あらすじ
第1巻
25歳の会社員の赤星十和は両親を火災で失い、人生に絶望してホームレスをしていた時期があった。しかし、そんな自分を唯一見捨てなかった弟の赤星雪奈が、ある日、電車脱線事故に巻き込まれかけた事により、これ以上大切なものを失いたくないと、心を入れ替えて就職する。2014年、雪奈と幸せに暮らしていたある日、雪奈は交通事故に遭って亡くなってしまう。怒り狂った十和は送検中の犯人に襲い掛かるが、取り押さえられた際に頭を強打して死亡する。しかし十和が目を覚ますと、十和はなぜか生きており、仙台市青葉区大手町にいた。混乱する十和の前に、瀬戸杏奈と名乗る少女が現れる。杏奈いわくここは本物の大手町ではなく、「琵琶首丁」という謎の世界で毎日逢魔ヶ刻になると、ラパスという怪物が現れて住民を襲うのだという。さっそくラパスに出くわした二人は逃げ出すが、十和はそこに現れた少年の酒木田悠大に斬りつけられ、片腕を失う。琵琶首丁に来た人間には、それぞれメモリというエネルギー源が与えられており、膨大なメモリを持つ十和の肉体は、ラパスへの対抗手段になるのだという。翌日、肉体はリセットされて十和は腕を取り戻すが、悠大と杏奈の幼なじみである二階堂閨介は十和の肉体を狙っており、訳もわからぬまま、十和の琵琶首丁での暮らしが始まった。
第2巻
琵琶首丁の住民たちの目的は、ラパスを倒して琵琶首丁にいた時の記憶を持ち越した状態で、現実世界に戻る事だった。しかし、たとえラパスに勝っても戻れるのは一人だけで、彼らはこれが原因で険悪になっていたのである。そこで赤星十和は、自分がラパスへの対抗手段であるメモリを多く持つ事を利用し、自分のメモリを提供する事で酒木田悠大に守ってもらおうとする。しかしこれはうまくいかず、とうとうラパスが出現する時刻になる。さらに瀬戸杏奈が危機に陥り、彼女を助けたい十和は悠大からメモリの活用法を聞く。しかし、それは過去に起きた、心の傷になるほどつらい出来事を思い出して再現するという、あまりにも苦しいものだった。一度は断念して悠大に杏奈を助けてもらおうとする十和だったが、そこで赤星雪奈の言葉を思い出し、戦う事を決意。その雪奈を殺したトラックと、雪奈を殺したかもしれない電車脱線事故の電車を作り出してラパスを攻撃し、退治する。こうして十和たち五人の住民は事なきを得るが、ここで二階堂閨介もまた、電車脱線事故の被害者だった事が発覚する。同時に杏奈の目的が、事故前日に戻り閨介を救う事だと知った十和は、自分がラパスに勝って現実に戻って、琵琶首丁住民全員を救う事を決意する。
第3巻
赤星十和と瀬戸杏奈は、自分たちがラパスに勝って現実に戻った場合、最も過去に戻れる十和が帰還すれば、現在琵琶首丁にいる五人全員の死と不幸を回避できる可能性がある事に気づく。そこで杏奈は十和に本格的にメモリの使い方を教え、次回ラパスが出現して去っていくまで耐えきれば、十和の事を味方として信頼すると約束する。十和はこれにみごと成功し、さらに杏奈が二階堂閨介、酒木田悠大、鈴木宗一郎の三人を説得した事で、五人はようやく協力して戦うようになるのだった。そんなある日、十和は閨介に呼び出される。メモリの多い十和と不審な動きのある悠大を脅威に感じる閨介は、まずは十和を彼の好きな「ゴウオンジャー」の話題で油断させて殺そうとしたのである。しかし杏奈が気づいた事により、失敗に終わる。さらに杏奈は十和に自分と閨介の関係について話し、そして十和は閨介の願いは事故で失った右腕を取り戻す事ではなく、杏奈との幸せな日々を取り戻す事ではないかと考えるようになる。そして翌日、十和たちは十和と悠大の合体攻撃でラパスを倒す作戦に出る。しかし途中で閨介が悠大を攻撃し、作戦はあと少しのところで失敗。さらに悠大を傷つけられて怒り狂ったラパスは、閨介に襲い掛かる。
