あらすじ
序章
西暦711年(奈良時代)の平城京。天皇から歴史書を編纂するよう命じられた太安萬侶は、語り部の稗田阿礼の話を聞きながら、編纂事業を進めていた。ところが、作業中に稗田阿礼は、ふとしたことで機嫌を悪くして帰ってしまう。太安萬侶は仕方なく、それまでに聞いた神話の物語をまとめ始める。
国造り編
遠い昔、混沌の中から天と地が生まれた。多くの神が住まう天界は高天原と呼ばれ、やがて互いに惹かれあう一対の男女の神が生まれた。イザナギの命とイザナミの命である。2人が、「天の沼矛(あめのぬぼこ)」という矛で海をかき混ぜたところ、小さな島ができた。2人はその島に降り立ち、交わって日本の国を産む。
姉弟編
母親のいない須佐之男命は、孤独のあまりひどく泣き喚いていた。その鳴き声は、天地に響き渡る凄まじいものだった。あるとき須佐之男命は、地下の国である「根の国」に行って母親を探すと宣言する。彼は出発する前に、高天原にいる姉の天照大御神を訪れて挨拶しようとした。しかし、須佐之男命は乱暴者として知られていたため、姉の天照大御神にも邪険に扱われてしまう。
根の国編
八十神と呼ばれる兄弟の神々が、美女として有名なヤガミヒメに求婚するため、因幡の国を訪れた。彼らが海岸を歩いていると、皮をむかれて赤裸になった因幡の素兎が弱って倒れていた。八十神たちは素兎に治療法を教えるが、それは嘘で、素兎は余計に苦痛に苦しむことになった。そこに、八十神たちの弟の大国主神が通りかかる。
神々の降臨編
高天原にいる天照大御神は、葦原の中国が大国主神に支配されていることを苦々しく思っていた。葦原の中国は、彼女の長男であるアメノオシホミミが治めるべきだと考えていたからだ。しかし、アメノオシホミミは柔弱で、母親のもとを離れたがらない。そこで天照大御神は、知恵の神であるオモヒカネに、対処を相談することにした。
登場人物・キャラクター
イザナギの命 (いざなぎのみこと)
エピソード「国造り編」に登場する。日本の土地が初めてできた時、日本に降り立った男神。女神のイザナミの命と惹かれあい、彼女との間に多くの神を産み落とす。イザナミが死ぬと嘆き悲しみ、彼女に会うために、死者が住むという黄泉(よみ)の国へと旅立った。
天照大御神 (あまてらすおおみかみ)
エピソード「姉弟編」「神々の降臨編」に登場する。イザナギの命の子にあたる女神。黄泉の国から帰還したイザナギが、穢れを祓うため体を洗った時に生まれた。父親に命じられ、天界である高天原を治める。弟である須佐之男命の乱暴な言動を嘆き、天岩屋戸に引きこもってしまう。高天原の神々が天岩屋戸の前で宴会騒ぎをしたため、注意を惹かれて天岩屋戸から出て来た。 「神々の降臨編」では、大国主神のものになった葦原の中国を、我が子に支配させようとする。
須佐之男命 (すさのおのみこと)
エピソード「姉弟編」「根の国編」に登場する。イザナギの命の子にあたる男神。黄泉の国から帰還したイザナギが、穢れを祓うため体を洗った時に生まれた。父親に命じられ、海原を治める。母親がいないため、孤独を紛らすように乱暴な性格となる。「姉弟編」では、姉の天照大御神が彼の乱暴を嘆き、天岩屋戸にこもる騒ぎを起こしたため、高天原を出て旅に出ることを余儀なくされる。 「根の国編」では、スセリビメの父親として登場し、スセリビメと大国主神の結婚に反対する。
大国主神 (おおくにぬしのかみ)
エピソード「根の国編」「神々の降臨編」に登場する。須佐之男命の子孫にあたる男神。八十神という数多くの兄がいるが、野卑な兄たちに比べてぼんやりした性格である。「根の国編」では、赤裸にされて苦しんでいた因幡の素兎を哀れみ、治療法を教える。素兎の導きのおかげで、因幡の国の美女、ヤガミヒメの許嫁になるが、嫉妬した兄たちに命を狙われるようになる。 のちに葦原の中国の支配者となる。「神々の降臨編」では、天照大御神から、彼女の息子に葦原の中国を譲るよう強要される。
太安萬侶 (おおのやすまろ)
エピソード「序章」に登場する。奈良時代の官人で、元明天皇に命じられて『古事記』を編纂した人物。本作『マンガ日本の古典Ⅰ 古事記』では、物語の語り手の役割を果たしている。小太りの男性で、のんびりとした性格。気難しい語り部の稗田阿礼に手を焼きながら、伝え聞いた神話を記録している。実在の人物、太安萬侶がモデル。
