あらすじ
第1巻
小早川咲姫は、お人好しの母親・小早川さゆりが連帯保証人になったせいで、突然背負う事になった借金1億円を返済するため、お嬢様学校に通いながらアルバイトに精を出す日々を送っていた。そんな咲姫の前に姿を現したのは、10歳の男の子・羽鳥将。およそ10歳らしからぬ落ち着いた雰囲気を持つ将は、以前からさゆりと交流のあった資産家・羽鳥の息子だった。将は、小早川家の借金を肩代わりする代わりに、咲姫を許嫁にしたいと申し出、さゆりはこれを快諾。将を小早川家に迎え入れ、新たに生活を共にし始めた。将は、咲姫にさまざまなお稽古を始めさせたり、高価なプレゼントを贈ったりとお嬢様としてのスキル向上のために奔走するが、咲姫はこれを窮屈に感じていた。一方で、子供らしさが感じられず、大人びた表情を見せる将が心配になった咲姫は、将のためにさまざまなイベントを用意し、彼に子供らしい思い出を作ってほしいと働きかける。実は将は、一寸法師として生きた前世の記憶を持っていた。その時代に愛した春姫の生まれ変わりとして生を受けた咲姫に、姫だった頃の記憶を取り戻してほしい一心で、咲姫の前に姿を現し、必死に立ち回っていたのだった。
第2巻
一時的に帰国した羽鳥将の両親・羽鳥と羽鳥(妻)との食事会の最中、小早川咲姫は思わぬ事で小早川さゆりが顔に大やけどを負い、視力を失う事態に直面する。絶望し、落ち込む彼女を前に、自分が一寸法師の生まれ変わりである事を打ち明けた将は、願いを叶えるという打ち出の小槌を使って、さゆりのケガを治して見せた。しかし、願いを叶えるには、将の記憶という大きな代償が必要となった事を知る。その後、咲姫は自分がかつて一寸法師と同じ時を過ごした春姫であった時の記憶の一部が蘇り、自分の前世が春姫であった事を自覚する。将のためにと姫であった頃の記憶を完全に思い出す事を心に決める咲姫だったが、前世の記憶が蘇るにつれ、咲姫である自分自身が失われていくような感覚に陥り、真実を受け入れる決意が揺らいでいく。
登場人物・キャラクター
小早川 咲姫 (こばやかわ さき)
お嬢様学校で有名な成陵学院に通う女子高校生。柔道部に所属している。高台のお屋敷に住む元女優・小早川さゆりの娘だが、お嬢様ぶったところもなく、素直でまっすぐで、気立てがいい。母親が知人の連帯保証人になった事で背負った借金1億円をなんとか返済しようと、商店街のお総菜屋でアルバイトをしている。しかしその後、羽鳥家が借金を肩代わりする事になり、その条件として羽鳥将の婚約者となる。 彼の意向で、茶道や華道、琴や裁縫、乗馬など、ありとあらゆる事を習得すべく奮闘する。しかし頭より体を使う方が得意で、いわゆる「お嬢様」が性に合わないため、苦労が絶えない。一寸法師が恋い慕う春姫としての記憶を奥底に持っている、春姫の生まれ変わり。
羽鳥 将 (はとり しょう)
10歳の男の子で、資産家の羽鳥と羽鳥(妻)のあいだに生まれた御曹司。投資家として成功し、海外で生活している両親と離れ、日本での生活を望んでいた。幼い頃から小早川咲姫とその家族とは面識があり、特に咲姫に対しては執着心を持っている。小早川家の借金を肩代わりする代わりに、咲姫と婚約し、許嫁として小早川の屋敷に住む事になった。 10歳とは思えないほどの落ち着きがあり、しっかりしている。そのため、子供扱いされる事が大嫌いで、人一倍負けず嫌い。素直になれない事も多く、実は手先も不器用。かつて一寸法師と呼ばれた男性の前世の記憶を持って転生した。
佐伯 (さえき)
いつも羽鳥将について行動している秘書の男性。その傍らにはつねに小さな男の子の人形を携えている。実は、佐伯としての体は仮のものであり、小さな人形の方が本体で、その正体は打ち出の小槌の精。大昔に存在した一寸法師の「生まれ変わっても春姫といっしょにいたい」という願いを打ち出の小槌を使って叶えた。
小早川 さゆり (こばやかわ さゆり)