第4巻
二階堂閨介は、メモリの力で自分のオリジナルキャラクター「ダース」を具現化する事でラパスを撃退し、逢魔ヶ刻が過ぎた今、ラパスは退散するかに思えた。しかしラパスはルールを破り、油断した閨介を殺害して去っていくのだった。翌日、赤星十和たちは悲しみに暮れながらも、酒木田悠大とラパスの関係について悠大に問う。だが悠大は答えず、怒った十和は悠大を叱責する。そして観念した悠大は十和にだけ、自分は2011年の10月に友人と共に琵琶首丁に来たが友人は殺された事、ラパスは自分に執着しているが身に覚えがない事、そして自分の目的は死者が琵琶首丁に迷い込む原因そのものを消す事であると語る。さらに悠大は、今いる五人以外にも過去何人もの人々が琵琶首丁に迷い込んだが死亡し、そのたびに補充されてきた事を明かし、さらに十和が最後の補充であるらしい事、そして迷い込んだ人々は全員、電車脱線事故の関係者である事を告げる。これを聞いた十和は、電車脱線事故さえ防げば死者はなくなり、自分たちが琵琶首丁に送られる事もないと気づく。自分さえ現実に戻れれば、それが実現できる事を悠大に告げた十和は、その後、鈴木宗一郎にどのように事故に関係していたのかを聞きに行く。しかし、十和を拒絶していた宗一郎がようやく心を開きかけた時、そこにラパスが姿を現す。
第5巻
ラパスの正体は、酒木田悠大が生前思いを寄せていた少女の立花やよいだった。ラパスの正体が、やよいに暴力を振るっていた立花やよいの父親だと思っていた悠大は深いショックを受けるが、赤星十和は一連の事実に疑問を抱く。琵琶首丁は悠大が迷い込んだ2010年11月には存在し、既にラパスもいた。しかし、十和は2012年4月の電車脱線事故の日に、やよいと出会っていたからである。だが悠大は十和の話を信じ切れず、十和はひとまず瀬戸杏奈に相談。二人は、鈴木宗一郎が死の直前に言い残した言葉に従って、琵琶首丁のルールが書かれた看板を再度見に行く。しかし、それはいつの間にか書き換えられており、ラパスを倒せば住民のうち誰か一人が脱出権を得られるはずが、たとえラパスを倒しても、悠大以外の脱出は許さないというものになっていた。一方その頃、悠大はラパスの心の中を無理やり覗き込むのに成功していた。そこで悠大が見たのは、かつて悠大とやよいが、やよいの父親の暴力から逃れるためにオカルト実験に夢中になり、その果てに二人は琵琶首丁に迷い込んだという事実だった。この時、やよいはラパスに殺害されたが、そのやよいは実は偽物で、本物のやよいは十和の言うとおりに2011年10月以降も生存していたが、電車脱線事故で亡くなっていたのである。
第6巻
ラパスの真の正体は、立花やよいの心から生まれた、もう一つの人格だった。この人格は、オカルト実験によってやよいから切り離されたあと、酒木田悠大のヒーローになりたいという夢を叶えるため、正体を隠して琵琶首丁の悪役となった。それがラパスだったのである。これを知った悠大は赤星十和に助けを求め、十和は応じるが、その瞬間ラパスは悠大を殺害。そのまま琵琶首丁を滅ぼそうとするが、これに十和が激怒してラパスと戦い始める。一方その頃、瀬戸杏奈はラパスの作り出した悪夢に襲われていた。しかしそんな彼女を、二階堂閨介が作ったキャラクターのダースが救う。閨介が死亡してもダースが存在している事、鈴木宗一郎が死亡しても結婚指輪は残っている事、これらを不思議に思った杏奈は、たとえ持ち主が亡くなっても、彼らの希望の象徴は琵琶首丁に残るらしいという結論に至る。そこで杏奈は、十和とラパスのもとへ向かい、十和こそが自分の希望であると宣言。次の瞬間ラパスは十和と杏奈を殺すが、杏奈の予想どおり、十和は消滅せずに「ゴウオンジャー」のゴウオンレッドの姿で復活する。そして、十和とラパスの最後の戦いが始まった。