稗田阿礼 (ひえだのあれ)
エピソード「序章」に登場する。太安萬侶の『古事記』編纂の仕事を助けている老人。抜群の記憶力を持ち、太安萬侶に日本建国からの神話を語って聞かせている。一方、最近の出来事については物忘れが激しく、何度も同じ話をする。気難しい性格で、編纂の作業の途中で、へそを曲げて帰ってしまう。実在の人物、稗田阿礼がモデル。
イザナミの命 (いざなみのみこと)
エピソード「国造り編」に登場する。日本の土地が初めてできた時、日本に降り立った女神。男神のイザナギと惹かれあい、多くの神を産む。火の神を産み落とした時、我が子の炎によって下腹部に大火傷を負い、命を落とした。イザナギは彼女を追って、死者の住む黄泉の国に行くが、イザナミの命は鬼のような恐ろしい姿になっていた。
クシナダヒメ
エピソード「姉弟編」に登場する。須佐之男命が、旅の途中で出会った女性。首が八つある大蛇のヤマタノオロチに食われてしまう危機にあったが、須佐之男命に救われる。その後、須佐之男命と結ばれて子を産んだ。魅力的な美しい女性で、村の男たちの視線を集めた。そのため、彼女を溺愛する須佐之男命の執着心を呼ぶ。
因幡の素兎 (いなばのしろうさぎ)
エピソード「根の国編」に登場する。大国主神が、因幡の国で出会った兎。サメを騙して海を渡ることに成功したが、怒ったサメに皮を剥がれ、赤裸にされてしまう。海岸で弱っているところに、通りがかった八十神たちに治療法を教わる。しかし、その治療法は嘘で、傷が余計にひどくなって苦しんでいる時に、大国主神に救われる。
ヤガミヒメ
エピソード「根の国編」に登場する。因幡の国に住む女性。絶世の美女として評判で、八十神たちの求婚を受ける。実は因幡の素兎の主人。大国主神に助けられた素兎の話を聞いて、彼を結婚相手にすることを決める。八十神たちの求婚を断ったため、大国主神が追われることとなる。
スセリビメ
エピソード「根の国編」に登場する。女神で、父親は地下の国「根の国」の支配者である須佐之男命。八十神たちに命を狙われ、根の国に逃れてきた大国主神に一目惚れする。父親からは結婚を反対され、妨害を受ける。気の強いスセリビメはそれにもめげず、父親の目を盗んで、大国主神を連れて根の国から逃げようとする。
ヌナカハヒメ
エピソード「根の国編」に登場する。気立ての良い美女として評判の高い女神。大国主神はスセリビメと結ばれていたが、気の強い妻に心が離れていた。ヌナカハヒメは、彼女の評判を聞いてやって来た大国主神の求愛の歌に対して自身も歌で応え、大国主神を受け入れる。
アメノオシホミミ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。天照大御神の長男の男神。天照大御神により、葦原の中国に行って統治するように命じられる。しかし、高天原を離れるのを拒んだため、弟のアメノホヒが葦原の中国に派遣される。かなりのマザコンで、天照大御神も彼には甘い。
アメノホヒ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。天照大御神の次男の男神。兄のアメノオシホミミが、葦原の中国に行くことを拒んだため、オモヒカネの推薦で代わりに派遣された。貧乏くじを引かされる形になったことを快く思っていない。そのため、天照大御神の命令に背き、葦原の中国の支配者だった大国主神に取り入って、不自由なく暮らし始めた。
オモヒカネ
エピソード「姉弟編」「神々の降臨編」に登場する。知恵の神で、頭の大きい小柄な老人の姿をした男神。「姉弟編」では、天岩屋戸に隠れた天照大御神を出てこさせる知恵を出す。「神々の降臨編」では、天照大御神に請われて葦原の中国に派遣すべき神を推薦した。
アメノワカヒコ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。貴人らしい立派な風采をした男神。天照大御神の命令に背いたアメノホヒを呼び戻すため、葦原の中国に派遣された。旅の途中、大国主神の娘、シタテルヒメの命を助けた。これをきっかけにシタテルヒメと結ばれるが、自分が葦原の中国の支配者になろうという野心を抱き始める。
