モノノ怪 -海坊主-

モノノ怪 -海坊主-

TVアニメ『モノノ怪』のコミカライズ作品で、蜷川ヤエコの『怪 ~ayakashi~ 化猫 モノノ怪前日譚』の続編。大型商船「そらりす丸」を舞台に、海のアヤカシやモノノ怪が起こす怪事件と、それらモノノ怪の正体を探る薬売りの活躍を描くホラー。「月刊コミックゼノン」2013年11号から2015年1号にかけて連載された作品。

正式名称
モノノ怪 -海坊主-
ふりがな
もののけ うみぼうず
原作者
~モノノ怪~製作委員会 アニメ「海坊主」より
作者
ジャンル
お化け・妖怪
関連商品
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あらすじ

第1巻

江戸を目指して北へと進む大型商船「そらりす丸」には、「呪術師」を自称する柳幻殃斉や守銭奴の商人の三國屋多門をはじめ、一癖も二癖もある乗客たちが集まっていた。幻殃斉の提案で乗客たちが互いに自己紹介を交わしたり船内を鑑賞したりする中、加世薬売りと久々の再会を果たす。その夜、順調に進んでいたはずのそらりす丸は突然規定の航路をはずれ、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する危険な海域「龍の三角」に迷い込んでしまう。龍の三角には、迷い込んだ船は行方不明になって戻れなくなるという、恐ろしい噂があった。薬売りは船内を調査する中で、そらりす丸が迷い込んだのは、乗客の誰かが意図的に羅針盤を狂わせていたためだとつき止める。元の場所に戻れなくなったそらりす丸は恐怖の海上をさまよい、さらに巨大な戦船とともに、海のアヤカシの一種「船幽霊」が大量に出現する。機転をきかせた薬売りは火薬を使って船幽霊を退けるが、危険な海域から脱出するための手がかりを得ることはできないままだった。薬売りは乗客たちに、火薬を使い果たした今はアヤカシに襲われても、同じ手で追い払うことはできないと告げる。同時に薬売りは、この海にはアヤカシだけでなくモノノ怪も潜んでいることを察知していた。船内に緊張が走る中、加世は乗客たちを順番に問い詰めながら、そらりす丸を迷い込ませた犯人を探ろうとする。そんな中、新たなアヤカシの海座頭が、大量の鬼火と共に姿を現す。

第2巻

そらりす丸に現れた海座頭は、乗客たちに「お前の一番恐ろしいものは何か?」と問いかける。海座頭の問いかけで次々と本心や過去を暴露させられていく中で、乗客たちは恐ろしい幻覚を見せられ、中には恐怖と狂気に蝕まれて気を失う者もあった。そして海座頭が菖源に問いかけたことで、羅針盤に細工をして船を迷い込ませた犯人が源慧であった事実が判明。さらに海座頭に問いかけられた源慧は、「恐ろしいものはこの海を恐怖の魔境に変えた元凶だ」と答え、50年前に起こった悲しい出来事を語り始める。その昔、海を荒らすアヤカシを鎮めるために、虚ろ船に人身御供の人間を閉じ込めて流すという儀式が行われていた。50年前に造られた虚ろ船には、本来人身御供になるはずだった源慧の代わりに、お庸が乗せられて流されていた。源慧はお庸を乗せて流された虚ろ船を見つけ出し、彼女と再会したかったと語る。次の瞬間、薬売り退魔の剣が音を立て、縛られていた鎖がヒモ解かれ、この海をさまようモノノ怪の「」が明らかになったことを報せる。薬売りたちはその場に出現した虚ろ船を調査するが、中にはお庸も遺骨も見当たらず、空っぽの状態だった。源慧は自分とお庸の過去を再び語り出すが、彼の話が終わっても退魔の剣は反応を示さなかった。薬売りは、源慧の話にモノノ怪の「」はなく、彼の言葉にはいくつかのウソが含まれていることに気づく。

メディアミックス

本作『モノノ怪 -海坊主-』は、2007年7月より放送されたTVアニメ『モノノ怪』を原作としている。TVアニメ版は『怪 ~ayakashi~』のエピソード「化猫」の続編で、日本古来の怪談をモチーフとした五つのエピソードをオムニバス形式で描くホラー。本作の基となったエピソード「海坊主」のキャストは、薬売りを櫻井孝宏が、加世をゆかなが、源慧を中尾隆聖が務めた。