登場人物・キャラクター
赤星 十和 (あかぼし とわ)
兵庫県尼崎市に住む会社員の男性。年齢は25歳。前髪を眉が見えるほど短く切った茶色の刈り上げた短髪にしている。精神的に幼いためか、実年齢よりも若く見られる事が多い。琵琶首丁の住民となってからは、ワイシャツに赤いネクタイを締めてベージュのズボンをはいた、死亡時の服装をしている。ラパスを倒して元の世界に戻った場合、戻る日付けは2011年6月23日で、日付けの書かれたバーコードは首の後ろ側にある。ネクタイが赤いため、酒木田悠大にはしばらく「赤いの」と呼ばれていた。所有メモリは5330mmr。気弱な性格の臆病者で、事なかれ主義。そのため、挑戦する前からあきらめて、何事も逃げ出してしまう癖があるが、大きな問題が起きた時には立ち向かってきたため、弟の赤星雪奈には見捨てられていなかった。22歳の時に火災で両親を亡くし、その原因が自分にあると考え、雪奈を親戚の家に置いて逃げ出し、ホームレスになる。それでも自分を見捨てなかった雪奈のために、やがて社会復帰した。しかし25歳のある日、今度は交通事故で雪奈を亡くす。そして、その犯人に復讐しようとするが、失敗して頭を強打して死亡した。琵琶首丁の住民となり、元の世界に戻るため、ラパスと戦う事になる。戦闘においては、所有メモリは膨大だが想像力に乏しく「トラウマ」以外の方法ではろくに具現化ができずにいる。好きな食べ物はハンバーガーで、特撮ヒーロー「ゴウオンジャー」のファン。特に主人公のレッドのようになりたいと願っている。両親を失う前は、家族四人で東京都の富士見台に住んでいた。
赤星 雪奈 (あかぼし せつな)
兵庫県尼崎市にある小学校の5年3組に在籍する男子。年齢は11歳で、赤星十和の弟。前髪を目の上で切った短髪で、中性的なかわいらしい顔立ちをしている。歯に衣着せぬ辛辣な性格の毒舌家。しかし、十和の事はなんだかんだで信頼しており、いざという時は勇敢に立ち向かってくれると信じている。十和の14歳年下の弟として生まれるが、2011年の8歳のある日に自宅が火事に遭い、両親を亡くす。その後は十和と共に叔母の家で暮らしていたが、精神的に不安定になった十和が家出をしてホームレスになる。だが、それでも十和を見捨てずに河原で暮らす十和を見つけて、一時期いっしょにホームレスをしていた。しかし2012年4月、十和といっしょに歩いていた際、電車脱線事故に巻き込まれかける。これによって十和は、心を入れ替えて就職した事で、二人暮らしを始めるようになった。また、この時に立花やよいを発見して十和と共に助けようとしたが、やよいは亡くなった。その後、2014年のある日、横断歩道を渡ろうとした際に、突如突っ込んできたトラックに轢(ひ)かれ、亡くなった。両親を失う前は、家族四人で東京都の富士見台に住んでいた。幼い頃は「ゴウオンジャー」のファンだったが、現在ではほかの作品やおもちゃに興味が移っている。
瀬戸 杏奈 (せと あんな)
琵琶首丁の住民の一人。もともとは兵庫県に住んでいる高校生の女子で、年齢は16歳。前髪を目の上で切り、腰の高さまで伸ばした黒のストレートロングヘアにしている。スタイル抜群で胸が大きく、眼鏡をかけている。ピンクのパーカーにミニスカートという、死亡時の服装をしている。ラパスを倒して元の世界に戻った場合、戻る日付けは2012年4月24日で、日付けの書かれたバーコードはお尻の右側にある。所有メモリは730mmr。母性的な性格で、心優しく正義感が強い。幼なじみの二階堂閨介に思いを寄せており、彼の漫画家になるという夢を応援して、閨介の作品「エンドオブラバーズ」の作画アシスタントもしていた。