概要・あらすじ
その昔、高麗にある小さな町の蓮姫に春香という娘が住んでいた。明朗快活で喧嘩も強い春香は、この町で悪行を働いて私腹を肥やす蓮姫の両班の権力にも屈せず、その権力をかさに着る両班の息子の手下も簡単に倒してしまう。そんなある日、母親の明華と暮らす春香の家に、夢龍という旅人が訪ねて来る。
明華は夢龍を家に泊めることにするが、謎が多い夢龍に対し、春香は疑惑の念を抱く。一方、蓮姫の両班は明華に惚れ込み、頻繁に明華のもとを訪れていた。ある日、両班の息子の差し金で、明華が蓮姫の両班に連れ去られてしまう。急いで蓮姫の両班のもとに駆け付ける春香と夢龍だったが、そこには両班に無体を強いられ、自害した明華の姿があった。
両班に逆らうと死刑となり、町の人々も重い罪が課せられるとされているなか、春香は両班に刀を振り下ろそうとする。そこで、夢龍が中央政府から送り込まれ、両班を裁く権限を持つ暗行御吏であることを知る春香。そして夢龍の介添えのもと、春香は自らの手で蓮姫の両班を手にかけたのだった。その後、次の町に出向く夢龍に春香もついて行くことになり、2人の旅が始まる。
登場人物・キャラクター
春香 (ちゅにゃん)
高麗にある蓮姫に住んでいる14歳の少女。母親の明華と2人で暮らしている。高麗一の秘術師である明華譲りで、秘術の腕に長けているが、どちらかというと武術の方が得意。その腕前は、両班の息子が連れていた複数の手下をたった1人で倒してしまうほどである。父親がいないため、自分が明華を守るために武術を身につけたという勇敢さと、権力にも屈しない芯の強さを併せ持っている。 戦う時には、イヤリングを刀に変える秘術を使用することができる。一方で、夢龍と距離が近くなると照れて夢龍を殴ってしまう純情な面もある。明華を亡くし失意に暮れていたところ、夢龍に旅に出ようと誘われ、前向きに生きることを決心する。
夢龍 (むろん)
春香と明華が住む家に突然訪れて来た青年。自らを旅人と称しているが、その実態には謎が多く、春香には怪しまれていた。かなりの大食漢で、草餅を数えきれないほど食べ続けたり、旅先でその地の名物の食べ物のことばかり考えたりと、とにかく食べ物に目がない。また美しい女性も好きで、明華や春香の体に気安く触れることもある。実は中央政府から送り込まれた暗行御吏であり、蓮姫の両班を調査するために蓮姫にやって来た。 明華を亡くし、その仇を討った春香に対し、自分と一緒に旅に出ようと申し出る。
明華 (みょんふぁ)
春香の母親。高麗一の秘術師とうたわれ、明華の作った薬はよく効くと評判である。しばしば喧嘩をして帰ってくる春香に対し、その行動の正しさは認めるものの、女の子であるがゆえに春香の身を案じる優しい女性。その美しさも評判で、蓮姫の両班に執着されてしまうことになる。権力を振りかざした蓮姫の両班に脅され、無理やり迫られた明華は、春香や町の人たちに罰が及ぶことを避けるべく、自らのイヤリングを刀に変え、その刀で自分の胸を刺して自害する。
蓮姫の両班 (りょんふぃのりゃんばん)
蓮姫を取り仕切っている両班の男性。就任以降6年近くも圧政を続けており、住人から法外な税金を徴収して私腹を肥やしている。その他にも住人たちには無茶を強いているが、中央政府から町の全権を委託されているため、誰も彼に逆らうことができない。明華の美しさに惚れ込み、両班に逆らえば多くの人に罪が及ぶと脅して、無理やり自分のものにしようとする。 それがきっかけで明華が自害してしまう。それを知った春香と夢龍により成敗されることとなる。
両班の息子 (りゃんばんのむすこ)
蓮姫の両班の息子であり、父親の権力をかさに着て、町中でわがままかつ無法な振る舞いを繰り返している。複数の手下を従えているが、その手下は春香に瞬く間に倒されてしまう。これを根に持ち、自分に盾突いた春香の鼻をあかすために、蓮姫の両班に明華をさらうようにたきつける。そして父親の兵を率いて明華を連れ去ることに成功する。
香丹 (ひゃんたん)
蓮姫に住んでいる女性。ある日、町を歩いていた両班の息子に誤って水をかけてしまい、両班の息子に目をつけられる。危うく連れ去られそうになったところを春香が発見し、両班の息子の手下を全員倒して助けられた。蓮姫の税率がさらに引き上げられることで、病で伏せっている母親に薬を買うことができなくなると困惑する。
玉蓮 (ほんりょん)
春蓮の姉で秘術師の女性。春蓮とともに「天の神に愛された姉妹」と称され、優れた秘術の腕前を持つと評判を得ている。幼い頃から天の神の声を聞くことができ、雨乞いの能力が特に高い。その腕を買われ、姉妹ともに夜語に呼ばれて水月に向かっていたところ、春香と夢龍に出会う。
春蓮 (ちゅんりょん)
玉蓮の妹で秘術師の女性。玉蓮とともに「天の神に愛された姉妹」と言われ、玉蓮と同じく天の神の声を聞き、雨乞いの高い能力を発揮できる。姉妹で水月に向かう途中で春香と夢龍に出会い、自分と同じ「春」の字を名前に持つ春香に親近感を覚える。