関連作品

本作『モノノ怪 -海坊主-』の続編として、蜷川ヤエコの『モノノ怪 -座敷童子-』がある。『モノノ怪 -座敷童子-』は本作と同じく薬売りが主人公を務めるホラー作品だが、彼以外の登場人物や舞台などは本作と異なる。ある旅籠で起こった怪事件と、そこに潜むモノノ怪の正体を探る薬売りの活躍を描いている。

登場人物・キャラクター

薬売り (くすりうり)

そらりす丸の乗客で、薬売りとして諸国を歩き回っている謎の男性。アヤカシやモノノ怪の出現する場所に現れることが多く、加世の奉公先で起こった化猫の騒動を解決に導いた。ただの人間を名乗っているが、アヤカシやモノノ怪に対抗できる道具と能力を持つ。退魔の剣の力を解放してモノノ怪を退治するには、その「形」「真」「理」を読み解くことが重要であるため、モノノ怪が現れた際は率先してこの三つを探ろうとする。これらを読み解いて退魔の剣が持つ真の力が解放されると、封印が解けた薬売りの姿になり、モノノ怪を斬ることができるようになる。そらりす丸が龍の三角に迷い込んでアヤカシが出現した際は、火薬を使って追い払い、乗客たちと協力しながら海に潜むモノノ怪の正体を探ろうとする。海座頭の問いかけに対しては、「この世の果てに形・真・理のない世界が存在していることが恐ろしい」と答えた。あらゆるアヤカシに対応できる力を持つが、率先して退治すべきはアヤカシではなくモノノ怪であると考えている。モノノ怪の潜む場所を訪れては退治しているが、人助けのためにやっているわけではなく、その目的や真意は謎に包まれている。

封印が解けた薬売り (ふういんがとけたくすりうり)

薬売りのもう一つの姿で、退魔の剣が真の力を発揮した際にこの姿に変身、もしくは彼と入れ替わるという形で出現する。見た目や能力も別人のように変わり、退魔の剣でモノノ怪を斬って退治することができる。肌色は白から褐色肌に、髪色は薄茶色から薄灰色へと変わり、白目部分は黒くなって瞳は紅くなる。水色の着物は黄色や金を基調とした和服に変わり、朱色の帯をしている。また、全体的に筋肉質で戦闘向きの体格に変わり、全身のあちこちには金色の紋様が現れる。

加世 (かよ)

そらりす丸の乗客で、もともとは坂井家で下働きをしていた奉公人の女性。坂井家で起こった連続怪死事件で薬売りと知り合い、事件後は坂井家から離れていた。新しい奉公先を探すために江戸に渡ろうと乗船していたが、船内で薬売りと再会し、再びモノノ怪やアヤカシが絡む事件に巻き込まれていく。個性的な面々が多い乗客の中では比較的常識人で、特に薬売りには好意的に接する。天秤からはなぜか気に入られている。船が龍の三角に迷い込んでアヤカシに襲われた際は、薬売りに協力しながら、羅針盤を狂わせた犯人をつき止めようとする。薬売りのことを頼りにしている一方、真意や目的がわからない彼に疑心を抱くこともある。海座頭の問いかけに対しては、「幸せな結婚生活や楽しい経験がないまま死ぬことが恐ろしい」と答えた。

柳 幻殃斉 (やなぎ げんようさい)

そらりす丸の乗客で、「呪術師」を自称する修験者の男性。この世にあらざるものを祓うために行脚している。アヤカシやモノノ怪など霊的なものに関する知識が豊富だが、実際に遭遇したことはないため、加世からはあまり信頼されていない。いずれはモノノ怪を倒して、呪術師として世間に名を広めることを目標としている。自信過剰気味でお調子者な性格で、講談するような口調で話す。武家を襲った化猫を退治したという薬売りの噂は知っていたが、実際に出会った当初は彼のことを見下すような態度を取っていた。しかし、アヤカシの襲撃に冷静に対応する薬売りを見て有能さを認め、彼に協力したりほかの乗客に助言したりするようになる。海座頭の問いかけに対しては、落語の演目にちなんで「饅頭が恐い」と答えた。

三國屋 多門 (みくにや たもん)

そらりす丸の主で、商人の男性。そらりす丸に乗って南蛮や西国を巡り、諸外国の珍しい品々を集めては江戸で売っている。欲深い金の亡者で、そらりす丸のあちこちに設置した豪華な水槽や、南蛮渡来の金魚などをコレクションとして愛でている。海座頭の問いかけに対し、最初は柳幻殃斉の助言どおりに回答をするが通用せず、「財産をすべて失って一文無しになることが恐ろしい」と本音を打ち明けた。