しかし、2012年4月に起きた電車脱線事故に閨介が巻き込まれ、命は取り留めたものの右腕を切断せざるを得なくなってしまう。これによって絵を描く事ができなくなった閨介を、それでも応援していたが、この励ましがかえって閨介を追い詰めてしまい、疎遠になる。そんなある日、閨介の配信する自殺生配信を偶然視聴して止めに行く事を決意。しかし、途中で見知らぬ男性たちに襲われ、集団強姦されたのちに殺された。琵琶首丁に来てからは遊園地に書かれていた琵琶首丁でのルールを信じ、元の世界に帰還して、電車脱線事故から閨介を救うために行動していた。しかし、到着して2週間頃のある日、メモリが少ない自分では勝利は厳しいと考えていたところで赤星十和に出会う。そこで、膨大なメモリを持つ十和ならば現状を変えてくれるのではないかと考え、協力するようになっていく。十和の事は、頼りないが将来性があると評価している。
二階堂 閨介 (にかいどう けいすけ)
琵琶首丁の住民の一人。もともとは兵庫県に住んでいる高校生の男子。前髪を目が隠れそうなほど伸ばした、金色のウエーブした短髪にしている。水色のパーカーを着ている事から、酒木田悠大には「青いの」と呼ばれている。小柄な体形で、女性の瀬戸杏奈とあまり身長が変わらない。また、2012年4月25日に起きた電車脱線事故に巻き込まれ、その時に右腕を切断している。ラパスを倒して元の世界に戻った場合、戻れる日付けは2014年5月1日。日付けの書かれたバーコードは、左腕にある。所有メモリは800mmr。もともとは漫画家を夢見ており、幼なじみの杏奈をアシスタントに迎えて制作に励み、いつも自分を支えてくれる杏奈に思いを寄せていた。しかし2012年4月、完成した作品「エンドオブラバーズ」を東京の出版社に持ち込みに行く電車で、脱線事故に遭う。そして右腕と完成原稿を失い、最初は必死にリハビリに励んでいたものの、やがて左腕ではどんなに努力してもまともな絵の描けない現状に絶望。自暴自棄となり、現在の攻撃的でひねくれた性格になってしまった。そして高校生になったある日、自殺を決意してインターネットで生配信しながら飛び降り自殺した。そのため、これを止めようとした杏奈がその途中で襲われ、死亡した事は知らない。琵琶首丁に来てからは赤星十和を警戒し、十和の肉体を切り取って自分のメモリに変えるか、あるいは殺害してしまおうと考える。「ゴウオンジャー」の視聴者で、展開は遅いものの、主人公の成長を丁寧に描いているところを評価し、気に入っていた。やや中二病なところがあり、痛々しい発言をしては周囲を困惑させる事がある。
酒木田 悠大 (さかきだ ゆうだい)
琵琶首丁の住民の一人。もともとは宮城県仙台市青葉区に住んでいる高校生の男子で、年齢は18歳。立花やよいの友人。前髪を目が隠れそうなほど伸ばし、後ろの髪だけを肩につくほどまで伸ばした癖のある短髪で、眼鏡をかけている。しかし、琵琶首丁に来てからは自分の容姿を変える事にメモリを割いており、髪形は同じだが真っ白な髪の毛に褐色肌を持ち、ぴっちりした兵士のような服装を身につけ、ゴーグルを付けた別人のような姿をしている。ラパスを倒して元の世界に戻った場合、戻れる日付けは2011年8月11日。日付けの書かれたバーコードは体にはなく、琵琶首丁内の遊園地「ラパス・テーマパーク」の観覧車中央に書かれている。所有メモリは960mmr。寡黙でクールに振る舞っているが、実際は口下手でコミュニケーションを取るのが苦手なだけ。また、現在の性格になったのは、3年以上にわたる琵琶首丁での生活で心がすり減ってしまった影響が大きい。やよいとは高校時代のある日、気が合いそうという理由で酒木田悠大から話し掛け、やがて思いを寄せるようになる。