あらすじ
第1巻
私立探偵を営む百武推理は、一度食べた物の味を決して忘れない絶対味覚能力の持ち主で、彼のもとには失われた味「ロストフード」の再現依頼が寄せられていた。その日も新しい依頼が舞い込むが、相手は外務省の職員で、海外の要人であるアレクセイ・ドランスキーの求める味を再現してほしいというものだった。ロストフードの手がかりはただ一つ「ターザン」という名前だけで、百武はそれをかつて永谷園が販売していたレトルトカレー「ターザン」だと推測する。そして百武は手を尽くしてターザンの再現を模索して、なんとか時間ギリギリでその再現に成功する。アレクセイはかつての味に感動し、ターザンを満喫するが、百武はそんなアレクセイに一つの事実を語るのだった。
作風
本作『ロストフード』はグルメ漫画であるが、失われた味「ロストフード」をメインに据えているのが特徴。すでに失われ、存在しなくなった味を絶対味覚を持つ探偵の百武推理が再現し、ロストフードを求める者たちの悩みを解決するという内容となっている。ロストフードは永谷園のレトルトカレー「ターザン」や、デニーズの「ジャンバラヤ」、LOTTEのチューインガム「イヴ」など実在の食品が登場している。ロストフードは単なる製造過程や味にとどまらず、それらが販売されていた社会背景なども解説されており、失われた時代の名残を感じられる作品となっている。
登場人物・キャラクター
百武 推理 (ひゃくたけ すいり)
私立探偵を営む中年男性。無精ひげを生やし、少し癖っ毛のある黒い髪を短く切りそろえている。元刑事で、現在は下北沢に事務所を置いて活動している。一度食べたものの味を絶対に忘れない高い分析力と記憶能力「絶対味覚」の持ち主で、その界隈ではロストフードの再現者として有名。そのため、そのことを知る人は「百舌」の通称で呼んでいる。地元の店の料理人たちと懇意にしており、味の再現の際には彼らに協力を頼む。ただし味覚と記憶力は確かだが、致命的までに不器用で、料理はまったくできない。百武推理自身はやる気があるものの、彼が料理をした場合は店中の皿が割れ、ボヤ騒ぎを起こしたこともあるため、周囲には料理をさせてもらえない。
メエ
百舌探偵事務所で助手を務める少女。明るく快活な性格で、黒い髪をボブカットに整えている。百武推理と仲がよく彼の事務所に入り浸っている。百武の絶対味覚記憶能力を試すかのようにインスタントラーメンの種類を当てる試食勝負を挑んだり、ロストフードの味見をしたりしている。駅前アイドルグループとして活動中で、駅前で仲間たちとライブをしては、SNSにその情報を発信している。
アレクセイ・ドランスキー
K国の故ヴィクトル総書記の長男。ヒゲを生やした中年の男性で、16年前に観光目的で来日したが、偽造パスポートを使った密入国だったためその場で拘束され、強制送還された。この出来事がきっかけで、後継者争いから脱落した。現在は三男が父親のあとを継いでいるが、三男に粛清されるのを恐れ、中国から支援を受けてマカオに亡命している。永谷園がかつて販売していたレトルトカレー「ターザン」が好きで、その味を懐かしみ再び来日する。K国が日本で行っている地下活動について深く関与しているとされ、外務省から重要人物としてマークされている。
京子 (きょうこ)
スタイル抜群の妙齢の美女。高校時代の同級生、美香と雅と共にバンド「トリプルエクスタシー」を結成し、ギターを担当していた。4年前、雅の自殺をきっかけに美香と大ゲンカをして決別後、バンドを解散した。SNSでバンドのライブ動画が注目されたのをきっかけにしてバンドを再結成することを決意する。雅の自殺調査を担当したのが、刑事時代の百武推理だったため、その縁もあって彼に美香の捜索を依頼する。
美香 (みか)
妙齢の美女。ショートボブの髪型にしている。高校時代の同級生、京子と雅と共にバンド「トリプルエクスタシー」を結成し、ボーカルを担当していた。4年前、雅の自殺をきっかけに京子と大ゲンカをして決別後、バンドを解散した。4年のあいだに結婚し、子供も出産している。京子にバンドの再結成を請われるが、バンドの再結成には否定気味。
雅 (みやび)
ベリーショートヘアの女性で、故人。高校時代の同級生、美香と京子と共にバンド「トリプルエクスタシー」を結成し、ドラムを担当していた。4年前、自宅で亡くなった。警察の捜査では、自殺か事故だと考えられている。高校時代に美香や京子と共にデニーズのジャンバラヤを食べていたため、思い出の味として好んでいた。刑事時代の百武推理は、彼女がジャンバラヤのカップライスを食べる準備をしていたことから、自殺の可能性はないと考えていた。
その他キーワード
ロストフード
時代の移り変わりと共に失われた味。人気メニューで、いつでも食べられる定番メニューとは対極に位置し、レストランのメニューや食品業界で人気がなくなったことで販売が縮小し、惜しまれつつも消え去った食べもの。稀に復刻されることがあり、一部のファンには「懐かしい」とその当時の思い出が熱く語られる。