佐々木 兵衛 (ささき ひょうえ)

そらりす丸の乗客で、塩谷藩藩士の若い男性。愛刀は「九字兼定」。大きなしめ縄の帯を結んだ華やかな着物を着用した侍で、長く垂れた前髪で顔のほとんどが隠れており、少々不気味な雰囲気を醸し出している。無口だが薬売りに出会った当初から退魔の剣には強い興味を示し、剣が鞘から抜かれてその力を発揮する瞬間を待ち望んでいた。実は過去に100人以上の人を斬ってきた人斬りであり、海座頭の問いかけには「この世に怖いものはない」と偽りの回答をしたが、本心では今まで斬ってきた人々からの怨念に恐怖していた。海座頭に過去に斬り殺した人々の亡霊に襲われる幻覚を見せられて恐怖し、九字兼定を折られて気絶した。

源慧 (げんけい)

そらりす丸の乗客で、徳を積んだ五大寺の高僧の男性。花の模様が描かれた紫色の僧服を着用している。船が龍の三角に迷い込んでアヤカシに襲われた際は、薬売りに協力しながら破邪の呪文を唱え、菖源と共に船を守っていた。しかし菖源によって、羅針盤を狂わせて船を龍の三角に迷い込ませた張本人であることが明かされる。本来はほかの乗客を巻き込むつもりはなかったが、ある目的のために危険を冒してでも、龍の三角に入ることを望んでいた。元は龍の三角の近くにある小島に生まれ、両親を早くから海難事故で亡くし、お庸と共に暮らしていた。15歳の頃に仏門に入って修行に励み、数年後に海難事故が続く近海のアヤカシを鎮める人身御供に選ばれるものの、お庸が代わりに人身御供を名乗り出たために命を取り留める。お庸が身代わりになったことを悲しみ、僧侶になったあとも鎮魂を唱え続けたと語ったがこれはウソであり、本心では彼女を身代わりにして生き残れたことを喜んでいた。また僧侶になったのも、出世していい暮らしをしたいという欲望を叶えるためであった。お庸から兄妹愛以上の好意を寄せられているのには気づいていたが、彼女のことは特に何も思っていなかった。しかしお庸が純粋な思いから自分を庇って死んだことで、誰かに愛される喜びと、自らの心の醜さを悟る。これ以降、死んだお庸に恨まれているのではないかという恐怖心に苛まれると同時に、自分の心の醜い部分を恐れるようになった。

菖源 (そうげん)

そらりす丸の乗客で、源慧の弟子をしている青年。礼儀正しくおとなしい性格で、師の源慧を慕い、身の回りの世話をしている。坊主頭の細身な体型で、若草色の着物を着用しており、女性的で艶かしいしぐさをすることがある。源慧を尊敬している一方、共にそらりす丸に乗ってからは彼の様子がおかしいことを察知し、本心では恐怖心を抱いていた。このため、海座頭の問いかけに対しては「何を考えているのかわからない源慧が恐ろしい」と答えると同時に、源慧こそが羅針盤を狂わせた犯人であると告白した。

五浪丸 (ごろうまる)

そらりす丸の船長を務める男性。唇が厚くあごヒゲを生やしており、頭にハチマキを巻いている。三國屋多門に従いながらそらりす丸を順調に運航していたが、乗客たちと共に龍の三角に迷い込み、海のアヤカシやモノノ怪が起こす騒動に巻き込まれる。

海座頭 (うみざとう)

海のアヤカシで、大量の鬼火と共にそらりす丸に現れた。一本足の生えた魚の座頭の姿をしており、魚の尾ひれが付いた不思議な琵琶を持つ。琵琶を奏でながら、人の心に潜む欲望と恐怖を暴こうとしてくる。海坊主の仲間ともいわれ、時折海上に現れては人々を脅かしたり船を転覆させたりなど悪さをする。海座頭の問いかけに素直に答えると去っていくが、答えなければ亡者となって海をさまようことになる。この際の質問は決まって「お前の一番恐ろしいものは何か?」であり、問われた者は自分が本心から恐れている存在や物事について、告白しなければならない。この時にウソをついた場合も正直に答えた場合も、海座頭に幻覚を見せられ、強い恐怖を感じなければならない。そらりす丸に現れた際には、乗客の一人ひとりに対してこの問いかけを行い、それぞれの過去や本心を暴いていった。

お庸 (およう)