しかしやよいの家庭環境を知り、どうにかして助けたいと考えて逃亡計画を立てるが、失敗して大ケガを負う。その後、やよいといっしょにオカルト実験を行った際、やよいと、もう一つの人格であるラパスが入れ替わっている事に気づかず、やよいの姿をしたラパスによって琵琶首丁に連れて来られるが、やよいの姿をしたラパスが目の前でさらにもう一人現れ、キリン頭の方のラパスに殺害される。これをラパスの自作自演とは気づかず、ラパスの正体は、やよいを苦しめる立花やよいの父親だと思い込むようになり、ラパスに復讐を誓っている。「ゴウオンジャー」の視聴者だが、いつまでたってもヒーローらしい姿を見せない主人公のゴウオンレッドの事を嫌っていたため、駄作だと感じている。好きな食べ物はカニクリームコロッケ。
鈴木 宗一郎 (すずき そういちろう)
琵琶首丁の住民の一人。もともとは兵庫県に住んでいる警察官の若い男性で、鈴木安菜の父親。前髪を目の上で切った短髪で、左目の真下にほくろが一つある。目つきが悪く、いつもにらんでいるように見えてしまうために周囲から怖がられている。所有メモリは950mmr。不器用な性格で、きまじめで口下手。妻と安菜と共に幸せな生活を送っていたが、2012年4月、二人が電車脱線事故の犠牲者となる。これに絶望して飛び降り自殺をし、琵琶首丁に迷い込んだ。たとえラパスを倒して現実世界に帰還したところで、すでに大切な人を亡くしているので無意味だと考えている。そのため、琵琶首丁のどこかに妻と安菜が迷い込んでいる事を信じ、二人を見つける事を目的に行動している。結果、戦いにも消極的だが住民たちを見捨てられないため、仕方なく戦う日々を送っていた。だが、赤星十和が現れた事で状況が変わり始め、酒木田悠大から、すでに妻と安菜は琵琶首丁でも死んだ事を知らされる。これによって再び自殺を考えるが、琵琶首丁の真のルールを知り、十和に遊園地の看板をもう一度確認してほしいと伝えたのち、ラパスに殺された。
ラパス
毎日16時から18時にのみ、琵琶首丁に出現する化け物。頭から首まではキリンだが、肩から下は長身の瘦せ型で、人間の若い男性の姿をしている。頭部には人間のように髪の毛が生えており、両目が完全に隠れるほど伸ばした前髪と、腰まで伸ばしたロングウエーブヘアが特徴。つねに喪服を着ている。所有メモリは1230mmr。その正体は立花やよいのもう一つの人格で、容姿は男性ながら精神は女性である。もともとはやよいの心の中に住んでおり、何かにつけてやよいの行動を批判しては、やよいのような人間が幸せになれるはずはないと冷たい態度を取っていた。しかし、やよいが高校3年生のある日、酒木田悠大と行ったオカルト実験により、やよいの体から切り離される。これによって自由を獲得し、悠大を自らが作り出した世界の琵琶首丁へ誘導。悠大とこの世界でずっといっしょに暮らすため、また彼のヒーローになりたいという夢を叶えるために、正体を隠して悠大の敵として立ちふさがる事を決意。悠大を誘導した方の自分から、さらに分離した、キリン頭の姿に変わった自分に自分を殺させるという形で自作自演し、悠大に自分を、立花やよいの父親であると誤解させた。しかし悠大を殺す気はないため、悠大を追い詰めてもとどめを刺す事はなく、悠大がほかの住民に襲われた場合はその住民を攻撃する。高い戦闘能力を持ち、さらに住民たちのメモリ容量が増す原因となった、つらい出来事を再現して襲い掛かる。
立花 やよい (たちばな やよい)
