エンゼルの丘

エンゼルの丘

人間に進化した元人魚族が暮らす南洋の島を背景に、島を追放された少女が人間世界に現れ、数奇な事件に巻き込まれるという波乱万丈の冒険物語。島から来た少女が自分と瓜二つの日本人少女と入れ替わった事で事件が急展開し、人魚伝説を下敷きとした「海洋冒険譚」と、戦後の少女漫画の定番だった「不幸な運命に翻弄される悲劇の少女」のストーリーが交差して描かれる。「なかよし」1960年1月号から1961年12月号にかけて連載された作品。

正式名称
エンゼルの丘
ふりがな
えんぜるのおか
作者
ジャンル
神話・伝承
レーベル
手塚治虫文庫全集(講談社コミッククリエイト)
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あらすじ

第1巻

南洋に浮かぶエンゼル島の王女ルーナは、島の掟を破った罪により、女祈禱師ピョーマの命令で追放され、ショックで記憶喪失となってしまう。船長の草原英二によって奴隷の身から解放されたルーナは、英二と共に日本に渡り草原家で暮らす事となる。ところが、ルーナと瓜二つの少女・草原あけみがルーナに間違われて、エンゼル島から来た男達に拉致され島に連行されてしまう。彼らを追った英二は、毒液で失明したうえに島の牢獄に監禁される。一方、日本では英二の父親・草原順平が殺害され一家は破産。あけみになりすましたルーナはあけみの母親と共に贅沢な暮らしから一転し極貧生活に陥る。やがて、ルーナは記憶喪失から快復しエンゼル島での生活を思い出す。その頃、エンゼル島では英二が脱獄に成功し、カルデラ湖の泉の水で視力を快復し、さらにルーナの姉ソレイユに出逢い恋心を抱く。そして島の地下湖であけみと再会する。あけみは、プーじいからエンゼル島にまつわる伝説を聞き、エンゼル島が海底火山の爆発でできた事と、島の人々が人魚から進化した人間であり、ルーナもその一人である事を知る。

第2巻

ピョーマは、ルーナを殺害するために日本行きの船旅に出る。その船には、水先案内人に変装した草原英二草原あけみを布袋に隠して乗船していた。しかし日本が近づくと、英二は布袋と共に船から降ろされイカダで漂流する。貴婦人に変装したピョーマは、あけみの母親を罠にはめ全財産を奪ってしまう。英二とあけみはチャーベターに救われ無事日本の地を踏む。そしてルーナとあけみは再会し二人は元通りに入れ替り、あけみはこれまでのわがままな性格を反省する。ピョーマは日本のギャングを雇ってルーナを殺そうとするが、ルーナは間一髪で英二に救われ、客船に乗ってエンゼル島を目指す。途中で人魚族のピレーネ王子に助けられエンゼル島に着いたルーナは、死刑を宣告されていたソレイユを救出し逃走するが、ピョーマによって二人は崖に追い詰められる。その時、ピレーネ王子が弓矢でピョーマを射抜き二人を救う。その頃、宝石目当てのギャングに脅された英二が乗った汽船がエンゼル島に到着する。英二はギャング達を迷路になった洞穴に誘い込む。そんな中、エンゼルの丘が大噴火を起こすのだった。

登場人物・キャラクター

ルーナ

エンゼル島で暮らす王女で、ソレイユの妹。心優しい性格の少女で、自分の身を危険にさらしても他人を助けようとする。見かけはひ弱そうだが、どんな困難にもくじけずに立ち向かう芯の強さを持っている。草原英二を実の兄のように慕っている。漂流したショックで、一時的に記憶喪失になってしまう。

ソレイユ

エンゼル島で暮らす王女で、ルーナの姉。ピョーマによって毒薬を眼にかけられ失明してしまった薄幸の美女。心優しい性格で、妹や島民達を心から愛しており、エンゼル島の繁栄を何よりも願っている。

草原 英二 (くさはら えいじ)

草原家の長男で草原あけみの兄。海運会社に勤務し外国航路の船長を務めている。草原順平の長男で跡継ぎだが、強引な性格の父親に反抗し、家を空ける事が多い。正義感が強く腕力自慢の好漢。ルーナを妹のように思っている。

草原 あけみ (くさはら あけみ)

草原家の長女で草原英二の妹。わがままなでおてんばな性格の小学生で、容姿はルーナと瓜二つ。いたずら心でルーナと服を取り替えた事をきっかけに大きな事件に巻き込まれ、波瀾万丈な大冒険をする。

草原 順平 (くさはら じゅんぺい)

政界の大物と称される政治家の中年男性。草原家の家長で大富豪でもあり、豪邸で家族と大勢の召使いと共に暮らしている。頑固な性格で、長男の草原英二に自分の跡を継がせたいと願っている。政敵が多く命の危険にさらされている。

あけみの母親 (あけみのははおや)