小早川咲姫の母親。高台のお屋敷に住む元女優として、近隣住民には名の知れた存在。お嬢様育ちで世間知らず、極度のお人好しで、ちょっとズレたところがあり、簡単に他人を信用してしまう。そのため、知人である小林の連帯保証人になっていたが、小林が失踪して借金1億円を返済する義務を負ってしまう。1か月後までに返済できなければ、抵当に入っている自宅を手放さなくてはならない状況に陥る。 その後、借金を丸ごと肩代わりしてくれるという事で、以前から交流のあった資産家・羽鳥の世話になる事を決意。その条件として、娘の咲姫を羽鳥将の結婚相手として差し出す事を快諾し、婚約者として将を小早川家に住まわせる事になった。その後、羽鳥夫妻との会食の場で、羽鳥(妻)がぶちまけた鉄瓶の中身から将をかばった事で、視力を失い顔に大やけどを負う被害を受けてしまう。 女優として活動していた頃、芸能界の競争の激しさについていけず、結婚を機に引退したが、6年前に夫と死別した。
佐倉 侑弥 (さくら ゆうや)
成陵学院に通う男子高校生。小早川咲姫とは幼なじみで、咲姫にとっての初恋の人。咲姫と同じ柔道部に所属しており、学校中の女子生徒から人気が高いイケメン。表向き、人当たりはいいが、咲姫と羽鳥将に対してはつねに含むところがある。実は将と同じように、前世の記憶を夢に見る事があり、一寸法師や春姫と同じ時代に生きていた。 妹の佐倉のぞみが、盲目になってしまった事をとても気にしており、何としても治してあげたいと考えている。
羽鳥 (はとり)
羽鳥将の父親。小早川さゆりとは、以前から付き合いがある。投資家として海外を拠点に生活しているが、息子からの話を受け、小早川家の借金をすべて肩代わりした。若い頃、お金もなく、苦しい生活を送っていた時、まだ幼かった将に万引きの容疑がかかったが、無実を信じてあげる事ができなかった。直後、将が事故に遭い、記憶を失うと同時に、まるで別人のようになってしまった。 これにより、以降、親子関係を取り戻す事ができないでいる。
羽鳥(妻) (はとり つま)
羽鳥将の母親で、羽鳥の妻。若い頃、お金もなく、苦しい生活を送っていた時、まだ幼かった将に万引きの容疑がかかるが、無実を信じてあげる事ができなかった。直後、将が事故に遭い、記憶を失うと同時に、まるで別人のようになってしまったため、それ以降、親子関係を取り戻す事ができないでいる。将や小早川咲姫、小早川さゆりとの会食の席で、失礼な態度を取ったうえ、将に対して「いらない」と、その存在を否定する言葉を発した。 その際、熱い状態の鉄瓶の中身を将にぶちまけようとして、彼をかばったさゆりの顔にかけてしまう。
佐倉 のぞみ (さくら のぞみ)
成陵学院に通う盲目の女子小学生で、羽鳥将とは同じ学年。視力を失っている分、耳がいい。将をむやみに追いかけるミーハーな女子生徒達と違い、穏やかな笑顔とふんわりとした優しい存在感を持つ。いつも毅然としている将ですら、彼女の前では子供らしい笑顔を取り戻している。目が見えないが、絵を描くのが趣味。兄である佐倉侑弥と仲がいい。
春姫 (はるひめ)
大昔、一寸法師と添い遂げたお姫様。もともとお転婆で元気いっぱいだったが、貴族の娘だったため、年頃になるにつれ、家の御簾の奥に閉じ込められ、いっさいの自由を奪われていった。そんな彼女の前に突然姿を現した一寸法師は、自分の知らない塀の外の世界にあこがれを抱いていた春姫にとって、生きる希望を与えた重要な存在。しかし同時に、見目麗しい男性として目の前に現れた鬼の強引な誘惑に心を奪われてしまう。 紆余曲折の末、余生は一寸法師と添い遂げた。
一寸法師 (いっすんぼうし)
大昔、背丈が一寸ほどしかない小さな少年の姿で突然現れた異形のモノ。小さな体のせいで、両親からは恐れられ、行く先々で好奇の目に晒され嘲り笑われる日々を送っていた。しかし縁あって、春姫の家来として仕える事になり、都に現れるという噂の鬼から姫を守る事を約束した。そんな姫を恋い慕い、姫欲しさに打ち出の小槌を使って自らの体を大きく変え、そしてその一生を姫と共に過ごした。
鬼 (おに)
大昔、庶民として暮らしていた見目麗しい男性。何でも願いを叶えると噂の打ち出の小槌の存在を知り、盲目の妹の目を治してあげたい一心で、都に出ては貴族の娘のもとを訪れ、小槌に関する情報を集めていった。だが、世間はそんな彼を「鬼の化身」と噂し、ただの人であったにも拘らず、娘をさらう鬼であると、偽りの姿を作り上げられてしまう。
その他キーワード
打ち出の小槌 (うちでのこづち)
いつも佐伯が持っている、小さな小槌。これを振るとどんな願いでも叶える事ができる。しかし、願いを叶えるには、「叶える願いに値するだけの美しい記憶」という対価が必要となる。そのため、打ち出の小槌で願いを叶えた者は、その対価に等しいとされる記憶の一部分を失う。