琵琶首丁の元住民の一人。もともとは宮城県仙台市青葉区に住んでいる高校生の女子。酒木田悠大の友人で、年齢は18歳。前髪を目の上で切り、顎の高さまで伸ばしたボブヘアにしている。内気で物静かな性格で、母親が去ってから父親と二人暮らしをしている。立花やよいの父親が暴力を振るうために生傷が絶えず、怯える日々を送っていた。さらに高校でも友達ができず、やよいはいつもオカルトに夢中になっていると馬鹿にされていたが、ある日これに興味を持った悠大に声を掛けられ、オカルトの話題を通じて親しくなる。やがて思いを寄せるようになるが、自分の頭の中にいるもう一つの人格のラパスに、立花やよいのような人間が幸せになれるはずはないと言われては落ち込んでいた。それでも2011年8月、悠大の提案で家出を決意するが、実行する直前に父親に見つかり、悠大と共に大ケガをするまで殴られる。その後、事態を知った兵庫県に住む親戚の家に引き取られる事になった。しかしこの時、最後にオカルト実験をしようと悠大に誘われて付き合い、これによってラパスがやよいから分離。ラパスに琵琶首丁へと連れて行かれた悠大は、行方不明になってしまう。そして、これに悲しみつつも兵庫県での生活を始めるが、2012年4月、電車脱線事故によって死亡。琵琶首丁に迷い込むが、即座にラパスに殺された。
立花やよいの父親 (たちばなやよいのちちおや)
立花やよいの父親。頭部は子供の描いた落書きのようなキリンで、肩から下は人間の中年男性の姿をしている。だがこれは、やよいが立花やよいの父親を恐れるあまりこのように見えているだけで、実際はふつうの人間である。妻が去ったのを機に極めて暴力的で攻撃的な性格になり、やよいに暴力を繰り返していた。また、妻がいなくなった理由が男性関係であった事から、やよいが自分以外の男性と親しくするのを絶対に許さない。2011年8月までやよいに暴力を振るい続けるが、ある日これに耐えかねたやよいが酒木田悠大と共に逃げ出そうとしたのを目撃。激高して二人を殴りつけ、大ケガを負わせた。しかし、これによって事態を知ったやよいの親戚に、やよいと引き離された。
鈴木 安菜 (すずき あんな)
琵琶首丁の元住民の一人。もともとは兵庫県に住んでいる幼い少女で、鈴木宗一郎の娘。前髪を目の上で切り、ボブヘアを頭の高い位置で二つに結んだツインテールにしている。右目尻にほくろが一つある。メモリ容量は、赤星十和ほどではないが非常に大きかった。明るく元気な性格をしている。2012年4月、母親と共に電車脱線事故の犠牲者となり、琵琶首丁に迷い込む。しかし、母親はすぐに殺されてしまい、事態を知った酒木田悠大に救われる。だが膨大なメモリ容量を持つ故にほかの住民に狙われるようになり、悠大は鈴木安菜の体を切り刻んでは彼女のメモリを借りるという形で守り続けた。しかし最終的には、限界であると判断した悠大の手によって殺害された。
場所
琵琶首丁 (びわくびちょう)
ラパスが作り出した謎の世界。立花やよいと酒木田悠大が暮らしていた仙台市青葉区大手町をベースに作られているが、本物の大手町には存在しない遊園地「ラパス・テーマパーク」が建っている。一見ふつうの日本の街だが、空には住民のメモリが表示されており、町はガラスの壁のようなもので覆われ、毎日16時から18時のあいだの逢魔ヶ刻は、ラパスが出現して住民たちを襲う。住民たちの健康状態は毎日0時にリセットされ、たとえば大ケガをしても、0時まで死亡せずに耐えきれば、日付けが変わった瞬間に傷は消える。また、琵琶首丁に来られるのは、2012年4月25日に起きた電車脱線事故にかかわった人間のみである。「ラパス・テーマパーク」の看板には、琵琶首丁に迷い込んだ人間のうち誰かが、与えられたメモリを生かしてラパスを倒せば、身体のどこかに刻印された日付けの日に戻って蘇生できる。しかし蘇生できるのは一人だけで、複数人でラパスを倒した場合は、その中から一人選ばなければならないとある。だがこれはウソで、悠大とずっといっしょに過ごす事を望んでいるラパスは、悠大以外には蘇生権を与えるつもりはない。
