタロトの正体を知ってしまったイサベルの前に、彼が再び姿を見せることはなかった。(サフランライス)
アスタロトのもとに新しい使用人がやって来る。それは実はベールからのスパイであり、ひと騒動の末に始末された。それ以外にはたいしたことは起こらず、アスタロトは日記に、今日は平和な一日だったと記すのであった。(アスタロトの一日)
登場人物・キャラクター
アスタロト
強大な魔力を持つ、極めて高位の悪魔。黒い長髪の青年の姿をしている。大魔王にして、魔界の大公爵、また四大実力者の1人にも数えられる存在で、魔界の王サタンの派閥に属している。同じ四大実力者のベールやベールゼブブとは、何かと対立している。人間の娘から想いを寄せられることが多いが、アスタロト自身は非常に鈍感で、ほとんどの場合、それに気付かない。
ベール
強大な魔力を持った極めて高位の悪魔。さまざまな生物の身体が組み合わさった怪物の姿をしている。四大実力者の1人であるが、その中でも最強と目される存在。自ら「ベール大王」を名乗って、魔界において独自の派閥を形成。魔界の王であるサタンと何かと対立し、自らが魔界の王となることを狙っている。
グシオン
強大な悪魔で、72人の魔王の1人。所属する派閥は不明だが、魔界の王サタンの許可なく人間界で無法を働き、サタンの命によって追っ手をかけられている。道化に化けて権力者を操り、人間界を牛耳ろうと企んでいたが、追っ手であるアスタロトにその陰謀を暴かれ、討伐された。
ハナ
人間の若い女性。ジャポンという国の出身。自殺しようとしていたところを、たまたまアスタロトに止められた。その魂が美しいためアスタロトに気に入られ、死後に魂を提供することと引き換えに、長寿を与えられてアスタロトに仕える身となった。アスタロトに恋愛感情を抱いており、日々アスタロトへの恋心を赤裸々に語っては、同僚の悪魔たちをうんざりさせている。 なお、ハナ自身は確かに人間だが、実は妖怪二口女に寄生されていたことが、のちに判明する。
ミリンダ
若い魔女。「壺の魔女」という高名な魔女の孫娘にあたる。アスタロトの部下で、普段は魔界に暮らしている。ダミアン=ナイトという芸術家の熱烈なファンで、サインと握手を求めて人間界に飛んで行き、無理やりダミアンに会った。かなりのおっちょこちょいであり、魔女としての才能はあまりない。
ガブリエル
「大天使」と呼ばれる高位の天使。魂の回収をめぐる天使と悪魔のトラブルが生じた時、天界側の管理者として姿を現した。天界と魔界は休戦状態にあるため、天使が悪魔を直接攻撃するようなことは基本的にはなく、ガブリエルも下級の天使たちの方の責任を問おうと考えていた。最終的にトラブルはあっさり解決したため、何もせず去って行った。
その他キーワード
悪魔 (あくま)
魔界の住人たち。頂点にいるのは魔界の王サタンであり、その下に実力に応じて四大実力者、72人の魔王、上級悪魔、下級悪魔と格付けされた、多種多様な悪魔たちが存在する。人間に害をなす行いをする者は多いが、魔界には魔界の法があり、またいくつかの派閥に分かれていて政治的な縄張りなどもあるため、悪魔とはいえ必ずしも無法な悪事を行う者ばかりではない。
サフラン
香辛料の一種。中世に欧州において魔除けとして用いられたものであり、魔界の住人である悪魔にとっては毒。並の悪魔に対しては、かなり強力な作用を持つが、大魔王であるアスタロトにとっては、口にしても刺激物として感じられる程度のものでしかない。事情を知らぬ人間の娘、イサベルが、アスタロトのために作ったサフランライスを、アスタロトは面白半分で珍味として味わった。