タケミカヅチノヲ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。武勇に優れた男神。天照大御神がアメノワカヒコを葦原の中国に送り込んで失敗した後、最後の手段として派遣された。大国主神に、「おとなしく国を譲るか、それとも殺されるか選べ」と迫り、葦原の中国を譲ることを了承させた。
ヒコホノニニギ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。アメノオシホミミの子で、天照大御神の孫の男神。大国主神が葦原の中国を譲った後、天照大御神の命令により、その統治を任される。命を受けた時は幼かったが、多くの神を従者として与えられ、葦原の中国に降臨した。
アメノウズメ
エピソード「姉弟編」「神々の降臨編」に登場する。気丈で明るく、機転の利く性格の女神。「姉弟編」では、天照大御神が天岩屋戸に隠れた時、その気を引くために踊りを踊った。「神々の降臨編」では、ヒコホノニニギの乳母につけられ、葦原の中国へと付き従った。
サルタビコ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。猿のような厳つい容貌をした男神。ヒコホノニニギたちが、高天原から葦原の中国に降臨した際に現れた。当初は一行を邪魔する者かと疑われたが、土地の神として一行を案内するため出迎えたのだった。アメノウズメと愛し合い、夫婦となる。
コノハナノサクヤビメ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。ヒコホノニニギが葦原の中国に降臨した後に出会い、一目惚れした女神。ヒコホノニニギの熱烈な求婚によって結ばれる。ヒコホノニニギの子を身ごもるが、血の繋がりを疑う夫に激怒する。産屋に火を放たせ、炎の中で無事出産し、間違いなく神の子であると証明してみせた。
イハナガヒメ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。コノハナノサクヤビメの姉の女神。ヒコホノニニギがコノハナノサクヤビメとの結婚を望んだ時、その親により妹とともに嫁がされる。しかし、ヒコホノニニギは彼女が醜女だったため送り返してしまう。実は、イハナガヒメと結婚すると岩のような不死の生命を得られた。ヒコホノニニギはコノハナノサクヤビメとだけ結婚したため、彼とその子孫は花のように有限の命となった。
ホデリ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。ヒコホノニニギとコノハナノサクヤビメの間に生まれた男神。海で漁をして、魚を父親に献上する生活をしていた。ある時、ホヲリと道具を交換して山に行く。その際に、ホヲリが、ホデリの貸した釣り針をなくしたことに怒り、探すように命じる。
ホヲリ
エピソード「神々の降臨編」に登場する。ヒコホノニニギとコノハナノサクヤビメのあいだに生まれた男神。山で狩りをして、獲物を父親に献上する生活をしていた。ある時、ホデリと道具を交換して海に行くが、その時にホデリから借りた釣り針をなくし、兄の怒りを買う。海辺で途方にくれていると、潮の流れの神により海中の御殿に導かれる。
集団・組織
八十神 (やそがみ)
エピソード「根の国編」に登場する。アメノフユキヌという男神が、多くの女性と交わってもうけた、80人もの兄弟たち。大国主神の兄弟にあたる。作中では、そのうちの5人ほどがまとまって行動している。揃って粗野な性格で、大国主神を粗略に扱ったり、因幡の素兎に嘘の治療法を教えたりといった意地悪をする。ヤガミヒメに求婚するが、彼女は大国主神との結婚を決めた。 そのため、嫉妬して大国主神の命を狙う。
場所
高天原 (たかまのはら)
日本神話における、神々が住まう天界。天照大御神が支配している。高天原に住む神々には寿命がなく、年を取らない。須佐之男命や大国主神といった神々は高天原で生まれ、葦原の中国に下って日本という国の原型を作った。
葦原の中国 (あしはらのなかつくに)
日本神話における、人間が住まう現世。大国主神は、八十神たちに追われて地下の国である「根の国」に逃れた。根の国から戻った後、大国主神は葦原の中国の支配者となる。その後、葦原の中国を我が子に治めさせたいと望んだ天照大御神が、大国主神に国を譲るよう迫った。