源慧の5歳年下の妹で、彼と同様に龍の三角の近くにある小島で生まれた。長い黒髪の美少女で、丸い模様のある和服をまとっている。両親を早くに亡くし、周囲に同じ年頃の子供もいなかったため、源慧とは身を寄せ合うように暮らしていた。修行に出ていた源慧が虚ろ船に乗る人身御供として選ばれ、16歳の頃に島に戻った彼と再会を果たす。この際にずっと源慧に好意を寄せ、結ばれることを望んでいたという一途で純粋な思いを告げると同時に、源慧と結ばれない運命であれば人柱となって御仏のもとへ逝きたいと願い、身代わりを名乗り出る。そのまま自ら虚ろ船に乗り込み、海に流されて命を落とした。源慧からは、死後に怨念を抱いたまま周囲を危険な海域に変えたモノノ怪になったと思われていたが、そらりす丸に現れた虚ろ船の中には、お庸の亡霊や遺骨は残っていなかった。虚ろ船を調べた薬売りからは、人柱としての役割を立派に果たしてモノノ怪になることなく海と一体化した、と推測されている。

海坊主 (うみぼうず)

海に現れるモノノ怪で、一般的には黒い坊主の姿をした妖怪とされている。しかしその実態は海で発生するあらゆる怪異や事象の総称であり、明確な決まりや形はない。怪現象の内容によって「海入道」や「海和尚」などさまざまな呼び名があり、亡者船や海座頭なども海坊主の一部である。龍の三角を危険な海域へと変貌させたモノノ怪の正体であり、源慧が隠し続けていた心の半分が元となって生まれ、長いあいだ海をさまよい続けていた。

場所

そらりす丸 (そらりすまる)

三國屋多門が持つ大型商船で、かつては御朱印船だった。船内には豪華な生け簀があり、あちこちにある高級水槽で南蛮渡来の珍しい金魚が飼われている。乗客を乗せて江戸を目指して北上していたが、ある人物の策略で羅針盤を狂わされて龍の三角に迷い込み、そこに潜むアヤカシたちの襲撃を受ける。

龍の三角 (りゅうのさんかく)

新島、野崎島、南蛮の島を結ぶ、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する危険な海域。別名「妖の海」。龍の三角に迷い込んだ船は行方不明となり、アヤカシに襲われて二度と戻ることができなくなると噂されている。近くには源慧の故郷である小島があり、昔は近海のアヤカシを鎮めるために、人身御供を虚ろ船に乗せて流すという儀式が行われていた。

その他キーワード

アヤカシ

この世のものではない不思議な存在の総称。八百万の神などと似たような存在ともされ、船幽霊のように人の霊が元になって生まれることもあれば、物や道具に宿って生まれることもある。この世の恨み、悲しみ、憎しみといった激しい情念にアヤカシが取り憑いて結び付くと、モノノ怪が生まれる。モノノ怪と同様、人がアヤカシの道理を理解するのはとても困難であるとされる。アヤカシは封印の呪符などの道具でも対処できるが、より強力な存在であるモノノ怪にはほとんど通用せず、真の力を発揮した退魔の剣で斬る必要がある。

(かたち)

退魔の剣が真の力を解放させるために見極める必要がある、モノノ怪の姿形や性質のこと。モノノ怪が人前に姿を現した際に明らかになることが多い。

(まこと)

退魔の剣が真の力を解放させるために見極める必要がある、モノノ怪の真実(事の有様)のこと。そのモノノ怪が生まれるまでの過程や経緯などが含まれる。主にモノノ怪と関係のある者や場所に起こった、過去の出来事を聞くことで明らかになる。

(ことわり)

退魔の剣が真の力を解放させるために見極める必要がある、モノノ怪の心理や願い(心の有様)のこと。そのモノノ怪が恨みや悲しみなどの情念を持つ理由やこの世への未練、望みの内容などが含まれる。主にモノノ怪と関係のある者の本心や、秘密などを聞くことで明らかになる。

虚ろ船 (うつろぶね)

龍の三角に迷い込んだそらりす丸に出現した、金の鎖で縛られた謎の小船。大木をくり抜いて造られた筒状の小船で、かつては海を荒らすアヤカシを鎮める目的で使われていた。小型の潜水艦のような形状で、人身御供として乗せられた人間が途中で逃げ出せないよう、フタをして閉じ込めた状態で海に流される。50年前、龍の三角の近くにある小島で虚ろ船が造られ、その人身御供として源慧が選ばれた。しかしお庸が身代わりを名乗り出たため、源慧の代わりに彼女を乗せた状態で流されていた。

クレジット

脚本

小中千昭

原作

~モノノ怪~製作委員会 アニメ「海坊主」より

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