あらすじ
第1巻
客にいちゃもんをつけられて投獄された薬売りは、同じ牢屋に入れられた無表情の女性のお蝶と出会う。お蝶は、佐々木和正をはじめとする佐々木一家を惨殺した罪で死罪が決まり、投獄されていた。もうすぐ死罪になるにもかかわらず、冷静なお蝶に疑問を抱いた薬売りは一家惨殺事件の真相を問うが、彼女は真実を語ろうとはしなかった。実は薬売りの本当の目的は、お蝶に取り憑いたモノノ怪の正体を解き明かすことであった。しかしそこに仮面の男が現れ、お蝶を牢屋から連れ出そうとする。薬売りはこの仮面の男がモノノ怪だと判断するが、退魔の剣は反応せずにそのまま彼に翻弄され、怪しい術をかけられて倒れてしまう。お蝶を連れ出した仮面の男は、お蝶にもう牢獄には戻ってほしくないと語る。それを聞いたお蝶は、嫁ぎ先である佐々木家で奴隷のように虐げられ、和正とその家族にバカにされて苦しんでいた日々を思い出すのだった。仮面の男は苦悩するお蝶にプロポーズし、それに応じた彼女の前で、踊りながら歓喜の声を上げる。さっそく祝言を挙げたお蝶たちだったが、そこにお蝶の実母が現れ、お蝶のさらなる過去を搔き立てる。さらに倒れていたはずの薬売りも姿を現し、仮面の男と再び対峙する。モノノ怪がなかなか「形」を表さないことに業を煮やした薬売りは、仮面の男の狐面を封印し、お蝶の心と過去を探ることで一家惨殺事件の真相を解き明かそうと試みる。
メディアミックス
本作『モノノ怪 -のっぺらぼう-』は、2007年7月より放送されたTVアニメ『モノノ怪』を原作としている。TVアニメ版は『怪 ~ayakashi~』のエピソード「化猫」の続編で、日本古来の怪談をモチーフとした五つのエピソードをオムニバス形式で描くホラー。本作の基になったエピソード「のっぺらぼう」のキャストは薬売りを櫻井孝宏が、お蝶を桑島法子が務めた。
関連作品
本作『モノノ怪 -のっぺらぼう-』の続編として、蜷川ヤエコの『モノノ怪 -化猫-』がある。『モノノ怪 -化猫-』は本作と同じく薬売りが主人公を務めるホラー作品だが、彼以外の登場人物や舞台などは本作と異なり、時代も江戸時代から大正時代に移り変わっている。地下鉄に出現したモノノ怪が起こす騒動や、その発端となった事件の真相を探る薬売りの活躍を描いている。
登場人物・キャラクター
薬売り (くすりうり)
アヤカシやモノノ怪の出現する場所に現れる謎の男性。ふだんは薬売りとして珍しい薬を売り歩きながら諸国を回っている。アヤカシやモノノ怪に対抗できる力と退魔の剣をはじめとする道具を持ち、あちこちで起こる怪事件の数々を探っては、モノノ怪を退治することで解決してきた。いつものように薬を売り歩く中で客にいちゃもんをつけられて投獄され、いっしょの牢に入れられたお蝶と出会う。お蝶が起こしたとされる一家惨殺事件の謎と、事件に潜むモノノ怪の正体を探るために、彼女に真実を問いただそうとする。当初はそこに現れた仮面の男が、お蝶に取り憑いたモノノ怪だと思って戦うが、退魔の剣が反応せずに彼の術で顔を奪われて倒れてしまう。再び仮面の男と対峙した際、鏡で彼の狐面を封印し、お蝶の過去や本音を探ることで、彼女に取り憑いたモノノ怪の正体を解き明かそうとする。
お蝶 (おちょう)