夜語 (やご)
水月に住む凄腕の秘術師の老女。外部の町にもその名をとどろかせている。雨乞いの能力は高く、高麗が干ばつに見舞われた時も水月に雨を降らせ、村を守った。しかし、水月の雨をせき止めた闇青の力には及ばず、闇青に闇の力を感じて危機を覚えたため、玉蓮と春蓮を水月に呼んだ。
闇青 (あんちょん)
1年前に水月の両班とともに水月にやって来た秘術師の青年。水月に1年近く雨が降らなかったのは、闇青の力で雨がせき止められていたためだった。その力は強力で、夜語をもってしてもかなわなかったほど。水月で栽培され、万病に効く薬として高値で売買される水の花を、水月の両班に独占させるため、村の雨をせき止める。 一方で、水月の両班の城の池に大量の雨を降らせ、水の花を栽培している。
水月の両班 (すうぉるのりゃんばん)
1年前に水月に就任した両班の女性。同行させている闇青の秘術を使って、水月の雨をせき止めて町で水の花を栽培できないようにし、自らの城の池にのみ雨を降らせて水の花を独占している。美しいうえに高値な水の花を、この世で一番の花と愛でている。
集団・組織
中央政府 (ちゅんあん)
高麗にある300近い村や町を統轄している政治機関。それぞれの村や町に両班を送り込み、中央政府の代理人として各地域を発展させている。両班にはその村や町を取り仕切る全権を委託しているため、住人は両班に逆らうことができない。一方で、悪行を働く両班を監視するため、隠密として暗行御吏を各地域に派遣している。
場所
高麗 (こりょ)
300近い村や町を擁する国。その地域のすべては中央政府によって統轄されている。それぞれの村や町に両班を送り込み、中央政府の代理人として機能させている。春香や明華が住んでいた蓮姫や、春香と夢龍が旅をしてやって来た水月も、高麗に属する町や村である。
蓮姫 (りょんふぃ)
高麗にある小さな町で、春香や明華らが住んでいた場所。6年前にこの地に派遣された蓮姫の両班は、無茶な圧政を行って住人を圧迫し、法外な税金を徴収して私腹を肥やしていた。この町に調査にやって来た夢龍と春香が出会い、のちに一緒に旅に出ることになる。
水月 (すうぉる)
高麗にある村で、もともとは水源に恵まれた美しい村だった。しかし1年前に水月の両班が闇青を引き連れて就任して以降、まったく雨が降らなくなってしまった。かつて村人たちは、美しいうえに万病の薬となる水の花を栽培し、売買することで生計を立てていたが、雨が降らなくなったため生活に困窮する。事態を収束すべく水月の両班の城に向かった村人たちは、誰一人として帰ってくることはなかった。
その他キーワード
両班 (りゃんばん)
高麗に属する村や町に中央政府から派遣された貴族階級。その数は合わせて321名存在し、任期は10年とされている。中央政府の代理人であるため、それぞれの村や町の全権が委託されている。両班に逆らうことは死刑を意味し、本人のみならず、その町全体に重い罰が下されることとなっている。
暗行御吏 (あめんおさ)
高麗の中央政府が、村や町に派遣した321名の両班を監視するために派遣している隠密。高麗のすべての実権を握る中央政府の最高機関の直属であり、両班の悪行を極秘裏に暴き、独自の判断で裁くことができる力を持つ。暗行御吏は、その証として五芒星の浮かぶ水晶を持っており、秘術を使うこともできる。隠密という立場から、人々に素性を明かすことができないため、その実態はあまり知られていない。 夢龍はこの暗行御吏であり、蓮姫に調査に訪れた際に春香と出会うことになる。
秘術師 (しんばん)
薬の調合やまじない、物を操る力など、数々の秘術を駆使することができる者のこと。春香の母親である明華は、高麗一の秘術師として呼び声が高かった。春香自身も、明華に秘術を教えられ、その力を操ることが可能である。水月の雨をせき止める力を持つ闇青も秘術師であり、強大な闇の力を持つ。
秘術 (ひじゅつ)
秘術師が駆使することができる術。その力は薬の調合やまじない、物を操る力など多岐にわたる。明華が秘術で作る薬は評判が高く、多くの蓮姫の人々を救ってきた。その他、春香と明華は自らのイヤリングを刀に変えることができ、夢龍は虎を召喚して空を移動することが可能である。秘術の力は天候も左右し、玉蓮と春蓮、夜語は雨乞いの能力が高い他、闇青はさらに雨の降る場所をも自在にコントロールできる。
水の花 (みずのはな)
水月で栽培されている花。水源に恵まれた水月でよく育ち、水月の村人はこれを売買して生計を立てていた。万病に効く薬として非常に高値で取引され、100株あれば1年は遊んで暮らせる。水月の両班は、この花を独占して私腹を肥やすため、闇青を使って雨をコントロールし、村人には栽培させずに自らの城でのみ育てていた。