ヤマトタケル

ヤマトタケル

哲学者・梅原猛が、歌舞伎の三代目市川猿之助のために書き下ろした戯曲『ヤマトタケル』をマンガ化した作品。神話上の人物であるヤマトタケルの人生をドラマチックに描いた原作は、1986年(昭和61年)に初演され、演劇界でスーパー歌舞伎というジャンルを確立した。その後、梅原猛と山岸凉子の双方でラブコールを送りあい、マンガ化が実現した。原作つきの作品は、山岸凉子としては非常に珍しい。1986年12月号から1987年7月号まで、「月刊ASUKA」誌上で連載された。1988年1月1日、角川書店から、コミックレーベルではなく、ハードカバーの文芸書として単行本が出版された。

正式名称
ヤマトタケル
ふりがな
やまとたける
原作者
梅原猛
作者
ジャンル
神話・伝承
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概要・あらすじ

4世紀頃。大和国の皇子・小碓命(おうすのみこと)は、双子の兄・大碓命(おおうすのみこと)の謀反をいさめようとして、誤って殺してしまう。父である天皇は怒り、罰として熊襲の討伐を命じる。たった1人の従者であるタケヒコを連れ、討伐を見事に成功させた小碓命は、人々から畏怖の念をこめてヤマトタケルと呼ばれるようになる。

しかし、義母である皇后(おおきさき)は、なんとか小碓命を亡きものにしようと謀略を重ね、大和の国に戻ることを阻止した。次から次へと襲いかかる試練に、知恵と武力で立ち向かう小碓命だったが、ついに尾張国で、蝦夷の民に化けた刺客の刃に倒れることになる。小碓命が息絶えるとき、都の空では名残を惜しむように、一羽の大きな白鳥が飛んで行った。

登場人物・キャラクター

小碓命 (おうすのみこと)

大和朝廷の皇子。大碓命(おおうすのみこと)と双子の兄弟だが、当時の習慣で、先に生まれた小碓命のほうが弟とされた。知性と武力に長け、人格もすぐれているが、心が優しく野心に欠けるため、不遇のままに人生を送ることになる。作品発表当時(1988年)の少女マンガでは考えられない、筋骨隆々タイプの主人公で、作者の山岸凉子は、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンを参考にしたと、単行本のあとがきで語っている。

大碓命 (おおうすのみこと)

小碓命の双子の兄で、皇太子(日嗣の皇子)。小碓命とは外見も能力もそっくりだが、世間的には、智に長けた兄皇子と、力ばかりの弟皇子ということで通している。弟と違うのは野心の強さで、皇后(おおきさき)の増長ぶりを警戒し、討とうとするところを小碓命に止められ、もみ合ううちに命を落とす。

弟橘媛 (おとたちばなひめ)

小碓命(おうすのみこと)の妻。大碓命(おおうすのみこと)の妻である兄橘媛(えたちばなひめ)の妹。名前の通り、もぎたての橘の実のように清々しく愛らしい少女。大碓命に迫られているところを助けてくれた小碓命に恋心を抱き、倭媛の助力で妻になる。熊襲の征伐にも同行する、一途で健気な姫。道中で海が荒れ、乗っていた船が転覆しそうになった時、小碓命を助けたい一心で、海神にその身を捧げて海を鎮めようと、船から身を投げて死ぬ。

兄橘媛 (えたちばなひめ)

大碓命(おおうすのみこと)の妻で、弟橘媛(おとたちばなひめ)の姉。幼い頃から美人姉妹と評判で、天皇(すめらみこと)に仕えるために都へ上ったところを、大碓命に略奪されて妻になる。大碓命が殺されてからは、小碓命に妻として差し出されるが、拒否。しかし、すでに大碓命の子を身ごもっていたので、暗殺の危険からお腹の子を守るため、対外的には小碓命の子だと嘘をついて生み、育てる。 美しいだけでなく、聡明で心正しい姫。生まれた子にワカタケルという名をつける。

天皇 (すめらみこと)

小碓命(おうすのみこと)・大碓命(おおうすのみこと)兄弟の父。大和朝廷の王。豪放磊落な性格で、女好き。大碓命(日嗣の皇子)を溺愛し、弟の小碓命にはつらく当たる。あまり物事を深く考えるタイプではなく、皇后(おおきさき)の策略にはなかなか気づかない。