草原家の主婦で草原順平の妻。スラリとした体型の美人で、絵の趣味が高じて画家となる。自宅にある豪華なアトリエで毎日絵画制作に没頭している。仕事や付き合いに追われ、娘の草原あけみを構っているひまがないほどに忙しくしている。

ピョーマ

エンゼル島で暮らす女祈禱師。鋭い目付きをした美女で、島民の幸せよりも島の掟を優先し、タブーを破った者はたとえ王女であっても死刑を宣告するという冷酷な性格。さらに逃走したルーナを追いかけて日本にまでやって来るなど、執念深さも併せ持つ。

どれい小屋のばあさん (どれいごやのばあさん)

港町でどれい小屋を営む老婆。強欲な性格で、奴隷の女達を商品として扱う。彼女達を売り飛ばすまでは粗末な食べ物しか与えず、過酷な労働を強いる。

フグ平 (ふぐへい)

外国航路の客船に乗務する船員の男性で、船長の草原英二とは親しい間柄。丸顔で太った体型の青年で、おっちょこちょいであわて者だが、女の子には優しく思いやりのある性格で、ルーナの危機をたびたび救う。

プーじい

エンゼル島に住む老人。はげ頭に真っ白なひげを生やし、仙人のような着物を着用している。エンゼル島の成り立ちと、島の住民達と人魚族の伝説に詳しい謎の人物。その正体は海の神「ポセイドン」だが、正体を隠して島では「プーじい」と名乗っている。

チャー

エンゼル島で暮らす少女。丸い大きな眼鏡をかけ、水玉模様の水着を着用している。風貌がそっくりな相棒のベターといつもいっしょに行動している。ピョーマをひどく怖れており、彼女の命令に従ってルーナを暗殺するために日本へやって来る。

ベター

エンゼル島で暮らす少女。丸い大きな眼鏡をかけ、水玉模様の水着を着用している。風貌がそっくりな相棒のチャーといつもいっしょに行動している。ピョーマをひどく怖れており、彼女の命令に従ってルーナを暗殺するために日本へやって来る。

ギャングの親分 (ぎゃんぐのおやぶん)

ギャング団のボスを務める中年男性。巨体にギョロ目の風体で、黒いスーツを着て白い蝶ネクタイをしている。ピョーマの依頼でルーナの暗殺を謀る。エンゼル島に宝石が大量にある事を知り、草原英二を脅迫してエンゼル島に行き、宝石を奪おうと画策する極悪人。

ピレーネ王子 (ぴれーねおうじ)

エンゼル島に近い海底に暮らす人魚族の王子。正義感が強く、弱者には優しく接する勇敢な少年。ルーナを救った事で、エンゼル島に住む人魚族の存在を知る。ルーナにほのかな恋心を抱く。

ピレーネ王子の母 (ぴれーねおうじのはは)

エンゼル島に近い海底に暮らす人魚族の女王で、スラリとしたスタイルの美人。息子のピレーネ王子を溺愛しており、彼にエンゼル島を統治させたいと考えている。

神父 (しんぷ)

日本でキリスト教会の神父を務める男性。はげ頭に白ひげの老人で、草原家の家族とは顔見知り。学校の帰りに立ち寄るおてんばな草原あけみにいつも説教をしている。

2階のおじさん (にかいのおじさん)

ルーナと同じオンボロアパートの2階に住む貧乏青年。失業者で職探しをしているが、なかなか仕事先が見つからずやけになっている。怠惰な生活をルーナにたしなめられ、一念発起して就活に励むという単純な性格。綺麗好きのルーナを「隊長」と呼んで部屋の掃除に精を出す。

チーチー

エンゼル島で暮らすオスのオナガザルの子供。エンゼル島で、ルーナのペットとしてかわいがられて育った。追放されたルーナを慕い、ルーナとココと共にシャコ貝に閉じ込められて海洋を漂流し日本にやって来る。非常に賢く、たびたびルーナの危機を救う活躍を見せる。

ココ

エンゼル島で暮らすオウム。エンゼル島で、ルーナのペットとしてかわいがられて育った。追放されたルーナを慕い、ルーナとチーチーと共にシャコ貝に閉じ込められて海洋を漂流し日本にやって来る。非常に賢く、たびたびルーナの危機を救う活躍を見せる。

場所

エンゼル島 (えんぜるとう)

南海に浮かぶ孤島で、海図にはなく誰からも知られていない神秘の島。海底火山の噴火によって陸地が隆起して形成された火山島で、カルデラ湖には薬効のある泉がある。迷路になった洞穴は人魚族が棲む地底湖に通じている。

エンゼルの丘 (えんぜるのおか)

エンゼル島を象徴的する火山で、遠景は富士山に似ている。人魚を人間に進化させる不思議な煙が噴出しており、ふもとの地面にはダイヤモンドなど高価な宝石が無数に転がっている。島民が立ち入る事は島のタブーとされており、掟を破った者はたとえ王族といえども追放または死刑となる厳しい決まりがある。

書誌情報

エンゼルの丘 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉

(2011-04-19発行、 978-4063738261)

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