その他キーワード
ゴウオンジャー
かつて放送されていた、特撮ヒーロー作品。ふだん昼ドラマを制作している脚本家が脚本を担当したため、子供向けというには暗すぎる物語展開や、複雑すぎる人間関係が特徴。特に主人公のゴウオンレッドは、ヒーローものには珍しく、精神的にもろく優柔不断なキャラクターで、子供や酒木田悠大には不評だった。しかし、ゴウオンレッドが少しずつ成長していく姿には心打たれるファンも多く、赤星十和、赤星雪奈、二階堂閨介は「ゴウオンジャー」のファンである。特に十和は雪奈を喜ばせるために、「ゴウオンジャー」のヒーローショーでスーツアクターのアルバイトをした事がある。
エンドオブラバーズ
二階堂閨介が描いた少年漫画。閨介が中学生の頃に描き始め、瀬戸杏奈がアシスタントとして参加している。雑誌の新人賞に読み切り作品として投稿する予定で、2012年4月に読み切り版が完成。しかし閨介は、東京都の出版社に持ち込みに行く電車で電車脱線事故に遭い、この時完成原稿を失った。主人公は、髪の毛も服装も真っ赤な少年「ダース」で、彼は閨介の理想のヒーローとして描かれている。そのため、琵琶首丁での戦いで、閨介はメモリを使ってダースを具現化させ、杏奈を守った。その後、閨介の死亡とともにダースも消えてしまったかに思えたが、ダースは閨介にとって希望の象徴でもあったため、消滅せずにひそかに生き続け、危機に陥った杏奈をもう一度守る事になる。読み切り版のほかに、実際には長期連載を想定したネームも制作されていた。
電車脱線事故 (でんしゃだっせんじこ)
2012年4月25日、兵庫県尼崎市で起きた事件。立花やよいと二階堂閨介はこの事故の被害者で、やよいは死亡、閨介は右腕を切断する大ケガを負った。事故現場付近にいた鈴木宗一郎は無事だったが、妻と娘の鈴木安菜を失った。赤星十和と赤星雪奈は現場付近にいたが、ギリギリで巻き込まれずに済み、近くにいたやよいを二人で助けようとしていたが、間に合わなかった。琵琶首丁に来る人間は、全員がこの事故で亡くなった人間か、この事故にかかわったのちに死亡した人間である。
メモリ
琵琶首丁の住民たちの個体を形成しているエネルギー。単位は「mmr」。メモリ容量は住民によって異なり、生前受けた心の傷が深いほど容量は増える。ただし、その心の傷の深さは本人の主観に依存する。そのため、一見平和な人生を送っている人間でも、膨大なメモリ容量を持っている場合がある。メモリは所有量のうち約30%程度までであれば、自由に使用する事ができ、用途は主に三種類ある。一つ目は「トラウマ」で、心に深い傷を負った出来事をフラッシュバックさせる事で、その出来事に関係するものを具現化させる力である。たとえば、赤星十和はこれを使ってトラックや電車を具現化させている。二つ目は「想像力による具現化」で、生前の記憶や知識、思い出を頼りに具現化を行う力である。出来はメモリ所有者の想像力に依存されるため、想像力豊かな二階堂閨介は、これを用いてオリジナルの武器などを創造している。三つ目は「身体能力の補助」で、少ないメモリを使用して、筋力を上げて速く走る、高い所から落ちても平気な強度を得る、といった事ができる。メモリは各所有者の体の一部を切り取って奪う事で、所有者以外の人間も使用できるようになる。なお、想像力さえあればメモリを使ってどのようなものでも作り出せるが、その構造を理解していない場合、外側は作る事ができても、中身のないハリボテになる。たとえば、人間などの複雑な構造を持つものを作るのは不可能に近い。さらに、具現化時に消費するメモリは物によって異なり、所有メモリの少ない人間は具現化できるものの範囲が狭い。