皇后 (おおきさき)

大和朝廷の女帝。もともとは10歳上の姉が天皇(すめらみこと)の后だったが、亡くなったため、あとから新しい后として嫁いだ。大碓命(おおうすのみこと)・小碓命(おうすのみこと)の兄弟にとっては、叔母であり、義母。8年前に実子である根子命(ねこのみこと)を生み、わが子を天皇にするために印南(いなみ)と手を結び、他の皇子たちを亡きものにするよう、陰謀を張りめぐらせる。

印南 (いなみ)

皇后(おおきさき)の知恵袋であり、情夫。皇后の実子である根子命(ねこのみこと)を天皇の地位につけ、甘い汁を吸おうと、悪知恵を働かせる。小碓命(おうすのみこと)を熊襲征伐に追いやり、さらに刺客を放つ。また、小碓命が不在の間に、大臣(おとど)をだまし討ちにして、その地位を奪い取る。

大和媛 (やまとひめ)

天皇(すめらみこと)の実の妹で、小碓命(おうすのみこと)・大碓命(おおうすのみこと)兄弟の叔母。神に仕え、伊勢神宮の斎宮の座についている。天皇の政事は、神のご宣託をもとに行うため、大和朝廷の中では唯一、治外法権的な力を持つ存在。幼い頃から父王に顧みられない小碓命を慈しみ、常に気にかけている。

タケヒコ

小碓命(おうすのみこと)の従者。都を追放され、熊襲を討伐に行く際につけられた従者の中で、唯一、逃げなかった少年。小碓命の作戦により、熊襲タケルの宴に女に化けて紛れ込み、急襲に成功する。頭の回転が速く、小碓命が亡くなるまで、一番の部下として仕える。小碓命が亡くなってからは、尾張の地で、神剣・草薙の剣と美夜受媛(みやずひめ)を守って生きると決める。

ヘタルベ

小碓命(おうすのみこと)の従者。熊襲タケルを破った後、ほうびとして朝廷からつけられた従者50人のリーダー。小碓命に誠実に仕えるが、主の心の優しさが命取りにならないかと心配し、血生臭い仕事を率先してこなす。小碓命が亡くなった後は、ワカタケルを守って生きていくと誓う。

美夜受媛 (みやずひめ)

尾張国造(おわりのくにのみやつこ)の娘。16歳の美女で、小碓命(おうすのみこと)の妻となる。はっきりとものを言うところが、小碓命に気に入られる。ヤマトタケルとして名をはせている小碓命は人を殺し過ぎていると非難し、神剣・草薙の剣を「あなた様には必要ない」と取り上げる。それが原因で、小碓命は命を落とす羽目になり、自分の軽率さを後悔する。 小碓命が亡くなった後は、神に仕える身となる。

熊襲タケル (くまそたける)

弟タケルとともに熊襲をたばねる頭領。新しい館が完成した祝いの席で、女に化けたタケヒコと商人を装った小碓命(おうすのみこと)に、不意を突かれて殺される。鯨面と呼ばれる、顔にほどこした入れ墨が特徴。「タケル」とは、その地方で一番強い男に与えられる尊称。この熊襲タケルを倒したことにより、小碓命は世間からヤマトタケルと呼ばれるようになる。

大臣 (おとど)

母親を亡くした後の小碓命(おうすのみこと)・大碓命(おおうすのみこと)兄弟を育てた忠臣。天皇(すめらみこと)と兄弟皇子の間にはさまれ、心を砕く。小碓命が追放され、熊襲を倒すために都から離れている間に、印南(いなみ)にだまし討ちにされ、殺される。

根子命 (ねこのみこと)

皇后(おおきさき)の実の子で、小碓命(おうすのみこと)の腹違いの弟。母親に溺愛され、素直に育つ。この根子命を天皇の座につけるため、皇后は小碓命を亡き者にしようと企む。しかし、海に身を投げて海神の使いとなった弟橘媛(おとたちばなひめ)が、小碓命のために、夜な夜な竜に乗って根子命に誘いをかけたため、誘いに乗ってあの世へと旅立ってしまう。

クレジット

原作

梅原猛

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