佐々木家の一家惨殺事件の下手人として投獄され、死罪を言い渡された女性。死罪となったにもかかわらず、無表情なまま冷淡な態度を崩さない。もとは梅沢家に生まれた娘で、父親は幼少期に亡くなっている。佐々木和正に嫁ぐが、彼や和正の母たちにはまったく歓迎されず、下女のように扱われて苦しんでいた。牢屋で薬売りと出会うが、そこに現れた仮面の男によって外に連れ出される。仮面の男のプロポーズに応えて結婚するが、再び姿を現した薬売りによって真実をつきつけられると同時に、一家惨殺事件の真相や過去の出来事を再び問われることになり、自分に取り憑いたモノノ怪の正体を知るようになる。幼少期はいずれは武家に嫁いで梅沢家を立て直すために、お蝶の実母に大きな期待を寄せられ、さまざまな稽古をつけられながら厳しく育てられた。しかし本音では、稽古事ばかりではなくふつうに遊びたいと思っており、母親が自分の本音をまったく聞こうとしない事実に苦悩し続けていた。その一方で母親を心から慕っており、自らを母親の期待に応えるための道具として、あらゆる感情や願いを押し殺すうちに無表情になっていった。佐々木家に嫁いだあとは和正たちに苦しめられるものの、母親の期待に背きたくない思いから逃げ出すことはできず、小窓から見える空を眺めては耐え続けていた。しかしこれらの苦悩を重ねるうちに心が弱り、のっぺらぼうに取り憑かれてしまう。
仮面の男 (かめんのおとこ)
お蝶の前に現れ、彼女を牢獄の外に連れ出した謎の男性。ふだんは狐面をかぶっているが、おかめなどさまざまな面をかぶることもある。手に持った煙管から不思議な煙を出すことで、妖術も使える。お蝶に恋心を抱いており、彼女といっしょに牢屋にいた薬売りに怪しい術をかけて眠らせたうえで、お蝶を連れ出す。苦悩するお蝶にプロポーズして祝言を挙げるが、再び現れた薬売りと対峙した際に鏡の力を受け、封印されてしまう。正体は狐面を通してのっぺらぼうにあやつられていた男性であり、もとはお蝶の心から生まれた存在。
お蝶の実母 (おちょうのじつぼ)
お蝶の母親で、若い頃に梅沢家に嫁いだ女性。お蝶が幼い頃に夫を亡くし、梅沢家を再興させるために彼女を武家に嫁がせることを生きがいとしていた。このため、自分の若い頃とよく似ているお蝶に期待を寄せると同時に、数多くの稽古事を習わせて厳しく育てていた。しかし、考えていたのは衰えた梅沢家を立て直すことばかりで、お蝶の苦悩や本音に耳を貸そうとしなかった。
佐々木 和正 (ささき かずまさ)
日置藩藩士の男性で、武家「佐々木家」の当主を務める。お蝶の実母に懇願されてお蝶を妻に迎えたが、お蝶のことは陰気な女と見下し、下女のように扱ったり悪口を言ったりしている。お蝶をめとる前に妻がいたが、首をつって自殺している。
和正の母 (かずまさのはは)
佐々木和正の母親で、お蝶の姑。お蝶を息子の妻として迎えるがまったく歓迎しておらず、見下して下女のように扱い、悪口を言っている。また、お蝶を佐々木家に送り出そうと必死に懇願してきたお蝶の実母のこともバカにしている。
のっぺらぼう
お蝶に取り憑いていた仮面のモノノ怪。お蝶の実母の期待に応えるために自分の心を押し殺し続け、心が弱っていたお蝶に取り憑いていた。仮面の男をあやつっていくつもの芝居を見せることで、ある真実を隠しながら彼女を欺いていた。仮面の男を使って佐々木家の人々を惨殺する幻を何度もお蝶に見せていたため、彼女の心は一時的に救われていたものの、同時に彼女が佐々木家に縛り付けられる原因にもなっていた。薬売りには、のっぺらぼうがお蝶に小さな恋心を抱いていたと推測されている。
その他キーワード
鏡 (かがみ)
薬売りがいつも持ち歩いている道具の一つで、手のひらサイズの小さな丸い手鏡。一見ふつうの鏡だが、力を発揮するときは巨大化する。鏡にはモノノ怪やアヤカシによって作り出された幻覚や、偽りの世界を暴く力がある。
クレジット
- 原作
-
~モノノ怪~製作委員会 アニメ「のっぺらぼう」より